2009.02.23 Mon - 03.07 Sat at vanilla gallery 『夢と白昼夢を描く異端の画家 キジメッカの超絶具象』 文=井上文 魁偉で、異観で、静謐――。見る者を果てしなき迷宮に誘う血まみれのドアがあなたに幾つもの謎かけをして意味なきことの意味を語りかける。 「わからない」ことの恍惚に浸りながら行く、向こう側の世界―― |
キジメッカの絵画展『精神負債賤役』
2009年2月23日(月)〜3月7日(土)
東京・銀座「ヴァニラ画廊」にて開催
1967年、東京都生まれ。88年にハンドメイド作品集『自慰の六謝』を制作(オランダで販売)。雑誌『S&Mスナイパー』での連載を経て、2007年には劇場公開映画『探偵物語』(監督:三池崇)に作品が多数出演した。そんなキジメッカ氏が描くのは、バラバラにされた肉体、垂れ落ちる赤い血、不吉なイメージに彩られたどこも知れない世界である。
その絵は一見して非常にグロテスクであり、恐ろしい。しかしずっと見ていると、最初のインパクトとは裏腹に、ある種の安らぎすら感じられてくるのは奇妙だ。氏自身はどんなつもりで作品を描いているのだろうか。
『衛生的食材』2004年
「気分としては普通ですよ。平常心。テレビ観ながらとかラジオ聞きながらとか、洗濯機まわしながら描いたりしてます。別に人をバラバラにしたいって願望があるわけでもないですし」
だったらなぜ体をバラバラにするのかという質問に、氏は「わかんない(笑)」と答えた。
実は、キジメッカ氏の絵の題材になっているのは氏が睡眠中に見た夢や白昼夢の光景なのだそうだ。夢で見て面白いと思ったものをそのままキャンバスに再現しているので、内容がどんなものであれ、そこには意図も狙いもメッセージもないのだという。
『視線回避』2005年 |
『魚肉検査』2005年 |
夢で見たものを描き終えてしまえば、氏も我々とほぼ同じ立場で「これはいったい……」と首を傾げるほかはないのだ。一見ダークな世界を描いていながら、意外に負のイメージだけに偏らないのは、そこに恣意的な意味が込められていないからかも知れない。
『二つの入口を持つ部屋の前』2006年
氏が油絵を描き始めたのは16歳の時。以後、「普通の絵」は一切描いたことがないという。
「一度、高校生の頃にスケッチで人が人にかぶりついてる絵を描いたんですけど、それを親が見たらしくて、心配して家族会議を開いたことがあったそうです(笑)。当時から今くらい荒れた感じの絵を描いていましたね」
思春期の頃からこういう世界を描いていたとすれば独特の少年であったことは間違いない。
『耐え難い嫉妬』2006年 |
『耐え難い嫉妬』2006年 |
魁偉で、異観で、静謐な絵――。作品にメッセージはないという氏だが、若き日から今に至る氏のナイーブな一面は、常にうっすらと透けてオブラートの奥を一層謎めかせてはいなかっただろうか。が、夢は夢。氏にとってもわからないものはわからないまま、今日も無限に意味深な光景を丹念に描き込んでいくばかりなのである。
『わからない天使 その弐』2008年
今回の個展『精神負債賤役』では、新作約10点の他、映画『探偵物語』に出演した作品5点、未展示の旧作品も多数出品されるという。機械的に描かれた夢の中の世界は、毒に溢れた地獄なのか、無菌のパラダイスなのか。「キジメッカ」という名前すら「16歳の時に夢で閃いた意味のない文字列」だという異端の画家が、外界に開いたドアの数々。あなたはその向こう側を見て何を思うだろうか。
文=井上文
『家族』2008年
キジメッカの絵画展『精神負債賤役』
開催日時=2009年2月23日(月)〜3月7日(土)
11:00-19:00(最終日は17:00)日曜休廊
会場・問い合わせ先=東京・銀座「ヴァニラ画廊」
〒104-0061
中央区銀座6-10-10 第二蒲田ビル4階
電話 03-5568-1233
キジメッカ Kizimecca / プロフィール
1967年 東京生まれ
某大学法学部中退
国内外にて時々展示を行っている。本・雑誌等への掲載少々。
2004〜2005年 S&Mスナイパー巻頭頁連載。
2007年 劇場公開映画「探偵物語」(監督:三池崇)に作品が多数出演。
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井上文 1971年生まれ。SM雑誌編集部に勤務後、フリー編集・ライターに。猥褻物を専門に、書籍・雑誌の裏方を務める。発明団体『BENRI編集室』顧問。 |
09.01.09更新 |
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