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団鬼六の傑作短編を映画化、往年のアダルト女優・愛染恭子の引退記念作品に!!
1981年のハードコア映画『白日夢』以来、エロスの女王としてファンに親しまれてきた愛染恭子の女優引退記念作品。SM文学の巨匠・団鬼六の同名短編小説を原作に、老舗旅館の女将が背徳的な快楽に堕落していく軌跡をダイナミックに映し出す。監督は『青いうた〜のど自慢 青春編』の金田敬監督。3月6日(土)より、銀座シネパトスにてロードショー(全国順次公開)
1981年に『白日夢』(監督:武智鉄二)で佐藤慶と本番セックスを披露したことで一躍日本のセックスシンボルとなり、以降も映画、AV、そしてストリップなどで活躍してきた愛染恭子の引退記念映画。
と、聞いて、「え、愛染恭子って、今いくつなんだよ!」と思うのは正常な反応だろう。公式プロフィールによれば、現在52歳。熟女ブームでAVでは五十路モノが流行しているとはいえ、熟女好きではない人間には、さすがにちょっとキツイのでは、と思いつつ『奴隷船』を観た。
原作は団鬼六の短編『奴隷船』(2002年 新潮社刊)。団鬼六と愛染恭子は、彼女が『白日夢』に出演した頃から面識があるようで、団鬼六監修、篠山紀信撮影によって愛染恭子で緊縛グラビアを撮ったり、小川美那子 ・沢木まゆみ主演の『紅姉妹』に愛染恭子が出演したりと、関わりは多いのだが、主演作というのは意外にもこれが初めて。
主人公は団鬼六自身が モデルと思われるSM作家の鬼又貫。彼が趣味で主催している「鬼面の会」というSMマニアの同好会では、「奴隷船」と称して屋形船を借りきって、M女のオークションをしている。鬼又が贔屓にしている伊東の温泉旅館の女将・菊江も実はその「奴隷船」で競りにかけられたことがある女であり、彼の愛人でもあった。
今は誠実な年下の夫とともに幸せに暮らしていると思われた菊江だが、若いストーカーにつきまとわれ、心労から精神を病んでしまったと言う。その相手の男に会いにいった鬼又は、信じられないような真相を聞いた……。
観ての第一印象は、ああ、ロマンポルノの世界が帰ってきたなというものだった。画面の質感といい、登場人物たちの雰囲気といい、かつて年齢を偽ってこっそりと観たロマンポルノそのものだった。三枝実央演じる鬼又の秘書・美幸のキャラクターなど、60年代のじゃじゃ馬娘といったところ。とても21世紀に撮られた映画とは思えない。過去を舞台にしているのかと思いきや、ミニノートパソコンや都庁、ICレコーダーなどが登場し、これが現代の話だということがわかる。
いや、古臭いセンスだと非難しているのではない。そのレトロなムードが、物語と、そして愛染恭子に非常にマッチしているのだ。
当然のことながら、愛染恭子は作品の中で何度もその裸身を晒す。年齢を感じさせない若々しい肢体、と言ってしまっては嘘だろう。そこにあるのは紛れもなく熟女の肉体だ。負けじとばかりに脱ぎまくっている三枝実央の張りのある肉体と比較すれば、その違いは歴然としている。
しかし、ここで見る愛染恭子の肉体はエロティックだった。マゾの悦びを刻み込まれてしまった女の哀しさがにじみ出ているのだ。
以前、某AV雑誌で、熟女に魅力が感じられるのはその肉体が背負っているドラマが見えるからだと書いたことがある。だから熟女モノAVには、今のAVでは少なくなってしまったストーリーやインタビューなどが残っているのだと。つまり熟女の肉体は、その背景が見えてこそ、初めて輝くのだと。
この作品が、もし、AVのようなリアルな映像で撮影されていたとしたら、ずいぶん寒々しいものになっていたような気がする。残酷なだけの映像になっていただろう。
光と影の演出を計算しつくした映画ならではの画作り、そして男女の性のやるせない哀しみを伝えるストーリー。そうしたものがあって、愛染恭子の肉体は輝きを放っている。
そういえば、今年は日活の手によって、「ロマンポルノ RETURNS」としてロマンポルノの新作が撮られた。直接的な生々しさで勝負するAVとは違う成人映画ならではのエロが見直される時期が来ているのかもしれない。
ところで、本作、三枝実央だけではなく、友田真希、小川真実、真咲南朋といったAV界の精鋭も出演しているのだけれど、あまり出番がなかったのが残念。彼女たちの艶姿も、もっと見たかった。一方、吉岡睦雄のエキセントリックなサド青年の怪演は見事の一言。彼が登場してから物語は、一気に緊張感が高まっていくのだ。
文=安田理央
『奴隷船』
3月6日(土)より、銀座シネパトスにてロードショー(全国順次公開)
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映画『奴隷船』公式サイト
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