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フランス人ジャーナリストのエロティック比較文化論
気鋭の女性フランス人カウンターカルチャー専門ジャーナリスト、アニエス・ジアールが、「奇妙で豊穣な性文化」について日本の様々な文化的側面から掘り下げていくユニークな比較文化論。今回はかつて日本最大級の遊郭街として知られた飛田新地を訪ね、日本とフランスにおける売買春の考え方の違いに思いを馳せていきます。
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フランスの売買春に関する法によると、男性も女性も、身体が健康である限り、自身の身体を、自由に使用してよいことになっている(フランスでは血や臓器を売買することは禁止されている)。
よって、男も女も快楽を与えるために身体を売ることは可能である。

しかしながら、法は多くのことを禁止しており、フランスで売春婦として働くことは、以下の理由によってほぼ不可能である。つまり、

1.刊行物や道端に貼るチラシに売春婦の名前や電話番号、「特技」、価格などを掲げてはならない。

2.路上で顧客に電話することは禁止されている(ただし、警官が黙認するパリのセントデニス通りのような場所は例外)。

3.路上で、客引きするために売春婦めいた装いをしてはならない。たとえ何も言わずに男を待っているだけでも、売春婦に見えるような服装は禁止されている、それは「邪悪な誘惑」とみなされる。

4.第三者に顧客を見つけたり、約束を取り付けるよう頼んではならない。第三者に謝金を渡せば、その人物は「ポン引き」として刑務所に送られることになる。それが電話による秘書業務であっても例外ではない。

5.第三者に売春行為を宣伝するウェブサイトの作成を依頼してはならない。売春婦から謝金を得たものはみな「ポン引き」として刑務所に送られる。

6.売春婦と金銭的に関わることは許されない。
たとえば、売春婦にホテルの部屋を貸すこと、エスコートガールの代理店を作ること、他の売春婦と組んで「セクシーチーム」を作ることなどは禁止されている。ゆえにフランスでは売春婦は一人で行動し、車や駐車場、森など、おかしな(もしくは危険な)場所で営業する。

7.売春婦の夫やボーイフレンドが自身の職を持っていない場合は、刑務所に送られることがある。また売春婦の子供でさえ、成人していながら、母親の金銭に頼っている場合は「ポン引き」とみなされる場合がある。彼らは働き、独立して住まなければならない。この法は女性をポン引きから守るために作られた。

このように、フランスでは書類上、売買春は合法である。しかし事実上、売春婦として働くことは不可能である。

日本では、逆である。

売買春は禁止されている。しかしどこにでもコールガールや売春婦がいる。それは法が「ガールフレンドの代理店」やソープランド、ホストクラブなどを容認しているからである。公的には、これらの場所では"本番"は起こらないことになっている。表向きは、客は彼女たちと会い、キスし、風呂に入り、シャワーを浴び、酒を飲んだり、会話を楽しむだけだ。
何かそれ以上のことが起これば、それは"私生活"の範疇なのだ。

売買春に関して、日本で最も驚くべき場所は飛田新地である。ここは日本において"本番"が合法である唯一の場所である(※編註)。ここはまるで大正時代からの古い旅館がたくさんある一画のようだ。時間から取り残され、一般的な決まりごとからも隔絶された場所である。

アクセス:JR天王寺駅、もしくは御堂筋線「動物園前」駅から徒歩10分。
このエリアは日本で最も大きな遊郭街である。





これが飛田新地に到着するまでの様子である。とても古びて陰気な場所だ。

しかし現地へと到着するやいなや! それはとても美しい場所になる。




置屋は木製の美術品をあしらった古い旅館のようであり、美しい女の子たちが客を待っている。彼女たちの可愛いらしい顔は鮮やかな照明のもとで輝いている。頬は紅潮し、完璧な化粧をほどこして、とても優しげに微笑んでいる。彼女たちはまるで天使のように見える。ここでは20分が1万円ほどする。日本で最も高額な売買春のうちのひとつである。

写真を撮ってもよいかと尋ねると、親切な女性がいいよと言ってくれた。その時、玄関付近に女の子はいなかったからだ。女の子たちの写真を撮ることは禁止されている。





飛田新地近くに、現在は料亭となっている古い元妓楼がある。「鯛よし百番」である。





大正時代に遊郭として建てられた。
現在も当時の面影を残しており、現在は有形文化財として登録されている。
住所:大阪市西成区山王3−5−25

この料亭の中に入ると、昔ながらの遊郭の美を感じられる。





多くの遊郭は非常に美しく、芸術的で、非現実的で、豪華な場所であった。日本の売買春は、たとえたった"20分の本番"であっても、歴史と地続きだ。飛田新地界隈の壁に、「覚」と書かれた漢字を見つけた。これは「覚えていること、目覚めること、自覚する」ことを意味する。日本ではセックスは夢のようなものだ、つまり魅惑的で、ノスタルジックで、覚醒を可能たらしめるところなのだ。


文=アニエス・ジアール
翻訳=前田マナ

※編註 " 本番" が合法である唯一の場所  2010年1月20 日、飛田新地内で料理店を装った売春営業を行なったとし、売春防止法違反の容疑で2人を逮捕、と報道された


Tobita Shinchi

In France, the law about prostitution says women/men are free to use their bodies as they want, as long as this body stays healthy (it's forbidden to sell your blood or your organs in France).
Women/men can sell their bodies for giving pleasure.

BUT, the law forbids so many things, that it's nearly impossible to work as a prostitute in France:

1/ It's forbidden to publish advertisement in press or to put flyers in the street with the name of the prostitute, her phone number, her "specialities" or her prices.

2/ It's forbidden to call for customers in the street (except in some places such as St. Denis street in Paris, because policemen close the eyes on this business).

3/ It's forbidden to dress like a prostitute in order to find customer in the street. Even if you stay silent and just wait for men, you must not look like a prostitute, because it's considered like "bad temptation".

4/ It's forbidden to ask someone to find clients or arrange appointments for you. If you pay someone to help you, this person will go to prison as "pimp". Even if it's a phone secretary.

5/ It's forbidden to pay someone who will help you make a website for your activities as a prostitute. All the people who are paid by prostitutes are "pimps" and go to prison.

6/ It's forbidden to be involved in anything financial with a prostitute.
For example: it's forbidden to rent a hotel room to a prostitute. It's forbidden to create a escort-girl agency. It's forbidden to work with another prostitute and create a "sexy team". This is why French prostitutes always work alone, and in strange (or dangerous) places such as cars, parking or forests.

7/ When you are the boyfriend or the husband of a prostitute, you can be put in jail if you don't have your own job. Even the children of a prostitute can be considered as "pimps" if they are adult and if they use their mother's money. They must work and have their own apartment. This law was created in order to protect women from pimps.

In France, prostitution is legal on paper. But in fact, it's completely impossible to work as a prostitute.

In Japan, it's the contrary.

Prostitution is forbidden. But there are call-girls and prostitutes everywhere, because the law allows "girlfriend agencies", soap-lands or host clubs. Officially, in these places, "honban" does not happen. Officially, clients only pay for meeting, kisses, bath, shower, drink or conversation.
If something else happens, it's "private life".

The most incredible place related to prostitution in Japan is Tobita-Shinchi. It's the only place in Japan where "honban" is legal. It's like a square of very old "ryokan", from Taisho "jidai". It's a space out of time, out of usual rules.

Access: 10 mins walk from Tennouji-station (JR) / Doubutsu en mae station (Midousuji-line)

This area used to be the biggest "yukaku" area in Japan.

This is what it looks like, before arriving to Tobita Shinshi. A very old and gloomy place.

But, when you arrive in Tobita Shinshi, it becomes very beautiful !

The houses are like old "ryokan", with wood artwork. In the entrance, beautiful girls are waiting for clients. Their kawaii faces shine under vivid lights. They have glowing and perfect make-up. They smile kindly. They look like angels. Here, it costs around 10,000 yens for 20 mins. It's one of the most expensive prostitution of Japan.

We asked for agreement to take photos. A very kind woman said "Yes", because
there were no girls in the entrance. It's forbidden to take photos of the girls.

Near Tobita Shinshi, there is an old prostitution house which is now a restaurant: TAIYOSHI HYAKUBAN
It was built in Taisho-period as a "yukaku".
It still has an atmosphere of that time and it is now registered as Japanese Cultural Heritage.
Address; 3-5-25 San noh, Nishinari-ku, Osaka-shi.

Inside this restaurant, you can feel the beauty of the ancient "yukaku".

Many "yukaku" used to be very beautiful, artistic, surreal and luxurious places. Japanese prostitution is still linked to the past, even if it's only for a "20 mins honban".
On the walls around Tobita Shinshi, we found this "kanji". It means "remember, awake, learn". In Japan, sex is like dream: it's a feerical place, a nostalgic place, where you can open your eyes.

text=AGNES GIARD

アニエス・ジアール最新刊『エロティック・ジャポン』(河出書房新社)発売!!


『エロティック・ジャポン』

著者: アニエス・ジアール
翻訳: にむらじゅんこ
発売: 2010年12月22日
定価: 3,990円(本体3,800円)
ISBN: 978-4-309-24534-8
出版社:河出書房新社

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nurekiplof.jpg
アニエス・ジアール - AGNES GIARD - 1969年生まれ。仏リベラシオン紙のジャーナリストであり、主にカウンターカルチャーや性に関する記事の専門家。日本のエロティシズムについて言及した著作 『エロティック・ジャポン』(仮)、『図解 ビザール・セックス全書』(仮)がそれぞれ河出書房新社と作品社より近日刊行予定。現在は京都の関西日仏交流会館ヴィラ九条山に滞在しており、日本における様々な恋愛物語についての本を準備中。

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前田マナ 英国ランカスター大学演劇学部修士修了。専門は現代演劇やコンテンポラリーダンス。 ライターとしてウェブや雑誌等に雑文なども寄稿。
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