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フランス人ジャーナリストのエロティック比較文化論
気鋭の女性フランス人カウンターカルチャー専門ジャーナリスト、アニエス・ジアールが、「奇妙で豊穣な性文化」について日本の様々な文化的側面から掘り下げていくユニークな比較文化論。今回は京都の河合神社を訪れたアニエスが、鏡を切り口にして縦横無尽な論考を展開、「罪悪」や「自由」、そして「美」の本質に迫ります。
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京都の上賀茂神社の近くに、河合神社という小さくてとても古い社がある。
鴨長明が昔このあたりに住んでおり、1212年にここで『方丈記』を書いたらしい。




ここを訪れる者は(ほとんどが少女である)美容整形なしで綺麗になれる、鏡の形をした絵馬に自分の顔を描くだけでよいのだ。痛みも少なくていいだろう。彼女たちはカラーペンで無邪気な表情を描いている。その顔は神に微笑み、祈っている。「鏡よ鏡、私を綺麗にしておくれ」と。この鏡は偽物だ、でも同時に、本物の鏡でもある。なぜならそれは少女たちの本当の自己を映しているからだ。彼女たちは美しくなりたいと願い、みな美を信じている。彼女たちはみな自身の理想像を持っている。
少女たちの内面、心の中には、自分は自らが鏡に描いた姿として映っているのだ。




フランスでは、キリスト教のせいで、鏡は罪のシンボルである。それは7つの大罪のうちの一つ、虚栄の罪である。最初に7つの大罪について語り始めたのはローマ教皇のグレゴリウス一世(540年−604年ごろ)である。彼は神に近づくために正されなければならないこれらの欠点について説いた。「傲慢」、「強欲」、「嫉妬」、「憤怒」、「色欲」、「暴食」、「怠惰」である。

中世のころには、傲慢を象徴して、芸術家たちが鏡をみつめる女性を描くようになった。ときには、鏡の中に悪魔をかいた。このようにして鏡は非常に否定的なシンボルとなった。
そしてまた美も邪悪なものとなった。

日本人は美を恐れない。
日本語では、美とは純潔を意味する。きれいとは、清潔で美しいことだ。我々のヨーロッパの古い文化でも、このように使われていたはずだ。キリスト教以前には、美はとても神聖なものであった。人々は美しい景色の前にひざまずいた。なぜなら彼らも木々や滝に対峙すると、幸せや純潔さや力強さを感じたからだ。

鏡に関する古いお話を考証するのはとても興味深い。
もっとも有名なものは『白雪姫』だろう。

物語はこのように始まる。「昔々あるところにとても美しいお妃さまがいました。お妃さまは毎日鏡に映る自分を見て『鏡よ鏡、この世で一番美しいのはだあれ?』と聞きました。鏡は答えます。『お妃さま、あなたがこの世で一番美しい方です』」
この妃は、もちろん悪魔のルシファーになぞらえることができるだろう。
キリスト教において、ルシファーは天使の中で最も美しい者だとされている。
ルシファーは大変美しかったので、彼の誘惑には誰も抗えなかった。
ルシファーという名前には"ルシベル"、光を運ぶ者という語源がある。
彼はまたしばしばプロメテウスを想起させた、人類に火をもたらしたために神に罰された者だ。
神は彼らの力を嫉妬した。多くの神話で、神は、人類が神のようになるよう助けた者を罰している。

聖書では、たとえば、アダムとイブにりんごを与えた悪魔が罰されている。りんごとは火のようなものであり、"知恵の贈り物"であった。ルシファーは人類に自意識を、自立できる能力を与えた。
ルシファーはアダムとイブが自由になれるよう助けたのだ。
しかし自由とはいつも痛みを伴うものだ。
自由とは自己しか頼れないことを意味する。
自由とは楽園から転がり落ち、自らの義務と責任を果たす大人になることだ。誰もが父母の家を去るのが、いかに大変なことか分かるだろう。
人類は時に幼少期の楽園を思って感傷的になる。
だからルシファーは悪魔と考えられ、罰された。
我々は自由と力がほしい、我々は火を制御したい、ルシファーの美と力がほしい。でも同時に、我々は、孤独と死を恐れて苦しむ。
自由とは毒入りの贈り物のようなものだ。

『白雪姫』にもどろう。このお話では、ある日、鏡はお妃さまに、世界で一番美しいのは彼女ではないという、誰か他の、彼女よりもっと美しい者がいるというのだ。そして、その名は白雪姫だという。
この名前の象徴的表現は一目瞭然だ、白雪とは魂のこと、無垢な精神のことだ。
生ける者となるため、この純粋な魂は身体に入らなけらばならない。
これが白雪姫が七人の小人とともに暮らしていた理由だ。
七人の小人は、無垢な精神が身体の本質を通過する象徴である。それは白い光が水滴の中を通過するようなものだ。

少し説明しよう。白い光は可視スペクトルの全ての色を含んでいる。可視スペクトルには赤、オレンジ、黄色、緑、青、紺と紫がある。虹とはこれらのスペクトルをこの順序どおりに見せる光のアーチであり、水滴が空気中を落ちていく際に発生する。
だから我々は七人の小人を、"肉体化"の過程を踏んで可視化された白い魂の結果になぞらえることができる。
この無垢な精神が人間の姿をとるとき、生けるものとなるとき、それはもはや純粋とは呼べない。時にそれは、罪深いものとなる。七人の小人、七つの大罪である。七つの大罪は人の七つの本質たらんとするものだ。

では本筋にもどろう。
妃が毒入りリンゴを白雪姫に渡すのは、ルシファーがアダムとイブに知恵の実を渡すのと似ている。
りんごを食べることで、アダムとイブは大人になり、自由になり、そして、この世で生き抜くには苦しみが不可欠であることを悟る。
りんごを食べることで、白雪姫はあやうく死ぬところだった、しかし最後には姫は愛を見つける。なぜなら愛がこの苦難の多い世の中を生き抜く唯一の助けだからだ。

これがこの有名な物語が本当に意味するところだ。
ヨーロッパでは、鏡は常に"父なる神"から自由になる方法であり(なぜなら鏡には、ルシファーが、内面の美と自身の火が映るからである)、かつ、傲慢、苦しみ、そして死の象徴である(なぜなら子供の頃の無垢な精神を手放すことは非常に苦痛だから)。

ニーチェは言った。「神を殺すだけでは足りない。自分自身が神とならなければならない。しかし、それは簡単なことではない」。

文=アニエス・ジアール
翻訳=前田マナ


SNOW WHITE, THE KAWAI JINJA AND THE POISONED APPLE

Near Kamigamo Jinja, in Kyoto, there is a little and very old sanctuary named Kawai Jinja.
Kamo no Chomei used to live here. This is where he wrote "Hou jou ki" in 1212.

Here, the visitors (mainly girls) can become beautiful without the help of esthetic surgery: they just have to draw their face on an Ema with the shape of a mirror. It's less painful. They can use color pencils to draw very naive faces, smiling to the "kami"
and praying them: "Mirror, mirror, make me beautiful". The mirror is a fake mirror. But - at the same time - it's a true mirror: because he reflects the true self of the girls.
They want to be beautiful, they believe in beauty. They have an ideal image of themselves.
Insides them, in their heart, these girls look like what they draw.

In France, because of Christianism, mirrors are the symbol of a sin. It's one of the seven capital sin: the sin of vanity. It's a pope - Gregory I (around 540-604) - who first talked about the seven sins. He was talking about these imperfections that must be corrected, in order to get in direct contact with gods: Superbia (arrogance, pride), Avaritia (greed), Invidia (envy), Ira (anger), Luxuria (lust), Gula (gluttony), Acedia (laziness).

During the middle age, to symbolise Superbia, the artists started to paint a woman looking at herself in a mirror. Sometimes, they would paint a devil inside the mirror.
The mirror became a very negative symbol.
Beauty also became something evil.

In Japan, people are not afraid of beauty.
In Japanese language, beauty means purity. Kirei : clean, beautiful. In our old cultures, in Europe, it used to be the same. Before Christianism, beauty was something very sacred. People used to pray in front of beautiful landscape, because they felt happy, pure, powerful in contact with trees and waterfalls.

It's very interesting to study old tales related to mirrors.
The most famous is "Snow White ".

Here is how it starts: "mukashi mukashi, there was a beautiful Queen.
Everyday, she looked at herself in the mirror. "Mirror, mirror, who is the most beautiful woman on earth?". The mirror answered: "You are the most beautiful".
This Queen, of course, can be compared to Lucifer - the Devil.
Lucifer, in the Christian religion, is considered as the most beautiful of all angels.
He was so beautiful that it was difficult not to be seduced by him.
His name Lucifer comes from "Lucibel": "the one who carries light".
He has very often been associated with Prometheus, who gave fire to humanity and was punished by the gods.
The gods are jealous of their powers. In many mythologies, God punish the one who helps humankind to be god-like.

In the Bible, for example, it is told that the devil was punished when he gave the apple to Adam and Eve. The apple was like the fire: it was the "gift of knowledge". Lucifer gave to humankind the ability to become self-conscious, aware, independent.
Lucifer helped Adam and Eve to become free.
But freedom is always painful.
Freedom means you have to rely on yourself, only.
Freedom is like falling from paradise and becoming adult, with the responsibilities and the duties of an adult. Everybody can understand how painful it is to leave mother and father's house.
This is why Lucifer has been considered as evil and was punished.
Because humankind, sometimes, is nostalgic of childhood paradise…
We want freedom and power, we want to control fire, we want Lucifer's beauty and power. But at the same time, we suffer, because we are afraid of loneliness and of death. Freedom is like a poisoned gift.

Let's go back to "Snow White ". The tale says that one day the mirror told the beautiful Queen that she was not the only one. There was someone else in this world, much more beautiful than her. And her name was Snow White.
Of course, the symbolism of this name is very transparent: Snow White is the soul. It's our pure spirit.
And this pure soul has to go into a body to be alive.
This is why Snow White was living with the seven dwarves.
The seven dwarves are the symbols of the pure spirit going through the substance of our body, like the white light going through drops of water…

Here is a little explanation: White light contains all the colors of the visible spectrum. The colors of the visible spectrum are red, orange, yellow, green, blue, indigo and violet. A rainbow is an arch of light exhibiting the spectrum colors in their order, caused by drops of water falling through the air.
This is why we can compare the seven dwarves to the result of white spirit becoming visible when it goes through the process of "incarnation".
When our pure soul become incarnate, alive, it is less pure. Sometimes, it becomes sinful. Seven dwarves: seven sins. Seven sins that must become seven qualities.

Let's come back to our story.
When the Queen gave a poisoned apple to Snow White, it's like Lucifer giving the fruit of knowledge to Adam and Eve.
Eating the apple, Adam and Eve became adult, free, and they discovered that in this world, they had to suffer in order to survive.
Eating the apple, Snow White nearly died, but finally she discovered love.
Because love is the only thing that helps us to survive in this painful world.

Here is the real meaning of this famous tale.
In Europe, mirrors are always considered both as a way to become free from "father God" (because in the mirror, we can see Lucifer, our inner beauty, our own fire) and a symbol of arrogance, suffering and death (because it's terribly painful to abandon the innocence of our childhood spirit).

Nietzsche said: "It's not enough to kill God. You have to become God yourself and that's not an easy job" .


text=AGNES GIARD

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アニエス・ジアール - AGNES GIARD - 1969年生まれ。仏リベラシオン紙のジャーナリストであり、主にカウンターカルチャーや性に関する記事の専門家。日本のエロティシズムについて言及した著作 『エロティック・ジャポン』(仮)、『図解 ビザール・セックス全書』(仮)がそれぞれ河出書房新社と作品社より近日刊行予定。現在は京都の関西日仏交流会館ヴィラ九条山に滞在しており、日本における様々な恋愛物語についての本を準備中。

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前田マナ 英国ランカスター大学演劇学部修士修了。専門は現代演劇やコンテンポラリーダンス。 ライターとしてウェブや雑誌等に雑文なども寄稿。
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