法廷ドキュメント されど俺の日々
逆上と衝動の法廷ドキュメント、第八回をお届けいたします。
襲撃
ニッサンローレル二〇〇〇CCのドアがいきなり開けられ、人相の悪い男が酒臭い息を吐き出しながら、強引に座席に割り込んだ。
「おい、お前ら、お楽しみじゃないか。ええ、こんな若いのに気分出しやがってよお、俺にも手伝わせてもらおうか」
驚いたのは二人である。
人目が無いものとばかり思っていたのに、どうやら先ほど以来二人の行為は覗かれていたらしい。
「あ、あなたは誰です、失礼な」
「何を!このチンピラ学生め、こんな若い娘さんをたぶらかしやがって」
「た、たぶらかすとは何事ですか。僕らは愛し合っているのです。冗談を言わないで下さい」
「何を!」
男はいきなりズボンのポケットからジャックナイフを取り出した。
鋭い刃が夜間照明燈の光を反射させていた。
「ひえっ」
二人は同時に叫んだ。
「おい、死にたくなかったら、俺の言うとおりにしな」
どうやら相手は極めつき粗暴な性格異常者らしい。
これ以上抵抗したり機嫌を損ねるとどんな仕打ちを受けるかもわからないという恐怖感が、一雄を金縛りにしてしまった。
男はそんな一雄の様子を見て美代子を後部座席に押し込み自分も後ろに移った。
そしてナイフの刃を一雄の頬にピシャピシャと音をたてながら叩きつけ、
「おい、俺の言うとおりにしないと、女もお前も命はないからな。俺は前科三犯だ。刑務所なんか少しも恐くない男だよ、よく覚えておけよ」
男は、××山へ車を走らせるように命じた。
××山は、町の外れ、五キロメートルほどの所にある山で夜は勿論、昼間も人影のあまり無い寂しい所であった。
そんなところではあるが、山奥にダムがあるため道路はよく整備され、車でも相当深部まで乗り入れることが出来た。
一雄はそんなところへ男を乗せていったら、何をされるかわからないと一瞬ちゅうちょしたが、「おい、聞こえないのか」というドスの効いた男の声を耳にすると、拒絶する勇気も消え去りあとは男の言いなりだった。
山への途中、後部座席からは美代子の、
「嫌、やめて」
とか、
「助けて一雄さん」
とか助けを求める声が聞こえてきた。
男は、美代子の体を奔りものにしているようだった。
その証拠に、
「へっ、よく濡らしやがって」
と男が卑猥な科白を吐いているのが聞こえてきたのだった。
一雄が男の言うままに山の中腹までローレルを乗り入れ、道路から外れた人の気配の全く感じられない窪地に停車させた時、美代子は既にスカートやパンティ類はすべて剥ぎ取られ下半身をむき出しにされていた。
美代子は泣いていた。
時々、
「一雄さん、一雄さん」
と一雄の名前を呼んだ。
どうやら男から何か猥藝な攻撃を加えられるたびに反射的に彼の名前を呼び、虚しい助けを求めているようだった。
山腹に入ってから一雄と美代子はこの世で起こり得る最も悲惨な体験を強いられることになった。
男は車を停車させると、美代子を座席に押し倒し、片足を前の座席に掛けさせ、残りの片足は座席の上に置き、膝を立てさせて両足の間に広い角度を持たせた。
室内燈のオレンジ色の淡い弱い光ではあったが他に全く光の無い所では美代子の秘所を男の目にさらすのに十分であった。
「おい、見ていろよ、目をそらせたりすると女の顔に傷がつくぞ」
男は一雄に、これから男が美代子に加える凌虐の振る舞いを見ることを要求した。
一雄の頭は、恐怖の極みにあった。
だから、後になって、この時のことを思い返してみても一雄は自分のとった行動が仕方の無いものだったのか、男として許すことの出来ない卑怯なものだったのか判断することは出来なかった。
つまり、一雄は男がその後二時間にわたり美代子を思いのままに犯す場面を一部始終見ていたのだった。
男の能力は異常だった。
一雄の記憶にあるだけで、男は実に美代子の体内に、七回の射出をした。
男の激しい腰の動き、美代子の荒い息づかいを目にし耳にしているうちに一雄は、次第におぞましい快感の波に襲われ、遂にズボンの中に精を吐出してしまった。
男は二時間にわたる凌虐行為の後、一雄に対し美代子と交わることを命じた。
流石に一雄はこれを拒絶した。
それだけのプライドはまだ彼にも残っていた。
「何を、生意気な」
男は一雄を自動車から引きずり出し、殴り倒した。
何発かを頭に受けているうちに、一雄は次第に意識が遠いものになって行くのを感じていた。
――俺の一生は終わった。
そう考えたことを後で一雄は思い出した。
正太には懲役十年が言い渡された。
美代子が自殺したのは判決の言い渡しがあった日の夕方であった。
酩酊運転をし、ダンプカーと衝突、即死に近い状態であった。
一雄が美代子の後を追ったのはそれから一週間後だった。
正太は今も刑務所で、健康すぎる肉体をもて余している。
法廷ドキュメント されど俺の日々 第七回 文=法野巌 イラスト=笹沼傑嗣 次々と凶悪な犯罪を繰り返す正太の犯罪者的性格は中学の頃から如実に現れていた。 |
逆上と衝動の法廷ドキュメント、第八回をお届けいたします。
襲撃
ニッサンローレル二〇〇〇CCのドアがいきなり開けられ、人相の悪い男が酒臭い息を吐き出しながら、強引に座席に割り込んだ。
「おい、お前ら、お楽しみじゃないか。ええ、こんな若いのに気分出しやがってよお、俺にも手伝わせてもらおうか」
驚いたのは二人である。
人目が無いものとばかり思っていたのに、どうやら先ほど以来二人の行為は覗かれていたらしい。
「あ、あなたは誰です、失礼な」
「何を!このチンピラ学生め、こんな若い娘さんをたぶらかしやがって」
「た、たぶらかすとは何事ですか。僕らは愛し合っているのです。冗談を言わないで下さい」
「何を!」
男はいきなりズボンのポケットからジャックナイフを取り出した。
鋭い刃が夜間照明燈の光を反射させていた。
「ひえっ」
二人は同時に叫んだ。
「おい、死にたくなかったら、俺の言うとおりにしな」
どうやら相手は極めつき粗暴な性格異常者らしい。
これ以上抵抗したり機嫌を損ねるとどんな仕打ちを受けるかもわからないという恐怖感が、一雄を金縛りにしてしまった。
男はそんな一雄の様子を見て美代子を後部座席に押し込み自分も後ろに移った。
そしてナイフの刃を一雄の頬にピシャピシャと音をたてながら叩きつけ、
「おい、俺の言うとおりにしないと、女もお前も命はないからな。俺は前科三犯だ。刑務所なんか少しも恐くない男だよ、よく覚えておけよ」
男は、××山へ車を走らせるように命じた。
××山は、町の外れ、五キロメートルほどの所にある山で夜は勿論、昼間も人影のあまり無い寂しい所であった。
そんなところではあるが、山奥にダムがあるため道路はよく整備され、車でも相当深部まで乗り入れることが出来た。
一雄はそんなところへ男を乗せていったら、何をされるかわからないと一瞬ちゅうちょしたが、「おい、聞こえないのか」というドスの効いた男の声を耳にすると、拒絶する勇気も消え去りあとは男の言いなりだった。
山への途中、後部座席からは美代子の、
「嫌、やめて」
とか、
「助けて一雄さん」
とか助けを求める声が聞こえてきた。
男は、美代子の体を奔りものにしているようだった。
その証拠に、
「へっ、よく濡らしやがって」
と男が卑猥な科白を吐いているのが聞こえてきたのだった。
一雄が男の言うままに山の中腹までローレルを乗り入れ、道路から外れた人の気配の全く感じられない窪地に停車させた時、美代子は既にスカートやパンティ類はすべて剥ぎ取られ下半身をむき出しにされていた。
美代子は泣いていた。
時々、
「一雄さん、一雄さん」
と一雄の名前を呼んだ。
どうやら男から何か猥藝な攻撃を加えられるたびに反射的に彼の名前を呼び、虚しい助けを求めているようだった。
山腹に入ってから一雄と美代子はこの世で起こり得る最も悲惨な体験を強いられることになった。
男は車を停車させると、美代子を座席に押し倒し、片足を前の座席に掛けさせ、残りの片足は座席の上に置き、膝を立てさせて両足の間に広い角度を持たせた。
室内燈のオレンジ色の淡い弱い光ではあったが他に全く光の無い所では美代子の秘所を男の目にさらすのに十分であった。
「おい、見ていろよ、目をそらせたりすると女の顔に傷がつくぞ」
男は一雄に、これから男が美代子に加える凌虐の振る舞いを見ることを要求した。
一雄の頭は、恐怖の極みにあった。
だから、後になって、この時のことを思い返してみても一雄は自分のとった行動が仕方の無いものだったのか、男として許すことの出来ない卑怯なものだったのか判断することは出来なかった。
つまり、一雄は男がその後二時間にわたり美代子を思いのままに犯す場面を一部始終見ていたのだった。
男の能力は異常だった。
一雄の記憶にあるだけで、男は実に美代子の体内に、七回の射出をした。
男の激しい腰の動き、美代子の荒い息づかいを目にし耳にしているうちに一雄は、次第におぞましい快感の波に襲われ、遂にズボンの中に精を吐出してしまった。
男は二時間にわたる凌虐行為の後、一雄に対し美代子と交わることを命じた。
流石に一雄はこれを拒絶した。
それだけのプライドはまだ彼にも残っていた。
「何を、生意気な」
男は一雄を自動車から引きずり出し、殴り倒した。
何発かを頭に受けているうちに、一雄は次第に意識が遠いものになって行くのを感じていた。
――俺の一生は終わった。
そう考えたことを後で一雄は思い出した。
正太には懲役十年が言い渡された。
美代子が自殺したのは判決の言い渡しがあった日の夕方であった。
酩酊運転をし、ダンプカーと衝突、即死に近い状態であった。
一雄が美代子の後を追ったのはそれから一週間後だった。
正太は今も刑務所で、健康すぎる肉体をもて余している。
07.08.15更新 |
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