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第11章 学級奴隷・真弓【1】

「真弓、いいだろう?」

山岸君が私を見つめました。胸が苦しくなります。私は、まともに目が合わせられなくて、うつむいてしまいました。

「だって、私たち、まだ中学生だし……」
「もうやってる奴はとっくにやってるよ。早乙女だって、さやかとやったっていってたし、宇津木だって」

さやかちゃんの話は私も聞いていました。すごく痛かったって、言いながらも、ちょっと自慢そうでした。

山岸君のことは、本当に好きです。最初の男性が山岸君だったら、絶対に後悔しないと思います。

でも、やっぱりまだ勇気がありません。私は首を横に振りました。

「お願い。もう少し待って」

放課後の体育館の裏。ちょうど死角になる場所なので。人目につかない所で話したい人たちがよく利用しています。中にはここで、大胆なことをしてしまう人もいるそうです。

一カ月前に、私は山岸君にここに呼び出されて、告白されました。実は私も、以前から山岸君のことが気になっていたのです。でも、すぐに返事をすると、軽い女の子だと思われてしまうような気がして、一日だけ待ってもらいました。本当は飛び上がるほど嬉しかったのですけど。

私たちの学校は全寮制で、もちろん男子と女子は別々の寮です。私はテニス部、山岸君も陸上部なので放課後、ぎりぎりの時間まで部活をしていると、学校の外に出てデートをするような暇はありません。週末以外は、ほとんど学校の敷地内で過ごしています。

なので、つきあっているといっても、デートらしいデートをしたことは、まだありません。こうやって、ちょっとの時間を過ごすくらいです。

先週、ここに来た時、山岸君は私を抱きしめて唇を重ねてきました。もちろん私は初めての経験でした。山岸君も初めてだったみたいです。緊張していたせいか、ぶるぶると震えて歯が当たってしまいました。

でも、山岸君に抱きしめられて、キスをされると身体が痺れるように熱くなります。幸せな気持ちになります。

それから山岸君はここで会う度にキスをしてきます。三回目の時は、舌を私の口の中に入れてきました。最初はびっくりしましたが、言われて私も舌を出しました。舌と舌がからみあうと、なんだかいやらしくて、変な気持ちになります。いけないことをしているみたいで、ドキドキしました。

そして今日、山岸君は、私に今度の週末に外出してホテルに行こうと言いました。ホテルに行くということが、どんな意味なのか、私でもわかります。

そういうことに興味がないといったら嘘になります。いえ、それどころか、本当は自分はとてもいやらしい女の子なんだと思っています。

山岸君にキスされた日には、いつも夜は同室の子に気付かれないように、ベッドの中でこっそりと自分の胸や股間を触ってしまいます。オナニーは少し前から覚えていました。こんなことをしてはいけない、恥ずかしいことなんだと思いながらも、つい手が伸びてしまいます。

その時、私はとてもいらやしいことを考えてしまいます。クラスの男の子たちや先生に裸にされて、体中を触られてしまうところを想像してしまうのです。私は恥ずかしくて泣き叫びながらも、気持ちよくなってしまうのです。本当なら、山岸君にやさしく抱きしめられるところを想像しなければいけないのに。

もしかしたら、自分は変態なんじゃないかと悩んでしまいます。だから、そうやって自分でしてしまった後は、いつも罪悪感に苛まれます。

「おれ、もう我慢できないんだよ。真弓のことが好きだから、全部をおれのものにしたいんだ」

山岸君がそう言います。とてもうれしい言葉でした。全部、山岸君にあげたい。私だって、そう思ってるんです。

「でも……」

勇気のない私は、まだ応じることができません。もしかしたら、いやらしい自分を山岸君に知られてしまうかもしれない。山岸君はそんな私に呆れてしまうかもしれない。そんな恐れも自分の中にありました。

「真弓っ」

山岸君が急に私を抱きしめました。それほど大柄なほうではない山岸君ですが、やっぱり男の子らしくがっしりした身体付きをしています。抱きしめられると、山岸君の筋肉をしっかりと感じられます。

そして山岸君は私の唇を奪いました。私は自然に唇を少し開けます。彼の舌が入ってきます。私も自分から、舌をからませます。いやらしい湿った音がします。くすぐったいような気持ちよさに、私の全身が痺れてしまい、力が抜けます。ああ、今、たぶん私のあそこは濡れているんだな……。そんなことを考えました。

唇を離した山岸君は、私を見て、こう言いました。

「今度の週末だぜ。いいな」

そして、くるりと背中を向けると、男子寮のほうへと歩いて行きました。

私は、きっと断われないんだろうな。私は、なんだか他人事みたいに、そう考えていきました。


私と山岸君が通っている国立黎明学園は、少し特殊な学校です。教育省の直接運営で、小中高の一貫システム。カリキュラムや授業形態など教育上の様々な実験を行なう目的で作られています。そのため、学期ごとに授業のスタイルが変わりますし、給食のメニューもかなりユニークです。

新しい試みは、全てこの黎明学園で実験されて、効果があると全国の学校で実施されるというわけです。

そのため、口が悪い子たちは、自分たちのことをモルモット、そして学校のことをモル学などと呼んだりしています。

しかし、その分、学校の施設などは充実していますし、寮も綺麗で快適です。先生たちも優しく、素晴らしい人たちばかりです。

実は、私をはじめ、この学園に通っている生徒たちは家庭に問題がある子が多いのです。親の経済的問題や、健康的な問題、そして人格的な問題などで、家庭から離れて生活しなければならない子がほとんどです。

私も、小学生の時に両親を事故で亡くしたことから、黎明学園に通うことになりました。今ではここが私の家であり、学校であり、故郷です。私は、黎明学園で勉強できることを、誇りに思っていました。

あの日までは……。


それはホームルームの時間でした。担任の石川先生が教室に入ってくると、クラスメートのみんなは素早く席に着きます。

「おはよう。今日は新しいお知らせがある」

先生がそういう時は、新しい「実験」が実施されるということです。「実験」は私たち生徒にとって、楽しい場合もありますし、厳しいことになる場合もあります。最近では前者として給食のドリンクバー制の実施、後者では授業の開始時間の30分前倒しがありました。

私たちは、息を飲んで石川先生の言葉を待ちます。なにか、いい「実験」でありますようにと祈りながら。

「みんなも知っているように、我が国には国民奉仕法という法律がある。全ての国民が一定期間、国に奉仕することを定めた法律だ」

先生は話し始めました。奉仕法のことは、この国の国民なら誰でも知っています。全ての国民は15歳から40歳のうちに二年間、国に奉仕する義務があるのです。その時期はランダムに決められるため、中等部や高等部の生徒でも、奉仕者として学園を去る人が、たまにいます。

国を支える大事な法律だとわかっていても、みんなその時が来るのを恐れています。男性は、国防軍に徴兵され厳しい訓練を受けなければならないし、女性は「奴隷」にならなければならないからです。国のためだとは言っても、正直嬉しいと思っている人なんて一人もいないでしょう。でも、そのことを口に出すことは出来ません。国民奉仕法を批判することは、重罪なのです。

「国民奉仕法では、女性は奉仕者として二年間、全ての人権を放棄して、被奉仕者、すなわちご主人様にあらゆる奉仕をしなければならない。これはわかっているな」

みんな力なく返事をします。特に女生徒は、自分が奴隷になる時のことを想像して、憂鬱になってしまうのです。

「奉仕者は奉仕者としての訓練を受けるわけだが、ご主人様の側にも、それなりのルールやマナーがあるということを見直そうという動きがあるんだ。つまり、ご主人様もご主人様らしくしなければならないということだな」

石川先生は、教室の中をゆっくり歩き回りながら、生徒たちを見回します。石川先生は口のまわりに濃い髭を生やしていて、ちょっと人相が悪いので、生徒たちの間では五右衛門先生なんてあだ名をつけられています。厳しい一面もあるけれど、冗談が上手で気さくな先生で、私は大好きです。

「そこで、義務教育の段階で、奉仕者と被奉仕者、つまり奴隷とご主人様の関係をきちんと学んでおくべきではないかという提案がなされている。実際は、未成年がご主人様になることはできないが、事前に学習しておくことは重要ではないかということだ」

石川先生は、再び教壇に戻り、黒板にチョークを滑らせました。

「奉仕実習」

大きな字でそう書かれました。

「この学園で実験的に実施されることになった制度だ。つまり、各クラスで抽選で選ばれた女子一名が、一ケ月だけ奉仕者になり、クラスの他の生徒に奉仕するのだ」

一瞬の沈黙があり、その後、クラス全員が声を上げました。女子は全員、恐怖と不満の声。そして男子の声には、少なからずの喜びと興奮が感じられました。

私は耳を疑いました。石川先生が言っていることは、つまりこのクラスの女子生徒の誰か一名が、みんなの奴隷にされてしまうということです。このクラスの女子生徒は十五人。私が奴隷となる可能性も十五分の一あるということです。

「先生、そんなのいやです。ひどいです!」

クラスで一番成績のいい詩織さんが立ち上がって抗議しました。頭もよくて美人の詩織さんですが、気も強いのです。プライドの強い彼女がみんなの奴隷になるなんて、ちょっと考えられません。

しかし、先生は当然のように、その抗議を退けます。

「だめだ。もう決まったことだ。これは教育省ばかりではなく、奉仕庁からの提案でもある。あまり文句を言うと、先生でも助けてあげられなくなるぞ」

石川先生のその真剣な表情に、詩織さんも黙って座るしかありません。

「誰が奴隷になるかは抽選だ。十五人のうち、ひとり。これで、公平に選ぶ」

石川先生は大ぶりな箱を教壇の上に乗せました。上部に穴が開いています。先生はその穴に手を入れました。

「このクラスの奉仕者になるのは……」

先生は、箱の中をかき回し、そして一枚の紙キレを取り出しました。そこに可哀想な女生徒の名前が書いてあるのでしょう。

クラスの女生徒全員が目を閉じています。そこに自分の名前がないように祈っているのでしょう。もちろん私も同じです。

誰かが、犠牲者になるのは間違いありません。それが自分でないことを祈りました。自分勝手と思われるかもしれませんが、そう祈らずにはいられません。

そして、石川先生はその折りたたまれた紙キレを広げます。哀れな生贄になる者の名前を読み上げます。

「高梨真弓、お前がこの2年S組の奉仕者だ」

私は耳を疑いました。しかし、それは間違いなく私の名前でした。ぐらりと教室全体が揺れたような気がしました。胸に穴があいたように冷たくなりました。

こうして、私の学級奴隷実習は、始まったのです。

(続く)

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11.05.30更新 | WEBスナイパー  >  赤い首輪
文=小林電人 |