WEB SNIPER Cinema Review!!
日本映画史上最大の暴走族映画にして、最も繊細なヤクザ映画
関東地方の田舎町・城南市育った5人の不良少年たちは、地元で知られた暴走族のメンバーだった。強い絆で結ばれていたはずの彼らだったが、仲間の一人の死をきっかけにそれぞれの道を歩み始める――。裏社会へと進んでいく少年たちの葛藤と激しさを繊細に描いたヒューマンドラマ。8月13日(土) シネマート六本木にてロードショー 全国順次公開
21世紀に入って10年も経った今、なぜヤンキー映画? きっと多くの人はそう思うだろう。私もそう思った。しかもエンコーとかヤクとかリストカットとかいう今どきの不良じゃなく、特攻服姿の暴走族に中卒ヤンパパ、夜はあぜ道の安スナックで泥酔という超ド直球の田舎型ヤンキー。なんてったってド派手なジャージにパンチパーマのチンピラたちが、真っ昼間からよそんちの庭にウンコして喜んでたりするのである。つい、高校生の頃ブームに乗せられて観た『ビー・バップ・ハイスクール』を思い出してしまったのも無理はないと思う。
しかし2時間スクリーンの前に座った後には「シャバいぜ〜!」なんてのほほんとしたことは言えなくなってしまった。最初のうちこそヤンキー仲間の青春物語といった様相なのだが、そのうちの1人がバイクで死んだのをきっかけに、主役の2人はヤクザの世界へ。後半はヤクザ映画としての色が濃くなり、舞台も東京に移ってどんどんストーリーが広がっていく。意外と言っては失礼かもしれないけれど、めちゃくちゃ真面目で骨太なヒューマンドラマだった。
物語のメインとなるのは、仲間の中でも少年院帰りの蓮(窪塚俊介)と大成(宮田大三)。蓮は地元の大物ヤクザの息子でキモのすわったタイプ、生まれるときに難産で母親を亡くしているせいか孤独感を背負っていて「晴れと雨との境界線って見たことあるか?」なんていきなり意味深なことを言ったりする。一方の大成は、家族の愛情に包まれて育った実直なヤンキーで蓮のサポート役。親友である蓮に憧れと“兄弟”と言ってもいいほどの愛情を持っている。
仲間の死でいつまでも子供のままじゃいられないと悟った蓮は、父親が組長の片桐組ではなく、その傘下の黒岩組の下働きになることを一人で決めてしまう。それを聞いた大成は、新宿は歌舞伎町を牛耳る神条組の扉を叩くのだ。しかも家族も故郷も捨てて背中には蓮の花の刺青まで入れるという、まるで恋する乙女のような情熱である。
「え、なんで? そこまでするなら同じ組に入って名実ともに“兄弟”になればいいのに……」と思うのだが、2人はなぜかそうはせず別々の場所でヤクザ修行を積む。
辛く汚れた極道の世界を目の当たりにしながら、少しずつ上へ昇っていく蓮と大成。時は過ぎ、20歳になった2人は知らず知らずのうちに組同士の対立に巻き込まれていく――。
ヤンキーに暴走族にヤクザなんて、今の日本映画界ではまったく青臭いとしか思えないテーマだけれど、正面からガッツリ取り組んでいるところがいい。
脇を固める登場人物とエピソードもしっかりしている。家族のために鉄砲玉になった初老の男、蓮と大成を見守る幼馴染みの少女(神田沙也加)、優しい心を持ちながらも一点の曇りもなく極道としての生き様を極める蓮の兄・京介、明るく天真爛漫な大成の母親(美保純)。全員が魅力的、とにかくヤンキー映画と思えないほど物語が丁寧なんである。
それもそのはず。普段は下請で映画を作っている映画製作会社が「自分たちが本当に作りたい映画を作ろう」と一念発起し、オリジナルで制作したんだとか。
原作者の白川蓮によると“この物語は「光」と「影」がテーマ”なんだそうだ。
「東京は綺麗だよな。光がまぶしいのか空が暗いのかときどきわからなくなる」なんてセリフが出てくるし、夜の東京タワーは物語全体を通しての重要なモチーフになっている。
でも個人的な好みを言えば、後半に出てくる東京の夜景よりも、前半のどこか牧歌的な田園風景のほうが数段魅力的だ。
なんというか、みんな余裕があるのだ。少年院あがりで中学しか卒業せずにブラブラしてるヤンキーに対しても、それほど深刻に怒らない。
バイクの二人乗りで死んだ少年の母親は運転してた友達を責めないし、母親役である美保純も少年院帰りの大成と蓮を笑顔で見守っている。なんという欲のなさだろう。息子も不良のくせにじいちゃんの腰を揉んでやったりなんかして、やけにほのぼのモード。基本的に健康で元気ならばなんとかなるという世界なのだ。
もしかしたら、このおおらかさは1997年という時代設定と関係があるんだろうか。
考えてみれば、14年前というとリーマンショックのはるか前。まだ格差社会やワーキングプアなんて言葉も聞かなかった頃である。
きっと、落ちこぼれやヤンキーは今よりずっとのびのびしていて、辛いことやうまくいかないことがあってもそこまでシリアスにならずにすんだのだろう。閉塞感だらけの2011年とは違って、影の中にいても、どこかに光があると信じることのできる時代だったに違いない。東京タワーに歌舞伎町のネオンというある意味バブリーなモチーフも、古き良き時代に捧げるレクイエムなのかもしれない、そんなことをふと考えてしまった。
文=遠藤遊佐
「少年」から「大人」へ――
道を踏み外した不良少年たちの“不器用な絆”の物語
FLV形式 4.51MB 1分40秒
『アメイジング グレイス〜儚き男たちへの詩〜』
8月13日(土) シネマート六本木にてロードショー 全国順次公開
関連リンク
映画『アメイジング グレイス〜儚き男たちへの詩〜』公式サイト
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