「決定盤!テレビ・アニメ主題歌 オリジナル・サントラ集 昭和38年~昭和43年(1963-1968)」
上高田少年合唱団,吉田亜矢, みすず児童合唱団,デューク・エイセス他
発売元=ユニバーサル インターナショナル 発売日=2005年2月14日
WEB sniper holiday's special contents in Autumn 2009.
2009秋の連休特別企画
ばるぼら x 四日市 対談:秋の夜長にアニソンを聴こう!【前篇】
一昔前は“アニソン聴いている人キモイ”なんて言われたものですが、気がつけばオリコンチャートはアニソン一色に。ある世代から上にとっては、懐メロとしてカラオケで歌われるだけのものだったアニソン。はたしてその場ではいったい何が起こっていたのでしょうか。WEBスナイパー、秋の連休特集はいつものお2人によるアニソン対談、前後篇に分けてのお届けです!
四日市が語るアニソン新世紀
アニソンといえばアニメのグッズとして購買する。制作会社や声優のためにお布施として購買する。どの程度の効果があるのかわからないがチャートを操作するために集団で大量に購買する運動などがある。最近ではオリコン10位以内のほとんどがアニソンになってしまったのも記憶に新しい。メジャー音楽業界が斜陽、というのはもちろんあるとは思うが、アニソンが今に至るまで支持され続けているのは、アニメ・ファンの気が狂っている、だけでは説明がつかない。アニソンも常に変化を続けているのだ。ではアニソンの変化とは? 『鉄腕アトム』から「晴れハレユカイ」へ至る過程で何が起きていたのだろうか? アニメが数多ある若者カルチャーの一つになった時代、J-POPの流行とタイアップの時代、そして声優主題歌の時代。おおざっぱな区分とは承知の上で、アニソンがその時々において常にアニソンらしさを更新しながら現在の形へ至った過程を読み取っていこう。
■みんなアニソン聴いてるの?
四日市:私はアニメオタクなので当然聴きますが、ばるぼらさんはアニソンって聴きますか?
ばるぼら:iTunesのトップ25が全部アニソンになってるくらいは聴きます。
四日市:いつ頃の?
ばるぼら:80年代から今年まで。基本はレコード発掘と同じで、再評価されてないものを探して聴いてました。でも最近は単に懐かしいものを聴くようになりましたけど。
四日市:俺のiTunesのトップ25もアニソンだ。あまり聞いてるつもりなかったんだけどな……。
ばるぼら:短いからくり返し聴きやすいだけなんだけどね。30分弱あるX JAPAN『ART OF LIFE』がトップ25にくることはなかなかない。
四日市:それはありますね。アニメのオープニング映像に合わせているから1分30秒しかない。カラオケでも1番で飛ばしちゃう人もいますし、放送で流れない部分はいらない。と、言うことは主にYouTubeで聞いて、気に入った楽曲を購入するスタイルですね。
ばるぼら:はい、放送用は短く編集されてて、オリジナル版はイントロが長いことがあるけど、逆に違和感を覚える。
四日市:ちなみに今のトップ1は? 俺のは『狼と香辛料』の「旅の途中」だけど、極端に回数が多いのでリピート再生したまま寝てしまったんだろうな。飛ばして、『天元突破グレンラガン』の「空色デイズ」ですね。
ばるぼら:1位は……あ、ごめん、アニメじゃないや。『アイドルマスター』(ゲーム)の「IDOLM@STER」って曲でした。
四日市:それもアニソンと呼ばれるのが最近の気分ですよね。
ばるぼら:え、これもアニソン?
四日市:ゲーム、ラジオ、ニコニコ動画、同人音楽から声優ソングからアニメ主題歌を担当することの多いアーティストの音源まで、おおむねオタクに支持されているであろう音楽はすべてアニソン。
ばるぼら:アニメっぽい画/映像についてる音ということですか。
四日市:映像の爽快感が思い出されるのはアニソンの良さだと思うんですよね。ただでさえ1クール(最近は飛ばしてる人も多いとは思いますが)、週一でPVを見る音楽なんてそうそうないわけですし。
ばるぼら:アニメのOP、EDはアニソンのPVだと。
四日市:アニソンを聴きたいがためにアニメを見るって見方もオタクにはあったりしますが。
ばるぼら:好きな曲のPVを見るために音楽番組を見るような?
四日市:ですかね……釘宮病的な症例も現在では見受けられますが、音や声の気持ちよさはあると思います。ロックを好きな人が16ビートやギターのディストーションに反応するような、何かしらの様式がデータベースを刺激するのかもしれない。
■TVアニメ黎明期のアニソンたち
ばるぼら:アニソンの様式とはつまり、「アニソンっぽいと思う曲」にはなんらかの共通点があるということですよね?
四日市:そうですね。アニソンの型ってのは蓄積されると思うんです。テレビのインフラが完全にしかれて三種の神器なんて呼ばれるようになって以降、アニメを見たことがない、という人はほとんどいないと思うんですよこの国は。多かれ少なかれアニメソングというのは誰もが聞いている。アニメソングのデータベースは持ち合わせている。
ばるぼら:そのデータベースは人によって違いますかね? 世代によって?
四日市:世代によって変わるかな? 例えば『CITY HUNTER』の主題歌であるTM NETWORKの「Get Wild」はアニソンなのかTMの曲なのか。これはアニメが好きかTMが好きかによって変わると思うんです。でも『機動戦士ガンダム』は歌詞にタイトルが出てくるから……声優が歌っているだけでアニメに使われていない曲や、さきほどの「IDOLM@STER」はゲームですがアニソンっぽい、と感じてしまう。つまり時代ごとに「アニソン」というジャンルの記号が構築されていったのではないか、と考えて、まずはJ-POPなんて言葉の生まれる以前まで戻ります。1963年のアトムとか、合唱曲ばかりですよね。コロムビア少年合唱団、みすず児童合唱団、クラウン混声合唱団とか。
ばるぼら:註釈入れると、『鉄腕アトム』は1963年1月1日にはじまった日本最初のテレビアニメシリーズ。当時の日本では基本的に劇場用アニメしかなかったけど、海外のテレビアニメシリーズみたいなのを日本でもやろうと手塚治虫が始めた。テレビアニメ(テレビまんが)の主題歌をソノシートで発売すると異常に売れるので、気をよくしたレコード会社が次々参入してくるという流れが60年代ですね。最初のヒットは「オバQ音頭」(1966年)。一説には200万枚だけど誰が集計したのか謎。
四日市:現代まで繋がる音頭の元祖ですね。
ばるぼら:なんで音頭アレンジなのか知らないけど、お祭りが子供の娯楽として主流だったのかな?
四日市:1963年の『狼少年ケン』のEDがチャチャチャで、1966年の『ウルトラQ』はマーチだし、同じく1966年のサリーちゃんがマンボで、今に続く子供向け番組での人気ジャンルががっつり出てくる時代ですね。というか当時の流行か?
ばるぼら:歌謡史的に見ると毎年ニューリズムが登場してはそれで曲を作ってる時代だからかねえ。さっきのおばQも音頭以外に「おばQマーチ」があるしね。あと「オバケのP子」「僕は正太だい」というキャラソンが既に!
四日市:OP、ED、テーマソング、キャラソンなんてアニメから派生するモデルはこの頃既に完成していたと。
ばるぼら:当時どれだけアニソンが売れてたかを示す変な例として『宇宙星人スーパーX』がある。東芝なんだけど、レコードだけ先に作って、あとから漫画誌やアニメ製作を売り込んだもの。ジャケは謎の特撮作品が描かれてる。
四日市:アニメは作られたんですか?
ばるぼら:目論みは外れて結局作られてない! さらに1967年にはキングレコードが『少年マガジン』とタイアップして、アニメじゃなくて漫画の主題歌集(『少年マガジン・マンガ大行進』)を作ってる。ゲゲゲの鬼太郎の主題歌はそっちが先。漫画やアニメに対して「なんでもいいから売れ!」ってムードが当時あったんだと思う。
■ヒーローアニメ黄金期、主観を築いた70年代
四日市:だいぶ話がズレたような気がするけど、その頃のヒーローアニメは子供が合唱してヒーローを讃える“僕らのヒーロー”ですよね。
ばるぼら:ふむ、テレビの前でヒーローに希望を託す感じかな。
四日市:超人ですね。超人にはなれないから、僕らのヒーローがんばれ!なんですね。それが72年に『マジンガーZ』が来て、巨大なロボットに乗り込む形になる。まあどれもこれも超人ではあるんですが、そもそもの超人ではない。
ばるぼら:一緒に戦う設定になる。
四日市:そう、すごく強いものが一緒に戦う。でも1974年の『グレートマジンガー』ではついに「俺は涙を流さない」で、歌がロボット目線になる。これはもう、僕らのヒーローから、僕がヒーロー。ロボットに乗り込むごっこ遊びなんてしませんもんね、自分がロボット。だからこそ強く強く、あるいは熱い魂で、って感じになるんじゃないでしょうか。
ばるぼら:それ面白いね。そこが70年代ヒーローものの特徴ということですか。
四日市:同時に『仮面ライダー』もあり、で。テレビの中のヒーローに興奮するスタイルが、テレビの中に感情移入する形はテレビゲームも相まって未だ継続中かなーと。今の視聴者がスーパーロボットのアニメを見て感情移入しているとは思えませんが、ロボットアニメは様式美の世界なのでその頃にできた様式を継続している形でしょうか。
ばるぼら:ヒーロー主題歌の代表的音楽家というと?
四日市:前述の『マジンガーZ』の渡辺宙明と、菊池俊輔。菊池の代表曲は特撮になっちゃうんですが『仮面ライダー』を挙げておかなければならない。戦隊、ライダーなんですよね。
ばるぼら:渡辺・菊池ともにオールドスクールなアニソンにしか聴こえなくて、ワタシはそこまでピンとこなかったりするんだけどね。しかし子供心を刺激するという意味ではよくわかってるのか。
ばるぼら:テンポが速くて高揚感を煽ってる。
四日市:あとあれ。渡辺宙明は、よくわからないけどすごくあってる擬音をいれる。「ダダッダー!」とか「ガンガンガガン!」
ばるぼら:それは作詞家のせいでは?
四日市:最初の歌詞にはないらしいですよ。渡辺宙明が入れて、後から歌詞カードに書き加えるとか。
ばるぼら:そうなんだ。彼らの生み出したヒーロー主題歌の定型ってのはどういうものなんでしょう?
四日市:定型、記号となったのはむしろ水木一郎やささきいさおの声と歌い方ではないでしょうか。低いトーン、悠然と落ち着いた歌い方。そして先ほどの歌詞の主観の変化が後に、熱く叫んぶことでなんとなく強くなるニューウェーブ、景山ヒロノブの登場に備えるのではないでしょうか。
ばるぼら:たしかに記号的かつ古典的。聴いてすぐアニソンっぽいと感じる。たまにテレビでやるような“懐かしいアニソン”企画でよく流れてるイメージ。70年代に入るとオールナイトニッポンで「ナツマン(懐かしいテレビマンガの主題歌)」コーナーができて、ラジオ大阪でも「ヒットでヒットパチョンといこう」に「ヤングナツメロ・コーナー」というのでアニメや特撮の主題歌を流すようになる。この流れで1971年にキングレコードが『懐かしいテレビ・ラジオ人気番組主題歌集』を出すんだけど、これって40年近くずっと懐かしがってるってことだよね。ようは実際に番組を観てたかは関係なく、「その時代に生まれたアニソンの定型」に時代を感じてるんだろうな。
ばるぼら:70年代末から80年代へはどういう変化が?
四日市:タイアップによって歌謡曲が流入してきたこと、『機動戦士ガンダム』や『うる星やつら』によってアニメが子供だけのものではなくなった80年代から、若者、青少年の耳が意識され始める。『少年ジャンプ』の発行部数が300万部を超えてアラレちゃんこと『Dr.スランプ』や『3年奇面組』、『キャッツ・アイ』、『ウイングマン』、『きまぐれオレンジ☆ロード』など子供でも大人でもない、広く若者に向けた漫画が連載されて浸透していた頃で、今挙げたのは全てアニメ化されていますね。
ばるぼら:アニメブームがこの頃ですよね。雑誌がどんどん創刊して、作品数も増える。『月刊OUT』創刊号は『宝島』を意識したようなサブカルチャー誌なんだけど、2号(1977年)でヤマトを取り上げたら当たった。
四日市:その翌年に徳間書店が『アニメージュ』を創刊、1979年に『ジ・アニメ』、1981年には『アニメディア』など80年代前半にはアニメ雑誌がごちゃごちゃと沸いてでてきたわけですね。
ばるぼら:創刊号が『ザ・テレビジョン』にそっくりの『Newtype』は意外と遅めの1985年創刊。『アニメージュ』は毎年アニソントップ10みたいな企画やってるよね。そのくらい時期にアニメっていうのが一つのカルチャーとして認識されたと。
四日市:80年代初頭くらい。リバイバルブームの頃ですかね、『鉄人28号(新)』とか『鉄腕アトム(新)』とか『怪物くん(新)』とか(新)ブーム。リバイバルブームってことは時代が一週したんでしょう、まさにヒーローの時代から美少女キャラの時代へ移っていく真っ直中。と言えばこの頃はやっぱり『うる星やつら』の「ラムのラブソング」かな。
ばるぼら:それタイトルにだまされるけどアニメ関係の単語が出てこないんだよね。でもあのテクノっぽい音を聴くと、もはや『うる星やつら』しか思いだせない記名性の高さ。キャラが電気ビリビリ=エレポップ、という単純な連想だけど、アニメのタイトルや必殺技を連呼しなくても、音と映像がピッタリあってる気がします。
四日市:それは大いにある。いわゆる“熱い”アニメの主題歌を歌うJAM Projectがマッシブなハードロックやメタルに傾倒していくのにもうかがえますね。音楽ジャンルがアニメを表現する。
ばるぼら:途中でラテンになるのも、ラムのビキニスタイルの格好のせいじゃないかと思う。言葉じゃなくて、音でアニメの記号を当てはめてる曲。
四日市:あー、ラムはうる星の象徴ですからね。原作のあるアニメはあらかじめ作品に対するイメージを固められるのが強いかも。
ばるぼら:テクノポップ史で見ると安西史孝のレコードデビュー作で、のちホルガーヒラーと結婚(のち離婚)する小林ミミのポリフォニック・シンセが特徴的な曲で、ってことになりますが、むしろ生音メインではないアニソンってこれが初めてじゃないの?という所が注目点かな。シンセ音っていうのは効果音であってメインじゃなかった。
四日市:逆にシンセ音がSEとして使われていた事から、シンセで楽曲を作ることがSFのリアリティを深めるのかもしれませんね。
ばるぼら:でもヤマトも999もSFだけどシンセ中心じゃなかったね。
四日市:それらはSFというよりも、宇宙が舞台ではありますがモチーフは戦艦ヤマトだし、銀河鉄道は宇宙というフロンティアへの冒険の旅ということであれはあれで。
ばるぼら:メインはあくまで人間ドラマか。
四日市:だいたい宇宙戦艦ヤマトでピコピコ言われても。大艦巨砲にはあの重厚なコーラスとオーケストラですよ。SF要素はささきいさおが歌うバックに入ってる神秘的な女性コーラスが補完しています。
ばるぼら:そういう過去を経て、色々新しかったのが『うる星やつら』だということでいいのかしら。『うる星やつら』はSEも全部シンセ音だよね。
四日市:SFを表すシンセサイザー音が、同時に美少女アニメでもあるうる星に関連づけられたというのは大きそう。
ばるぼら:さすがオタクの象徴的作品……。
■キャラクターとアイドルの同化戦略
四日市:この頃は他にも『超時空要塞マクロス』(1982年)などがあります。
ばるぼら:マクロスは作品内にアイドルが出てきたのが象徴的ですね。作中アイドルというと思いつくのが、うる星を作ってたスタジオぴえろ制作『魔法の天使クリィミーマミ』(1983年)。OP曲「デリケートに好きして」を歌ってる太田貴子はオーディション番組『スター誕生!』で抜擢されたアイドル。魔法少女シリーズはそういう設定が多い。
四日市:1985年に『ハイスクール!奇面組』の主題歌をおニャン子クラブの「うしろゆびさされ組」が歌うわけですが、この主題歌はとてもいいですね。「すれ違うたび、心臓が止まる」ってダブルミーニングじゃないですか。
ばるぼら:どういうミーニング?
四日市:あまりのブサイクに心臓が止まる。
ばるぼら:それはない。
四日市:奇面組の人気とおニャン子の人気がよくわからないんですが。
ばるぼら:いま手元にないから記憶あやふやだけど、『ハイスクール!奇面組』の単行本には話の合間に投稿ハガキとか私設ファンクラブの会報表紙を載せてなかったっけ、イラストの。ああいうノリはオタ文化っぽいなと当時から思ってた。
四日市:私設ファンクラブってのはアイドルオタの文化でもありますね。おニャン子ってこの頃はもうすごい人気だったんですか?
ばるぼら:超すごかった。ピークじゃないかな?
四日市:タイアップをする必要もないくらい。
ばるぼら:奇面組とのタイアップは、漫画のヒロインが2人(河川唯・宇留千絵)いて、うしろゆびさされ組の2人(高井麻巳子・岩井由紀子)とイメージが重なるってことだったはず。漫画やアニメに出てくるキャラクターをアイドル視する文化の流れですね。
四日市:リン・ミンメイの「0-G LOVE」とか、クリィミーマミの「デリケートに好きして」、『アイドル伝説えり子』は主人公の名前も田村えり子なんですが、作中でも「アイドルが歌っている歌」として挿入されますし、曲もすごくアイドルソングっぽい。よくできてる。これらの作品と奇面組の何が違うかって、美少女ではあるけれどもヒロインは決してアイドルではないところ。そしてそのタイアップが「高嶺の花」な偶像としてのアイドルではなく、個々人は同じクラスにいそうな、しかし群体としては「おニャン子クラブ」というアイドルグループであるところですかね。
ばるぼら:他にアイドルが関わってるアニメはありますかね。
四日市:ロボットアニメ方面では1985年の『機動戦士Zガンダム』でも元祖バラドルの森口博子がデビュー。『超獣機神ダンクーガ』ではC.C.ガールズの藤原理恵、こちらは声優も勤めていますが黒歴史っぽいですね。子供向けだと1986年の『あんみつ姫』がそれこそおニャン子クラブ、世界名作劇場の『愛少女ポリアンナ物語』では工藤夕貴が歌っています。この頃がアイドルタイアップの頂点。アイドルの在り方、愛し方がアニメに取り込まれて、アイドルソングっぽさがアニソンっぽさの要素になっていた時代、かな。
ばるぼら:結論で恣意的に羅列するのは悪い社会学ですね。
四日市:あなたが聞いたんです!
■アニメの衰退? 視聴者の変化
四日市:1983年を絶頂に1986年くらいまでアニメの本数が減り続けることによってアニメブーム沈静化と呼ばれるのですが、かといってその頃にアニソンがつまらなくなったとも思わないんですけどね。
ばるぼら:アニメブーム鎮静化はなぜ? アタリショックみたいな?
四日市:本数が増えたこと、質の低迷化によってファンが離れた、と知識の上では知ってますけども、やっぱりつまらなかったんですかね。1985年の『機動戦士Zガンダム』とか後追いで見た自分としてはおもしろかったんですが、ガンダムの次がZガンダムで、ガンダムファンは大変にがっかりした、というのはつい先日のオタク大賞Rでリアルタイム世代が頷いていました。でも1984年には『北斗の拳』が、1985年には『タッチ』があり、さほど低迷しているようには見えないんですが、ロボットファンと美少女ファンでは認識が変わるような気がしますね。
ばるぼら:80年代後半は『CITY HUNTER』『めぞん一刻』『聖闘士星矢』もあるから、そんな廃れてたとも思わないんだけどな。『ドラゴンボール』のアニメもはじまりますよ。80年代後半はロボットアニメと魔法少女モノが停滞するから、そういう意味の冬の時代な気がする。
四日市:1987年がサンライズ制作のロボットシリーズ終了の年。最後の作品は『機甲戦記ドラグナー』ですね。ようするにオタクからパンピーへ、という時代なのか。
ばるぼら:オタクはこの辺りからOVAに行くんじゃないかしらん。
四日市:そうです。『機動警察パトレイバー』とか。
ばるぼら:『トップをねらえ!』とか。
四日市:『破邪大星ダンガイオー』とか『冥王計画ゼオライマー』とか『ジャイアントロボ』とか『機甲猟兵メロウリンク』とか『流星機ガクセイバー』とか。
ばるぼら:知らんがな。
四日市:OVA雑誌もガンガン出てはガンガン消えるんですけどね。
ばるぼら:OVA雑誌なんかあるの?
四日市:あります! 『アニメV』とか『グロービアン』とか!
ばるぼら:あ、あれOVA雑誌だったんだ。はじめてシリウス。
四日市:いいね、そのトップをねらえネタ!
■タイアップ前夜
ばるぼら:80年代後半のアニソンというとどうしても『CITY HUNTER』関係が浮かぶ。
四日市:1987年、小室哲哉在籍のTM NETWORK、みんな大好き「Get Wild」ですね。
ばるぼら:これはエンディングテーマが重要なんですね。アニメのエンディングシーンにかぶるように曲が流れる設計になってるから。曲が流れて→絵が止まって→引きになって→歌とEDって流れ。この演出をするためにエンディングに使われてる曲はイントロが長い。
四日市:アニメに演出のためにそうしたのかな?
ばるぼら:小室哲哉がそう作曲したと発言してたから、他の曲もそうだと思われる。岡村靖幸の「Super Girl」もイントロが長い。
四日市:TMや岡村ちゃんってこの頃はまだ売り出されるような新人?
ばるぼら:TMはこれで本格的ブレイク。岡村ちゃんもこれでヒットじゃなかったかな? 二組とも先に渡辺美里に楽曲提供してて、それは人気あったんだけど、単体アーティストとしてはいまいちだった時期。
ばるぼら:どこがアニソンなの?って言われるけど、視聴者層とリスナー層は案外重なってたってことですね。
四日市:どこがアニソンなの? です。ですがこのむやみやたらなタイアップが逆に、ヒーロー主題歌的な様式、アイドルソング的な様式を壊して「こういう曲がアニソンでもいい」という価値観を作り出したように思います。
ばるぼら:この頃の他のアニメは?
四日市:『北斗の拳』『きまぐれオレンジロード』『レモンエンジェル』『ついでにとんちんかん』……ジャンプアニメばっかりですね。『ミスター味っ子』もありますか。おもしろいところでは『マシンロボ ぶっちぎりバトルハッカーズ』のOPがヒップホップなんですよ。1987年。アニソンのヒップホップ導入は割と早くて、最初は1986年の『戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー2010』のED、広瀬翔の「WHAT'S YOU」です。いとうせいこうの「業界くん物語」が1985年、「建設的」が1986年だからかなり早くないですか?
ばるぼら:アラレちゃんDiscoの「Dancin' Doll」もラップがあるよ!
四日市:あれは何年?
ばるぼら:1982年。
四日市:それ、佐野元春より早くないですか?
ばるぼら:山田邦子「邦子のかわい子ぶりっ子」とスネークマン・ショーの「咲坂と桃内のごきげんいかが1・2・3」が1981年だから、その次くらいに位置づけて欲しい(笑)。スネークマン・ショーは『ひぐらしのなく頃に』のキャラソン(「圭一・大石の噂の事件簿ABC」)がパロってたよね。ラップのアニソンって他に何かある? のはらしんのすけ「ホリデーラップップ」(1995年)くらい?
四日市:『交響詩篇エウレカセブン』のHOME MADE 家族とか、マキシマム・ザ・ホルモンもラップと言っていいかなあ? ラップというかヒップホップって、持ってる世界観が強固じゃないですか。アニソンとして使うにはジャンルの持つ自己主張が強すぎる。だからあくまでもアニソンの記号として使うためにはもう少し消費されてから。HALCALIなどを待つ必要があったんじゃないかと。
■アーティストソング=アニソンの時代
ばるぼら:じゃあ90年代の話に入りますか。『らんま1/2』や『美少女戦士セーラームーン』みたいに作品のイメージにあった曲調のアニソンがある一方で、タイアップ曲が増加することでアニメファンが嫌がってた印象がある。田村直美の「ゆずれない願い」みたいにミリオンヒットになった曲もありますね。
四日市:『横山光輝 三国志』の「時の河」が好きなんですけど。FENCE OF DEFENSE。なんか三国志っぽくなくていいなって。
ばるぼら:(聴く)いいんじゃないですか。B'zの初期みたいなデジタルビートとハードロックの融合って感じ。これは何年?
四日市:1991年。アニメと関係ないように聴こえるけど、サビの「流れなーがーれーてー」ってところにちょっと和っぽさが。
ばるぼら:あるある。でも三国志ファンはどう思ったんでしょうね……。
四日市:さあ……。横光の三国志にこれをもってきたスタンスを誉めたい。EDも、2期もFENCE OF DEFENSEですよ。
ばるぼら:その起用って好評だったからなのかなあ。Epic/Sonyはアニメ主題歌でヒットさせる方法論が『CITY HUNTER』でできたから、別のアニメでも、っていうことでは。
四日市:いちおう19時半からのゴールデンですからね。
ばるぼら:『CITY HUNTER』とほぼ変わらないじゃん。
四日市:あ、最初のEDは遊佐未森だ。当時のこの時間帯、その手の音楽が流れまくってたんですかね。
ばるぼら:6時〜7時台はアニメばっかりだったからねこの頃。この流れだと『YAWARA!』にも触れたい。
四日市:ミーラクルガール!
ばるぼら:永井真理子の「ミラクル・ガール」(1989年)と「YOU AND I」(1992年)、原由子の「負けるな女の子」辺りが有名かな。
四日市:今井美樹もやってる。
ばるぼら:「YOU AND I」って、GAOの「サヨナラ」に似てると思うんですよ。強く歌いあげる感じが。
四日市:強い女の子、というアニメですね。
ばるぼら:1992年って渋谷系前夜だし、ミスチルとかスピッツ前夜でもあって、洋楽っぽさのない、ヒットチャートのメインが歌謡曲だった最後の時期だと思うの。永井真理子はこの後人気落とすしね。「YOU AND I」はメロディの作り方とリズムの取り方が、すごく日本っぽい曲調だなと思うんだよね、説明が難しいけど。この日本っぽさが、「YAWARA!」の日本代表選手という物語と、強い女の子ってイメージを表しているように聴こえるんですよ。1993年以降は歌謡曲はパロディにしかならないから。
四日市:1993年以降の洋楽っぽい有名曲をなんか挙げてください。
ばるぼら:なんだろ、アニソンだと「ツヨシしっかりしなさい」のED「その気にさせないで」(1994年)がブラック・ミュージックぽい。でも別に有名じゃないな(笑)。アニソン以外でいいなら、UAの「情熱」(1996年)やBonnie Pinkの「Heaven's Kitchen」(1997年)みたいなイメージ。
四日市:Bonnie Pinkは1997年の『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』でEDやってますね。
ばるぼら:あくまで洋楽そのものじゃなくて“洋楽っぽさ”なのがポイントなんだけど……有名なのあった。エヴァの「残酷な天使のテーゼ」や「魂のルフラン」は日本っぽい。でも劇場版の鷺巣詩郎が作った「Thanatos」は洋楽っぽい。分かります? 日本人が作る“洋楽っぽい”曲としてはFaye Wongの「Eyes On Me」(1999年)も近い。
四日市:懐かしい! FFですね。
ばるぼら:エヴァの曲とあれは自分の中でつながってる。作曲者とかメディアも全然違うけど、求めてるものが一緒だと思う。洋楽っぽいんだけど、あくまで日本人好みに仕上げてある職人的器用さ。これは菅野よう子の仕事にも感じることです。って話が飛びすぎた。時間を戻さないと!
■J-popの流入と第三次声優ブーム
四日市:これまでずっとジャンプアニメばかりになってしまっているので、ここらで『スレイヤーズ』とか取り上げましょう。オリコンに入ったのは『スレイヤーズNEXT』の「Give a reason」ですね。
ばるぼら:これって曲調は露骨に当時のヒットチャートを研究してるし、林原めぐみが歌ってなかったら普通のJ-POPでしょう。つまりタイアップ曲が批判されたポイントは、曲調じゃなくて人脈だったことがわかりますよね。イントロのtrfフェイク感は何度聴いても笑ってしまう。
四日市:この手の林原の曲を聴くとすごく懐かしさを感じるんですけど、アニソンを含んだ小室的なコード進行を参照しての懐かしさなんですかね。
ばるぼら:コード進行だと思いますよ、90年代の匂いがすごくする進行だもん。YOSHIKIもB'zもよく使ってた。調は曲によるが基本はAm→F→G→C(or Am)。これが90年代の記憶として染み付いてる。
四日市:『爆れつハンター』に『セイバーマリオネットJ』に……、夕方6時台はすごく林原でした。この頃の奥井雅美、林原めぐみの記憶が水樹奈々に懐かしさを感じさせる。プロデューサーの矢吹俊郎のせいだな。
ばるぼら:ワタシでも知ってるくらいだから林原めぐみは90年代を代表する声優ですよね?
四日市:そうですね。他には國府田マリ子、三石琴乃、宮村優子、横山智佐、桑島法子、最近「ラブプラス」で復帰した丹下桜などなど。
ばるぼら:國府田マリ子は結構名前を見た気がする。でも印象が強いのは林原だな。
四日市:椎名へきる。
ばるぼら:おお、それも有名じゃないですか。
四日市:でも主題歌は?というとほとんどやってなくて。
ばるぼら:そうなのか。
四日市:だから特別に声優オタクではないアニオタからすると、主題歌をガンガンやってる林原が記憶に残ってるんです。
ばるぼら:声優としてCDは出してても、主題歌は歌ってない場合が多いと。
四日市:声優が主題歌を歌いまくるのってまだちょっと先の話になるんですよ。声優の課外活動はかなり増えているんです。草尾毅や佐々木望など『鎧伝サムライトルーパー』の主演声優のユニットN.G.FIVEが1989年に全国ツアーを敢行したり。サムライトルーパー自体が『聖闘士星矢』の人気を受けて作られたもので、女性ファンが中心ですね。
ばるぼら:トルーパーは映画館で興奮して失神した女子がいたという伝説だけ知ってます。
四日市:男性ファンの方では1993年のOVA『アイドル防衛隊ハミングバード』。三石琴乃、玉川紗己子、天野由梨、草地章江、椎名へきるのユニットが九段下会館で行った「熱狂の"裸・Eve"」は第三次声優ブームの貴重なドキュメンタリーです。凄いです。
ばるぼら:(ライブ音源聴く)これは……臨場感がありすぎてイヤだ……。
四日市:他にはキャラクターソングや、ラジオ、林原めぐみ「ハートフルステーション」とか「TOKYOブギーナイト」とか國府田マリ子「ゲームミュージアム」とか緒方恵美の「銀河にほえろ」とか。この頃の声優ラジオ、いわゆるアニラジですか、の好評を経て、現在まで継続する深夜アニメ枠が出来る。あとコンシューマーゲームが高性能になってゲームが声優の重要な仕事の一つになったのも挙げられるかな。スパロボはこの頃もう音声ついてたのかな?
ばるぼら:声優って普通の音楽誌ではほとんど取り上げないから、自分から専門誌を読んだり、ラジオ番組をチェックしないとダメだったでしょ。だからワタシは全然わからないんですよ。
■来歴不明のアーティスト? TWO-MIXと高山みなみ
四日市:というわけで、そんな時代のアニメ主題歌を担当した声優ユニット、TWO-MIX。
ばるぼら:TWO-MIXもヒットしましたよね。なぜ『名探偵コナン』にこの曲?とは思ったけど。コナンの漫画を読み返したらTWO-MIXが出てきてて、仲いいなと思った。
四日市:TWO-MIXというと俺は『機動戦士ガンダムW』ですね。これSEがすごくいい効果になっていて、効果音なしだと物足りなさ過ぎるんですよ。
ばるぼら:ああ、ズギューンって音がすでに曲の一部になってるのね。
四日市:ガンダムのSEは気持ちいいってのもあるんですが。音源で聞くと物足りない。これも林原の流れのハイエナジーですね。
ばるぼら:んーまあJ-POPですね。ユーロビートなどを経た。
四日市:J-POPです。
ばるぼら:TWO-MIXはワタシにはよくわからないグループだったなあ。いつのまにかチャートに入ってきてて出自が理解できなかった。デビューは『ガンダムW』主題歌なのか。
四日市:テレビ出演などはほとんどありませんからね。
ばるぼら:アニメファンの盛り上がりがワタシには全然伝わってなくて、でもチャートアクションをするほど内需が成立してたという。さっきの林原のNEXTの曲もそうだけど、90年代中盤はそういうのがポツポツ出てきた時期。この頃はオリコンのランキングって毎週チェックしてたんだけど謎の存在でした。
四日市:TWO-MIXを声優にするのは気が引けるのは、たぶんTWO-MIXが売れていた頃、ヴォーカルが声優だってことはたぶんアニメ見てた人もほとんど知らなかった。声優が歌っているんだけど、声優という要素なしでオリコンに昇っていた。
ばるぼら:まさに今知ったよ! 有名な人?
四日市:いや……コナン君ですよ……。
ばるぼら:あ、へーー……。
四日市:「JUST COMMUNICATION」は40万枚。俺もなんかアニメをよくやっているな、Cyber Nation Network的なもんかな、くらいの認識でした。
ばるぼら:この頃って『スレイヤーズ』や『ガンダムW』みたいな、今だと確実に深夜アニメなラインナップが、まだ夕方5時6時にやってたのが時代を感じさせますね。アニソン的にはどういう転換期なんでしょう、今言ったようなことでいいんでしょうか。
四日市:林原主導によるハイエナジー期、わかりやすくアップビート、力強いサビの時代が続きますね。
ばるぼら:小室とビーイングの折衷みたいな時期ですよね?
四日市:歌詞は壮大な物語を感じさせるよりは刹那的になっていく気がします。
ばるぼら:刹那的は小室の歌詞の重要な要素ですね。なんでも小室に結びつけてますねワタシ。やめよう。
四日市:この頃のJ-POPに小室は欠かせない存在なのだから、結びつけてもいいと思うんです。この時期からアニソンはJ-POPに寄り添っていたんですから。
■斜陽の音楽業界とタイアップの沈静化、そしてゼロ年代へ
四日市:90年代末期、オタクとして音楽が熱かったのはエロゲーだと思うんです。この頃に蒔かれた種が、ゼロ年代で開花していく。
ばるぼら:例えば?
四日市:1998年にI'veが活動を開始、I've自体の活動はもちろん、1999年に発売した『kanon』の「Last regrets」 「風の辿り着く場所」は未だにオタクアンセム。『MAID iN HEAVEN』の主題歌「メイドさんロックンロール」の「やっちゃったゼ☆」なセンスが電波ソングから萌え音楽へ広げた影響は大きい。エロゲーの外でも同人サークルIOSYSの発足が98年、97年には「もあいはるこ」がシングルを発表、秋葉原の神話、桃井はるこですね。
ばるぼら:じゃあ肝心のテレビのアニソンの方は?
四日市:OVAですが『MAZE★爆熱時空』(1997年)が聖飢魔II、『EAT-MAN』(1998年)が筋肉少女帯をフィーチャー。『金田一少年の事件簿』はLaputa、COLOR、Plastic Tree、CASCADE、PENICILLINなどのビジュアル系を起用しています。他にも鈴木紗理奈やともさかりえ、広末涼子も。でもタイアップにも低調を感じますね。当時よく覚えているのが『中華一番!』で大黒摩季だのZARDだのDEENだの……。マシュランボー並とは言わないけど、そんな人たちを使う必要ないじゃないですか。やめてくださいよ。
ばるぼら:ワタシに言われても。でもゴールデンタイムだし、それこそ『スラムダンク』みたいなもんじゃないの? “制作者側が想定したターゲット層”=“大黒摩季やZARDやDEENを好きな層”、と判断してのタイアップということでは。アニオタは嫌がっても、別にメインの視聴者は気にしてなかった、という図式があったんじゃないのかな。
四日市:タイアップ批判と言うよりももったいない、という。『ミスター味っ子』以上にバカで好きでしたけど、バカアニメの一つであってゴールデンで人気を取れるようなものか、という感覚。
ばるぼら:バカアニメだのなんだのって楽しみ方はオタクしかしないから!
四日市:俺がオタクな感覚を身につけてきていただけか。で、他にはアイドル的なものだと1998年の『スーパードール★リカちゃん』のOP、『Rooky』の「ねっ」とか。『魔術士オーフェン』でタンポポやメロン記念日が歌っていますね。あとシャ乱Q。末期になるとタイアップって新人を売り出すよりも、メジャーだったアーティストが“堕ちてきた”って印象を持っていたんですけど。
ばるぼら:SIAM SHADEの「1/3の純情な感情」(1997年)はアニメタイアップがブレイクにつながった例だったけど、その後にそうやってヒットした人を思いだせないな。90年代後半のアニソンといえばなんですかね? ポケモンとだんご三兄弟?
四日市:おおよそはJ-POPのセンスとタイアップの流れが継続という形ですが、『おジャ魔女どれみ』が「おジャ魔女カーニバル!!」を出している。声優合唱系とも言えるんですが、ひとつ前の『夢のクレヨン王国』は子供の合唱を加えた子供向けアニメの様式を守ってきた。おジャ魔女は、きちんと子供向けである範囲からはみでずに声優合唱やアイドル的なポップ感覚を取り入れている曲だと思うんです。 作曲の池毅はかなりの古参で『ドラゴンボール』からやってる。『ママレードボーイ』から『かりあげクン』まで、毎年毎年休まずに多彩なジャンルのアニソンやCMソングを手懸けている。あ、作曲家の話をするなら菅野よう子も取り上げなきゃいけないのかな。
ばるぼら:菅野よう子だと『カウボーイビバップ』関係より坂本真綾が印象にあるかな。『カードキャプターさくら』の「プラチナ」は途中で変な転調をするから耳に残った。
四日市:タイアップによって大量に流入してきたJ-POPもあれば、アニソンはアニソンでJ-POPを研究した曲作りをしていたし、アイドル的なものも生き残っていたし、ここら辺からビートマニアの流行とダンスミュージックの導入、エロゲー方面の「それやっちゃっていいんですか?」なものにもゴーサインを出す、極めてインディーズな感覚が育ってくるんですね。録音の粗いものがいい、という悪しきインディーズ・クオリティの話ではなくて、内容として。
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ばるぼら × 四日市対談『ヱヴァンゲリヲン新劇場版 : 破』
【前篇】>>>【後篇】
ばるぼら ネットワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのイ ンターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』など。なんともいえないミニコミを制作中。
アニソンといえばアニメのグッズとして購買する。制作会社や声優のためにお布施として購買する。どの程度の効果があるのかわからないがチャートを操作するために集団で大量に購買する運動などがある。最近ではオリコン10位以内のほとんどがアニソンになってしまったのも記憶に新しい。メジャー音楽業界が斜陽、というのはもちろんあるとは思うが、アニソンが今に至るまで支持され続けているのは、アニメ・ファンの気が狂っている、だけでは説明がつかない。アニソンも常に変化を続けているのだ。ではアニソンの変化とは? 『鉄腕アトム』から「晴れハレユカイ」へ至る過程で何が起きていたのだろうか? アニメが数多ある若者カルチャーの一つになった時代、J-POPの流行とタイアップの時代、そして声優主題歌の時代。おおざっぱな区分とは承知の上で、アニソンがその時々において常にアニソンらしさを更新しながら現在の形へ至った過程を読み取っていこう。
■みんなアニソン聴いてるの?
四日市:私はアニメオタクなので当然聴きますが、ばるぼらさんはアニソンって聴きますか?
ばるぼら:iTunesのトップ25が全部アニソンになってるくらいは聴きます。
四日市:いつ頃の?
ばるぼら:80年代から今年まで。基本はレコード発掘と同じで、再評価されてないものを探して聴いてました。でも最近は単に懐かしいものを聴くようになりましたけど。
四日市:俺のiTunesのトップ25もアニソンだ。あまり聞いてるつもりなかったんだけどな……。
ばるぼら:短いからくり返し聴きやすいだけなんだけどね。30分弱あるX JAPAN『ART OF LIFE』がトップ25にくることはなかなかない。
四日市:それはありますね。アニメのオープニング映像に合わせているから1分30秒しかない。カラオケでも1番で飛ばしちゃう人もいますし、放送で流れない部分はいらない。と、言うことは主にYouTubeで聞いて、気に入った楽曲を購入するスタイルですね。
ばるぼら:はい、放送用は短く編集されてて、オリジナル版はイントロが長いことがあるけど、逆に違和感を覚える。
四日市:ちなみに今のトップ1は? 俺のは『狼と香辛料』の「旅の途中」だけど、極端に回数が多いのでリピート再生したまま寝てしまったんだろうな。飛ばして、『天元突破グレンラガン』の「空色デイズ」ですね。
ばるぼら:1位は……あ、ごめん、アニメじゃないや。『アイドルマスター』(ゲーム)の「IDOLM@STER」って曲でした。
四日市:それもアニソンと呼ばれるのが最近の気分ですよね。
ばるぼら:え、これもアニソン?
四日市:ゲーム、ラジオ、ニコニコ動画、同人音楽から声優ソングからアニメ主題歌を担当することの多いアーティストの音源まで、おおむねオタクに支持されているであろう音楽はすべてアニソン。
ばるぼら:アニメっぽい画/映像についてる音ということですか。
四日市:映像の爽快感が思い出されるのはアニソンの良さだと思うんですよね。ただでさえ1クール(最近は飛ばしてる人も多いとは思いますが)、週一でPVを見る音楽なんてそうそうないわけですし。
ばるぼら:アニメのOP、EDはアニソンのPVだと。
四日市:アニソンを聴きたいがためにアニメを見るって見方もオタクにはあったりしますが。
ばるぼら:好きな曲のPVを見るために音楽番組を見るような?
四日市:ですかね……釘宮病的な症例も現在では見受けられますが、音や声の気持ちよさはあると思います。ロックを好きな人が16ビートやギターのディストーションに反応するような、何かしらの様式がデータベースを刺激するのかもしれない。
■TVアニメ黎明期のアニソンたち
ばるぼら:アニソンの様式とはつまり、「アニソンっぽいと思う曲」にはなんらかの共通点があるということですよね?
四日市:そうですね。アニソンの型ってのは蓄積されると思うんです。テレビのインフラが完全にしかれて三種の神器なんて呼ばれるようになって以降、アニメを見たことがない、という人はほとんどいないと思うんですよこの国は。多かれ少なかれアニメソングというのは誰もが聞いている。アニメソングのデータベースは持ち合わせている。
ばるぼら:そのデータベースは人によって違いますかね? 世代によって?
四日市:世代によって変わるかな? 例えば『CITY HUNTER』の主題歌であるTM NETWORKの「Get Wild」はアニソンなのかTMの曲なのか。これはアニメが好きかTMが好きかによって変わると思うんです。でも『機動戦士ガンダム』は歌詞にタイトルが出てくるから……声優が歌っているだけでアニメに使われていない曲や、さきほどの「IDOLM@STER」はゲームですがアニソンっぽい、と感じてしまう。つまり時代ごとに「アニソン」というジャンルの記号が構築されていったのではないか、と考えて、まずはJ-POPなんて言葉の生まれる以前まで戻ります。1963年のアトムとか、合唱曲ばかりですよね。コロムビア少年合唱団、みすず児童合唱団、クラウン混声合唱団とか。
ばるぼら:註釈入れると、『鉄腕アトム』は1963年1月1日にはじまった日本最初のテレビアニメシリーズ。当時の日本では基本的に劇場用アニメしかなかったけど、海外のテレビアニメシリーズみたいなのを日本でもやろうと手塚治虫が始めた。テレビアニメ(テレビまんが)の主題歌をソノシートで発売すると異常に売れるので、気をよくしたレコード会社が次々参入してくるという流れが60年代ですね。最初のヒットは「オバQ音頭」(1966年)。一説には200万枚だけど誰が集計したのか謎。
四日市:現代まで繋がる音頭の元祖ですね。
ばるぼら:なんで音頭アレンジなのか知らないけど、お祭りが子供の娯楽として主流だったのかな?
四日市:1963年の『狼少年ケン』のEDがチャチャチャで、1966年の『ウルトラQ』はマーチだし、同じく1966年のサリーちゃんがマンボで、今に続く子供向け番組での人気ジャンルががっつり出てくる時代ですね。というか当時の流行か?
ばるぼら:歌謡史的に見ると毎年ニューリズムが登場してはそれで曲を作ってる時代だからかねえ。さっきのおばQも音頭以外に「おばQマーチ」があるしね。あと「オバケのP子」「僕は正太だい」というキャラソンが既に!
四日市:OP、ED、テーマソング、キャラソンなんてアニメから派生するモデルはこの頃既に完成していたと。
ばるぼら:当時どれだけアニソンが売れてたかを示す変な例として『宇宙星人スーパーX』がある。東芝なんだけど、レコードだけ先に作って、あとから漫画誌やアニメ製作を売り込んだもの。ジャケは謎の特撮作品が描かれてる。
四日市:アニメは作られたんですか?
ばるぼら:目論みは外れて結局作られてない! さらに1967年にはキングレコードが『少年マガジン』とタイアップして、アニメじゃなくて漫画の主題歌集(『少年マガジン・マンガ大行進』)を作ってる。ゲゲゲの鬼太郎の主題歌はそっちが先。漫画やアニメに対して「なんでもいいから売れ!」ってムードが当時あったんだと思う。
■ヒーローアニメ黄金期、主観を築いた70年代
四日市:だいぶ話がズレたような気がするけど、その頃のヒーローアニメは子供が合唱してヒーローを讃える“僕らのヒーロー”ですよね。
ばるぼら:ふむ、テレビの前でヒーローに希望を託す感じかな。
四日市:超人ですね。超人にはなれないから、僕らのヒーローがんばれ!なんですね。それが72年に『マジンガーZ』が来て、巨大なロボットに乗り込む形になる。まあどれもこれも超人ではあるんですが、そもそもの超人ではない。
ばるぼら:一緒に戦う設定になる。
四日市:そう、すごく強いものが一緒に戦う。でも1974年の『グレートマジンガー』ではついに「俺は涙を流さない」で、歌がロボット目線になる。これはもう、僕らのヒーローから、僕がヒーロー。ロボットに乗り込むごっこ遊びなんてしませんもんね、自分がロボット。だからこそ強く強く、あるいは熱い魂で、って感じになるんじゃないでしょうか。
ばるぼら:それ面白いね。そこが70年代ヒーローものの特徴ということですか。
四日市:同時に『仮面ライダー』もあり、で。テレビの中のヒーローに興奮するスタイルが、テレビの中に感情移入する形はテレビゲームも相まって未だ継続中かなーと。今の視聴者がスーパーロボットのアニメを見て感情移入しているとは思えませんが、ロボットアニメは様式美の世界なのでその頃にできた様式を継続している形でしょうか。
ばるぼら:ヒーロー主題歌の代表的音楽家というと?
四日市:前述の『マジンガーZ』の渡辺宙明と、菊池俊輔。菊池の代表曲は特撮になっちゃうんですが『仮面ライダー』を挙げておかなければならない。戦隊、ライダーなんですよね。
ばるぼら:渡辺・菊池ともにオールドスクールなアニソンにしか聴こえなくて、ワタシはそこまでピンとこなかったりするんだけどね。しかし子供心を刺激するという意味ではよくわかってるのか。
「新造人間キャシャーン全曲集」 コロムビアゆりかご会,ささきいさお,影山ヒロノブ,C.A.S.他 発売元=コロムビアミュージックエンタテインメント株式会社 / コロムビア 発売日=2004年7月21日
四日市:菊池俊輔の『仮面ライダー』とか『新造人間キャシャーン』とか、哀愁を含んだ孤独のヒーローといった感じがしませんか? 渡辺宙明は、マジンガーに代表される重厚、巨大、無敵のロボット。すごい力でボッコボコって感じ。 ばるぼら:テンポが速くて高揚感を煽ってる。
四日市:あとあれ。渡辺宙明は、よくわからないけどすごくあってる擬音をいれる。「ダダッダー!」とか「ガンガンガガン!」
ばるぼら:それは作詞家のせいでは?
四日市:最初の歌詞にはないらしいですよ。渡辺宙明が入れて、後から歌詞カードに書き加えるとか。
ばるぼら:そうなんだ。彼らの生み出したヒーロー主題歌の定型ってのはどういうものなんでしょう?
四日市:定型、記号となったのはむしろ水木一郎やささきいさおの声と歌い方ではないでしょうか。低いトーン、悠然と落ち着いた歌い方。そして先ほどの歌詞の主観の変化が後に、熱く叫んぶことでなんとなく強くなるニューウェーブ、景山ヒロノブの登場に備えるのではないでしょうか。
ばるぼら:たしかに記号的かつ古典的。聴いてすぐアニソンっぽいと感じる。たまにテレビでやるような“懐かしいアニソン”企画でよく流れてるイメージ。70年代に入るとオールナイトニッポンで「ナツマン(懐かしいテレビマンガの主題歌)」コーナーができて、ラジオ大阪でも「ヒットでヒットパチョンといこう」に「ヤングナツメロ・コーナー」というのでアニメや特撮の主題歌を流すようになる。この流れで1971年にキングレコードが『懐かしいテレビ・ラジオ人気番組主題歌集』を出すんだけど、これって40年近くずっと懐かしがってるってことだよね。ようは実際に番組を観てたかは関係なく、「その時代に生まれたアニソンの定型」に時代を感じてるんだろうな。
『月刊OUT』6月号 発売=みのり書房 発行=1977年6月1日
『アニメージュ』創刊号 発売=徳間書店 発行=1978年6月10日
『アニメディア』創刊号 発売=学習研究社 発行=1981年7月1日
『月刊ニュータイプ』創刊号 発売=角川書店 発行=1985年4月1日
■テレビアニメの増加、カルチャー化する80年代 ばるぼら:70年代末から80年代へはどういう変化が?
四日市:タイアップによって歌謡曲が流入してきたこと、『機動戦士ガンダム』や『うる星やつら』によってアニメが子供だけのものではなくなった80年代から、若者、青少年の耳が意識され始める。『少年ジャンプ』の発行部数が300万部を超えてアラレちゃんこと『Dr.スランプ』や『3年奇面組』、『キャッツ・アイ』、『ウイングマン』、『きまぐれオレンジ☆ロード』など子供でも大人でもない、広く若者に向けた漫画が連載されて浸透していた頃で、今挙げたのは全てアニメ化されていますね。
ばるぼら:アニメブームがこの頃ですよね。雑誌がどんどん創刊して、作品数も増える。『月刊OUT』創刊号は『宝島』を意識したようなサブカルチャー誌なんだけど、2号(1977年)でヤマトを取り上げたら当たった。
四日市:その翌年に徳間書店が『アニメージュ』を創刊、1979年に『ジ・アニメ』、1981年には『アニメディア』など80年代前半にはアニメ雑誌がごちゃごちゃと沸いてでてきたわけですね。
ばるぼら:創刊号が『ザ・テレビジョン』にそっくりの『Newtype』は意外と遅めの1985年創刊。『アニメージュ』は毎年アニソントップ10みたいな企画やってるよね。そのくらい時期にアニメっていうのが一つのカルチャーとして認識されたと。
四日市:80年代初頭くらい。リバイバルブームの頃ですかね、『鉄人28号(新)』とか『鉄腕アトム(新)』とか『怪物くん(新)』とか(新)ブーム。リバイバルブームってことは時代が一週したんでしょう、まさにヒーローの時代から美少女キャラの時代へ移っていく真っ直中。と言えばこの頃はやっぱり『うる星やつら』の「ラムのラブソング」かな。
ばるぼら:それタイトルにだまされるけどアニメ関係の単語が出てこないんだよね。でもあのテクノっぽい音を聴くと、もはや『うる星やつら』しか思いだせない記名性の高さ。キャラが電気ビリビリ=エレポップ、という単純な連想だけど、アニメのタイトルや必殺技を連呼しなくても、音と映像がピッタリあってる気がします。
四日市:それは大いにある。いわゆる“熱い”アニメの主題歌を歌うJAM Projectがマッシブなハードロックやメタルに傾倒していくのにもうかがえますね。音楽ジャンルがアニメを表現する。
ばるぼら:途中でラテンになるのも、ラムのビキニスタイルの格好のせいじゃないかと思う。言葉じゃなくて、音でアニメの記号を当てはめてる曲。
四日市:あー、ラムはうる星の象徴ですからね。原作のあるアニメはあらかじめ作品に対するイメージを固められるのが強いかも。
ばるぼら:テクノポップ史で見ると安西史孝のレコードデビュー作で、のちホルガーヒラーと結婚(のち離婚)する小林ミミのポリフォニック・シンセが特徴的な曲で、ってことになりますが、むしろ生音メインではないアニソンってこれが初めてじゃないの?という所が注目点かな。シンセ音っていうのは効果音であってメインじゃなかった。
四日市:逆にシンセ音がSEとして使われていた事から、シンセで楽曲を作ることがSFのリアリティを深めるのかもしれませんね。
ばるぼら:でもヤマトも999もSFだけどシンセ中心じゃなかったね。
四日市:それらはSFというよりも、宇宙が舞台ではありますがモチーフは戦艦ヤマトだし、銀河鉄道は宇宙というフロンティアへの冒険の旅ということであれはあれで。
ばるぼら:メインはあくまで人間ドラマか。
四日市:だいたい宇宙戦艦ヤマトでピコピコ言われても。大艦巨砲にはあの重厚なコーラスとオーケストラですよ。SF要素はささきいさおが歌うバックに入ってる神秘的な女性コーラスが補完しています。
ばるぼら:そういう過去を経て、色々新しかったのが『うる星やつら』だということでいいのかしら。『うる星やつら』はSEも全部シンセ音だよね。
四日市:SFを表すシンセサイザー音が、同時に美少女アニメでもあるうる星に関連づけられたというのは大きそう。
ばるぼら:さすがオタクの象徴的作品……。
■キャラクターとアイドルの同化戦略
四日市:この頃は他にも『超時空要塞マクロス』(1982年)などがあります。
ばるぼら:マクロスは作品内にアイドルが出てきたのが象徴的ですね。作中アイドルというと思いつくのが、うる星を作ってたスタジオぴえろ制作『魔法の天使クリィミーマミ』(1983年)。OP曲「デリケートに好きして」を歌ってる太田貴子はオーディション番組『スター誕生!』で抜擢されたアイドル。魔法少女シリーズはそういう設定が多い。
四日市:1985年に『ハイスクール!奇面組』の主題歌をおニャン子クラブの「うしろゆびさされ組」が歌うわけですが、この主題歌はとてもいいですね。「すれ違うたび、心臓が止まる」ってダブルミーニングじゃないですか。
ばるぼら:どういうミーニング?
四日市:あまりのブサイクに心臓が止まる。
ばるぼら:それはない。
四日市:奇面組の人気とおニャン子の人気がよくわからないんですが。
ばるぼら:いま手元にないから記憶あやふやだけど、『ハイスクール!奇面組』の単行本には話の合間に投稿ハガキとか私設ファンクラブの会報表紙を載せてなかったっけ、イラストの。ああいうノリはオタ文化っぽいなと当時から思ってた。
四日市:私設ファンクラブってのはアイドルオタの文化でもありますね。おニャン子ってこの頃はもうすごい人気だったんですか?
ばるぼら:超すごかった。ピークじゃないかな?
四日市:タイアップをする必要もないくらい。
ばるぼら:奇面組とのタイアップは、漫画のヒロインが2人(河川唯・宇留千絵)いて、うしろゆびさされ組の2人(高井麻巳子・岩井由紀子)とイメージが重なるってことだったはず。漫画やアニメに出てくるキャラクターをアイドル視する文化の流れですね。
四日市:リン・ミンメイの「0-G LOVE」とか、クリィミーマミの「デリケートに好きして」、『アイドル伝説えり子』は主人公の名前も田村えり子なんですが、作中でも「アイドルが歌っている歌」として挿入されますし、曲もすごくアイドルソングっぽい。よくできてる。これらの作品と奇面組の何が違うかって、美少女ではあるけれどもヒロインは決してアイドルではないところ。そしてそのタイアップが「高嶺の花」な偶像としてのアイドルではなく、個々人は同じクラスにいそうな、しかし群体としては「おニャン子クラブ」というアイドルグループであるところですかね。
ばるぼら:他にアイドルが関わってるアニメはありますかね。
四日市:ロボットアニメ方面では1985年の『機動戦士Zガンダム』でも元祖バラドルの森口博子がデビュー。『超獣機神ダンクーガ』ではC.C.ガールズの藤原理恵、こちらは声優も勤めていますが黒歴史っぽいですね。子供向けだと1986年の『あんみつ姫』がそれこそおニャン子クラブ、世界名作劇場の『愛少女ポリアンナ物語』では工藤夕貴が歌っています。この頃がアイドルタイアップの頂点。アイドルの在り方、愛し方がアニメに取り込まれて、アイドルソングっぽさがアニソンっぽさの要素になっていた時代、かな。
ばるぼら:結論で恣意的に羅列するのは悪い社会学ですね。
四日市:あなたが聞いたんです!
■アニメの衰退? 視聴者の変化
四日市:1983年を絶頂に1986年くらいまでアニメの本数が減り続けることによってアニメブーム沈静化と呼ばれるのですが、かといってその頃にアニソンがつまらなくなったとも思わないんですけどね。
ばるぼら:アニメブーム鎮静化はなぜ? アタリショックみたいな?
四日市:本数が増えたこと、質の低迷化によってファンが離れた、と知識の上では知ってますけども、やっぱりつまらなかったんですかね。1985年の『機動戦士Zガンダム』とか後追いで見た自分としてはおもしろかったんですが、ガンダムの次がZガンダムで、ガンダムファンは大変にがっかりした、というのはつい先日のオタク大賞Rでリアルタイム世代が頷いていました。でも1984年には『北斗の拳』が、1985年には『タッチ』があり、さほど低迷しているようには見えないんですが、ロボットファンと美少女ファンでは認識が変わるような気がしますね。
ばるぼら:80年代後半は『CITY HUNTER』『めぞん一刻』『聖闘士星矢』もあるから、そんな廃れてたとも思わないんだけどな。『ドラゴンボール』のアニメもはじまりますよ。80年代後半はロボットアニメと魔法少女モノが停滞するから、そういう意味の冬の時代な気がする。
四日市:1987年がサンライズ制作のロボットシリーズ終了の年。最後の作品は『機甲戦記ドラグナー』ですね。ようするにオタクからパンピーへ、という時代なのか。
ばるぼら:オタクはこの辺りからOVAに行くんじゃないかしらん。
四日市:そうです。『機動警察パトレイバー』とか。
ばるぼら:『トップをねらえ!』とか。
四日市:『破邪大星ダンガイオー』とか『冥王計画ゼオライマー』とか『ジャイアントロボ』とか『機甲猟兵メロウリンク』とか『流星機ガクセイバー』とか。
ばるぼら:知らんがな。
四日市:OVA雑誌もガンガン出てはガンガン消えるんですけどね。
ばるぼら:OVA雑誌なんかあるの?
四日市:あります! 『アニメV』とか『グロービアン』とか!
ばるぼら:あ、あれOVA雑誌だったんだ。はじめてシリウス。
四日市:いいね、そのトップをねらえネタ!
■タイアップ前夜
ばるぼら:80年代後半のアニソンというとどうしても『CITY HUNTER』関係が浮かぶ。
四日市:1987年、小室哲哉在籍のTM NETWORK、みんな大好き「Get Wild」ですね。
ばるぼら:これはエンディングテーマが重要なんですね。アニメのエンディングシーンにかぶるように曲が流れる設計になってるから。曲が流れて→絵が止まって→引きになって→歌とEDって流れ。この演出をするためにエンディングに使われてる曲はイントロが長い。
四日市:アニメに演出のためにそうしたのかな?
ばるぼら:小室哲哉がそう作曲したと発言してたから、他の曲もそうだと思われる。岡村靖幸の「Super Girl」もイントロが長い。
四日市:TMや岡村ちゃんってこの頃はまだ売り出されるような新人?
ばるぼら:TMはこれで本格的ブレイク。岡村ちゃんもこれでヒットじゃなかったかな? 二組とも先に渡辺美里に楽曲提供してて、それは人気あったんだけど、単体アーティストとしてはいまいちだった時期。
「THE BEST OF TV ANIMATION SLAM DUNK~Single Collection~」BAAD, 大黒摩季, WANDS, MANISH他 発売元=株式会社ビーグラム 発売日=2003年7月21日
四日市:放送は午後7時からの30分、ゴールデン。ジャンプアニメ、ゴールデンタイムでかつ『CITY HUNTER』ということで、アイドルとは別路線のメジャー感のあるアーティストを起用したわけですね。これは後にアニメファンからは大変な非難を買った『スラムダンク』や『るろうに剣心』のタイアップにも繋がっていく。 ばるぼら:どこがアニソンなの?って言われるけど、視聴者層とリスナー層は案外重なってたってことですね。
四日市:どこがアニソンなの? です。ですがこのむやみやたらなタイアップが逆に、ヒーロー主題歌的な様式、アイドルソング的な様式を壊して「こういう曲がアニソンでもいい」という価値観を作り出したように思います。
ばるぼら:この頃の他のアニメは?
四日市:『北斗の拳』『きまぐれオレンジロード』『レモンエンジェル』『ついでにとんちんかん』……ジャンプアニメばっかりですね。『ミスター味っ子』もありますか。おもしろいところでは『マシンロボ ぶっちぎりバトルハッカーズ』のOPがヒップホップなんですよ。1987年。アニソンのヒップホップ導入は割と早くて、最初は1986年の『戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー2010』のED、広瀬翔の「WHAT'S YOU」です。いとうせいこうの「業界くん物語」が1985年、「建設的」が1986年だからかなり早くないですか?
ばるぼら:アラレちゃんDiscoの「Dancin' Doll」もラップがあるよ!
四日市:あれは何年?
ばるぼら:1982年。
四日市:それ、佐野元春より早くないですか?
ばるぼら:山田邦子「邦子のかわい子ぶりっ子」とスネークマン・ショーの「咲坂と桃内のごきげんいかが1・2・3」が1981年だから、その次くらいに位置づけて欲しい(笑)。スネークマン・ショーは『ひぐらしのなく頃に』のキャラソン(「圭一・大石の噂の事件簿ABC」)がパロってたよね。ラップのアニソンって他に何かある? のはらしんのすけ「ホリデーラップップ」(1995年)くらい?
四日市:『交響詩篇エウレカセブン』のHOME MADE 家族とか、マキシマム・ザ・ホルモンもラップと言っていいかなあ? ラップというかヒップホップって、持ってる世界観が強固じゃないですか。アニソンとして使うにはジャンルの持つ自己主張が強すぎる。だからあくまでもアニソンの記号として使うためにはもう少し消費されてから。HALCALIなどを待つ必要があったんじゃないかと。
■アーティストソング=アニソンの時代
ばるぼら:じゃあ90年代の話に入りますか。『らんま1/2』や『美少女戦士セーラームーン』みたいに作品のイメージにあった曲調のアニソンがある一方で、タイアップ曲が増加することでアニメファンが嫌がってた印象がある。田村直美の「ゆずれない願い」みたいにミリオンヒットになった曲もありますね。
四日市:『横山光輝 三国志』の「時の河」が好きなんですけど。FENCE OF DEFENSE。なんか三国志っぽくなくていいなって。
ばるぼら:(聴く)いいんじゃないですか。B'zの初期みたいなデジタルビートとハードロックの融合って感じ。これは何年?
四日市:1991年。アニメと関係ないように聴こえるけど、サビの「流れなーがーれーてー」ってところにちょっと和っぽさが。
ばるぼら:あるある。でも三国志ファンはどう思ったんでしょうね……。
四日市:さあ……。横光の三国志にこれをもってきたスタンスを誉めたい。EDも、2期もFENCE OF DEFENSEですよ。
ばるぼら:その起用って好評だったからなのかなあ。Epic/Sonyはアニメ主題歌でヒットさせる方法論が『CITY HUNTER』でできたから、別のアニメでも、っていうことでは。
四日市:いちおう19時半からのゴールデンですからね。
ばるぼら:『CITY HUNTER』とほぼ変わらないじゃん。
四日市:あ、最初のEDは遊佐未森だ。当時のこの時間帯、その手の音楽が流れまくってたんですかね。
ばるぼら:6時〜7時台はアニメばっかりだったからねこの頃。この流れだと『YAWARA!』にも触れたい。
四日市:ミーラクルガール!
ばるぼら:永井真理子の「ミラクル・ガール」(1989年)と「YOU AND I」(1992年)、原由子の「負けるな女の子」辺りが有名かな。
四日市:今井美樹もやってる。
ばるぼら:「YOU AND I」って、GAOの「サヨナラ」に似てると思うんですよ。強く歌いあげる感じが。
四日市:強い女の子、というアニメですね。
ばるぼら:1992年って渋谷系前夜だし、ミスチルとかスピッツ前夜でもあって、洋楽っぽさのない、ヒットチャートのメインが歌謡曲だった最後の時期だと思うの。永井真理子はこの後人気落とすしね。「YOU AND I」はメロディの作り方とリズムの取り方が、すごく日本っぽい曲調だなと思うんだよね、説明が難しいけど。この日本っぽさが、「YAWARA!」の日本代表選手という物語と、強い女の子ってイメージを表しているように聴こえるんですよ。1993年以降は歌謡曲はパロディにしかならないから。
四日市:1993年以降の洋楽っぽい有名曲をなんか挙げてください。
ばるぼら:なんだろ、アニソンだと「ツヨシしっかりしなさい」のED「その気にさせないで」(1994年)がブラック・ミュージックぽい。でも別に有名じゃないな(笑)。アニソン以外でいいなら、UAの「情熱」(1996年)やBonnie Pinkの「Heaven's Kitchen」(1997年)みたいなイメージ。
四日市:Bonnie Pinkは1997年の『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』でEDやってますね。
ばるぼら:あくまで洋楽そのものじゃなくて“洋楽っぽさ”なのがポイントなんだけど……有名なのあった。エヴァの「残酷な天使のテーゼ」や「魂のルフラン」は日本っぽい。でも劇場版の鷺巣詩郎が作った「Thanatos」は洋楽っぽい。分かります? 日本人が作る“洋楽っぽい”曲としてはFaye Wongの「Eyes On Me」(1999年)も近い。
四日市:懐かしい! FFですね。
ばるぼら:エヴァの曲とあれは自分の中でつながってる。作曲者とかメディアも全然違うけど、求めてるものが一緒だと思う。洋楽っぽいんだけど、あくまで日本人好みに仕上げてある職人的器用さ。これは菅野よう子の仕事にも感じることです。って話が飛びすぎた。時間を戻さないと!
■J-popの流入と第三次声優ブーム
四日市:これまでずっとジャンプアニメばかりになってしまっているので、ここらで『スレイヤーズ』とか取り上げましょう。オリコンに入ったのは『スレイヤーズNEXT』の「Give a reason」ですね。
ばるぼら:これって曲調は露骨に当時のヒットチャートを研究してるし、林原めぐみが歌ってなかったら普通のJ-POPでしょう。つまりタイアップ曲が批判されたポイントは、曲調じゃなくて人脈だったことがわかりますよね。イントロのtrfフェイク感は何度聴いても笑ってしまう。
四日市:この手の林原の曲を聴くとすごく懐かしさを感じるんですけど、アニソンを含んだ小室的なコード進行を参照しての懐かしさなんですかね。
ばるぼら:コード進行だと思いますよ、90年代の匂いがすごくする進行だもん。YOSHIKIもB'zもよく使ってた。調は曲によるが基本はAm→F→G→C(or Am)。これが90年代の記憶として染み付いてる。
四日市:『爆れつハンター』に『セイバーマリオネットJ』に……、夕方6時台はすごく林原でした。この頃の奥井雅美、林原めぐみの記憶が水樹奈々に懐かしさを感じさせる。プロデューサーの矢吹俊郎のせいだな。
ばるぼら:ワタシでも知ってるくらいだから林原めぐみは90年代を代表する声優ですよね?
四日市:そうですね。他には國府田マリ子、三石琴乃、宮村優子、横山智佐、桑島法子、最近「ラブプラス」で復帰した丹下桜などなど。
ばるぼら:國府田マリ子は結構名前を見た気がする。でも印象が強いのは林原だな。
四日市:椎名へきる。
ばるぼら:おお、それも有名じゃないですか。
四日市:でも主題歌は?というとほとんどやってなくて。
ばるぼら:そうなのか。
四日市:だから特別に声優オタクではないアニオタからすると、主題歌をガンガンやってる林原が記憶に残ってるんです。
ばるぼら:声優としてCDは出してても、主題歌は歌ってない場合が多いと。
四日市:声優が主題歌を歌いまくるのってまだちょっと先の話になるんですよ。声優の課外活動はかなり増えているんです。草尾毅や佐々木望など『鎧伝サムライトルーパー』の主演声優のユニットN.G.FIVEが1989年に全国ツアーを敢行したり。サムライトルーパー自体が『聖闘士星矢』の人気を受けて作られたもので、女性ファンが中心ですね。
ばるぼら:トルーパーは映画館で興奮して失神した女子がいたという伝説だけ知ってます。
四日市:男性ファンの方では1993年のOVA『アイドル防衛隊ハミングバード』。三石琴乃、玉川紗己子、天野由梨、草地章江、椎名へきるのユニットが九段下会館で行った「熱狂の"裸・Eve"」は第三次声優ブームの貴重なドキュメンタリーです。凄いです。
ばるぼら:(ライブ音源聴く)これは……臨場感がありすぎてイヤだ……。
四日市:他にはキャラクターソングや、ラジオ、林原めぐみ「ハートフルステーション」とか「TOKYOブギーナイト」とか國府田マリ子「ゲームミュージアム」とか緒方恵美の「銀河にほえろ」とか。この頃の声優ラジオ、いわゆるアニラジですか、の好評を経て、現在まで継続する深夜アニメ枠が出来る。あとコンシューマーゲームが高性能になってゲームが声優の重要な仕事の一つになったのも挙げられるかな。スパロボはこの頃もう音声ついてたのかな?
ばるぼら:声優って普通の音楽誌ではほとんど取り上げないから、自分から専門誌を読んだり、ラジオ番組をチェックしないとダメだったでしょ。だからワタシは全然わからないんですよ。
■来歴不明のアーティスト? TWO-MIXと高山みなみ
四日市:というわけで、そんな時代のアニメ主題歌を担当した声優ユニット、TWO-MIX。
ばるぼら:TWO-MIXもヒットしましたよね。なぜ『名探偵コナン』にこの曲?とは思ったけど。コナンの漫画を読み返したらTWO-MIXが出てきてて、仲いいなと思った。
四日市:TWO-MIXというと俺は『機動戦士ガンダムW』ですね。これSEがすごくいい効果になっていて、効果音なしだと物足りなさ過ぎるんですよ。
ばるぼら:ああ、ズギューンって音がすでに曲の一部になってるのね。
四日市:ガンダムのSEは気持ちいいってのもあるんですが。音源で聞くと物足りない。これも林原の流れのハイエナジーですね。
ばるぼら:んーまあJ-POPですね。ユーロビートなどを経た。
四日市:J-POPです。
ばるぼら:TWO-MIXはワタシにはよくわからないグループだったなあ。いつのまにかチャートに入ってきてて出自が理解できなかった。デビューは『ガンダムW』主題歌なのか。
四日市:テレビ出演などはほとんどありませんからね。
ばるぼら:アニメファンの盛り上がりがワタシには全然伝わってなくて、でもチャートアクションをするほど内需が成立してたという。さっきの林原のNEXTの曲もそうだけど、90年代中盤はそういうのがポツポツ出てきた時期。この頃はオリコンのランキングって毎週チェックしてたんだけど謎の存在でした。
四日市:TWO-MIXを声優にするのは気が引けるのは、たぶんTWO-MIXが売れていた頃、ヴォーカルが声優だってことはたぶんアニメ見てた人もほとんど知らなかった。声優が歌っているんだけど、声優という要素なしでオリコンに昇っていた。
ばるぼら:まさに今知ったよ! 有名な人?
四日市:いや……コナン君ですよ……。
ばるぼら:あ、へーー……。
四日市:「JUST COMMUNICATION」は40万枚。俺もなんかアニメをよくやっているな、Cyber Nation Network的なもんかな、くらいの認識でした。
ばるぼら:この頃って『スレイヤーズ』や『ガンダムW』みたいな、今だと確実に深夜アニメなラインナップが、まだ夕方5時6時にやってたのが時代を感じさせますね。アニソン的にはどういう転換期なんでしょう、今言ったようなことでいいんでしょうか。
四日市:林原主導によるハイエナジー期、わかりやすくアップビート、力強いサビの時代が続きますね。
ばるぼら:小室とビーイングの折衷みたいな時期ですよね?
四日市:歌詞は壮大な物語を感じさせるよりは刹那的になっていく気がします。
ばるぼら:刹那的は小室の歌詞の重要な要素ですね。なんでも小室に結びつけてますねワタシ。やめよう。
四日市:この頃のJ-POPに小室は欠かせない存在なのだから、結びつけてもいいと思うんです。この時期からアニソンはJ-POPに寄り添っていたんですから。
■斜陽の音楽業界とタイアップの沈静化、そしてゼロ年代へ
四日市:90年代末期、オタクとして音楽が熱かったのはエロゲーだと思うんです。この頃に蒔かれた種が、ゼロ年代で開花していく。
ばるぼら:例えば?
四日市:1998年にI'veが活動を開始、I've自体の活動はもちろん、1999年に発売した『kanon』の「Last regrets」 「風の辿り着く場所」は未だにオタクアンセム。『MAID iN HEAVEN』の主題歌「メイドさんロックンロール」の「やっちゃったゼ☆」なセンスが電波ソングから萌え音楽へ広げた影響は大きい。エロゲーの外でも同人サークルIOSYSの発足が98年、97年には「もあいはるこ」がシングルを発表、秋葉原の神話、桃井はるこですね。
ばるぼら:じゃあ肝心のテレビのアニソンの方は?
四日市:OVAですが『MAZE★爆熱時空』(1997年)が聖飢魔II、『EAT-MAN』(1998年)が筋肉少女帯をフィーチャー。『金田一少年の事件簿』はLaputa、COLOR、Plastic Tree、CASCADE、PENICILLINなどのビジュアル系を起用しています。他にも鈴木紗理奈やともさかりえ、広末涼子も。でもタイアップにも低調を感じますね。当時よく覚えているのが『中華一番!』で大黒摩季だのZARDだのDEENだの……。マシュランボー並とは言わないけど、そんな人たちを使う必要ないじゃないですか。やめてくださいよ。
ばるぼら:ワタシに言われても。でもゴールデンタイムだし、それこそ『スラムダンク』みたいなもんじゃないの? “制作者側が想定したターゲット層”=“大黒摩季やZARDやDEENを好きな層”、と判断してのタイアップということでは。アニオタは嫌がっても、別にメインの視聴者は気にしてなかった、という図式があったんじゃないのかな。
四日市:タイアップ批判と言うよりももったいない、という。『ミスター味っ子』以上にバカで好きでしたけど、バカアニメの一つであってゴールデンで人気を取れるようなものか、という感覚。
ばるぼら:バカアニメだのなんだのって楽しみ方はオタクしかしないから!
四日市:俺がオタクな感覚を身につけてきていただけか。で、他にはアイドル的なものだと1998年の『スーパードール★リカちゃん』のOP、『Rooky』の「ねっ」とか。『魔術士オーフェン』でタンポポやメロン記念日が歌っていますね。あとシャ乱Q。末期になるとタイアップって新人を売り出すよりも、メジャーだったアーティストが“堕ちてきた”って印象を持っていたんですけど。
ばるぼら:SIAM SHADEの「1/3の純情な感情」(1997年)はアニメタイアップがブレイクにつながった例だったけど、その後にそうやってヒットした人を思いだせないな。90年代後半のアニソンといえばなんですかね? ポケモンとだんご三兄弟?
四日市:おおよそはJ-POPのセンスとタイアップの流れが継続という形ですが、『おジャ魔女どれみ』が「おジャ魔女カーニバル!!」を出している。声優合唱系とも言えるんですが、ひとつ前の『夢のクレヨン王国』は子供の合唱を加えた子供向けアニメの様式を守ってきた。おジャ魔女は、きちんと子供向けである範囲からはみでずに声優合唱やアイドル的なポップ感覚を取り入れている曲だと思うんです。 作曲の池毅はかなりの古参で『ドラゴンボール』からやってる。『ママレードボーイ』から『かりあげクン』まで、毎年毎年休まずに多彩なジャンルのアニソンやCMソングを手懸けている。あ、作曲家の話をするなら菅野よう子も取り上げなきゃいけないのかな。
ばるぼら:菅野よう子だと『カウボーイビバップ』関係より坂本真綾が印象にあるかな。『カードキャプターさくら』の「プラチナ」は途中で変な転調をするから耳に残った。
四日市:タイアップによって大量に流入してきたJ-POPもあれば、アニソンはアニソンでJ-POPを研究した曲作りをしていたし、アイドル的なものも生き残っていたし、ここら辺からビートマニアの流行とダンスミュージックの導入、エロゲー方面の「それやっちゃっていいんですか?」なものにもゴーサインを出す、極めてインディーズな感覚が育ってくるんですね。録音の粗いものがいい、という悪しきインディーズ・クオリティの話ではなくて、内容として。
(続く)
構成・文=ばるぼら・四日市
構成・文=ばるぼら・四日市
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ばるぼら ネットワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのイ ンターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』など。なんともいえないミニコミを制作中。
「www.jarchive.org」 http://www.jarchive.org/
四日市 エヴァンゲリオン研究家。三度の飯よりエヴァが好き。クラブイベントにウエダハジメ、有馬啓太郎、鶴巻和哉らを呼んでトークショーを開いたり、雑誌に文章を載せてもらったり。プロフィール画像は昔描いた三十路魔法少女漫画。
09.10.11更新 |
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