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Criticism series by Murakami Yuichi;Philosophy of "bishojo" game
連載「美少女ゲームの哲学」
第四章 動画のエロス【4】

様々なメディアミックスによってコンテンツが生まれている昨今、改めて注目されている作品たちがある。美少女ゲーム。識者によってすでに臨界点さえ指摘された、かつて可能性に満ちていた旧態のメディア作品。だがそうした認識は変わらないままなのか。傍流による結実がなければ光は当たらないのか。そもそも我々は美少女ゲームをどれほど理解しているのか――。巨大な風景の歴史と可能性をいま一度検証する、村上裕一氏の批評シリーズ連載。
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†『School Days』の衝撃

エロスに的を絞ったジェリーフィッシュのフェティッシュ化は、差別化のための一つの帰結だった。では、それ以外はないのだろうか。そんなことはない。たとえば、2Dアニメーションのアダルトゲームの中で、むしろ「覇権」的なプレゼンスを誇ったのは『School Days』(オーバーフロー、2005)だった。人気を博した結果、『Summer Days』(2006)、『Cross Days』(2010)といった続編が製作されている。

『School Days』はPCゲームに現われた「やるドラ」だった、というのが正直な筆者の感想である。むろん賞賛だ。フルアニメーションアドベンチャーゲームと銘打った本作は、ジェリーフィッシュが実現できなかったアドベンチャーパートのフルアニメーション化に成功していた。それは「美少女ゲーム」と呼ばれるもののゲーム体験を大きく変えるものだった。

ここには、大容量化するアダルトゲームの環境というものが確かに現われている。というのも、フルアニメーションで日常シーンを描画するということは、それだけの容量と手間を食うということだからだ。容量はともかく手間に関してはなかなか埋まらないというのが現実だったが、市場的に動画編集設備と技術の向上が現われた一例ではないかと思われる。共通ルートが多いとはいえ、20のエンディングを搭載している本作は決して短編アニメーションではない。また、通常シーンに気合を入れているからにはバーターでHシーンが貧しいものになっているかといえば決してそんなことはない。まさに、複数のアニメの集合体のように本作は成立していた。

フルアニメーションによる大容量化を象徴する出来事として、パッチファイルの巨大化をあげることができる。残念ながらバグが頻発した本作は何回かの修正パッチをあてることが必須となった。この容量は274MBである。これだけでも少し昔なら一本の作品が作れそうなものだが、さらに続編となる『Summer Days』では歴史に残るパッチファイルができてしまった。こちらにおいては、ある段階で2.3GBという超巨大な修正ファイルが公開されたのである。むろんサーバーは落ちるしダウンロードが最後まで終わりきらないしと大変な不評続きだったのだが、このような事態になるのも素材がアニメーションだからという事情が強く絡んでいるのは言うまでもない。

このようなバグ絡みの事件でも強い印象を残している本作だが、本作の中心は、実のところそちらにはない。むしろ本作が多くの人の記憶に残る作品となったことには内容面のインパクトがあった。

そのことについて語るためにはゲーム本編について語るよりもむしろ、地上波用に制作されたテレビアニメーションを引き合いに出しながらのほうがよいだろう。

『School Days』は平凡な男子高校生が、校内で恋愛上の三角関係に巻き込まれる様を書いた青春ストーリーである。この説明は本質的に間違っていないのだが、知っている人間からすれば大きな欺瞞を感じるだろう。というのも、およそ健全さや爽やかさというものからかけ離れた事態ばかりが本作においては起こり続けるからである。

改めて要約すれば、本作は、主人公が浮気のツケを払わされるゲームである。主人公の伊藤誠は、最初の段階では別のクラスの美少女・桂言葉に恋焦がれているだけの純情な学生とも言えなくはなかったが、彼に好意を寄せるクラスメイトの西園寺世界が介入したことによって迷走し始める。世界は当初、誠の恋愛を応援する形で振舞うのだが、その過程で「練習」と称して告白や濃厚なキスを試みるなど明らかに逸脱を始め、最終的には性交渉に至る。ところがこの頃には誠のアプローチも実り、言葉の気持ちが彼に向いてしまっている、というから非常に問題がこじれてしまう。

この説明だけでは、むしろ性格的に受動的なだけで彼はたまたま不幸な人間関係に陥ったのだ、と考えられなくもないのだが、実際には作品が進むにつれてどんどん彼のある種のいびつさが明らかになってくる。ゲームには登場しないのだが、あまりにも分かりやすいエピソードとして、アニメの後半の話数になると、誠がクラスメイトの女子全員と肉体関係を持っていることを示唆する描写がある。さすがにこれは異常である。ここにはっきり現れているように、ある時期から、彼は単なる優柔不断ではなく、浮気どころか友人の好きな女子なども見境無く食い漁る、それこそが生きる目的であるような振る舞いをするのである。

むろん、このような悪行が許されるわけはない。『School Days』がはなはだしい評判を確立するのはこの顛末においてである。誠の放埓な人間関係の結果、多くの場合、ヒロインは死を持って復讐を遂げた。ED「鮮血の結末」では、誠を奪った世界を言葉が鉈で斬殺する。ED「永遠に」では、言葉は、二人の目の前で飛び降り自殺する。ED「我が子へ」の場合、誠は世界ではなく言葉を選ぶのだが、世界は妊娠しており、復讐のため世界は誠を包丁で刺殺する(※56)

そう、このゲームにおいては、浮気の代償は死なのである。たとえば、浮気の後ろめたさを描いた作品としては『WHITE ALBUM』(Leaf、1998)や『君が望む永遠』(age、2001)などが歴史に残っているが、それらですらこうも容易く死を以ってあがなわせることはしてこなかった。しかし、本質的に浮気ゲームであるしかない「美少女ゲーム」にとって、この作品の登場は運命付けられていたものなのかもしれない。

本作が悪名を轟かせたのは、アニメ化によって、かような本質がアダルトゲームというジャンルの外に開陳されたことによるだろう。実際、セックスシーンそのものこそ描かない(※57)が、内容的にはほとんど同質の物語が展開され、しかも上述したようにクラスメイト全員と関係を持つなどのゲームよりも踏み込んだ表現すら為されている。

しかし、なんといっても象徴的かつスキャンダラスだったのは最終話の展開である。先ほども説明したように本作には凄惨なバッドエンドがあり、むしろそちらが本質に見える。それを証明するかのように、アニメ版も、上述したいくつかのバッドエンドをミックスしたようなオリジナルのバッドエンドで物語を終わらせている。それが意味するのは、非常に衝撃的な殺人シーンが登場するということだ。多くの視聴者はむしろそれを期待していたわけだが、現実には期待以上のことが起こった。放送中止になったのだ(※58)

後に明らかになったその内容は以下のようなものだ。自分の妊娠に冷淡な誠に世界が不満を持ち、彼女は誠を殺す。何も知らない言葉が帰ってくると、そこには誠の死体があった。ある日、世界に死んだはずの誠の携帯からメールが来る。それは言葉の打った呼び出しだった。学校の屋上で二人は問答する。誠はどちらを愛していたのか。しかし、端から互いを殺そうとしていたのか、世界も言葉も鉈や包丁で武装していた。世界の攻撃を交わし言葉は相手を刺殺すると、子宮を切り裂いてこう言った。「やっぱり(子どもがいるなんて)嘘だったんじゃないですか。中に誰もいませんよ」(※59)。この後、誠の首を切り取って、言葉は小舟で海へと漕ぎ出す。死体の首を抱いたまま眠っている言葉の姿を見ていると、明らかにどこかに行く宛があるようには見えない。さまざまな説明を放棄したまま、物語はそこで終わる。

なるほどこの作品にハッピーエンドはありえないし、多くの人はむしろバッドエンドをこそ求めていただろう。それを考えれば、まさに期待に答えた内容だったと言える。

重要なのは、しかし、このようなスキャンダラスなエンディングが、そもそもゲーム版にきちんと存在していたということだ。そして、そもそもがフルアニメーションアドベンチャーであった本作は、視聴者層が異なるとはいえ、アニメを見るのと非常に似通った経験を提供していた。つまり、本作の衝撃的な内容は、アニメ版としてのインパクト以前に、アダルトゲーム業界内でのインパクトとしてあった。そのインパクトは、まさに、この作品を他のアニメーションアダルトゲームと差別化する機能を担った。そのことは後のちの業界内における人気や売り上げにも明らかだろう(※60)。ただ単に、綺麗で、なめらかに動くばかりでなく、動かす内容そのものがプレイヤーをひきつけるからこそ、そのような差別化は成立したのである。

文=村上裕一

※56 このようなヒロインの作品前半と後半での性格の大きな乖離が当時のツンデレブームと合流し、「ヤンデレ」という形で概念化されることになった。ヤンデレとは、病んでいることとデレている(好意を持つ)ことが同時に起こるというキャラクター類型の一つ。実際、『School Days』の殺人は、相手を愛しているがゆえに裏切られたと思って殺しに行くのであるし、実際には結末に至るまでの流れでもかなりストーカーチックな、病的・猟奇的なやり取りがなされている。

※57 そのものずばりを描いていないだけで、ベッドインするまでや事後の描写などはいっぱいある。

※58 この放送中止には、最終話放映前日に起きた京田辺警察官殺害事件の影響があるとされている。当時16歳の少女が、手斧で警察官の父親を殺害したのだが、一部報道によると少女にはゴシックロリータ趣味があり、それに類する服装で犯行に及んだとのことだ。当時、残虐性を取り扱った作品としては『ひぐらしのなく頃に』(2004-2006、07th Expansion)のアニメも放映されていたがやはり休止となった。

※59 本作は多くの名言を生み出した。「中に誰もいませんよ」はその一つ。他には、放送を休止した最終話の差し替え映像でフィヨルドを進む船の映像が流れたのだが、これを見た外国人が「Nice boat.」とコメントしたことが大ブレイクし、一大流行語となった。

※60 http://www.getchu.com/pc/2005-1salesranking.html PCゲームショップのげっちゅ屋によると、2005年上半期のセールスで一位を記録している。また、同ランキングの三位に3Dアダルトゲームの『らぶデス〜Reaktime Lovers〜』(TEATIME、2005)が来ていることも見逃せない。
関連リンク

Overflow OFFICIAL WEB SITE
http://0verflow.com/


村上裕一 批評家。初の単著となる『ゴーストの条件』が講談社BOXからようやく9月に出版予定。 最近の書き物は同人誌『アニメルカvol.4』に岡田麿里作品論「ノスタルジーの文法――岡田麿里の世界観」 同人誌『BLACK PAST』に魔法少女まどか☆マギカ論「受胎の記憶――ループと忘却のメカニズム」など。 あとニコニコ動画で「おばけゴースト」というラジオ番組やってます。http://d.hatena.ne.jp/obakeghost/
twitter/村上裕一
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11.11.27更新 | WEBスナイパー  >  美少女ゲームの哲学
文=村上裕一 |