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(C) 『天皇ごっこ』製作委員会

WEB SNIPER Cinema Review!!
ドストエフスキーを愛し、三島由紀夫に憧れた作家が夢見た世界とは――。
かつて天皇をコラージュした作品で日本のタブーに挑んだ異端の美術家が、革命家としての作家・見沢知廉の痕跡を辿るドキュメンタリー。思想家、活動家の証言で紡がれる映像は、今の日本に何を映し出してみせるのか――。

10月29日(土)より新宿K’s cinemaにてロードショー 他全国順次公開中!!
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(C) 『天皇ごっこ』製作委員会

右翼というのは報われない。世間からは無視されがちで、それでも実業家(売国的な!)と大衆(未だ目を開かれていない!)と扇動者(CIAやKGB、今なら中国公安かもしれない!)を相手に孤軍奮闘、日本を良くしないといけない。一億数千万の言うことを聞いてくれない羊の群れは、さぞ疲れるだろう。本作はそんな右翼の人たちの苦しみが、貧乏揺すりや、やたら多い瞬きや、何度も反復される癖や、そんな言語化されていないメッセージで映し出される、思想とノイローゼの映画に見えた。

(C)『天皇ごっこ』製作委員会

見沢知廉の経歴を一気に説明すれば、「元左翼、後右翼に転向し、内ゲバで殺人を犯して千葉刑務所に12年服役。服役中に書いた小説『天皇ごっこ』で日本文学新人賞を受賞し、出所後作家となり、2004年に自殺した人」ということになる。監督は美術家の大浦信行。彼は80年代に「天皇」を素材に使用したコラージュ作品を発表、美術館で展示会を開いたものの、その後収蔵を拒否され、図録も焼却された事件で有名になった。いわば本作は、「日本民族バンザイ!」の作家を「天皇陛下でコラージュ」の監督が撮影したドキュメンタリーなのだ。

(C)『天皇ごっこ』製作委員会

その撮影方法は独特で、例えば「アメリカ支配を排し、白人支配を排し、日本人による日本人の為の政府を作りあげ、もって日本革命を成し遂げ、さらにはアジア革命へと繋げる」という意見を持つ「民族の意志同盟中央執行委員長」へのインタビューは、ハンバーガーを食う旧日本兵と同席して行なわれる。
これは「それって、もうすでに第二次世界大戦で同じことやって終わってますからー! 日本兵はもう今、もっぱらハンバーガーですからー!」という演出なのだと思うが、本作のインタビュー対象者は皆、監督の何らかの意図の中に落とし込められて撮影されているのだ。
『カッパの三平』のような抜群の安定感で、唯一ストレスフリーに見えた一水会の代表。彼は黄色い光の中無数の本に囲まれた下宿部屋でインタビューされ、そこは青春時代や昭和を連想させる。対して二十一世紀書院代表のインタビューは同じく書物に囲まれながらも、図書館然、財団然とした雰囲気だ。
この人がまた「見沢は民族派の中で存在感がなかったらこそ、問題にならずに『天皇ごっこ』が出せた」というような鋭い指摘をしたかと思えば、「お母さんが彼の一番の戦友だったんじゃないかな」と突然浪花節になったりして、基本は早口。何かとにかく話をどこかに落ち着けて早く終わらせたいような、実はあんまり関わりたくないような感じを醸し出していて、「そこが財団的演出に繋がっているのだろうか?」とその意図をいちいち推測するのも面白い。

(C) 『天皇ごっこ』製作委員会

見沢の左翼時代、右翼時代を描いた著書『天皇ごっこ』には、実際のところ運動に参加する最も重大な動機は「自己の興奮、全能感なのだ」という一節がある。これこそ見沢知簾の根本で、だからこそ彼は右翼にはなりきれず、しかし芸術家にはなれたのだろう。彼は生きにくい人生の中で民族派の右翼活動という救いを見つけだし、しかしその中で人を殺してしまった。

(C) 『天皇ごっこ』製作委員会

見沢の幼なじみでもある共犯者へのインタビューは、白い光に照らされた部屋の隅ですすめられ、そこは取調室のように見える。彼が語る殺人の話は思想に比べあまりにあっけなく、しかし作り替えることの出来ない重さがある。インタビューはその瞬間も淡々としたもので、冷静に語りながらしかし彼は左手でずっと右手を押さえつけている。聞いている内こちらまで息苦しくなってくる、本作で最も息をのむ瞬間だ。
見沢が敬愛するドストエフスキーの代表作『罪と罰』は、青年ラスコーリニコフが思想の先に老婆を殺害し、その肉体感と思想の乖離に苦しみ、法律云々ではない真の「罪と罰」へと至っていく話だった。では、現実の「罪と罰」とは何なのか。そう思いながら観ていると、その後のなんという芸術エンディング!  やはり人生は思想で解決してはいけない、芸術で解決しなければということなのか……。

本作は見沢知簾について語っていながら、監督による、出演者を使った新たなコラージュ作品だったとも言える。そこに浮かんでいたのは人間というものの、体を持った限定された大きさだったように思えた。

文=ターHELL穴トミヤ

「敵」がわからなければ教えてやる! 繰り返される危険な遊戯
革命という快楽に酔いしれた男の46年


FLV形式 4.67MB 1分42秒

『天皇ごっこ 見沢知廉・たった一人の革命』
10月29日(土)より新宿K’s cinemaにてロードショー  他全国順次公開中!!
(C)『天皇ごっこ』製作委員会

監督・脚本・編集= 大浦信行
撮影・編集=辻智彦
録音=川嶋一義
出演= あべ あゆみ/設楽秀行/鈴木邦男/森垣秀介/針谷大輔/雨宮処凛/蜷川正大/田村泰二郎/多田脩真/西林未羽/漣圭佑/中島岳志/高橋京子
特別協力=高木尋士(劇団再生)/濱田康作
製作=国立工房


配給=太秦

2011|日本|HD|カラー|115分

見沢知廉が夢見た“天皇”とは!?
『天皇ごっこ 見沢知廉・たった一人の革命』公開記念トークイベント開催!


思想家、活動家、ジャーナリスト、作家、評論家が、映画『天皇ごっこ 見沢知廉・たった一人の革命』と見沢知廉の小説『天皇ごっこ』にまつわる天皇について大激論!
11/11(金)18:00の回上映終了後 雨宮処凛(作家)
11/12(土)13:00の回上映終了後 高木尋士(劇作家・劇団再生主宰)
11/13(日)18:00の回上映終了後 宮田徹也(日本近代美術思想史研究)
11/14(月)18:00の回上映終了後 古川美佳(韓国美術文化研究家)
11/15(火)18:00の回上映終了後 三浦小太郎(評論家)
11/16(水)18:00の回上映終了後 阿部嘉昭(評論家)
11/17(木)18:00の回上映終了後 毛利義孝(社会学者)
11/18(金)※千秋楽 18:00の回上映終了後 鈴木邦男(一水会顧問)
※詳細はコチラまで。
関連リンク

映画『天皇ごっこ 見沢知廉・たった一人の革命』公式サイト

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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