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新連載直前! 特別企画『異端のAV監督・ゴールドマンが来る!!』【3】
AV監督・ゴールドマンを貴方はどれだけ知っている? 新連載「セックス・ムーヴィー・ブルース」(詳細は記事の最後に!!)の公開を前に、その余りにも異端な業績と魅力、そして計り知れない才能について再確認すべく満を侍して放つ特別企画。第3弾は某AVメーカーの広報としてゴールドマン監督に関わってきたゆみこ69さんに、読者としての立場から「セックス・ムーヴィー・ブルース」の紹介をしてもらいます。「セックス・ムーヴィー・ブルース」とは何か、その実態がいよいよ明らかに!?AV業界が斜陽になったと聞いてずいぶんたつ。家庭用ビデオデッキの普及とともに、街にはレンタルビデオ店があまた進出し、成人向けのビデオも「AV」と名前を授けられて広く一般化して栄華をほこった。懐かしき80年代である。テレビ番組に出演したり、有名芸能人と浮き名を流して名前が知られた女優もいれば、言動の面白さが話題となったAV監督もいた。自社ビルを建て、社長は女優を愛人にしていたあの時代。
そんな80年代の終わりに監督としてデビューしたのがゴールドマンだ。
ビザールふうの実験映像を60分のノー編集で収録したビデオなど、マニアックかつ芸術味あふれる作品が一躍話題となった、当時20代半ばの彼は、家庭用ビデオカメラを駆使した衝撃的作品を次々に生み出す。90年代に入ると「マガジンもの」と呼ばれる、数名の女優を起用し、バラエティ番組なみの面白さでエロを描くシリーズものが大ヒットし、若くして売れっ子監督となっていく。
そんな彼が突然AV業界と決別宣言をしたのが2001年。「ニューヨークに行ってミュージシャンになる」とだけ言い残し、あっさりと仕事を捨てて旅立ってしまったのだ。ほどなく帰国し再びAV業界に戻ってきたものの、もはや監督として、新たな作品を制作する意欲は持っていなかった。
これは、そんな彼が抱えている「セックス」と「勃起」の悩みについての本である。が、それだけでなく、生まれてから現在に至るまでの経緯と人生が描かれた、驚異の自伝なのである。
これが、めっぽう面白い。
本人によって語られる本人の物語には余分なものが付きがちだが、それがないのが心地いい。淡々としているが妙な熱さの感じられる文章には説得力がある。
何より、必要以上に面白くしようとしていないところがいい。ドラマチックな自伝であればあるほど、こちらは冷めてしまうのだが、ゴールドマンの文章はリアルだけれど重すぎない。それは、あらかじめ彼自身にユーモアと自制心が備わっているからだろうと思う。
ここでわたし自身のことを書く。
わたしは大学生だった22歳の秋に、高校時代の友人に誘われてAVメーカーでアルバイトをはじめた。折からの就職難でなかなか卒業後の進路が決まらずに悶々としていたわたしを、当時の上司が拾ってくれて正社員となった。数年後、そのメーカーを辞めて同じようなメーカーに転職した。3年前に、最初に働いていた会社で知り合ったAV監督と結婚した。AVメーカーでしか仕事をしたことがなく、それも、同じような仕事を続けている。今年で11年目になる。
「鉛のリュックを背負ったまま、ぬかるみの海に沈んでいく」
「てっぺんのない山をいつまでも登りつづけている」
セックスという人類の最大級の快楽を仕事にしているのに、ゴールドマンはこう書く。
なんにせよ、仕事とはそういうものだ、と思う。けれど、たとえば歌を生業にしているミュージシャンはどうか、絵描きはどうか、医者はどうか、学者はどうか。はたしてこう書くだろうか。
「楽しそう」な仕事だからいっそうなのだ。
カメラを片手にセックスをするハメ撮りのことが詳しく描かれている。「俺だけとにかく忙しい」とゴールドマンは言う。そして「相当めんどくさい」と嘆き「みんながうらやましがるようなめくるめくエロスの世界はそこにはない」と結ぶ。「結論としては、AVは観るのが一番だ。」
ではなぜゴールドマンはいまだにAV業界で細々ながらも仕事をしているのか。彼の監督デビューのきっかけは、AVメーカーへ、自らが撮影した映像を持ち込んだことによるらしい。そこまで強いこだわりを持った人間が、なぜ自己世界を実現できそうなハメ撮りにまでこんなにも嫌悪感を示すようになったのか。
冒頭述べたように、不況に強い産業と言われていたAV業界にも、深い影が差し込んでいる。前年比マイナス数十パーセントが当たり前、その基準となる前年だって、そのまた前年よりマイナスなのだ。かつてアダルト男性誌に数ページにわたって派手に広告を出稿し、DVDサンプル付きの無料パンフレットを作っていたメーカーが、大幅なコスト削減とリストラを敢行している。弱小メーカーに至っては、早々と業界を見限り、大手メーカーへの身売りを行なっている。
作品を制作する費用は限界まで下げられ、ギャランティの安い企画女優がもてはやされる。売れるかどうかわからない実験的な作品は徹底的に削られ、マーケティングの法則に従った、ヌキやすさを重視した作品が数字をのばしている。
マーケティング。
ユーザーの意見を無視して、作りたいものを作り、撮りたいものを撮る時代は終わったのだと誰かは言う。借り手買い手のお望みのままに、男優がウザいと言われれば顔にモザイクをかけ、余計なことをしゃべりすぎと言われれば無言でセックスすることを要求する。それがAV業界のマーケティングだ。
ゴールドマンが実験的作品を作り、それを面白いと思っていたひとたちが大勢いたことをわたしは幸せだと思う。懐古趣味ではないが、その時代、AVは確かに熱いもので溢れていたはずだ。
ゴールドマンは観念ではなく、経験で書く。本当にあったことだから面白い。初体験も、エロすぎる女も、金が貯められない元妻も、彼の人生を少しずつ現在へと導いたひとたちだ。彼の手にかかれば、まるで居酒屋で彼女たちのことを話しているかのように、生き生きとした表情を持ってこちらに向かってくる。そこには無防備なまでに「私」を明かした凄みさえ感じられる。
ただの半生記ではなく、彼の深い悩み「勃起」にピントが絞られているところ、家族についての物語、さまざまに変わる時制など、手だれによる作品のようで一気に読み通した。なんだかもの足りないくらいだった。もっと知りたい、もっと読みたい。
AVライターの安田理央氏がブログやツイッターで取り上げたのをきっかけとして、今、サブカルに親しい若者たちのあいだで、再びゴールドマンが静かなブームになろうとしている。90年代初頭に撮影された映像を、当時ティーンエイジャーだった彼らが見て「すげえ!」と一様に驚いている。わたしも、その年代のひとりだが、こう言いたい。
「そうだよ、ゴールドマンは天才なんだよ!」
AV業界関係者には、この本をぜひ読んでほしい。そしてセックスについて考えたことがある全てのひとにこの本をすすめたいと思う。なぜなら、セックスはただ快楽の手段ではなく、ひどくむなしかったり、むしょうに悲しかったりするものだから。そのことを、セックスをしたことがあるほとんどのひとは知っていると思うから。
そうしてむなしい一方だった彼のセックスだが、本の最後で、突如、自らの筆によって再び勃起するという感動的なフィナーレが訪れる。こんな幸福がAV業界にも同じように降ってくることを、わたしは望む。
とにかく凄いよ、ゴールドマン。知り合いでよかった。
文=ゆみこ69
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10.07.24更新 |
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