WEB SNIPER Cinema Review!!
『トト・ザ・ヒーロー』『八日目』の監督が誘う、衝撃のパラレルワールド!!
老人の貌をしたニモ(ジャレッド・レト)が目を覚ますと、そこは2092年、科学技術の進歩によって不死が実現した世界だった。唯一死ぬことの出来る人間として近未来に登場した118歳のニモは死を目前にして自分の過去を回想し、ありえたかも知れない、いくつもの人生をさまよい始める――。ベルギーの名匠ジャコ・バン・ドルマル監督が魅せる、12通りのファンタジードラマ。4月30日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷他、全国順次ロードショー!
『トト・ザ・ヒーロー』でカンヌ映画祭の最優秀新人監督賞を受賞したベルギー人、ジャコ・ヴァン・ドルマル。彼の13年ぶりの新作、その舞台は2092年の世界だ。人類はすでに「寿命」を克服し、不死の人生を謳歌している。そんな中、旧世代の生き残り寿命を持つ最後の人類ニモが、ついにその118年の生涯を終えようとしていた。今では失われた「死」を見物しようと全世界が見守る中、一人の新聞記者が「あなたの人生とはどんなものだったのか?」とインタビューを試みる。
というところから始まる、Mr.ノーバディことニモの回想。寿命のない未来人の視点から見る、寿命ある我々の「生」とは何なのか。ニモが語る人生とは、後戻りできない選択の連続だった。ところがボケてるのか悟ってるのか、彼は自分が選んだ人生の選択をどちらの場合も語っていく。たとえば両親が離婚するとき、父親を選ぶのか母親を選ぶのか?「実はわしは父親を選んだんじゃ」と言ってしばらく少年ニモの話が続いた後、今度は「いや母親を選んだんじゃ」とその場合のその後の人生が語られる。Mr.ノーバディは全ての選択肢があり得る、エブリマン氏なのだ!という訳で総制作費50億円を使い、70年代のアメリカから宇宙空間まで行き来する超パラレルワールドがこの映画の本編となっている。
ただこの全ての選択肢があり得るという設定。これは時間に沿って一直線、一方向に運ばれていく映画というものに向かない設定だったんじゃないだろうか。というのも「全ての選択肢が存在している」と思って観ていると、主人公がどんな行動をとっても、そこに感情移入できないのだ。主人公が泣いても、ヒロインが泣いても、「どうせ別の世界もあるんでしょ」と、それがかけがえのない一つの感情としては迫ってこない。それこそ、何でもやり直せる永久に終わらない時間を生きる未来人を眺めているようで、こちらの心には響いてこないのだ。
また時間をさかのぼる、思い出す、色々な時間に同時に存在するというこの映画のルールが引き起こすトリッキーな演出も、イマイチぴんと来なかった。たとえば感触によってシーンが繋がっていく演出も、『インセプション』の安易な焼き直しに見えてしまう(シナリオだけで6年かかっていて、製作を開始したのはこの映画のほうが先だったのかもしれないが)。
さらに青春期のシーンも、ピクシーズがかかって、ジョイントを吸って恋人と愛し合ったりしているのだが、どうもステレオタイプで安っぽく、観ていて醒めてしまう。
この映画で示される、全ての選択肢が存在する世界。何を選んでも、通過してもいい、それには全く同意だ。色々な人生が存在し、無数のパラレルワールドが存在するこの映画を観て、ついこの映画とこの監督がいない世界もよかったんじゃないかと言いたくなる。
しかし、アンナがかわいいというのは、救いだったし、劇中何度もかかるコーデッツのMr.サンドマンもよかった。CGはかなり凝ったものが使われ、さすが50億円だ。結局、Mr.ノーバディが示した後戻りできない選択肢の連続である「寿命ある人類の生」とはなんだったのか、俺は途中で集中力が切れてしまい見極めることができなかった。こんなことでは、もし2092年まで生き残ってしまい、しかも人類最後の死を迎えることになった時に困るので(あり得る)、みなさんもぜひ映画感で観てメールでその結論を送って欲しい。
文=ターHELL穴トミヤ
人生の選択には、意味がある――
一人の男が体験する、いくつものパラレルワールド!!
FLV形式 5.36MB 1分55秒
『ミスター・ノーバディ』
4月30日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷他、全国順次ロードショー!
関連リンク
映画『ミスター・ノーバディ』公式サイト
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