スナイパーアーカイブ・ギャラリー 1981年1月号【7】
法廷ドキュメント ベージュ色の襞の欲望 第五回 文=法野巌 イラスト=笹沼傑嗣 成男は些細な事で激情し、冷酷非情の行動をとった。 |
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逮捕
まさに地獄図のような有様であった。
被害者である女性の腹部は真横に切り裂かれ、小陽が飛び出していた。それは、ソーセージを何本かつなぎ合わせたかのような形で腹部の筋肉の間から外に、2〜3メートルの長さで飛び出していた。
又、女の右の乳房もその麓の部分から決りとられていた。女の体から噴き出した血は部屋中に飛び散り、異様な臭気が室内に充満していた。
捜査本部が直ちに設置され、早速犯人追及の布陣が敷かれた。
被害者は、浅草のキャバレーホステスであった。どうやら男とは閉店後のつき合いで、旅館に入ったのであろう。幸いなことにこの事件では、目撃者があった。2人を部屋に案内した従業員である。商売上、客の顔を直視するようなことはしないが、それでも客に気付かれないように、顔や、服装などを点検するのはこの種の商売のイロハである。
従業員が本部に呼ばれ、モンタージュ写真の作成が行なわれた。
出来あがった写真が早速前科者達の記録と照合された。似ているものとして、10人ほどがピックアップされた。従業員の記憶に基づくモンタージュは、その点、犯人を特定出来るほどの正確さはなかった。が、これである程度の指針をたてることが出来る。この10人ほどの中に箱崎成男が含まれていた。
捜査本部では、3カ月ほど前におこった、隣接署管内の飲み屋のおかみ殺人事件との関連性が指摘された。ひょっとすると、その事件も同一犯人によって引き起こされたのではないかというのである。モンタージュによって、名前のあげられた10人ほどについて、早速捜査が始められた。
まず、事件当日のアリバイの有無である。アリバイが成立したものが7人あった。残るのは3人である。この3人については、すべて所在が不明なため、アリバイを調べようにも調べられないのである。
捜査員は女の勤めていたキャバレーに行って、残る3人の顔写真を同僚ホステスに示し、事件の夜、この3人の中に店に来たものがいるかどうかを確認した。その結果、被害者と一緒に席についたホステスが、箱崎成男を、どうもこの人に似ていたような人が来たと思うとの供述をした。ただ、彼女は断定することはしなかった。
それも無理はないことである。一般に水商売の世界に働くものは、客の顔をよく覚えているものであり、なかには、半年ほど前に1回だけ見た客の顔を覚えているというようなこともある。
だが、被害者の働いていたキャバレーは、いわゆるピンクキャバレーであり、店内は相当に暗くしてあり、その明るさの下で見た顔をはっきりさせろといっても酷な注文である。捜査本部は残り3人の行方の追及に全力をあげた。ほぼこの3人に対象を絞ったようであった。
成男を除いた2人の重要参考人はその後、警察の必死の捜査により、所在が判明し、アリバイも立証された。残るのは成男1人であった。
だが、成男の行方はその後もつかむことが出来なかった。
半年が経過した。依然成男の手がかりはつかめなかった。
捜査本部にようやく焦燥の色が浮かんできた。
2度めの事件と同様の事件が発生したのである。しかも発生した場所は都内であった。
その手口は、キャバレーホステス殺しの場合と同じであった。違うのは今回は、被害者は殺害を免れたことであった。腹部刺創により重傷を負った被害者の回復を待って事情聴取か開始された。
成男の写真を見せられた被害者は一目見て犯人である旨断定した。これでほぼ前回のキャバレーホステス、今回のキャバレーホステス事件の犯人は成男であることが裏付けられた。
合同捜査本部は成男を全国に指名手配した。逮捕されたのはそれから1週間後、名古屋の簡易旅館に泊っているところであった。
(続く)
07.05.28更新 |
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