WEB SNIPER Cinema Review!!
ローマで始まる、大人の恋の物語
日本でもヒットした『イタリア的、恋愛マニュアル』のジョヴァンニ・ヴェロネージ監督が贈るシリーズ第3弾。ローマのアパートに暮らす3組の男女がスクリーンの中で繰り広げるロマンティックな恋模様とは……。イタリア映画初出演となるロバート・デ・ニーロとモニカ・ベルッチの豪華共演にも注目の話題作。シネスイッチ銀座他にて順次公開中!!
本国のみならず、ヨーロッパ中で大ヒットした「恋愛マニュアル」シリーズ第3弾。「イタリア人ってどうせ年中恋愛ばっかしなんでしょ?」という思い込みは大正解! イタリア人にとっては恋愛こそが宗教。北朝鮮人民が日々、将軍の偉大な伝記映画を観て「主体思想」を確認するように、イタリア人も日々、本作のような映画を観て「やっぱり人生は恋愛だね!思想」の再確認しているのだ。
毎回オムニバス形式で複数の主人公が登場し、恋愛の様々な局面をみせていくというこのシリーズ。第1作(『イタリア的、恋愛マニュアル』'05)のヒットを受け、第2作ではモニカ・ベルッチが登場(『モニカ・ベルッチの恋愛マニュアル』'07)。今回はさらに、ベルッチとロバート・デ・ニーロの競演が実現!と、順調に予算が大きくなっている感じが微笑ましい。
本作は三部立てで、若者、中年、そして老年と、それぞれの段階での恋愛事情が描かれる。第一部は若者編なのだが、最初の口説きが始まるまで、わずか3分。これが早速の見せ場で、婚約者に「私、あなたと本当に結婚すべきかどうか迷っているの……」と打ち明けられた主人公が始めるのは、全く関係のない話だ。
「今朝、歩道を歩いていたんだ。そしたら、女性が車庫入れに困っていて、鳥が水たまりでたわむれていて、子供が自転車に乗っていて、それで僕はカギを落として……、全ての出来事は同時に起きて過ぎ去る、一瞬のことだった」何を言いだすの?と思っていると次が凄い!「でも、そのわずかな瞬間でさえ、僕が考えていたのは君の瞳のことだったんだ……」みたいなー! イッターリア! 俺がほれるわ! まったく! しかし諸君。イタリア人にとってなぜ恋愛が宗教かといえば、それは恋愛こそが彼らが死に対抗する手段だからなのだ。この口説きだって、押しとどめることの出来ない時の流れと、にも拘わらず燃え上がる情熱の永遠性を感じさせるじゃないか!
リチャード・リンクレイターの傑作恋愛ドラマ『ビフォア・サンセット』('04)で明らかになったのは、恋愛映画の真のテーマは老い(そして死)なのだということだったけど、その秘訣は「もののあはれ」。そして、それは口説きも同じだった!
というわけで、感心しつつ男濡れに濡れていると、早速この主人公が出世のチャンスを掴み、田舎の村へと向かう。そして、浮気です。
おい、そりゃねーだろ!と思うかもしれない。字面だけ追っていては確かにそう思うかもしれない。しかしそこに居るのが、死ぬほどいい女だったとしたら? その女が「彼女はどうせ寝ているわ〜。わたしがあなたに愛のヨロコビを教えてあげる、さあ何がしたい〜?」と歌いながら、ヒザの上に座ってくるとしたら!? これは仕方がない! これは浮気しちゃう! イッターリア!!という、しかしまあこの第一部、ストーリーはよくある話で、人物像も類型的。村ではまっとうに働いてない奴らも出て来て、「こういう奴らのせいでEU経済が破綻……日本人の血税がIMFを通じて……」などと思うところもあるのだが、後半ついに今度は女性側、冒頭の婚約者から主人公への口説きが始まる。
これがまたもやグッとくる抜群の口説きで、まず「あなたはいらなかった」という否定から入るのだ。おや?と思っている内にどんどん引き込まれ、気づくと自分の胸を撃ち抜かれているという、熱い!あまりに熱い告白!もう融資しちゃおう。イタリア国債、買っちゃおう!と関係ない部分までほだされてしまう、「口説き文句がそのまま見どころ」という第一部になっていた。
続く第二部は、中年の恋。こちらはシリーズ全作に出演中、もはや『恋愛マニュアル』の顔と化した、カルロ・ヴェルドーネが主人公。禿げを生かしたコメディー演技と供に、「恋愛慣れしてない奴は、足下をすくわれてひどい目に遭うのだ!」という恋愛サバンナ・イタリアの、厳しい一面が描かれる。
最大の見どころはヴェルドーネが喜劇スキルを爆発させる、アニマル・プレイ。シリーズ第1作でもイヌになっていた彼だが、今回は種類も変身時間も大幅アップ!「えさが欲しいニャーン!」から始まる、アニマル・セックス総進撃を繰り広げ、その火遊びの代償を払う時の面構えがまた最高!という、一粒で二度おいしい展開となっている。中年の禿げはどんなヒドい目に遭っても笑える。そんなイタリア人のドライな感情がかいま見れるエピソードになっていた。
第三部は、アメリカからやってきた考古学者ロバート・デ・ニーロとモニカ・ベルッチの歳の差恋愛。それぞれに傷を抱えた2人が年齢・文化の差を越えて近づいていくのだが、これは最後のダンスシーンが素晴らしかった。告白というものが「自分の弱味を相手にみせること」だという、だからこそ胸を打つのだという真実を、今度はセリフではなく、映像だけで観客にみせてくる。沈黙の雄弁さをフォーカスした、老年の恋に相応しい(そしてオチはさすがイタリアな)エピソードとなっていた。
本作、結構アカ抜けないところもあるのだが、そんなところからもかえって、イタリア人の庶民感覚が伝わってくる。やはりイタリアは恋愛の国、もう君たちは恋愛だけしてくれればいい!EU危機はドイツ人に任せれば大丈夫!そんな気分になってしまう一本だ。
たまにはこんな映画を観て、帰りにジェラートを食おうと思ったけど売ってないから代わりにクレープを食いつつ「クレープはフランスじゃん……」などと呟いてみるのも良いかもしれない。
文=ターHELL穴トミヤ
誰かを愛すること、それは人生を愛すること――
FLV形式 6.01MB 2分15秒
『昼下がり、ローマの恋』
シネスイッチ銀座他にて順次公開中!!
関連リンク
映画『昼下がり、ローマの恋』公式サイト
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