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特別寄稿・「S&Mスナイパー」休刊に寄せて


〈サプリメント化するエロ〉を前にして

文=宇野常寛

1979年創刊の月刊誌「S&Mスナイパー」。休刊にあたり、評論家・宇野常寛さんに、文章を寄せていただきました。
S&Mスナイパー2007年1月号
2007年1月1日発行/ワイレア出版

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私的なことからはじめて恐縮だが、私は『PLANETS』というカルチャー誌のミニコミを主催している。三年前に150部からはじめて、お陰さまで今ではその20倍の部数が出ている。この数字は、いわゆる大手出版社の文芸誌とそれなりに戦える数字だ。今でこそ、多少は知られるようになった『PLANETS』だが、最初に弊誌を取り上げてくれたのは『スタジオ・ボイス』でも『クイック・ジャパン』でもなく『S&Mスナイパー』だった。あのときの嬉しかった気持ちを、私は今日まで一秒たりとて忘れたことはない。

『S&Mスナイパー』という媒体が休刊にいたる今日まで、いかなる存在感を示しいかなる機能を果たしてきたかについては、私よりも適切に紹介してくれる先輩たちが何人もいるだろう。ただひとつ言えるのは、その独自の美学に基づいてエロを追求し、その結果他ジャンルのカルチャー・シーンにも優れた嗅覚を持たざるを得なかった『S&Mスナイパー』という媒体は、エロとサブカルチャー、いや正確にはカウンターカルチャーが幸福な結婚を果たしていたある時代を象徴する存在のひとつだったということだ。

あの過ぎ去りし幸福な時代、エロメディアという快楽装置をあるときは隠れ蓑に、そしてあるときはエロという回路ならではの強度を武器にして、魅力的なコンテンツと濃厚かつ誤配の可能性にあふれた開かれた〈場〉を提供することができた。張り詰めた股間を持て余しながらレジに運んだ写真雑誌の巻末に、思わぬかたちで未知の濃厚な世界に出会う幸福な交通事故――私はエロ本の巻末や友人間を流通するAVソフトの山の中を通じて、そんな幸福に出会えた最後の世代に当たるのかもしれない(たとえば私は更科修一郎という批評家を某エロ本の巻末コラムで知った)。

しかし、ソフト・オン・デマンド以降というべきか、二村ヒトシ以降というべきかは私にはわからないが、徹底的な「抜き」アイテムとしてそのコストパフォーマンスのみが重視されるようになった現在のエロメディアに、もはやこのような幸福な時代の継承を期待するのは難しいようだ。その象徴ともいうべき事件が、今回の『S&Mスナイパー』休刊だろう。

安田理央と雨宮まみの共著『エロの敵』はこの問題を鋭く描き出した名著だが、読んだ後に壁に向かってこぶしを振るったあとのような徒労感が伝わってくる。『エロの敵』で描かれているエロメディアのサプリメント化ともいうべき状況が進行して困るのは、エロメディアという誤配装置に何かロマンティシズムを感じてしまう私たち物書きや編集者たちであって、決してエロメディアを必要とする消費者たちではない。同書で論じられている『エロの敵』とは、実は「業界人の敵」でしかないのだ。そして安田も雨宮も間違いなく、私のような門外漢に指摘されるまでもなくこの残酷な現実を切実に把握している。把握しているからこそ、書かざるを得なかったという事情がひしひしと伝わってくる。では、残された私たちはどうすべきなのか?

私なりの答えの半分は、かつてエロメディアが負っていた機能のある程度は、他のかたちで継承できるし、そうするしかないのだというものだ。このカウンターカルチャー不成立の時代、もはや「エロであること」自体が特権的な位置を保証するわけではない。エロメディア「なのに」〜だ、というエクスキューズがもはや成立しない以上、エロであることを切り離して成立する機能=誤配のシステムは、その力を借りることがもはやできなくなったという現実を受け入れて地道にやっていくしかないのではないだろうか。私が『PLANETS』という媒体を手がけているのも、要はそういうことだ。ほとんどの人間は目に入れたいものだけ目に入れて、認識したいものしかしない時代(それは決して悪いことではないが)、〈雑誌〉的な誤配のシステムの需要は大きく後退するのは当たり前の話だ。だったら、小部数のメタ・メディアとして再出発し、地道に読者を獲得するしかない。能動的に誤配を求める層、というおかしな表現をあえてつかわせてもらうが、まずはそこからはじめるしかないのだろう。

しかし、残り半分の機能――エロメディア「だから」生まれたさまざまな表現の可能性をどう維持するか――これはなかなかに難しい問題だ。遺された『WEBスナイパー』がどんな道を歩むのか、私にはわからないがその最大の課題はたぶんここにあるだろう。『S&Mスナイパー』の嗅覚はその確立された美意識から必然的に呼び込まれたものだった。仮に『WEBスナイパー』がエロメディア「だから」なし得る想像力の〈場〉として機能するのならば、おそらくそこに必要とされるのはまさにこの美意識の確立だろう。『S&Mスナイパー』と『WEBスナイパー』は別物だ。いや、媒体が違う以上別物でなければならない。ウェブという場を舞台にする以上、『WEBスナイパー』は消費環境の整備がいかなる作家性を成立させうるのかという、今日の想像力の最大の課題に遠からず直面するのではないだろうか。

文=宇野常寛


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00年代の言論界に現れた新星・宇野常寛インタビュー
『ゼロ年代の想像力』が目指したもの[講談社モウラ]


zero.jpg 宇野常寛 評論家。1978年生。企画ユニット「第二次惑星開発委員会」主宰。批評誌『PLANETS』編集長。現在、「新潮」「サイゾー」などで多数の雑誌で連載を持つ。

第二次惑星開発委員会

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08.12.05更新 | 特集記事  >  休刊に寄せて