WEB SNIPER Cinema Review!!
父の死から葬儀までの喧騒の7日間を描いた優しさ溢れる物語
台北で働くアメイは、ある日突然父の訃報を聞いて田舎に帰る。叔父アイーの指示で伝統的な葬儀が7日後に営まれることになるが、古いしきたりに則った様々な儀式をこなすのに忙しく、悲しんでいる間もない。そんな折、ふとしたことからアメイの胸に父との思い出が溢れ出して――。台湾の田舎町を舞台に描かれる、優しさとユーモアに満ちたヒューマンドラマ。2012年3月3日(土)より東京都写真美術館ホール、銀座シネパトスにて “父をおくる”ロードショー! 他全国順次公開
そして、立て続けにいろんな人を見送るなかで一つわかったことがある。愛する人の死はもちろん悲しいことだけど、葬式をする当事者側に立つとなるとおちおち泣いてもいられないってことだ。懐具合と相談しながら葬儀屋と段取りを決め、弔問客を切りまわし、太って喪服が入らなくなったといっては慌てて紳士服のAOKIに車を飛ばす。久しぶりに会う親戚がいれば噂話に花が咲くし、冗談を言って笑い合ったりもする。
「もういない」という本当の喪失感がやってくるのは、むしろ嵐のような数日間が過ぎたその後だったりするのだ。
この映画を観て、そんなことを思い出した。葬式というのは「悲しみの場」じゃなく「滑稽な現実」なんである。
舞台は台湾の片田舎。
父親の突然の訃報を聞き、大都会・台北でキャリアウーマンとして働く娘・アメイが帰省する。
父親と同じく夜店(韓国の市場や熱海の射的場みたいで郷愁をそそる!)を営む兄のタージ、死んだ父親のイトコで道士(台湾の葬式を司る葬儀屋みたいな人?)であるアイー。そこに大学の卒業制作を葬式のドキュメントにしようとカメラを持ってやってきた従兄弟のシャオチュアンが加わり台湾の伝統的な葬式を執り行なうことになるのだが、占いで決められた葬式の日は7日後。その間に起こるいろんな出来事は、不謹慎だが声をあげて笑ってしまうほどいちいち面白い。
「故人の好きだったものを備えなさい」と言われ遺体にポルノ雑誌を入れるタージ。台湾ではそういう風習があるらしく、ご飯を食べていても歯を磨いていても呼ばれれば棺のそばにとんでいって泣かなければならないアメイ。
アイーの恋人で一緒に葬儀屋を経営しているアチン(泣き女からバーのセクシー歌手、楽隊のバトントワラーまでこなすオールマイティー美女!)の現実的なチャキチャキっぷりは吉本新喜劇に出てくる芸人みたいだし、物語の途中にはアイーとシャオチュアンの母親とのムード歌謡みたいな恋の回想シーンも出てくる(BGMはなんと梶芽衣子の『恨み節』)。
しかし、そこはやっぱり愛する人を亡くした兄妹の物語。笑ってるだけじゃあ済まない。
グッときたのは、バイクに乗って町の写真屋に遺影を取りにいったアメイが、途中で昔父親と2人乗りをしたことを思い出すシーンだ。
「今日は私の誕生日なのよ」と言うアメイに父親が差し出すのは、偶然持っていた肉ちまき。
「え、これがプレゼント?」「叔母さんに貰った美味しい店のだ。兄さんには内緒だぞ」
どの家族にもある何気ないワンシーンが目頭を熱くさせる。無邪気で幸せなひととき。どうして残された者は、こんな些細なことばかり思い出してしまうんだろう。
また、アメイ役のワン・リーウェイは素晴らしかった。なんといっても、イモトアヤコと山田花子を足した感じのややブス顔がいい。
性格も頭もいいけど色気のない優等生。職場では英語で話し、いろんな都会を飛び回っているキャリアウーマンなのだが、田舎で兄と2人きりで残され奮闘する姿を見ていると、この色気のない地味な風情が妙に愛しく思えてくるのだ。
なんとか葬儀を終え、元の生活に戻った2人。
父親の夜店を仕切るようになったタージは寂しさを感じている。でも、都会に戻ったアメイは、父が死んだことをなかなか実感できず、あるきっかけで急に悲しみを爆発させる。このラストシーンは、大切な人を亡くしたことのある人なら号泣必至だろう。
土地や家族とのつながりの濃さ。笑いと悲しみが同居するきめ細やかな情緒。台湾の葬式と日本の葬式はなんだか似ている。
砂田麻美監督のドキュメント『エンディングノート』に並ぶ葬式映画の傑作。嫌な奴が一人も出てこない優しさにも、ちょっと泣いてしまった。
文=遠藤遊佐
台湾のアカデミー賞にあたる、金馬賞7部門にノミネート!
大きな感動と共感を呼び、異例のロングラン上映!!
FLV形式 5.92MB 2分13秒
『父の初七日』
2012年3月3日(土)より東京都写真美術館ホール、銀座シネパトスにて “父をおくる”ロードショー! 他全国順次公開
関連リンク
映画『父の初七日』公式サイト
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