Criticism series by Murakami Yuichi;Philosophy of "bishojo" game
連載「美少女ゲームの哲学」
第四章 動画のエロス【5】様々なメディアミックスによってコンテンツが生まれている昨今、改めて注目されている作品たちがある。美少女ゲーム。識者によってすでに臨界点さえ指摘された、かつて可能性に満ちていた旧態のメディア作品。だがそうした認識は変わらないままなのか。傍流による結実がなければ光は当たらないのか。そもそも我々は美少女ゲームをどれほど理解しているのか――。巨大な風景の歴史と可能性をいま一度検証する、村上裕一氏の批評シリーズ連載。
本章の最後として3Dアダルトゲームを取り上げる。3Dというだけではいわゆるアニメーションではないが、「動き」を取り入れた点において、いわゆる紙芝居的な恋愛アドベンチャーから離陸しようという、同じ方向性を共有している。本稿はそれを重要視している。
3Dの重要性はコンシューマにおいては言うまでもないことだが、アダルトゲームにとっても他人ごとではない。というのも、3Dの導入はパソコンの技術的進化と同期しているからだ。
最初期の3Dアダルトゲームとしては『EDEN』(FORESTER、1998)や『DES BLOOD2』(ILLUSION、1998)がある。しかし、ポリゴンを動かしているとはいえ、どちらも満足からは程遠い出来だったことは否めない。ポリゴン自体が今から見れば甘い作りであることや、セックスシーンがないがしろにされているような焦点のブレ方など、様々な問題点があった。ゲームをするよりムービーをプレイヤーで見た方がいいと思わせるようなところすらあった。
こういうことはアダルトゲームに限ったことではない。むしろコンシューマの方が遥かに厳しい。たとえば、いわゆる次世代機と呼ばれたセガサターンやプレイステーションでリリースされた初期のポリゴンゲームを思い出してみてもよい。『バーチャ・ファイター』(セガ、1994)や『バイオハザード』(カプコン、1996)、そして『ファイナルファンタジー\x87Z』(スクウェア、1997)の3Dテクスチャは極めて簡素なものであり、現在のゲームと比較したならば、それだけとってみれば見るに耐えないものばかりだ。それでも操作性や内容があるのであればまだどうにかなるだろうし、そもそも当時としては新しい技術だったことも事実である。しかしながら、エロティックな女の子を愛でることを目的とするアダルトゲームの場合、とてもではないが耐え切れるものではない。
パソコンのスペック的に振り返れば、1998年前後というのは、CPU的にはMMX PentiumuないしはPentium2の全盛期、クロックで言えば166〜233MHzが相場だった時代である。メモリやグラフィックボードに関しても同様の低スペックであって、とても3Dを満足に扱えるような時代ではなかった。
しかし、パソコンのスペックが数年で飛躍的進化を遂げたことは周知の通りである。それは、より理想的な3Dゲームが商品化されやすくなっていったことを意味する。たとえばForesterは途半ばにして2003年に解散しているが、『Doll〜ウロボロス2〜』(FORESTER、2001)の頃には、微妙な表情の機微が再現できるようになりつつあり、物語にも深化が見られていた(※61)。
こういう発展は、ジャンル的な多様化によっても実感することができる。3Dはそもそも表現として敷居が高いため、参入しているメーカーが多いわけでもないが、技術の発展によって新規参入の門戸が広がり、元々3Dをウリにしているメーカーに対しては作風の多様化を促した。シリアス凌辱風味のものだけではなく、ハードコアな凌辱や、ポップな音楽・ダンスもの、あるいはそれこそ恋愛アドベンチャー的な作品も生まれていった。だが、3Dの本当の真価は、2000年中盤において現れてきたカスタマイズ思想にある。
カスタマイズとは自分でパラメータを調整することでお好みのキャラクターを育成することだ、と大きくは要約できる。こういう発想は別に最近生まれたものではなくて、アダルトゲーム的には『カスタム隷奴』(Kiss、1999)などに古い例がある。そもそもはシミュレーションゲームのやりこみ的な発想と近い。ただ、攻撃力や防禦力といった数値ではなく、見た目という表層のレベルで行なったことに革新がある。『カスタム隷奴』の場合、髪型や髪の色、目、肌の色、体型、そして内面的な性格といったパーツを組み合わせることができる。パーツの自作もできるということで、後に現われるUGC的なものの走りであるととも、まさに調教の典型であると言えよう。
3Dモデリングはこういったカスタマイズのしやすさに強みがある。そのポテンシャルは、ILLUSIONの姉妹ブランドであるTEATIMEの、2000年代中盤からの台頭として現れてきた(※62)。TEATIMEは『らぶデス 〜Realtime Lovers〜』(TEATIME、2005)などによって、3Dなのにアニメ調の美少女を再現することに成功したということで名声を獲得したブランドだが、本論において重要なのは『らぶデス2 〜Realtime Lovers〜』(TEATIME、2007)である。幸か不幸か、この作品ではテクスチャなどのデータの暗号化が甘く、容易にデコード可能だったことからユーザーによる改変が横行した。その結果むしろ、テクストやテクスチャを改変することによって遊ぶ二次創作ツールとしての存在感を獲得することになったのだ(※63)。
この観点から触れねばならないもう一つのソフトは『3Dカスタム少女』(TechArts3D)である。このゲームはTEATIMEで辣腕を振るった3DデザイナーMA@YA氏が手がけたものだが、そもそも名前にもある通り、着せ替えや3D描画の軽さに注力した、カスタマイズをゲームとしての目的に据えたゲームである。『らぶデス』ではそれなりの比重を持っていたシナリオというものの影響力がここには全くない。さらにこちらもMOD(改造ファイル)を使用することが可能であり、拡張性が無限大に広がっている。その典型的な例として、ニコニコ動画における東方project動画での使用が挙げられる。改造によって東方projectに登場するキャラクターを再現しているのだ。あとはソフトに実装されている機能範囲内でそれなりに動かすことも可能である(※64)。
この顛末にはいくつかの要素がある。一つはパソコンスペックがそこまで高まったのだということだ。『ウェブ進化論』(筑摩書房、2006)において梅田望夫は、技術のチープ革命によって総表現社会が生まれるとの主張をしている。この見立ては現代では様々な形で批判されており、筆者も異論を持っているのだが、この瞬間の3Dゲームの広がりには確かにチープ革命的なものの影響がある。昔であれば3Dを個人でいじるなど夢のようなものであったのが、いまや全くそうではなくなった。また、いくらハックが容易だとはいっても誰でもできるようなものでないはずが、先駆者の貢献とwikiの充実などで大きくハードルを下げることになったのも見落とせない。そもそも、ゲームが一種の動画制作ツールとして使えてしまう転倒こそがチープ革命的な所産であるだろう。ことによっては、一般的な商用ツールよりも用途が限られている分ユーザーには嬉しかったかもしれない。
もう一つの大きい要素は二次創作的発想である。上記のUGC的発想に基づいて動画共有サイトであるニコニコ動画ではそれこそ『らぶです2』やら『3Dカスタム少女』やらを利用して制作した動画がいくつもアップロードされることになったのだが、その多くがエロティックな描写と絡んでいることは特筆に価する。これはゲームがもともとアダルトものだったことを考えれば自明に思えるかもしれないが、事態は逆で、エロいモデリングを最初から織り込んでいるソフト(ツール)だったからこそユーザーに受け入れられたのだと考えるべきだ。というのは、二次創作はそもそも、あるキャラクターに対するエロティックな妄想を具現化したいという欲望が強く顕現する営みだからである。このことはコミックマーケットの様子やpixivなどを眺めていれば一目瞭然なのだが、静止画はともかく動画ともなると初心者には敷居が高いというのが実情だった。逆に言えば、現状を鑑みるに、人々はかわいい3Dモデルを用いて、自分の好きなように着飾り、エロティックなことも含めて自在に動かしたいという欲望を昔から持っていたということになるだろう。だからこそ3Dモデリングによるゲームは発達してきたのだし、ユーザーも自分たちが参加する契機を見逃さなかったのである(※65)。
3Dそのものの可能性はアダルトゲームそのものよりかは、ニコニコ動画のような動画共有サイトやコンシューマを観察したほうがより実り多いものになるだろう。しかし、エロスに後押しされた発達が、UGC的な創作表現において重要な役割を果たしていることは間違いない。このことは可能性であると同時に不可能性でもある。というのもメーカーが提供しているのはもはや材料であって物語ではないからだ。豊富なデータベースと使いやすいインターフェースを洗練させていく方向しかこの線路上にはない。むろん、『SISTERS』のようなフェティッシュを極めたエロス表現には今後も変わらぬ需要があるだろうし、『School Days』は残虐表現のタブーに挑戦していたところがあったため、その鮮烈さゆえの人気を博した。だが、それ以外の戦略はないのだろうか。2000年代のゲームを見ることで、その展望を掴むことはできるのだろうか。
文=村上裕一
※61 たとえばILLUSIONは当時から現在まで活動を続けているメーカーだが、このメーカーは常に当時最新の技術で作品づくりをしているので、発展のベンチマークとして考えることができるかもしれない。例えば『Sexyビーチ2』(2003)と『Sexyビーチ3』(2006)では大きく描画のレベルが違う。なお後に国際問題化する『レイプレイ』(2006)もこのブランドの作品だが、皮肉なことに当ブランド最高の傑作であるという評価が名高い。
※62 『人工少女2』(ILLUSION、2004)などが不十分ながら3Dキャラメイクゲームの走りであり、このコンセプトは後のシリーズ続編にも引き継がれている。
※63 その結果、続編となる『らぶデス2』(2008)以降ではデフォルトで着せ替え機能や、身長・胸囲の調整モードなどが実装されることとなった。
※64 例えば「東方発情祭を3Dで再現してみた?」()や「3Dカスタム少女でいろいろ 30 改 再」など。
※65 ニコニコ動画では初音ミクの登場とともに彼女を擬人化して動かそうとする機運が高まり、MMDという3Dモデリングツールが生まれた。このツールはまさに『3Dカスタム少女』の活躍と並行して現れたものであり、いまや一つの大きなジャンルとなっている。注目すべきは、エロスとは無縁だったはずのこのツールも、生まれたばかりの頃からエロスと密接な関係性のもとに使用されていたということだ。たとえばミクにひたすらオナニーさせるような動画もごく初期に存在していた。そこまでではないエロ表現は枚挙に暇がないし、エロを目的にしていなくてもパンツや排泄などに妙な執着を見せている動画が多いのも特徴的である。拙著『ゴーストの条件』の第二部も参照。
関連リンク
3D アダルト・美少女 ゲーム メーカー イリュージョン
http://www.illusion.jp/
11.12.04更新 |
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