WEB SNIPER Cinema Review!!
3つの場所で3つの違った方法=「スリー★ポイント」
“京都”=HipHop 的青春、“沖縄”=行き当たりばったり おもしろ人間ドキュメント、“東京”=狂気と哀愁の異次元ドラマ。場所も内容もバラバラな「スリー☆ポイント」が交じり合い、それぞれに物語が展開される異色作品――。『てなもんやコネクション』などの山本政志監督が独自の方法で時代の「今」を映し出す!!ユーロスペース(渋谷)6月17日まで 21:00〜レイトショー、ほか順次全国公開
昔、製作途中で中止になってしまった「南方熊楠」の映画があったが、その監督がこの山本政志だった。主演としてクレジットされていたのは、作家になる前の町田康。初期はじゃがたらが出演した『闇のカーニバル』に始まり、ランキンTAXIが西成を練り歩く『てなもんやコネクション』、チーマーを主演に抜擢してNYで撮影した『リムジンドライブ』(ベーシスト、T・M・スティーブンスが出演)など、PUNK、レゲエ、FUNK、HIPHOPと問題児と音楽を常に作品に取り入れて来た監督だ。
本作は、東京、大阪、沖縄をそれぞれ舞台としたオムニバス。出て来るのはやはりチンピラ、米兵、野人、ホームレスと道を外れた人間ばかり(米兵は別に外れてないか)。さらに監督自身も相当問題がありそうな外見をしているので、多分監督道を外れたに違いない、撮影が2人とかスタッフがほとんど学生など、かなりDIYな手法で製作された映画になっている。
3つの話は繋がっているようで繋がっておらず、中でも東京編は全く別物という感じがした。京都編はさらに3つに別れていて、ラッパーと音楽に詳しくない彼女の同棲や、収監される前夜の一夜劇(最後、裁判所に向かう時にかかるラップがかっこいい)、若い頃つるんでいた仲間との再会と微妙な距離、などアウトロー達の日常が描かれる。
京都編を観ていると合間、合間にはさみ込まれて来るのが沖縄編でこれがすごい。ドキュメンタリーなのだが、特に何かを訴えるという訳でもなくひたすら監督がおもしろそうな人に話しかけ、沖縄の街をうろついている。刺青ショップに入っていって、米兵の兄ちゃんにインタビューし、ビリヤード場ではおっちゃんに沖縄の基地商売の歴史を聞く。気づくと画面には野人が登場していて、延々「カニ」を狩る画面を眺めている。「あれ? 俺何観に来てたんだっけ?」と我に返りそうになるのだが、そうするとまた唐突に大坂編、チンピラ達の群像劇に戻るという感じだ。
でもまあいいかと思えるのは、出てくる人間がいいビジュアルをしてるからで、「軍に入る前は馬に乗ってたよ」とか言ってる刺青屋の米兵も、夜道でひたすらラジコンやって遊んでる沖縄の不良も観ていていいなあと思う。まあこれはこれでありだなという気分になってくるのだ。
最後に入ってくる東京編は、かなりしっかりした作りで、蒼井そら、村上淳などが出演、黒猫チェルシーのボーカルや青山真治監督も登場している。チンピラに絡まれている蒼井そらを浮浪者の村上淳が助け、その代わり家に上がり込んで住み着いてしまうところから始まる奇妙な共同生活……、というまあそれほど目新しくもない話なのだが、やがて明らかになる蒼井そらの狂気というのがオリジナルなところだろうか。
それより、チョイ役の青山真治の「業界風のいやらしい男」の演技が素晴らしく、実際こんないやらしい男に違いない!と確信、深く印象に残っている。そして、村上淳のなんとも粗暴なセックス。大阪編も含めこの映画では全編、00年代ではあり得ない男中心のセックスが繰り広げられ、なんとも懐かしい感じがした。
かなりの奇形映画だと思うのだが、それでもおもしろいしまあいいやと思える。思えばこの映画、ドキュメンタリーも含めまっとうな人間は出てこないが、自殺する人間も出てこない。駄目なりに生きている人間を眺めると、その分世界はここまでOKと、部屋が広がったような気持ちになれる。そしてこの監督もまた、(無理矢理作ったDIY映画だが)それでも映画が作れる、というひとつの拡張を見せてくれている訳でわるくない1本だ。
しかし東京編に映る渋谷駅前、スクランブル交差点の明るさにはハッとした。彼の映画は野外撮影を多用して、例えば『闇のカーニバル』なんかを観ると、80年代の似ているようで全く失われた東京の姿を見られて面白い。しかしこんなにも急に、映画の中の景色が過去のものになるとは。歩く人間を真っ白に照らすあの景色が大嫌いだったから寂しいとは言わないが、突然何かが変わることがあるという事実はショックだ。現実は変わり続け、映画は変わらない。少し前の日本、そこから何か変わったことがあるのか、ないのか、この映画を観て探してみるのもいいかもしれない。
文=ターHELL穴トミヤ
ほんのり激しく、スペシャル気ままに、
3つの場所、3つのスタイル、3つの世界が交差する!!
FLV形式 5.36MB 1分46秒
『Three☆Points-スリー☆ポイント-』
ユーロスペース(渋谷)6月17日まで 21:00〜レイトショー、ほか順次全国公開
■これからの上映スケジュール
ユーロスペース(渋谷)6月17日まで 21:00〜レイトショー
桜坂劇場(沖縄)6月25日―7月1日
シネマスコーレ(名古屋) 6月25日―7月1日
シネ・ヌーヴォ(大阪)8月上旬
シネマ5(大分)9月上旬
シネウインド(新潟)9月上旬
まつもと市民芸術館9/16
ほか順次全国公開
■渋谷ユーロスペース レイトショー スケジュール
「スリー☆ポイント」上映終了後
23:00スタート
23;30終了
6月3日(金)吉永マサユキ(写真家)、山本政志
6月4日(土)飯田和敏(ゲームクリエーター)、山本政志
6月7日(火)村上淳、渡辺大知
6月11日(土)未定
6月17日(金)柴田剛(映画監督)、富田克也(映画監督)、山本政志
関連リンク
映画『Three☆Points-スリー☆ポイント-』公式サイト
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