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第6章 外交奴隷・アイリ【2】

アイリの白く細い指がイサクのベルトを外そうとしていた。

「ちょ、ちょっと待って」

イサクが慌てて言うと、アイリはピタリと手を止めた。

「お嫌いですか、ご主人様」

メイド姿のアイリは、イサクを見上げる。捨てられた子犬のような表情だった。

「嫌いというか、僕はこんな風に、そういうことをするのは、ちょっと……」
「失礼しました。申し訳ごさいません」

アイリは床に額を擦りつけるようにして、土下座した。それがイサクをまた慌てさせる。

「いや、そんな、いいんだ。君は、そういうことをするようにって、ダニエルに言われただけなんだろ?」
「はい。イサク様にお仕えするようにと」

イサクは深くため息をつく。

「まぁ、君も、僕が拒否したというと、困ることになるんだろう?」
「はい……。奴隷失格ですので……」

アイリの言うところの「奴隷」というものが、どんな制度によるどんな立場なのか、イサクにはよくわからなかったが、自分に拒否されれば、この少女がひどい目にあうのだろうということは予想出来た。

「わかった。とりあえず君はここで、僕の身の回りの世話をしてくれ。それだけでいい。性的なサービスは一切無用だ。それが主人としての僕の命令だ。わかったね」

イサクはきっぱりとアイリに言った。アイリは少し驚いたようだったが、それでも素直に頷いた。

「わかりました。ご主人様」

そんな風にして、イサクの一週間のバカンスは始まった。


イサクがバックス社所有のこの別荘を訪れるのは久しぶりだった。十年近く前に、ここが完成した直後に来たっきり。ワーカホリックの気があるイサクは、ほとんど休暇を取らない。それが妻のマリアとの関係を悪化させた原因にもなったわけだ。

もともとイサクの国は、あくせく働くよりも、人間らしくのんびりと過ごすことを優先する国民性だ。バックスも、イサク以外の社員はたっぷりと休暇を取っている。この役員専用の別荘も、いつも誰かしらが使っているという状況だった。

知らないうちに、別荘のあちこちが改造されていて、ずいぶん変わっていることにイサクは気づいた。中でも、バスルームがずいぶん広くなっているのには、驚いた。欧米人はシャワーがメインであり、入浴の習慣はあまりない。イサクも、滅多に浴槽に浸かることはないため、バスルームが豪華になっているのは意外だった。たぶん役員の誰かの趣味なのだろう。

大人が3人はゆったりと入れるような、大きな浴槽にお湯が溜められている途中だった。

「もうすぐお風呂の準備が出来ます。お入りになりますか?」

後ろから声をかけられ、振り向くとメイド服姿のアイリがいた。

「いや、僕はシャワーでいいよ」
「そうですか……。でも、食事の前にお風呂につかると、とてもリラックスできますよ。私の国では、温泉に入ることが、バカンスの目的になるほどですから」

アイリは訴えるような表情でイサクに言う。断わったら今にも泣き出してしまいそうだ。

「わかったわかった。アイリがせっかく準備してくれんだし、入ることにするよ」

イサクはつい、そう言ってしまうが、その後にアイリが満足そうな愛らしい笑顔で「はい」と答えるのを見て、拒否しないでよかったと思った。

自らを「奴隷」と言うこの少女が、今までどんな辛い体験をしてきたのかはわからない。恐らく想像を絶するような不幸が彼女の身の上には襲いかかり続けているのだろう。

少なくとも自分と一緒にいる間だけでも、あまり困らせたくない、泣かせたくはない。イサクはそう思った。


「ふうー」

思わず声が出た。首まで湯に浸かるなんて、何年ぶりだろう。温度はややぬるめ。アイリの言うように、身体中の緊張をゆっくりと解きほぐしてくれるようで、確かにリラックスできる。イサクは、入浴を少し見直した。

成人男性としては小柄とはいえ、イサクが体を思い切り伸ばせる広さになった浴槽は、なかなか快適なものだった。バスルーム自体が、かなり広く増築されていて、浴槽以外のスペースも無駄に思えるほどに広く取られている。

イサクは、そこに置かれた奇妙な椅子と、壁に立てかけられている大きな物体に気がついた。椅子は、透明な樹脂で出来た板を折り曲げたような形をしていて、腰を下ろす部分の中央がぽっかり空いている。もしかしたら椅子ではないのかもしれない。

壁に立てかけられているのは、ビーチで使うエアーマットのようだった。銀色をしたビニール製で、チューブ状の凹凸がつけられている。

それらの器具が何なのか、どう使う物なのか、イサクには全く想像もつかなかった。役員の誰かが持ち込んだものなのだろうか。

ぬるめのお湯につかりながら、ぼんやりとそれらの用途を考えていると、バスルームの外から物音がして、やがて、ドアが開いた。

「失礼します、ご主人様」

バスルームに入ってきたのは、アイリだった。全裸に赤い首輪だけの姿だ。

「えっ、何だ?」

イサクは慌てて、目を逸らす。

「お体を洗わせていただきます」

アイリはバスルームの床に座り込み、土下座をした。

「また、裸じゃないか」
「服を着たままでは、濡れてしまいますので……」
「いや、体くらいは、自分で洗えるよ」

くるりとアイリに背を向けて、イサクはそう言う。冗談じゃない。全裸の女の子に体を洗わせるなんて、出来るはずがない。だいたいイサクは妻とだって、洗いっこなどしたことは一度もない。

しばらくイサクはそのままでいたが、アイリが黙っているので、気になって振り向く。全裸の少女は床の上で正座したまま、じっとうつむいていた。顔はよく見えないが泣いているようにも思える。

「アイリ、だから、君の手を借りなくても、僕は自分の体くらいは自分で洗えるから……」
「申し訳ありません、ご主人様。でも、私にも少しは仕事をさせていただけないでしょうか。何もしないわけには、いかないのです」

イサクは根負けした。

「わかったよ。体を洗うことだけ、お願いするよ。それだけでいいから」

すると、アイリは顔を上げ、パッと明るい表情になる。

その素早い切り替えを見て、イサクは、やられたかな、と言う気にもなった。しかし、一度は許可を出してしまったのだ。体を洗うことだけは、させるしかない。

アイリは、プラスティック製の洗面器で、手際よくシャボンを泡立て始めた。そして準備が出来るとイサクを呼んだ。

「ご主人様、こちらへどうぞ」

アイリは、イサクをさっき発見した奇妙な形の椅子に座らせた。その椅子の下と、尻があたる部分には折りたたんだタオルが置かれていた。座ると、股間の中央部分が宙に浮く状態になり、どうにも収まりが悪かった。どうしてこんな形状の椅子なのか、その時点ではイサクには全くわからなかった。

イサクが両手で自分の股間を隠していると、アイリはその部分にタオルを置いて覆ってくれた。そしてイサクの背後に座った。

「失礼します、ご主人様」

イサクは背中に柔らかくスベスベとしたものを感じとり、驚いて振り向いた。

アイリが胸にたっぷりのシャボンをつけて、イサクの背中に擦りつけているのだ。可愛らしい乳房がイサクの背中に押しつけられる。その先端の小さな突起の感触まで、しっかりと肌に伝わる。それはなんとも官能的な感触だった。

「お、おい、何するんだ、アイリ」

アイリは動きを続けながら答える。

「ご主人様の体を洗わせていただいています」
「こんな洗い方、おかしいよ」
「私の国では、奴隷はこうやってご主人様の体を洗うことになっているんです」

アイリは華奢な体をくねらせながら、イサクの背中にシャボンを擦りつけている。

「本当は、もっと胸が大きいほうが気持ちいいんですけど……。ごめんなさい」
「い、いや、いい。これで十分だよ」

とっさにイサクはそう答えてしまったが、何が十分なのか自分でもよくわからない。しかし、一生懸命に体を動かしているアイリを見ると、もうそれを止められなかった。

「次は腕のほうを洗わせていただきます」

そう言って、アイリが取った行動は、またイサクを驚かせた。アイリはイサクの左腕をまっすぐ横に伸ばさせると、そこに跨ったのだ。当然、アイリの股間がイサクの腕に押しつけられる。前後に細かく動かしながら、アイリは股間のシャボンをイサクの腕に擦りつけていった。

股間が刺激されるのか、動く度にアイリは小さく声を上げた。

「あ、あん……」

イサクはあっけにとられて、ポカンと口を開けてその姿を見ていた。

「指を洗わせていただきます」

そう言うと、アイリはイサクの指を一本づつ握り自分の股間へと導き、そして挿入させた。すでに十分に濡れている蜜壷のヌメヌメとした温かな感触がイサクの指を包み込む。

「え、ええ?」

もうイサクは何が何だかわからなくなっていた。この少女は、いったい何をしているんだ? 

指が挿入される度に、アイリは快感を覚えてしまうのか腰をくねらせて吐息を漏らす。それを5本の指全部に繰り返した。

イサクが呆然としている間に、アイリは右腕と右手の指全てを同じようにした。最後の一本、右手の小指を挿入し終わると、アイリは小さく笑いながら言った。

「これは私の国では、壺洗いといいます」

アイリの顔はうっすらと赤みを帯び、瞳は潤んでいた。あまり女性経験が多いほうではないイサクにも、彼女が性的興奮を感じている状態だというのは、わかった。

そして、アイリの言うところの「壺洗い」のあまりに艶めかしい感触を指で味わったイサクは、自分もまた激しい興奮を得ていることを認めないわけにはいかなかった。股間に置かれたタオルは、下から突き上げられるように盛り上がっていたのだ。

それに気づいたアイリは、嬉しそうな笑みを浮かべた。イサクは慌てて股間を手で隠す。

「ご主人様、嬉しいです」
「いや、これは……」
「ありがとうございます」

そしてアイリは、再びイサクの背後へ回った。首筋に顔を近づけ、舌を伸ばす。チロチロと舌先でイサクの首筋を舐め始めた。しかも体を寄せて乳房がぴったりとイサクの背中に押しつけられるようにしている。

「う、う……」

舐められる感触、そして押しつけられる乳房の感触。イサクは思わず声を漏らす。

アイリの舌は首筋から背中と少しずつ下のほうへと降りて行く。そして腰のあたりまで来ると、アイリはまたイサクの想像もしなかった行動に出た。

自分の足をイサクが座っている椅子の空洞部分に入れたのだ。透明樹脂の板を上が開いたコの字型に折り曲げているこの椅子は後ろから見ると筒状になっている。その中にアイリはすっぽりと下半身を入れてしまったのだ。

仰向けの状態で筒の中をくぐり抜けて行く。そして、顔が椅子の真下に来た。イサクの股間がアイリの真上にあるわけだ。

あっけにとられたままのイサクは今、自分とアイリがどんな状態にあるのか、よくわからなかった。しかし、その後、イサクは股間に生温かい感触を得て、飛び上がらんばかりに驚いた。それはアイリの舌だった。

アイリは、イサクの尻を舐めたのだ。
(続く)

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10.06.14更新 | WEBスナイパー  >  赤い首輪
文=小林電人 |