スナイパーアーカイブ・ギャラリー 1981年1月号【3】
法廷ドキュメント ベージュ色の襞の欲望 第二回 文=法野巌 イラスト=笹沼傑嗣 成男は些細な事で激情し、冷酷非情の行動をとった。 |
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性交時の首締め
成男が10歳になったある冬の晩、彼は大人の本物の性交を目撃する。この時のショックは大きく、彼の精神形成に多大の影響を与えたものと思われる。
父親は日本酒を銚子で七本ほど空にし、鼾をかいて眠りこけていた。成男は尿意を感じ、床を離れ、廊下の突き当たりのすぐ左にある便所へ行こうと番頭部屋の扉を開き、薄暗い廊下を歩き出した。成男の部屋から二部屋ほど離れた客室から明りが漏れていた。時間は12時を少し回った頃である。
成男は、子供心にも何となく淫靡な臭いをかぎ、足音を消して、明りの中を覗き込んだ。扉は襖一枚だけであった。どうやら襖と柱との立て付けが悪く、足元の方向は幅にして2センチメートルほどの隙間が出来ていた。 |
中を覗き込んだ成男は、思わずアッという声をたてそうになった。裸電球の光に照らし出された男女の剥き出しの下半身。男は女をしっかりと組み伏せ、女の太股の間に腰を割り込ませ、その逞しい尻を見事なまでに突きたてていた。
女は男の腰の動きに合わせて善がり声をたてていた。どうやら声からして女中の時子らしかった。男は夕方からの客であった。男の誘いに応じて、時子は部屋を訪れたのであろう。 子供2人を母親に預け、旅館で女中をしている時子は30代後半の女であった。夫は成男の父の場合とは逆に、時子を捨てて東京の方にいるらしい。熟れ盛りの時子は、だから孤閨を守る身であった。男に誘われ、肉の喜びを求めても非難されることではない。 |
男は腰を使いながら、両の手で巧みに乳房を弄んでいた。時子は、成男がまだ一度も聞いたことのない調子の声で、快感を肯定する言葉を吐いていた。
成男はこの時まで、時子を母親のように考えていた。時子も、成男のことを母親のいないかわいそうな子と同情しているのか、よく可愛がってくれていた。
母親と思っていた時子の性交の姿は、成男には衝撃の強すぎる光景であった。
金縛りにあったように、隙間から二人の獣のような姿勢を見つづけていた成男は更に激しい衝撃を覚えた。男は時子の首を両方の手で締め出したのだった。
「殺される!」
だが、男の首締めは30秒ほどで終わった。二人はやがて、「ああっ」とか「いく」とかの言葉を発した後、折り重なるようになって静かに、動かなくなった。
それから2〜3分もたった頃であろうか。時子が、「よかったわ」と男に言うのが聞こえた。
何! あれがよかったのか。
成男の頭の中はがんがんと音をたてて、今にも壊れるのではないかと思うほど血が騒いでいた。
これが成男が性交を見た初めての時であり、又、性交時の首締めを見た初めての時であった。
(続く)
07.05.24更新 |
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