スナイパーアーカイブ・ギャラリー 1980年11月号【6】
スナイパーアーカイブ、今回から数回の間、当時の読者告白手記をご紹介します……。
少年の肌
「なにしにきたの。きみでしょう? へんな手紙を寄こすひとは……」
私はネグリジェの胸を合わせながら睨みつけてやりました。それにしてもよく少年は私のマンションを突きとめ、管理人のガードをくぐり抜けてやってきたものです(私のマンションは有名人が多く外来者はかんたんにはいれないのです)。
「すみません、おばさま……」
M・Tはうっすらと顔を染めて頭を下げました。
「おばさま、おばさまって気安く呼ぶのはよして。だいいち私はきみと知らないあいだだし、みんな私のことをセンセイと呼ぶのよ」
ちょっと意地悪に私はいってやりました。
「でも、ぼく、おばさまを尊敬してますから……」
「尊敬してる? 変な子ね、きみはやっぱりK高校の学生? そうでしょう……」
「はい、高2になりました。いつもあそこの公園で犬を連れて散歩しているおばさまを見ていて、すっかりファンになってしまったんです」
「私はタレントでもスターでもないわ」
「でも名のある方と思っていました。そしてある婦人雑誌でおばさまのこと知ったんです」
「ますます好きになったってわけ?」
「はい、おばさまに連れられてる犬はたいへんシアワセだと思いました。できたらぼくも犬になりたくて……」
「犬になりたいって……?」
私はふきだしてしまいたくなったのです。しかしつぎの瞬間、私は息を止めました。M・Tのしまった顔が、まぶしいくらい美しく見えたのです。
二つの目が濡れたように熱くひかり、ととのった鼻柱の下の唇は少女みたいに紅かったのです。
きっといいところの息子でしょう。あるいは私ぐらいの年輩の母親がいて、ずいぶん甘えて過保護に育てられたのでしようか。そしてその過保護の中での生活がやり切れなくなり、私のような冷たいキャリアウーヤンのところへやってきたのでしょうか。人間は往々、自分の持たないものを欲しがるものです。
私はM・Tをじっと見つめて追い返すのを止めました。ちょっぴりしたイタズラ心が、私の胸にかま首をもたげたのです。
「おばさまをからかうと承知しないわよー」
私はつよくいいました。
「真面目です、からかってなんかいません」
M・Tは真剣でした。
「ほんとに私の犬になるつもりなの?」
「はい……」
「そんならこちらへきなさい。じつは、私の愛大チロはお腹をこわしていま獣医さんのとこに預けてあるの。だからきみを犬にしてあげてもいいのよ」
私は冗談めいて、しかし相手を増長させずケジメをわきまえていいました。
「犬にしてください……」
M・Tは悲痛ともいう声をだしました。
「本気だわよ」
「本気です」
「おかしな子ね。おばさまはきびしいのよ。あとで泣いても知らないから」
「後悔しません、ぼく、おばさまを尊敬していますから……ですから召使いにしてくださいっておねがいしたんです……」
少年の目がきらきらひかり、私はなんだか変な気分になってきました。そしてからだのおくのほうが火照ってきたのです。
「なら検査してあげるわ。こっちへきて脱ぎなさい」
「検査?」
「そうよ。私のペットは純粋な優良犬でないといけないわ。そのままではわかんない、こっちへきて全部脱ぐのよ」
「は、はい……」
M・Tはさすがにうろたえたようでした。目の下が赤みをさしてからだがふるえていました。やはり恥ずかしそうでした。
「ぐずぐずしててはいけないわよ。おばさまは勇気のない子は大きらい……」
「おばさま、お願いです。あちらをむいてください」
M・Tは哀願するようにいうので私は背をむけました。背後で少年の衣服を脱ぐ音に私の胸は熱くなってきました。どんなからだをしてるのだろう?
ここしばらく私は少年のナマのハダカを見たことがなかったのです。
私の見るハダカはみんな疲れた中年のものばかりでした。去年も私は人気タレントJのステージファッションをつくるため、彼のハダカを見ましたがそれはとうてい二目と見られぬものでした。
酒と夜ふかしとそして女に荒廃している肌……私はM・Tに期待したのです。
「おばさま……」
M・Tの声に、私は胸をときめかして振り返りました。
「あ?……」
私は息を呑みました。予想以上の美しい少年の肌でした。ほっそりと生硬なくらいゼイ肉のない引き締まった少年の肌は、ミルクを塗り固めたようにしっとりと湿ってさえいました。
パリにいた頃、私はよくルーブル美術館へでかけ、あそこの地下にあるミケランジェロの大理石の彫像を鑑賞したことがありました。あのとき数百年もむかしに彫られた彫像が、まるできのうつくられたみたいにナマナマしく輝き、色気さえ漂よっていたのに感動したものでした。
M・Tの肌はそのみずみずしく洗練されたミケランジェロの作品にさえ似ていました。しかし彫刻と違って全身に、毛虫みたいな生毛が密生していて、それがふるえているのです。
私が感歎しなからぷわーつと息を吹っかけると生毛がさわさわとそよぎ、あたりがぼーっとピンク色に染まったのです。
読者告白手記 犬になった美少年 第三回 投稿=大西恵美香(仮)36歳デザイナー 美少年の初々しい一物を苛めると私のスキャンティはびっしょりでした…… |
スナイパーアーカイブ、今回から数回の間、当時の読者告白手記をご紹介します……。
少年の肌
「なにしにきたの。きみでしょう? へんな手紙を寄こすひとは……」
私はネグリジェの胸を合わせながら睨みつけてやりました。それにしてもよく少年は私のマンションを突きとめ、管理人のガードをくぐり抜けてやってきたものです(私のマンションは有名人が多く外来者はかんたんにはいれないのです)。
「すみません、おばさま……」
M・Tはうっすらと顔を染めて頭を下げました。
「おばさま、おばさまって気安く呼ぶのはよして。だいいち私はきみと知らないあいだだし、みんな私のことをセンセイと呼ぶのよ」
ちょっと意地悪に私はいってやりました。
「でも、ぼく、おばさまを尊敬してますから……」
「尊敬してる? 変な子ね、きみはやっぱりK高校の学生? そうでしょう……」
「はい、高2になりました。いつもあそこの公園で犬を連れて散歩しているおばさまを見ていて、すっかりファンになってしまったんです」
「私はタレントでもスターでもないわ」
「でも名のある方と思っていました。そしてある婦人雑誌でおばさまのこと知ったんです」
「ますます好きになったってわけ?」
「はい、おばさまに連れられてる犬はたいへんシアワセだと思いました。できたらぼくも犬になりたくて……」
「犬になりたいって……?」
私はふきだしてしまいたくなったのです。しかしつぎの瞬間、私は息を止めました。M・Tのしまった顔が、まぶしいくらい美しく見えたのです。
二つの目が濡れたように熱くひかり、ととのった鼻柱の下の唇は少女みたいに紅かったのです。
きっといいところの息子でしょう。あるいは私ぐらいの年輩の母親がいて、ずいぶん甘えて過保護に育てられたのでしようか。そしてその過保護の中での生活がやり切れなくなり、私のような冷たいキャリアウーヤンのところへやってきたのでしょうか。人間は往々、自分の持たないものを欲しがるものです。
私はM・Tをじっと見つめて追い返すのを止めました。ちょっぴりしたイタズラ心が、私の胸にかま首をもたげたのです。
「おばさまをからかうと承知しないわよー」
私はつよくいいました。
「真面目です、からかってなんかいません」
M・Tは真剣でした。
「ほんとに私の犬になるつもりなの?」
「はい……」
「そんならこちらへきなさい。じつは、私の愛大チロはお腹をこわしていま獣医さんのとこに預けてあるの。だからきみを犬にしてあげてもいいのよ」
私は冗談めいて、しかし相手を増長させずケジメをわきまえていいました。
「犬にしてください……」
M・Tは悲痛ともいう声をだしました。
「本気だわよ」
「本気です」
「おかしな子ね。おばさまはきびしいのよ。あとで泣いても知らないから」
「後悔しません、ぼく、おばさまを尊敬していますから……ですから召使いにしてくださいっておねがいしたんです……」
少年の目がきらきらひかり、私はなんだか変な気分になってきました。そしてからだのおくのほうが火照ってきたのです。
「なら検査してあげるわ。こっちへきて脱ぎなさい」
「検査?」
「そうよ。私のペットは純粋な優良犬でないといけないわ。そのままではわかんない、こっちへきて全部脱ぐのよ」
「は、はい……」
M・Tはさすがにうろたえたようでした。目の下が赤みをさしてからだがふるえていました。やはり恥ずかしそうでした。
「ぐずぐずしててはいけないわよ。おばさまは勇気のない子は大きらい……」
「おばさま、お願いです。あちらをむいてください」
M・Tは哀願するようにいうので私は背をむけました。背後で少年の衣服を脱ぐ音に私の胸は熱くなってきました。どんなからだをしてるのだろう?
ここしばらく私は少年のナマのハダカを見たことがなかったのです。
私の見るハダカはみんな疲れた中年のものばかりでした。去年も私は人気タレントJのステージファッションをつくるため、彼のハダカを見ましたがそれはとうてい二目と見られぬものでした。
酒と夜ふかしとそして女に荒廃している肌……私はM・Tに期待したのです。
「おばさま……」
M・Tの声に、私は胸をときめかして振り返りました。
「あ?……」
私は息を呑みました。予想以上の美しい少年の肌でした。ほっそりと生硬なくらいゼイ肉のない引き締まった少年の肌は、ミルクを塗り固めたようにしっとりと湿ってさえいました。
パリにいた頃、私はよくルーブル美術館へでかけ、あそこの地下にあるミケランジェロの大理石の彫像を鑑賞したことがありました。あのとき数百年もむかしに彫られた彫像が、まるできのうつくられたみたいにナマナマしく輝き、色気さえ漂よっていたのに感動したものでした。
M・Tの肌はそのみずみずしく洗練されたミケランジェロの作品にさえ似ていました。しかし彫刻と違って全身に、毛虫みたいな生毛が密生していて、それがふるえているのです。
私が感歎しなからぷわーつと息を吹っかけると生毛がさわさわとそよぎ、あたりがぼーっとピンク色に染まったのです。
(続く)
07.05.09更新 |
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