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Criticism series by Murakami Yuichi;Philosophy of "bishojo" game
連載「美少女ゲームの哲学」
第一章 恋愛というシステム【2】

様々なメディアミックスによってコンテンツが生まれている昨今、改めて注目されている作品たちがある。美少女ゲーム。識者によってすでに臨界点さえ指摘された、かつて可能性に満ちていた旧態のメディア作品。だがそうした認識は変わらないままなのか。傍流による結実がなければ光は当たらないのか。そもそも我々は美少女ゲームをどれほど理解しているのか――。巨大な風景の歴史と可能性をいま一度検証する、村上裕一氏の批評シリーズ連載。
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†アダルトゲームの起源
 
ラディカルにアダルトゲームの起源に遡ろうとしたとき、必ず遭遇するいくつかの固有名がある。そのうち外せないひとつがエルフという名であるわけだが、なぜエルフが特別なのか。それは彼らが現代にまで残り続けているからだ。ということは、残らなかったものもあるということだ。ちょうど原始人類におけるクロマニョン人とネアンデルタール人の関係のように。

では最古の起源とは何なのだろうか。それはコーエーが発表した『ナイトライフ』(1982)だとされている。しかしこの作品は、現実のセックスライフを管理するためのアプリケーションだった。ゲームらしいのは次作『団地妻の誘惑』(1983)、『オランダ妻は電気ウナギの夢を見るか?』(1984)であるだろう。後者の作品たちはいわゆる古いタイプのRPGで、モンスターにダメージを与える代わりに、適切に女性を口説いて服を脱がせるというような手続きを取っていた。これらはコーエーのアダルト三部作と言われている。またエニックスの『ロリータ・シンドローム』(1983)も有名な固有名である。こちらは極端に言えばミニゲームの集積体で、ゲームを攻略すると少女が裸になるというような代物だった。もう一つの重要な固有名はジャストの『天使たちの午後』(1985、以下『午後』)(※4)だ。上記作品がどれもこれもミニゲーム的だったのに対し、乏しいなりに物語的連続性を匂わせたことによってアダルトゲームの元祖とされている。

このうち、今や日本を代表するコンシューマゲームメーカーとなったコーエーとエニックスの方針転換については説明するまでもないだろう。アダルトゲーム史において、彼らは起源の時代に黒歴史として記憶されるのみである(そして、コンシューマゲーム史においてはアダルトゲームの記憶は完全に「無かったこと」とされている)。しかし、ジャストには異なった重要性がある。ジャストそのものはすでに倒産し現代には残っていない。しかし、ジャストから暖簾分けするように生まれた会社たちが、まさに老舗メーカーとして現代でもアダルトゲームを支えているのだ。それはジャストから独立した有限会社キララ、そのキララから生まれたF&Cのエルフという代表的ブランドのことである(これに西のアリスソフトも加えて、とりあえず三大古典ブランドと言っておいてよいだろう)。大きく言えば、実質的なアダルトゲーム史は、ここから始まるのである。

1989年に独立したエルフが同年に六作目として放ったスマッシュヒットが『ドラゴンナイト』(1989)だった。この作品は、やりこむことができる本格的な奥行きを持った 3DRPGとして製作され、エルフというブランドの名声を高めるとともに、アダルトゲーム業界自体の宣伝においても重要な役割を担った。作品自体も後にシリーズ化され、四作まで発売されるとともに、コンシューマ化やアニメ化などメディアミックスを尽くした。

この作品の存在は言わば『午後』と『同級生』を繋ぐものとしても重要である。先ほど述べたように起源のアダルトゲームはほとんどがミニゲームのようなものだ。それと微妙に異なるとはいえ、『午後』もまた非常に貧弱な作りであることは疑い得ない。では『午後』はどういう作品なのか。簡単に言えば、1980年代当時に隆盛していたアドベンチャーゲーム(例えば『ポートピア連続殺人事件』(エニックス、1983)(※5))に、勝利目的=ご褒美としてのHシーンを挿入したものである。これは現代のノベルゲーム的美少女ゲームと比較すればあまりにも淡白だ。シナリオがないに等しい。比喩的に言えば、物語の地の文が存在しないようなものだと言えるだろう。コマンドで指示した通りに主人公の行動・調査が行なわれ、それが当たっていた場合は反応が起きる。

それでも本作が起源的なのは、主人公の行動の連続性において恋愛ストーリーのようなものが透けているということから、そして、何やかんやでこれと同じような作品が長らく存在していたからである。例えば、後に発売された『天使たちの午後 Collection』(ジャスト、1995)に収録されたバージョンはほとんど近代的なエロゲーと変わらなくなっている。何が違うのか。絵柄や仕上げが向上したこと以外の大きな違いは、コマンド入力が排除され行動を選択できるようになったことだけだ。しかし、それだけで表面的な印象は一般的なアダルトゲームとほぼ同じである(※6)。だとすれば、それが意味しているのは、『午後』がアダルトゲームの基礎的フォーマットを用意したということではないか。色数が増え、イラストレーターの画力が上がり、音楽が洗練され、物語が重厚になっていったとしても、それを支える基礎的構造、即ち、女の子がおり、恋愛じみた探検を行ない、行動が正しかった場合ご褒美としてエッチシーンのグラフィックを見ることができる、という一連のフォーマットは、すでにここにおいて成立していたと言えるのではないだろうか。

その意味ではこの作品が後の恋愛ゲームに繋がっていると考えることは自然なのだが、しかし、ストレートにそういう流れを辿ったわけではなかった。むしろ、このアドベンチャー要素の正統進化系として現われたのが、ファンタジーRPG仕様の『ドラゴンナイト』であった。これはエルフに限ったことではなく、同時期にはアスキーから『カオスエンジェルズ』(1988)、アリスソフトから『Rance-光を求めて-』(1989)『闘神都市』(1990)などが発売されており、業界全体がこの流れに乗って成長していた。これらの作品は、言わば一般向けゲームであるところの『ウィザードリィ』(アスキー、1985)にアダルト要素を組み込んだものとして理解できるが、アダルトゲームにおいてそれに伍しうるゲームとしてのしっかりした作りを実現したことが何をおいても重要なことだっただろう。

基礎的フォーマット、適切な選択によってご褒美を手に入れるというこのルールには、もちろん現代においてもあらゆるアダルトゲームが従っている。しかし、ゲーム性とは、いかにこの取引過程に複雑性を持ち込むかによって演出されるものだろう。このとき、RPGというシステムが複雑性の演出において極めてうってつけだったのは間違いない。さらに、イメージの問題として、例えば『団地妻の誘惑』がコンドームの訪問販売という極めて限定的なシチュエーションを描いていたのに対して、『ドラゴンナイト』らはそれなりに壮大なファンタジー性をまとったことで物語要素を獲得することに成功していたことも忘れられない。穿った言い方をすれば、女の子を攻略するというよりも、ダンジョンを攻略するという体でゲームを遊ぶことができ、アダルト要素は、本来はそれが主目的であるにも拘わらず、まるでおまけであるかのように扱われていた。つまり、ここには攻略対象という概念がまだ確立していなかった(※7)

『同級生』が重要なのは、まさに攻略対象という概念を構築したことにある。それは、この作品がゲームを成立させるシステムとしてダンジョンRPGではなく「恋愛」を発見したことを意味している。そしてその発見は恋愛シミュレーションという古典的形式として結晶化し、後のアダルトゲーム――というよりもまさに美少女ゲーム――の隆盛の核となった。
文=村上裕一

『天使たちの午後』(ジャスト、1985年)
※4 『天使たちの午後』は1985年、ジャストより発売されたアドベンチャーゲーム。当時の同ジャンル作はコマンド入力式と呼ばれる行動を示す単語を直接入力することで、プレイヤーの行動を規定した。後出の『ポートピア連続殺人事件』同様に画面内には入力の目安となるコマンドのガイドが示されている。

『ポートピア連続殺人事件』(エニックス、1983)(C)エニックス
※5 『ポートピア連続殺人事件』はエニックスより1983年にPC8801版が発売され、その後多くの機種へも移植された。1985年に任天堂のコンシューマゲーム機ファミリーコンピュータへ移植され、同機種初のアドベンチャーゲームとなった。

※6 また『午後』において特徴的なのは、ダンジョンRPGでもないのにとにかくマップ移動を要求するという点だが、このような特徴は『二重影』(ケロQ、2000)などにも見られるものであり、まさに長く生き続けている。

※7 アダルトゲームに3DRPGを導入するという観点においては『カオスエンジェルズ』の方が先駆的で、特にこちらはモンスターが美少女であることにより、モンスターを倒すこととセックスが結びついていたという特徴がある。こちらから3DRPGのバトンを受け継いだとも言える『ドラゴンナイト』もほとんど同じ傾向を受け継いでおり、1では囚われの女の子たちを救出するという体に、『ドラゴンナイト\x87U』(1990)では呪いによって美少女がモンスター化しているというそのものずばりの演出になっていた。このように当時のファンタジー型アダルトゲームにおいてはセックスが、経験値やマネーに準ずるご褒美=おまけ的なものとして扱われていた。これは「恋愛」発見以前のパラダイムだったからだと言えるだろう。実際、『同級生』以後に出た『ドラゴンナイト4』(1994)では物語がループ=タイムスリップ性を獲得し、恋愛を含む濃密な人間ドラマを持つものとして描かれている。

関連リンク

株式会社エルフ ホームページ
http://www.elf-game.co.jp/

elf | 同級生オリジナル版 - アダルト美少女ゲーム - DMM.R18
http://www.dmm.co.jp/digital/pcgame/elf/dokyusei.html
村上裕一 批評家。 初の単著となる『ゴーストの条件』が講談社BOXからようやく9月に出版予定。 最近の書き物は同人誌『アニメルカvol.4』に岡田麿里作品論「ノスタルジーの文法――岡田麿里の世界観」 同人誌『BLACK PAST』に魔法少女まどか☆マギカ論「受胎の記憶――ループと忘却のメカニズム」など。 あとニコニコ動画で「おばけゴースト」というラジオ番組やってます。http://d.hatena.ne.jp/obakeghost/
twitter/村上裕一
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11.07.02更新 | WEBスナイパー  >  美少女ゲームの哲学
文=村上裕一 |