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10代の頃の輝きを取り戻そうとする30代女性の奮闘!!
(C)2011 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

37歳でバツイチ、恋人なし。仕事は自称作家で、実はゴーストライターという都会暮らしの女性・メイビスは、高校時代の元カレ・バディから一通のメールを受け取り、故郷へ帰ることに。いつまでも大人になれないメイビスはイタい勘違いの果てにバディとヨリを戻そうとして大騒動を巻き起こすが……。

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『ヤング≒アダルト』というタイトルが示すように、本作は子供=ヤングと大人=アダルトの境界を見事に描いた作品である。人はいかにして子供から大人へと成熟するのか。この問いに答えるのは困難だが、ひとつ言えるのは、成熟には共同体によるイニシエーション(通過儀礼)が必要だということだ。日本で言えば、たとえば成人式や入社式といった様々なイニシエーションがある。結婚や出産もそのひとつと言えるだろう。こうした儀式を経て、周囲から「あなたは大人だ」と承認されることで人は成熟していく。

では、こうしたイニシエーションの通過に失敗し続けたまま年を重ねたとしたら? 本作の主人公メイビス・ゲイリーは、まさにそうした人間の典型だ。ヤングアダルト小説(十代の読者を対象とした小説で、日本で言えばライトベルにあたる)のゴーストライターをしながら、毎日のように男とデートしては飲んだくれるメイビス。日本のネットスラングで言い換えれば、さしずめ「メンヘラビッチなラノベ作家」といったところだ。彼女は37歳にもなって、いまだに十代の思い出を引きずっている。年齢に不相応なキティちゃんのTシャツと、よれよれのスウェットで外出できてしまうあたりに子供っぽさが漂っている。彼女は「本当の幸せ」を求めて、大人になりきれないまま年齢を重ねてしまった、「ヤングアダルト」なのである。

そんな彼女がある日、一通のメールを受信する。高校時代の元カレ・バディから「子供が生まれました」とのメール。わざわざ元カノの自分にこんなメールを送ってくるなんて、きっと今の生活に満足していないに違いない、私とヨリを戻して輝かしい青春時代に戻ろう、と脳内妄想を膨らませて、メイビスは久々にバディの待つ地元へと戻る。

しかし、それはあくまで独身女性の妄想。バディは幸せな家庭を築いてそれなりに満足な生活を送っている。彼にとって、メイビスのことはすでに高校時代の思い出にすぎない。メイビスと違ってバディは、高校生の頃の自分をきちんと相対化しえている。というのも、彼は立派に結婚、出産というイニシエーションを経て、地域コミュニティからの承認を得ているからだ。一方メイビスはと言えば、一度は結婚したもののすでに離婚しており、子供もいない。コミュニティからの承認を満足に得られていないのだ。そのため高校時代を思い出として相対化することができず、今からでもバディとヨリを戻せるはずだと考えている。

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本作では、メイビスとバディのすれ違いが、都会型のライフスタイルと地方型のライフスタイルの違いとして描かれている。都会においては、職業や人間関係が比較的自由ではあるものの、コミュニティからの承認を得がたい。逆に地方においては、職業や人間関係が固定的ではあるものの、コミュニティからの承認が得やすい。こうして対比してみると、メイビスがなぜ「メンヘラビッチ」化してしまったのかを理解することができる。彼女は、地元の不自由さに我慢ならず都会に出てみたものの、その流動性の高さに耐えることができなかったのである。つまり、自由な生活は捨てたくない、しかし安定した人間関係は欲しい、ということだ。

そこで彼女は、元カレのバディを都会に連れ出すことで、地元コミュニティとの接続を確保しつつ、都会的自由を満喫しようと考えるのである。しかし、すでに家庭まで築いているバディを、地元コミュニティから連れ出すことは難しい。彼女はあの手この手を尽くしてバディにアタックするが、彼はなかなか見向いてくれない。都会型のライフスタイルと地方型のライフスタイルの溝は、そう簡単には埋まらないのである。

ここで重要な役割を果たすのが、第三の登場人物であるマットの存在だ。マットはメイビスの同級生で、下半身に障害を負っている。高校時代にゲイだという噂を立てられ、同級生から暴行を受けたためだ。彼はコミュニティに所属しながらも、そこからなかば迫害されている。すなわち、彼は地元コミュニティがいかに閉鎖的であるかを、身を持って知っている。だからこそ彼はバディとヨリを戻そうとするメイビスに対し、終始批判的な態度をとる。メイビスはすでに地元コミュニティにとってはよそ者にすぎない、ということを彼は告げているのだ。

ある意味で、マットはメイビスと非常によく似た存在だ。なぜなら、彼もまたコミュニティからの承認を得ることができなかった存在だからである。しかし、都会に出ることができないという点で、彼はメイビスよりもさらに不幸な人物である。だからこそ、彼はメイビスの最高の理解者であると同時に、最大の批判者でもあるのだ。今更バディとヨリを戻そうという考えは、単なるノスタルジーにすぎない。むしろ、都会での生活をいかに充実させるかがメイビスのやるべきことだ。マットは暗にそう告げているのである。

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都会の人間関係は、たしかに流動的で冷たいものだ。地元に戻ってもう一度青春時代をやり直したい、というメイビスの考えに共感する観客は多いだろう(地方から上京してきた女性観客は特に)。本作の舞台はアメリカであるが、メイビスのような女性は日本にもいる。いや、アメリカや日本だけでなく、多くの国にいるはずだ。都会と地方のライフスタイルのギャップは、先進国と呼ばれる国ならどこにでも見られるものだからである。したがって、この映画で描かれる三十路女性の悲哀は、もはや国際的な問題と言っても過言ではない。

では、どうすればメイビスのような女性は幸せになれるのだろう……? 映画を見ている最中は「この女イタすぎる!」と笑っていられたが、見終わった後にそんな感慨を抱かずにはいられなかった。大人になれない女性の痛々しさをユーモアたっぷりに描きながら、実は大きな問題を提起した作品である。

文=しねあい



『ヤング≒アダルト』
全国大ヒット上映中!
(C)2011 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

原題= YOUNG ADULT
監督= ジェイソン・ライトマン
脚本=ディアブロ・コディ
出演= シャーリーズ・セロン、パトリック・ウィルソン、パットン・オズワルト、J・K・シモンズ、エリザベス・リーサー、コレット・ウォルフ

配給=パラマウント ピクチャーズ ジャパン

2011|アメリカ|94分|カラー|

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映画『ヤング≒アダルト』公式サイト!!!

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しねあい  ミクスチャーマガジン『BLACK PAST』編集。映画やアニメに関する論考、小説などを書く傍ら、プログラミングをやったり。
最近の書きものに、「ふつうの言葉で」(『BLACK PAST』)、「あらかじめ運命を定められた子供たち――『とらドラ!』の歴史=物語をめぐって」(『アニメルカ vol.4』)など。
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12.03.11更新 | レビュー  >  映画
文=しねあい |