「ハレ晴レユカイ」涼宮ハルヒ(平野綾),長門有希(茅原実里),朝比奈みくる(後藤邑子)
発売元=ランティス 発売日=2006年5月10日
WEB sniper holiday's special contents in Autumn 2009.
2009秋の連休特別企画
ばるぼら x 四日市 対談:秋の夜長にアニソンを聴こう!【後篇】
一昔前は“アニソン聴いている人キモイ”なんて言われたものですが、気がつけばオリコンチャートはアニソン一色に。ある世代から上にとっては、懐メロとしてカラオケで歌われるだけのものだったアニソン。はたしてその場ではいったい何が起こっていたのでしょうか。WEBスナイパー、秋の連休特集はいつものお2人によるアニソン対談、本日は後篇のお届けです!
■MOSAIC.WAVは素晴らしい
ばるぼら:60年代から順に話してきて、ようやく2000年代の話になりますね。
四日市:長かった……。ちなみにばるぼらさんの好きなアニソンはなんですか? iTunesから引っ張り出してもいいですよ。
ばるぼら:アニメ主題歌でiTunesのトップだと『涼宮ハルヒの憂鬱』の「ハレ晴レユカイ」でした。別にこの曲がアニソンで一番好きなわけではないですが。他に上位の曲で2000年代のは『フルーツバスケット』の「Forフルーツバスケット」、『ココロ図書館』のOP「ビーグル」、『ちょびっツ』のサントラ、『ゼロの使い魔』のED「スキ?キライ!?スキ!!!」、『がくえんゆーとぴあ!まなびストレート』のOP「A Happy Life」の岡崎律子バージョン、『瀬戸の花嫁』の「Romantic Summer」、『キミキス』のOP「青空loop」、『らき☆すた』の「もってけ!セーラーふく」辺りですかね。
四日市:一話だけ見て即気に入ったアニソンとかあります?
ばるぼら:『あずまんが大王』のOP「空耳ケーキ」が「何これ?」って気になったことはありますけど、最近だとなんだろう……あ、『CLANNAD』のEDの「だんご大家族」はめちゃくちゃ気に入った。あとはMOSAIC.WAV全般。
四日市:MOSAIC.WAVは割とハイテンションな印象がありますが、「空耳ケーキ」と「だんご大家族」は、なんて言うんですかね、ほのぼのしてますよね。そういうのが好きってわけではなく?
ばるぼら:いやいや、MOSAIC.WAVと「空耳ケーキ」はアレンジの手の加え方が楽曲的に気になったんで。MOSAIC.WAVは本当にいいなと思ってて、2000年代のアニソンで一番好きなのは『ぽてまよ』のOP「片道きゃっちぼーる」かもしれない。今は亡き『STUDIO VOICE』でもレビュー書いたもん。MOSAIC.WAVは『いただきじゃんがりあんR』(ゲーム)に使われてた「Love Cheat!」って曲を聴いたのが最初。基本的にMOSAIC.WAVは曲のアレンジが洗練されてると思うんです。
四日市:柏森進さんですね。
ばるぼら:音色の選択、音の出てくるタイミング、和声に対してどういうバッキングをのせるか、とか、非常に練られたプロの仕事って印象。曲の展開は全部J-POPの定型なんですよ。「Aメロ→Bメロ→サビ→Aメロ→Bメロ→サビ→(リズム/コード抜きのサビ)→サビ」、この「リズム/コード抜きのサビ」という部分が特にJ-POPっぽい。
四日市:J-POPの定型でかつプロの仕事ってのは、要するにそれはJ-POPってことですよね。
ばるぼら:いや、J-POPの定型なのにアニソンに聴こえるっていうのがプロなんですよ。アニソンのプロと言い換えましょう。
四日市:アニソンに聞こえるってのはなんでしょう。ピコピコした音を使ってるところかな? み〜この声?
ばるぼら:み〜この声と歌い方もそうだし、ピコピコ含めた音色とメロディがゲーム音楽の記憶を刺激するように使われてるのもそうだし、ようは派手ってことなんだろうか?
四日市:派手ってのはアニソンの特徴として挙げてもいいところですね。わかりやすいサビ、これから30分間を持続させるに足りるテンションの補充をさせる。まあアニメによりますが!
ばるぼら:MOSAIC.WAVはほぼ全曲アゲアゲですね。ゲーム音楽と過去のアニソンの様式をうまく取り入れて1曲に込められてる。
■アニソンに地味に根付く東洋ファンタジー感
四日市:ちなみに俺のiTunesのMOSAIC.WAV再生トップは『すもももももも 地上最強のヨメ』の「最強○×計画」でした。
ばるぼら:♪こ・づ・く・り・しましょ!
四日市:ああいうドキッとするような歌詞を平気で持ってこれちゃうのは、美少女ゲームの楽曲製作で活動していたという来歴と、「電波ソング」と呼ばれるジャンルの土壌があってのことでしょうね。
ばるぼら:「巫女巫女ナース・愛のテーマ」とかの流れですか。
四日市:卑猥な単語・描写を、ポップなアレンジやアダルトとは正反対の声質で包み込むことでネタっぽく、エロティックとは真逆な方向へ持っていった。で、「最強○×計画」の「♪全身全霊の〜」あたりのアジアンな歌い方が好きで。
ばるぼら:民族音楽っぽいアレンジを好むのは、やっぱり子供向けフィクション=ファンタジー要素というのがあるからですかね?
四日市:幻想浮遊系なんて言葉もありますが、そういったストリングや透明感のある歌声でやたらと壮大な世界観を思わせる西洋ファンタジー風と併走して、東洋ファンタジーの意匠はもうアニソンの様式の一つと言ってもよさそうですね。いつ頃からだろう、らんま? ジブリ?
ばるぼら:『もののけ姫』はEnyaとかスピリチュアルの流れっぽいから、中華は『らんま1/2』が大きそう。
四日市:『ふしぎ遊戯』『仙界伝 封神演義』『十二国記』など色々思いつきますが、比較的新しいものばかりかな。封神演義の主題歌「WILL」は民族音楽でもなんでもない、スタンダードなJ-POPですけどね。
ばるぼら:(「WILL」聴く)王道J-POPだ。歌ってる米倉千尋って何が有名な人だっけ?
四日市:嵐の中で輝くことで有名な人。『機動戦士ガンダム第08MS小隊』の「嵐の中で輝いて」でデビュー。エロいアニメだったな……。米倉千尋は声優ではないし、曲も完全にJ-POPなんですが、アニメとのタイアップが多かったことで「アニソンアーティスト」とか言われ始めた……のかな? 1997、8年頃に「Cyber Nation Network」ってグループがアニソンメインのアーティストとしてやたらCMを打っていたように思うので、アニソンメインの売り方がもうあったのかもしれない。なんにしろ声優でも職業作曲家でもなく、J-POP的な「アーティスト」という括りでアニソンがメインな「アニソンアーティスト」と言うものが現れ始めていた。そういう言葉の誕生もアニソン市場の熟成を物語っている気がする。
ばるぼら:なるほど。話を中華に戻すと、他にも『スト\x87U』(ゲーム)の春麗の曲なんかが、典型的な音色と音階を抽出して様式にした感じ。
四日市:昔からラーメンマンの中国拳法だなんだで、中華っぽい要素って漫画・アニメ・ゲームには親しみがありますからね。中国4000年の歴史でなんでも片付けられてしまうので非常にファンタジー。東洋風のアレンジは、本当は和風なのに中華な世界観に混ぜられたり、認識の適当さが非常に好ましい。
ばるぼら:五音音階(ペンタトニック・スケール)だとなんでも東洋に聴こえるとかね。ドレミファソラシド#♭から5音だけ使うんだけど、どの5音を使うかで民族が変わる。坂本龍一の「戦場のメリークリスマス」のメロディが東洋っぽいのもペンタトニックのせい。
四日市:俺はZどころかGTくらいの世代なんですっかり失念していましたが『ドラゴンボール』は中華でしたね。天下一武闘会の時に挿入される高橋洋樹の「めざせ天下一」は中華っぽいアレンジ。
ばるぼら:『ドラゴンボール』が西遊記だったことなんて完全に忘れてた……。そういうのを含めて、いつのまにか脳内データベースのアニソン様式に蓄積されていたわけですね。
■「空耳ケーキ」は違和感の塊
四日市:『あずまんが大王 THE ANIMATION』の「空耳ケーキ」の話もしてください。Oranges&Lemons。
ばるぼら:この曲は全体的に違和感を覚える箇所があって、それが気になって何度も聴いてしまうタイプ。また細かい話ですけど、AメロでC→D♭と半音だけ上がるというのが、普通のJ-POPではほとんど見かけないちょっとクセのあるコード進行なんです。他にもサビの拍の取り方は普通に聴いても引っかかるでしょ?「♪wonderland」ってとこ。
四日市:これはすごく違和感がありました。声質も。つまりMOSAIC.WAVがJ-POPの定型だったのに対して、空耳はJ-POPではないところが気になったんですね。
ばるぼら:そうですね、J-POPの定型を守りつつ過剰なアレンジを施してアニソンに聴こえるMOSAIC.WAVと、J-POPらしくないことが結果的にアニソンに近づいてる空耳。あと空耳のボーカルは声質は、抽象的ですが透明な印象がしませんか。サザンオールスターズの桑田佳祐の声は濁ってるでしょう、その反対。
四日市:岡崎律子の「Forフルーツバスケット」を思いだしますね。
ばるぼら:「空耳ケーキ」はギター&ベース&キーボードっていう編成じゃないのも気になるポイント。ギターの音もあるんだけど、それはアレンジの一部であって、メインは小さいオーケストラ、楽隊っぽい音。曲の構成も使ってる楽器もJ-POPらしくない。それがアニソンとして結果的にしっくりきて、これもアニソンと言っていいんだなという認識が広がったんじゃないかと。
四日市:『あずまんが大王』は劇伴も栗コーダーカルテット使ったり、まあ色々と変でしたね。栗コーダーの劇伴はよかった。映像と合ってて、作品にマッチしてればアニソン。極端な話、アニメに使われていればアニソンではありますが、当時、あの曲はないわ、って人もちらほらいましたね。
ばるぼら:その反発は脳内データベースにアニソンの様式として登録されてなかったからだね。『あずまんが大王』っていう作品自体が、従来のオタク層以外へ訴えかけようとしてたから、こういう曲はちょうどよかったんだと思う。様式ができあがると、それに乗っかれば簡単にものを作れるようになるけど、簡単に作ったものはあまり面白くない。
四日市:オタクは様式美を繰り返すことに快楽を見いだしますね。
ばるぼら:そうなんですよね、だから相容れないものがあるんだけど、時々MOSAIC.WAVみたいに、オタクも好きでワタシも好きな曲というのが出てくる。
■だんごの三兄弟じゃないほう
「メグメル/だんご大家族」
発売元=Key Sounds Label 発売日=2007年10月256日
「Scratch」木村カエラ
発売元=Columbia Music Entertainment,inc. 発売日=2007年2月7日
四日市:あと「だんご大家族」がお勧めですか。2007年『CLANNAD』のED。
ばるぼら:最初は木琴の音使ってるのがひっかかったんですよ。木琴だよな? メインのピアノと木琴の組み合わせがシンプルでいいなあって。コード進行はまあ普通なんだけど、よくあるミディアムテンポのエンディングテーマとは違って、というか違う曲を作ろうとする意志を読み取ったの、勝手に。
四日市:あまり使われない楽器ですね。
ばるぼら:同年に出た木村カエラのアルバム『Scratch』1曲目「L.drunk」が木琴っぽい音を使ってて、それが頭に残ってたせいもある。曲調は全然違うけど、自分の中では同時多発感がちょっとあった。「だんご大家族」もギター&ベース&キーボードみたいな編成とはちょっと違うでしょ。ワタシはそういう曲のほうが気になるみたい。
四日市:(カエラ聴く)エレクトロニカではよくこういう音色が使われてると思うんですけど、そういう感じを入れたかったんじゃないでしょうか。曲はあからさまに疾走するロックだから、あえて。音色でエレクトロニカというジャンルを想起させる。
ばるぼら:サイケデリック・トランスのShpongleとかね。一世代前だけど。あと「だんご大家族」は『ひぐらしのなく頃に』(ゲーム)の「You」って曲と近いものを感じたんですよ。ひぐらしは超ハマったので……。こうやって色んな引っかかりポイントが重なって、曲に愛着がわいた。もちろんそういうのがなくても聴くけどね。
■ブレイクスルーとしての「ハレ晴レユカイ」
四日市:ではいちばん聞いてるという「ハレ晴レユカイ」の話に。YouTubeなど、インターネットを中心に一大ムーブメントにもなった、おそらくゼロ年代の最重要曲ですね。
ばるぼら:あれは完全に何十回も動画見てるうちにいい曲な気がしてきたパターン。
四日市:何度も見ていれば身体に染み入る。YouTubeで頻繁にファンによるカラオケやOPのダンスの模倣をが繰り返されて、アニメの放送回数24話よりも圧倒的に耳に入れる機会が多かった、というのはこの曲が語り継がれる要因になるように思います。
ばるぼら:手抜きのくり返し動画になりがちなEDに気を配ってるのが新鮮だった。これがヒットしてから振り付けのあるOP・ED曲が増えたもんね。ハルヒダンスがなかったらニコニコ動画の登場さえ怪しい……それは言いすぎだ。
四日市:70年代、80年代のアニメは今みたいに1クール12話ではなく40話超、子供の頃に一年間も毎週聞き続けたら「懐かしのアニソン」にもなる。ということで「ハレ晴レユカイ」は十年後、懐かしのアニソンになれるかもしれない!
ばるぼら:うまく説明できないけど、「ハレ晴レユカイ」の途中に、遠くから音が近づいてバーンとなるところあるじゃない? あれがTMNのシングル『RHYTHM RED BEAT BLACK』に入ってた電気グルーヴのリミックス曲の記憶を刺激して、何度かくり返してしまったんですよ。
四日市:自分の持っている音楽データベースに対する刺激が聞く欲求を起こさせるわけですね。
ばるぼら:そういうことでしょうね。最初はそれが気になって聴いてて、そのうちハルヒダンスの動画が流行りまくって延々聴き続けることになり、いつのまにか自分の中でアニソン定番曲になってた。
四日市:何かしらきっかけに聞かせることによって、なんとなく良い曲になっていく普遍的な効果ですね。定期的に聞くことでその頃の思い出も付随されてくる。だからこそタイアップや、有線、歌番組があるわけで。
ばるぼら:うむ、きっかけはなんでもいい。
四日市:例えば何かしらおもしろいパンチラインがひとつあれば、記憶に残るし、今ならインターネットで遊ばれる効果もある。『MADLAX』の「♪ヤンマーニヤンマーニ」、『創聖のアクエリオン』の「♪一万年と二千年前から愛してる〜」とか。
ばるぼら:「ハレ晴レユカイ」もフック(聴いてる人が引っかかるところ)が結構あると思います。「♪びゅーーん」や「♪好きでしょ?」のところとか。「♪笑いながらハミング」の歌詞に「できるわけないだろ」ってつっこむ楽しさとか。
四日市:OPは「冒険でしょでしょ?」でしたし、「でしょ?」っていう言い回しの印象は相当強い。
ばるぼら:あと動画観まくったせいで曲を聴くと映像が浮かぶから、全体通して楽しい。
四日市:映像が思い出されるアニソンは聞いていて楽しいですね。『キングゲイナー』とか。
■歌は声優のものか?キャラクターのものか?
ばるぼら:でも実はハルヒの劇中ライブシーンの「God knows...」って曲は別に好きじゃないんだよね。映像ついてるけど。物語のピークに近い箇所で流れたことと、動画の枚数が多かったことが特別なのであって、曲自体には引っかかるような特徴がないから。
四日市:挿入歌は補正がかなり強くかかるので、最初に曲を聴いてからアニメを観た人と、アニメを追いかけながら聴いた人では評価が全然変わると思う。「God knows...」について、俺は前者。
ばるぼら:あのシーンは映像はハルヒなんだけど、声が平野綾だからテレビ観ながらでもダメでしたよ。あれハルヒの声じゃないと思う……。
四日市:ああ、ありますねそれ。歌い出すと急に違う人になるっていう。演技しながら歌うのは相当なテクニックらしいので……。『苺ましまろ』の美羽ラップは素晴らしいですよ。大変すぎて、本人も「ライブでは絶対にできない」ってインタビューで答えてました。
ばるぼら:(聴きながら)おお、キャラを保ってるのがすごい。これこそキャラソン! これと比べると他のアニメのキャラソンは単なるタイアップグッズだなあ。声優のCDジャケにキャラクターが使われている、というだけに見えてしまう。
四日市:声だけでアニメを表すことができるのが声優という仕事の凄さだと思うんです。例えば、この荒廃した地上に舞い降りた天使、永遠の若さとかわいさを保つ奇跡の結晶、いたずら黒うさぎこと田村ゆかり姫の声は、そのままアニメの世界観を表すことができる。
ばるぼら:田村ゆかりって何の声やってる人?
四日市:(無視)「童話迷宮」ではフックのひとつひとつがアニメの世界を表していれば、あとはゆかり姫の声が全てを繋ぎ合わせ完全なるアニメ世界を構築するのだから、本当にゆかりんは素晴らしい。神話世界から遣わされたまさに2.5次元の存在、否、彼女の中心とした時空こそ2次元、ゆかりんの声の届く範囲をゆかりんフィールドと名づけ、3次元の形を保つ不快な障壁を中和し3次元世界と2次元世界を融合することにこそ人類補完の鍵があるのではないだろうか?
ばるぼら:アニメ版『ひぐらしのなく頃に』の古手梨花の声か。あれは合ってたのですよ。他にも結構な数やってるんだなあ。
四日市:(無視)ささきいさお、水木一郎の男らしい声が主流だった時代のアニメはロボットアニメ、ロマンの世界でした。しかしうる星でアニメは日常化され、アイドルが起用されるようになる。『マクロス』や『アイドル伝説えり子』で、アイドルとアニメキャラクターの同一視が始まった。アイドルは偶像なのです。しかしアイドルがバラドルとしてしか生きていけなくなり、失墜してしまう。アイドルの失墜が、アイドルが人間でしかないことに起因していたのなら、失墜しないアイドルは非人間として、しかし限りなく人間に近い存在として生きなければならない。ならばアイドルはどこで生きていけばいいのか? そう、アニメです。アイドルのアイドル的な側面を研磨した結果こそが美少女アニメなのです。かつてヒーローに憧れ、自らをアニメに投影し、アニメ的日常の中のアイドル的な女の子を妄想した現実と地続きのアニメはもはや存在せず、「2次元」と呼ばれ明確に区別されています。絶対に到達不可能な、現実と接しない異世界なんです。その異世界におけるキャラクターを演じる声優の声はアニメ世界そのもの! 異世界の息吹! そして! その自らアニメを体現する存在が! 田村ゆかりなのです!
ばるぼら:……演説終わった?
四日市:めろ〜ん!めろォォ〜〜〜〜ん!!
ばるぼら:おい、話を聞け。
■ゼロ年代に拡大するアニソンの様式
ばるぼら:それ以外のアニソンについて触れておいた方がいいと思うんですけども。ハルヒの制作元の京都アニメーションは 、その後も『らき☆すた』『けいおん!』で音楽関係で話題を集めましたよね。一方で、シャフト制作のアニメも人気だった。
四日市:『ぱにぽにだっしゅ』は一貫して歌謡曲のパロディでしたね。美少女アニメとしてのアイドル様式採用ではなく、意図的な80sアイドル歌謡のパロディ。2005年だと確か「Crazy Ken Band」が人気出てきた頃で、歌謡曲リバイバルの空気を読んでいたのかな。「♪ぶんぶんぶぶぶん黄色いバカンスよ〜」のGSパロディとか『妄想科学シリーズ ワンダバスタイル』の「The IJIN-DEN〜天才の法則〜」を思い出すんですが、後者は2003年代に科学アニメという古さを表すための記号としてのGSパロディ。
ばるぼら:『さよなら絶望先生』に到っては筋肉少女帯だしね。筋肉少女帯は音はヘヴィメタルだけど振る舞いがパロディみたいな側面があるでしょ。それを持ってくるのが自己言及的というか直球のセンスに思えます。
四日市:『夏のあらし!』の「あたしだけにかけて」を聞いて『絶滅キング』の「せいしをかけろ!!」を思い出した紳士も多いと思うんですが、あのOPは曲も歌謡曲ならアニメーションも歌謡曲のジャケットパロディだらけで凄かったな……アニメがタイムスリップものなので非常に合ってる、というわけではなくタイムスリップで行き着く先は太平洋戦争の最中で。主人公たちが元いた時代が昭和なのかな? 時代の記憶が薄れて歌謡曲は単に古い、懐かしいの記号になっているのかもしれない。
ばるぼら:『まりあ†ほりっく』はOP「Hanaji」が音と映像がマッチしててすごくいい。シャフト嫌いが改善されたくらい。ただこれは曲だけ聴いて反応したかはわからないけど。ED「君に、胸キュン。」はYMOのカバーですな。他にここ10年に出てきた傾向としては、一時期アキシブ系と呼ばれたような“秋葉原 meets 渋谷系”な感じの曲。具体的にはROUND TABLE featuring Ninoなど。
四日市:主題歌やってるアニメは『ちょびっツ』『.hack//黄昏の腕輪伝説』『無人惑星サヴァイヴ』『トップをねらえ2!』『ARIA』『NHKにようこそ!』『夜桜四重奏』……ってやりすぎだろ。
ばるぼら:他に知ってる範囲では『キミキス pure rouge』のOP「青空loop」、『うみものがたり』のED「透明な祈り」などがアキシブテイストですね。『エウレカセブン』や『鉄腕バーディー DECODE』で歌ってるニルギリスも入れていいかな。90年代にはオシャレと思われてた渋谷系も、10年経つとアニソンの様式の一つになっているという。アニソンのジャンルの取り込み方は異常。
四日市:人脈で言えばSPANK HAPPYの菊地成孔が『NieA_7』や『月詠』をやっているし、ティポグラフィカの今堀恒雄は劇伴を勤めた「はじめの一歩」はすごく良かったな。『ビバップ』の「シートベルツ」がティポグラフィカ+ソリッド・ブラスの面子で構成されているってのは有名な話ですし、人脈はとっくに絡んでいたんですね。あとは渋谷系がほどよく消費されて単なる音楽ジャンルとしての渋谷系になったので、そこにアニメ自体の物語を織り込むことができるようになったんじゃないでしょうか。
■アニソンの現在形
ばるぼら:結構出揃ってきたな。残りの疑問としてアニソンの現在形ってどこにあるんですかね?
四日市:現場かなあ? 「Animelo Summer Live」のようなフェスもあれば、ゲームメーカー「Overdrive」のbamboo社長自ら率いる「milktub」がパンクの聖地・新宿アンチノックでワンマンライブを行いましたし、「DENPA!!!」など、アキバ系の価値観におけるクラブイベントはもう、少なくない。レイヴミュージックがそうであるように、現場があると現場を意識した音づくりになっていきますよね。「H!I!N!A!HINAGIKU!ハイハイッ!」で有名な「本日、満開ワタシ色!」みたいに現場を反映してオタ芸を意識的に取り込んでいる。Perfume前後くらいに盛り上がった地下アイドルシーンで『魔法先生ネギま!』の「ハッピー☆マテリアル」(2005年)がガンガン歌われていたんですよ。それこそ「ハレ晴レユカイ」も。
ばるぼら:ハピマテは曲自体よりも、大量にCD買ってチャート1位にしようって運動の存在が重要ですな。演歌やアイドルではよくある風景だけど、アニソンでは最初で、そういう曲を地下アイドルが歌うのは相性がバッチリすぎる。いつかスターになってみせる!というアイドルストーリーをバックアップしてくれと曲を通した無言の訴え。
四日市:大衆文化が失われていく中で、アイドル文化やヒーローに代表されるヒロイックな物語の保存という価値もあったのかなー。自分の生きる範囲から歌うのではなく、アニメというフィルターを通せるからこそ物語を歌うことができる。1995年の地下鉄サリン事件以降、ハイロウズが歌詞から意味を剥奪していったように若者の物語は喪失されざるを得なかった。ブルーハーツの初期ファンクラブの名称が「ブルーハーツと事を起こす集団」って、これ今の感覚から言ったらカルトでしょう。
ばるぼら:ブルーハーツのファンクラブの会長の人はその後オウムに入ったって昔の『Quick Japan』に書いてあったよ。
四日市:自分探しの結果がオウムだったんですかね。もう少し悪趣味だったらオウマーで済んだのに。まあでも「二次元」という言葉の成立した現在、三次元とは絶対的に隔てられたアニメの中の「世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団」にそんな印象は受け取らない。ロックは物語を歌えなくなったけれど、それが虚構であることを前提にすれば歌うことが、共感することができる、というのが今のアニソンかな、と。
ばるぼら:なるほど、ベタな物語性を担っているのが現在のアニソンということですか。アイドルが普通の人になってきたから声優に幻想が移ったとよく言われてたけど、それとはまた別の物語がアニソンに託されてると。そういう視点は持ったことなかったな。長々と話してきたように、ワタシはまずアニソンの楽曲構造が気になる人だから、誰が歌ってるかはあんまり気にしないんだよね。最近は『あにゃまる探偵 キルミンずぅ』OPが何言ってるのかわからなくて、こういうのに興味がいってしまう。これもJ-POPとは言いづらい、つまり非J-POP的であることがアニソンに近づくタイプ。これ歌ってるNeko Jumpって本当にタイの双子ユニットなの?
四日市:Neko Jumpはアイドルファンの間では去年から話題になっていたんですよ。なにげに来日公演も済ませている。そういう文脈からの起用かと。アキバ系という単語が成立して秋葉原やオタクカルチャーを中心とした物語が一般化していく。コミュニケーション不全を歌った「片道きゃっちぼーる」の歌詞、「地軸もきっとシャキッとするよ」と、同時期に放送された『さよなら絶望先生』の「人として軸がぶれている」という同時性は同じ物語の共有を示していると思う。
ばるぼら:「片道きゃっちぼーる」はディスコミュニケーションからコミュニケーションは始まるよ、っていう2人の存在を前提にしてるのが今っぽい曲なんですよ!(絶叫)「人として軸がぶれている」は1人で思考してるだけなのが90年代っぽい。でも問題意識として言いたいことはわかる。
■アニソンの未来形
四日市:で、沢山聴いてどうでしたか?
ばるぼら:こうやって聴いていくと、時代ごとに流行りやジャンルを取り入れながら、「これってアニソン?」という範囲が広がり続けてるのがアニソンだというのがよくわかりました。そう考えた場合、「アニソン」は単独で成り立っているジャンルではなく、世の中の音楽に対する「アニソンという変奏」がある、と言えるんじゃないですか。
四日市:音楽ジャンルとしては、レイブの復権としてダブステップが生まれたように、現場から新しい様式が生まれることは期待できると思う。でも個人的にはアニメ・ソングにはメジャー感があってほしいな。ダブステップなアニソンが生まれるのはおもしろいけどそれは傍流でいいや。
ばるぼら:『東のエデン』ではOasisだってアニソンになってしまったわけだけど、なんでもアニソンとして成立できてしまう中、「じゃあアニソンってなんだ?」と改めて考えた結果、過去の様式を使ってアニソンを成立させる保守回帰っぽい動きを感じる。これってあまりにも様々なものを取り込みすぎた結果、リスナーの脳内アニソンデータベースの進化が追いついてないんだよね。J-POPの現状と同じ病理を抱えているのでは?
四日市:RadioheadもFrantz FerdinandもMr.BIGもジョン・サイクスもアニソンですよ! 洋楽はもっぱら飛び道具、インストゥルメンタルのOPと同様に「このアニメ、気合いが違うから」というサインですが、仰る事はわかります。でもアキバ系やA-POPなんて言葉も生まれて、もうアニソンは引用に頼らずともアニソンとして自立していると思う。
ばるぼら:ほう、その心は?
四日市:アニソンアーティストと呼ばれる人々がまさにそう。初音ミク曲をきっかけに火がついたSupercellや、avexでレーベルを設立した桃井はるこ。日本武道館の決まった坂本真綾はアニメファン以外の評価も高くて、「少年アリス」や「ニコパチ」が発売された頃に近所のタワレコでやたら再生されてたな。そのアーティストとして、アニソンとしての評価が、主演しているわけではない『マクロスF』の主題歌起用に繋がったんだと思う。TWO-MIXみたいに。他にもあげればキリがないほどの豊富な人材と、来るべき人材を育成する同人やニコニコ動画という市場もある。アニメは今も物語の最先端を走っているし、声優の持つ演技力や、声優的な声という記号の表現は、いまやそれ自体が曲をアニソンたらしめてしまうほど強力な諸刃の剣。
ばるぼら:それはつまり、送り手と受け手が“アニソン市場”とでもいえる場を、先に確立させていると考えているわけですね。外部からの刺激がなくても自立した場がすでにあると。あとはそこにみんなが音楽を投げれば自然と回りだすはずってことかな。
四日市:これからのアニソンが変奏ではなく主題になることを期待して、心の天使・田村ゆかりを応援していきますよ。
ばるぼら:いいこと言いそうだったのに田村ゆかりの話はやめてくれ!
構成・文=ばるぼら・四日市
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2009年・夏!休特別企連画
ばるぼら × 四日市対談『ヱヴァンゲリヲン新劇場版 : 破』
【前篇】>>>【後篇】
ばるぼら ネットワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのイ ンターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』など。なんともいえないミニコミを制作中。
「www.jarchive.org」 http://www.jarchive.org/
四日市 エヴァンゲリオン研究家。三度の飯よりエヴァが好き。クラブイベントにウエダハジメ、有馬啓太郎、鶴巻和哉らを呼んでトークショーを開いたり、雑誌に文章を載せてもらったり。プロフィール画像は昔描いた三十路魔法少女漫画。
09.10.12更新 |
特集記事
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