毎週土曜日更新! The dancing girls are in full bloom at their best.
咲きほころぶ踊り子たちの肖像 舞姫爛漫 第13回 「浅葱アゲハ」 【1】
写真・文・インタビュー=インベカヲリ★
モデル=浅葱アゲハ
ストリップ劇場でのストリップショー。黄金時代は過ぎたといえ、根強いファンはいまも劇場に通っています。そして踊り子たちもまた踊り続けているのです。そんな彼女たちの姿を追う「舞姫爛漫」第13回、浅葱アゲハさんです!
基本的には人の輪に入りたかったんだと思う
入りたかったけど、入ったら色々しんどいし、嫌だなあみたいな
一人ぼっちの少女
入りたかったけど、入ったら色々しんどいし、嫌だなあみたいな
浅葱アゲハは空中パフォーマーだ。天井からぶら下がる縄を使い、片足一本で逆さになる自吊りは見事なもので、しかもウェスト40センチの細すぎる身体にダビデ像のごとく筋肉が盛り上がっている。アスリート同様、強い意志と過酷な練習の上で成り立つ技と肉体であろうことは間違いなく、私は楽しみにしながらインタビュー場所に向かった。
待ち合わせから一時間が過ぎた頃、髪もボサボサでスッピンの浅葱アゲハは、「すみません」を10回くらい言いながら申し訳なさそうに現れた。青白い顔にメガネをかけたその姿は、スポーツマンというより虚弱体質。文化系女子といったルックスに見入ってしまうと、彼女はポワンとした目で見つめ返し「はい……」と蚊の鳴くような声でつぶやいた。
「寝起きの浅葱アゲハを見れるって、なんだかレアな感じがしますねえ」
思ったままのことを言ってみると、彼女は首を横に振った。
「いえ、ステージ始まる前とかいつもこんな感じなので、全然レアじゃないですよ」
か細い指で寝起きの一服なのか、タバコを吸い始める。が、それで頭が切り替わるわけではなさそうだ。どうやらこれが彼女の素であるらしい。
「ショーをやり始める前ですか? インドア派なんで、ダンスとかも全然したことなくて。運動神経すごい悪いんですよ。だから体育の成績はビリくらいの感じで、通知表は1とか2でした。自分がショーに出ることなんか考えたこともないような生活だったんで」
浅葱アゲハは、さも当たり前といった風に答えた。
「たぶんこれ、後で聞かれるだろうなと思うので先に言っちゃうんですけど、自分を痛めつける手段を考えたときに、SMだったら出来るんじゃないかしらって思ったんです。誰かを介して自分が痛みをもらえるみたいな。で、SMのショーパブで働いたのがきっかけなんです」
空中パフォーマーである以前に、M女としての顔も持つ浅葱アゲハは、縄師である長田スティーブとのコンビで緊縛ショーも行なっている。M女と聞くと、私はどうしても不幸な生い立ちの子が多いように感じてしまう。
「子供の頃から、全般的にいって目立たない子。おとなしいというより存在感がない。今もですけど、なんか居ても気づかないみたいな。友達も少なかったです。体育で組体操をしても、組む相手もいなかったりとか。チームダンスのクラスがあったんですけど、もう出来ないし恥ずかしいし、人と一緒だと動けなくなっちゃうんですよ。萎縮しちゃって、萎縮しちゃって。それでも苛められなかったのは、苛める価値もなかったから」
浅葱アゲハは、自虐的に自分の幼少時代を話した。「今も」という言葉がどうにも引っかかるが、どうやら彼女は今でも自分が存在感のない人間だと思っているらしい。
「もともと、自分が人の輪に入れないみたいな意識はあって、居心地悪いなとかしんどいなっていうのがずっとあったんです。中学と高校のときは、入学すると最初に先生のところへ行って、卒業に必要な出席日数を聞いて、それできっちり3分の1学校を休みました。それぐらい嫌だったんです」
学校を休んだ日は、散歩をしたりお茶を飲んだり映画を観たりして過ごした。非行に走るでもなく、夜遊びをするわけでもない。授業を受けないぶん、きちんと家で勉強をした。
「基本的には人の輪に入りたかったんだと思う。入りたかったけど、入ったら色々しんどいし、嫌だなあみたいな。他の人が話してると『あれ私のこと悪く言ってるのかな』と思っちゃって。その状況がしんどくて、人の中にいたくないのかも」
本当に人の輪に入りたいと思っていたら、きっと人間関係に執着し、不器用な人間は苛められていただろう。しかし浅葱アゲハの場合はそこに執着せず、あっさりと身を引いた。あまりにも早くコミュニケーションを諦めた少女は、一人ぼっちで成長した。
浅葱アゲハの腕には無数の傷痕がある。ショーのときにも隠していない、縦にスカーっと切り込まれたその傷痕は、壮絶な過去のリストカットであることを思わせた。
「昔の傷です。ショーを始めてからはやらなくなったんですけど。高校生のとき何かのきっかけで腕をケガしてしまって。痛かったんですけど、その痛みで気が紛れるみたいに思って、それから一時期自分で自分を傷つけるようになりましたね」
「リストカット」などという言葉も知らないままに、彼女は自然と腕を切り始めた。それは日に日に止められなくなっていき、大学生になる頃にはさらに深く切り始めた。
「小さい頃から、自分が恥ずかしいって意識がずーっとあって。それは何でかちょっとわからないんですけど。誰かと組んで協力しあわないといけない場で、すごい萎縮しちゃって、自分がそこにいるのがもう許せないみたいな。とにかく自分が嫌で嫌で。たぶんリストカットはそれの延長線上だったんだと思います」
コミュニケーションが苦手でほとんど放棄して生きてきた。それでも高校や大学にきちんと進学する彼女が、逆に不思議だった。
「そうですね。でもなんか卒業はしなきゃ、大学は行かなきゃっていうのはあったので。勉強は嫌いじゃないんです」
浅葱アゲハはとても真面目でマイペースな人間に見えた。「自分が恥ずかしい」といいつつも、自意識がほとんど感じられないのだ。
(続く)
浅葱アゲハ
2003年6月よりSMショーに出演、2004年4月21日九条OSのSM興行にて劇場デビュー。緊縛師・長田スティーブとの緊縛ショー、またソロの出演では空中パフォーマンスをメインとして演出がなされた演目を行なっている。鍛え抜かれたスレンダーな肢体が宙に浮いたまま披露されるステージは必見だ。劇場のほかクラブイベントなどにも精力的に出演しており、ステージを見ることができる。
A-GEHA.COM Asagi Ageha Official Website
-浅葱アゲハ公式サイト-
香盤情報
船橋ニュー大宝
2月1日ー2月10日
撮影=インベカヲリ★
モデル=浅葱アゲハ
取材協力=西川口テアトルミュージック
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10:00-19:00(最終日は16:00まで)
会場:ニコンサロンbis 地図
(東京都新宿区西新宿1-6-1新宿エルタワー28階 ニコンプラザ新宿内)
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2009年1月22日(木)〜1月28日(水)
11:00〜19:00(最終日は15:00まで)
会場:ニコンサロンbis大阪 地図
(大阪市北区梅田2-2-2ヒルトンプラザ ウエスト・オフィスタワー13階 ニコンプラザ大阪内)
※受賞作品展につき、
以前開催の同名作品展と同内容になります
インベカヲリ★ 東京生まれ。編集プロダクション、映像制作会社勤務を経てフリー。写真、文筆、映像など多方面で活動中。著書に「取り扱い注意な女たち」。趣味は裁判傍聴。ホームページでは写真作品を随時アップ中。 インベカヲリ★ http://www.inbekawori.com/ |
09.01.24更新 |
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