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第13章 女上司・麻奈美【2】

あまり敏感なほうだとはいえない陽太でも、ここ数年で世の中のムードが大きく変わってきていることは感じている。世界中の大きな紛争の多くが解決に向かい、緊張感は薄れてきている。その反面、国内では保守的な空気が色濃くなっている。最も大きな変化は、男尊女卑の風潮が強まっていることだ。

ついこの間までは、女性の社会進出がもてはやされ、男女平等が重視されていた。自立する女性は魅力的だというイメージが主にマスコミから発信されていたように思えた。

それがこの数年で大きく変わった。女性はあくまで控えめに、男性に尽くす女こそ魅力的なのだというドラマや映画がたくさん作られた。人気のタレントも、大人しく清純そうなキャラクターの女性ばかりになった。気の強そうで派手な女性は、ほとんど表舞台から消えていった。

象徴的だったのは、世界的な女性権利団体PTWへの報道だった。そのリーダーである女性のあられもない姿がインターネットで中継されたという事件があったのだが、マスコミは一斉にPTWがいかがわしく反社会的な団体であるかを報じ、この事件も同性愛のもつれがきっかけなのだと断言したメディアまであった。

そんな風潮の中で、若い女の身でありながら、積極的に活躍している北村麻奈美に社内の風当たりが強くなるのも、仕方のないことだった。麻奈美がハイライズを大きく成長させたプロジェクトをいくつも成功させているのは事実ではあるが、やっかみの声も少なくはなかった。そしてそれは彼女がハイライズの社長である林原の事実上の愛人であることへの非難へとつながる。社長の愛人だからこそ、会社の全面的なバックアップが得られる。だから成功するのは当たり前なのだと。

麻奈美と共にプロジェクトを推進してきた直属の部下たちは、実際にはそんな特別な後押しなどないということを知っているのだが、その信ぴょう性のある噂を打ち消すことはできなかった。

そして社長と麻奈美の関係は、大きな爆弾を抱えていた。このハイライズという会社を立ち上げる際のスポンサーであり、大口株主となっているのは林原社長の妻、佳織の父親だった。そんな関係から、社長は佳織には頭があがらないのだ。
嫉妬深いことで知られる佳織が二人の関係に気づいたら、ハイライズという会社の存在自体が揺らいでしまうかもしれない。

社員の多くは、二人の関係を知っているが、それでもなんとか佳織の耳には入らないようにしていたのはそういう理由があった。

しかし、噂はいつまでも封じておけないものだ。いや、疑い深い佳織に8年にも渡る愛人関係を隠し通せて来たことのほうが奇跡だったと言えるかもしれない。


「ごめんなさいね。あなたにも、もっと仕事を教えてあげたかったんだけれど」

麻奈美はそう陽太に詫びた。精神的なダメージのせいなのか寝不足なのか、麻奈美はひどくやつれていて、顔色も悪かった。それでも、それがまた妙な色気を感じさせるのだから、美人は得だな、などと陽太は呑気なことを考えていた。いや、麻奈美が退社してしまうことは残念だったが、まだ思い入れを持てるほどの日数を彼女の部下として過ごしてはいなかったのだ。

「はい、残念です」

それでもとりあえず、ありきたりの返事はしておく。

麻奈美が退社の挨拶に回った時の他の社員たちの反応も冷淡なものだった。かつてはどんなに実力者として社内で勢力を持っていたとしても、もう去っていく人間にすぎないのだ。もともと麻奈美に反感を持っていた人間はもちろんのこと、麻奈美の派閥と目されていた者も、これからは彼女の威をかるわけにはいかない。むしろ、もう麻奈美とは関係のない人間だと周囲にアピールしなければならないのだ。

麻奈美と林原社長との愛人関係が、妻の佳織に発覚したのは一週間前。激怒し、離婚とハイライズからの資金引き上げを口走る佳織に林原は土下座し、麻奈美と一切の関係を経つことで許しを得たという。そして、麻奈美も、いわれのない失敗の責任を取るという形でハイライズを追われることとなったのだ。

もちろん送別会が行なわれることもなく、見送るものもなく、麻奈美はひっそりとハイライズを去っていった。

麻奈美のチームは解体され、陽太は別のチームに編入された。野口という社長の古い友人だという男が陽太の新しい上司となった。強い立場の者には弱く、弱い立場の者には強いという、お世辞にもあまり尊敬できるタイプではない男だったが、それなりに仕事はこなせる。上下関係の厳しさに慣れた体育会系の陽太は、野口には可愛がられ、彼のアシスタント的な立場で仕事に励んだ。

そして麻奈美がハイライズから去って、半年以上が過ぎた。陽太も麻奈美に関しての記憶はすっかり薄れていた。

しかし、麻奈美はハイライズへと戻ってきた。それも、あまりにも意外な形で。


その日は月に一度の全体朝礼だった。100人弱の全社員が起立して、社長をはじめとする上層部の話を聞く。フレックス制度を採用しているハイライズでは、全社員が揃うのはこの時以外はない。

司会進行役の橘総務部長がマイクを握って言う。

「さて、次は林原取締役からのお知らせです」

社長ではない林原というのは、佳織のことだ。佳織は名目上だけの取締役であり、会社に出てくることは滅多にない。その佳織がわざわざ朝礼に出てきての告知とは、いったいなんだろうか? 社員の誰もが興味を持って前を見るが、社長以下取締役全員が並んでいるところに佳織の姿はなかった。

その時、社長室のドアが開いて、中から佳織が出てきた。

「きゃあ!」

女子社員の間から悲鳴が上がった。男子社員の驚きの声が響き渡る。

陽太も社長室のほうを見たが、前に人がたくさんいるのでよくわからない。人の隙間からシックなスーツ姿の佳織がチラチラと見えるだけだ。林原社長と同じ年のはずなので、もう40代のはずだが、そうは思えないほど若々しく、かなり美人の部類だ。

こんな美人の奥さんがいても、北村さんみたいな愛人を作っちゃうんだよな、男って……。陽太は久しぶりに麻奈美のことを思い出した。

その時、社員の間から、その麻奈美の名前が上がった。

「き、北村さん、どうして!」

佳織が颯爽とオフィスの中央奥へと歩いて行く。その時、陽太は悲鳴の理由を知った。佳織の足元に白いものが見えた。それは、四つん這いで歩く全裸の人間、それも女性だった。

「北村、さん……?!」

佳織の持つ鎖で赤い首輪をひっぱられ、犬のように歩かされているその全裸の女性。その顔は羞恥と屈辱に歪んでいるが、まぎれもなく北村麻奈美だった。

膝をついた四つん這いで歩く度に、地面に向いて垂れ下がった乳房と、突き出された白い尻がぷりぷりと揺れる。

その異様でエロティックな姿に全社員の視線が集中していた。いや、一人だけ林原社長だけはうつむいて歯を食いしばっているようだった。

オフィスの中央奥で、佳織はマイクを持って立つ。その足元で、全裸の麻奈美がしゃがんで座る。両腕をまっすぐ伸ばして下につけているので、まるで「待て」を命じられた犬のようだった。その手で股間は隠れているものの、むっちりと丸く盛り上がった乳房は、はっきりと全社員に晒された。

「今日から我が社に奉仕してもらうことになった麻奈美です。ご存知の通り、以前は北村麻奈美という名前で我社の社員だった人ですが、もう奴隷なので苗字はありません。麻奈美と呼び捨てにしてあげて下さい」

嬉々とした笑顔で佳織が言った。社員の間にざわめきが広がる。佳織が何を言っているのか、わからないのだ。

「国民奉仕法では、奴隷として奉仕する対象は個人と定められていましたが、今後それが企業など団体に対しても許可しようという改正案が出てるんですね。今回、そのテストとして我が社で企業奴隷を飼うことになりました。これから1年間、この麻奈美はハイライズの社員全員の共同奴隷ということになります。国民奉仕法の範囲内でしたら、麻奈美にはどんなことをしてもいいし、どんなことをさせてもかまいません」

社員のざわめきがさらに高まる。

「おい、本当にいいのかよ、おれ、北村さんに憧れてたんだよ」
「何してもいいって、何してもいいのか?」
「しかし、北村さん、いい身体してたんだな。もう30歳くらいだったよな。そうは見えないぜ、見ろよ、あの美味しそうなおっぱい」

そしてもちろん陽太も、麻奈美の姿に釘付けだった。麻奈美の白い裸身を見て、股間が勢いづいてしまうのを止められなかった。痛いほどに勃起してスラックスの前に大きなテントを張っている。思わず、前かがみになってしまう。

「さぁ、麻奈美。あなたからもご挨拶しなさい。ちゃんと立ってね」

佳織に言われて、麻奈美は顔を伏せながら頷く。その目にはうっすらと涙が浮かんでいるようだ。頬は真っ赤に染まり、ぶるぶると細かく震えている。

麻奈美はゆっくりと立ち上がった。女ざかりの裸身が露になる。自然に右手が股間に、左手が胸に伸び、恥ずかしい部分を隠す。

「何やってるの、奴隷のくせに隠すんじゃないわよ」

佳織が、麻奈美の尻を思い切りひっぱたいた。バシっと乾いた音がオフィスに響き渡る。

「はいっ、すみませんっ!」

あのプライドの高い麻奈美が、これほど従順になるとは、ここに来る前に相当な調教がなされたのだろうと陽太は思った。そしてその光景を想像して、さらに股間を膨らませる。

「奴隷のご挨拶のポーズはどうやるのか、忘れたの?」
「は、はい……」

麻奈美はおずおずと両手を胸と股間からはずし、頭の後ろで組んだ。そして脚を、肩幅ほどに開く。

社員たちがどよめく。あの、社内を肩で風を切って歩いていた美しきエース、北村麻奈美が、全てをさらけ出しているのだ。

好奇と、好色の視線が麻奈美の白い裸身に突き刺さる。大きくて丸い乳房。子供を産んでいないからか、年齢を全く感じさせないピンク色の乳輪と小さめの乳首。細くくびれた腰と、そこから急な曲線を描く大きなヒップ。むっちりと脂ののった下腹部。

なによりも社員たちの目を引いたのは、あるべき陰りが全くない腿の付け根の部分だった。そこには、くっきりとした肉の亀裂が一本、恥ずかしげに浮かび上がっているだけであった。

大人の女性の美しさと色気を感じさせる肉体だけに、そこが幼女のような佇まいだというのは、なんとも不自然であり、それがさらなるエロスを感じさせるのだ。

「ふふふ、みんなが麻奈美のツルツルのアソコを不思議そうに見てるわ。なんで、こんな風になっているのか、説明してあげなさい」
「は、はい。奴隷の証として、ご主人様に剃り上げていただきました」
「どうして、剃られたの?」
「はい。あの、お、おまんこを、みなさんによく見ていただくためです」

あの北村麻奈美が、「おまんこ」などという言葉を口にしている。いや、その「おまんこ」自体をみんなの目の前に晒している。

陽太は興奮のあまりに口の中がカラカラになってしまう。

「そうね。麻奈美はみんなにそこを見てもらいたいのよね。さぁ、ちゃんとご挨拶しなさい。しっかりみなさんのほうを向いてね」
「は、はい……」

麻奈美は震えながら顔を上げる。見知った顔ばかりが目の前に並んでいる。あまりの羞恥と恥辱に意識が飛んでしまいそうだ。それでも麻奈美は言わなければならない。

「奴隷の麻奈美です。これから、みなさまにご奉仕させていただきます。至らない点もありかと思いますが、その際は、どうか厳しくご指導下さい」
「どこでご奉仕するのかしら、麻奈美」
「はい。あの、この身体を使わせていただきます」
「具体的に言わないとわからないわよ」
「わ、私の全ての穴でみなさまにご奉仕させていただきます」
「穴の名前もちゃんと言って!」

佳織は、さも嬉しそうに麻奈美を追い込んでいく。麻奈美は一瞬、躊躇したが、やがて意を決したようにその言葉を口にした。

「私の口と、おまんこと、お尻の穴です」

そう言い終わった途端に、麻奈美の目からボロボロと涙がこぼれた。

こうしてハイライズに一匹の企業奴隷がやってきたのだ。

(続く)

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11.10.24更新 | WEBスナイパー  >  赤い首輪
文=小林電人 |