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WEB SNIPER Cinema Review!!
『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『奇跡の海』のラース・フォン・トリアー監督最新作
愛し合っている最中に愛する息子を事故で失った夫婦。深い悲しみと自責の念からしだいに神経を病んでいく妻。セラピストの夫は自ら妻を治療しようと試みる。催眠療法から、妻の恐怖の根源を探り出した夫は救いを求めて楽園であるはずのエデンにふたりで向かうが、事態は更に悪化していく。現代のアダムとイブが、愛憎渦巻く葛藤の果てにたどりついた、驚愕の結末とは……。

2月26日より、新宿武蔵野館、シアターN渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町にてロードショー!
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「カンヌで上映中、退場者が続出した」というのもうなずける。ある日突然、子供を失った夫婦。職業カウンセラーである夫が、深い悲しみに落ちた妻を治していくうち、深い闇に迷い込んでいく。みたいなサイコサスペンスだと思って観ていると、突然の残酷描写に凍り付かされる(本当に場内が凍り付くのが伝わって来た……)。シャルロット・ゲンズブールが出演しているからといって、カップルで観に行かないほうがいいと思う。女性より、むしろショックを受けるのは男性のほうだ。映画を観終わった後は会話も途切れがちになり、なんとか食事をして、時間がたって、よしセックス!と思ってもその途端「薪」や「挽き臼」がフラッシュバック、パニックになってビルから転落ということになりかねない。

監督は、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『ドッグヴィル』のラース・フォン・トリアー。彼は数年前うつ病に陥り、そこから抜け出すために、本作のシナリオ執筆を始めたのだという。完成したのは全くもってその暗黒がよく伝わって来る、悪意に満ち、混乱した映画だった。


(C) Zentropa Entertainments 2009


扱われているのは「女性の本質」だが、監督はなにか女性に恨みでもあるのだろうか……。いや「キリスト教こそが女性を憎んでいるのだ」というのがこの映画のメッセージなのかもしれないが、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』でのビョークへの執拗ないじめといい、監督は何か女性にまつわる重大な問題を抱えているとしか思えない。
映画は4つのブロックに別れていて、進むにつれ混乱の度合いは深まっていく。舞台は街から森へと移り、母であり、妻であったゲンズブールは「魔女」へと変貌する一方、キリスト教的な「罰」との間で揺れ動く。

冒頭の「情事の最中に子供を失う」という設定からして、監督の悪意は絶好調だ。生殖以外のセックスに後ろめたさを感じるキリスト教的価値観が元にあるのだろうが、それにしても、ハイスピード撮影の精彩映像で永遠とその瞬間を交互にみせるのはかなりのアンチクライスト(いやむしろ、厳格なカトリック神父に成りきって『罰を与える!』と異常興奮状態で撮影・編集していたのかも)、ところが映像は美しい。
映画の後半では悪意の力でキリスト教的価値観を突き抜け、魔女と一緒に原初の人間の世界に行こうとするが、なんて分析はやはりどうでもよくて、やはりこの映画は「薪」! そして「挽き臼」につきる。

大体、「芸術映画であってもチンポ、まんこにはボカシです!」という日本の映倫に感謝する日がやって来るとは思わなかった。これが、もしボカシなしだったらと思うとゾッとする。実際NYフィルムフェスティバルで上映された際は、衝撃シーンの連続に観客(中年の男性)が失神、救助隊が突入する騒ぎになったらしい。

夫役のウィレム・デフォーといえば若い頃は『ラブレス』、『ストリート・オブ・ファイヤー』で、革ジャンにバイクのやんちゃな不良役だった。それが時を経てこんな山奥で大変なことになっちゃってと、(同じ男として)終始こぶしを握りしめながらスクリーンを眺めていた。
果たして女性はこの映画をどう観るのだろうか。「えーやだー、うわ! あり得ないんだけど!」とか言って、忘れた頃に部屋に2人きりでいる時、薪を取り出して来たりしたら……。夜眠っていて、なにかゴソゴソしてるなとふと目を覚ましたら横で挽き臼を用意していたら…。この映画、男性はレディースデイに観に行くのがいいかもしれない。場内に自分以外、全員女という状況で観たら相当怖くてよさそうだ(場内が明るくなった瞬間、隣の席の女性が薪を持ってこちらを凝視していたら……)。


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しかし最後の、「タルコフスキーに捧げる」というのは何なのか。一体、どこがタルコフスキーなんだよ! 確かに最後の森の斜面のシーンはタルコフスキーっぽかったけど。それとも森と道具の組み合わせということ? それとも同じキリスト教映画としての、連帯表明なのだろうか……。

そして、この映画、実は森ガール映画なのだ。森ガールといえばその言葉を発明したmixiコミュニティの説明によれば「透明感があって」「『森にいそうだね』と言われる」感じで、映画なら『ハチミツとクローバー』の蒼井優と、『ただ、君を愛してる』の宮\xFAアあおいということになる。しかし今日からはそこに『アンチクライスト』のシャルロット・ゲンズブールが加わった。本作で身体性を否定し、森を裸足で歩き回るゲンズブールこそ、まさに森ガールの行き着く先だ。セックスを排除し、母性も排除し、しかし男を求めて「Where are you!」と絶叫する魔女こそ、究極の森ガール。これからは、森ガール映画に『アンチクライスト』も加えてほしい。
とにかくこの映画を一番観て欲しいのは森ガール。彼女が森ガールという人は、もう絶対に一緒に行くべきだ(カップルにぴったりの映画です)。そしてその後、山奥にキャンプに行くといいと思う。半年後には「薪」と「挽き臼」の携帯ストラップが森ガールの必須アイテムになっているに違いない。

文=ターHELL穴トミヤ

称賛と嫌悪が物議を醸した
エロティック・サイコ・スリラー!!


FLV形式 6.06MB 2分00秒

『アンチクライスト』
2月26日より、新宿武蔵野館、シアターN渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町にてロードショー!
(C) Zentropa Entertainments 2009
原題=ANTICHRIST
監督・脚本=ラース・フォン・トリアー
出演= シャルロット・ゲンズブール、ウィレム・デフォー、ストルム・アヘシェ・サルストロ

配給=キングレコード + iae

2009年|デンマーク・ドイツ・フランス・スウェーデン・イタリア・ポーランド合作| カラー及びモノクロ|シネマスコープ|104分|ドルビー・デジタル|英語|DLP上映

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映画『アンチクライスト』公式サイト

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊 ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。 http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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