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第9章 潜入捜査官・エリカ【4】

「いやです。離して下さい。警察を呼んで下さい」

エリカは縄で縛られ、自由の利かない体を揺さぶりながら叫んだ。しかし、店長と呼ばれる男と、山本と呼ばれる女はニヤニヤと不気味な笑いを浮かべるばかりだった。

「さっきまでは警察は呼ばないでと言ってた癖に、今度は呼んでくれかい。ずいぶん簡単に気が変わるんだねぇ」
「この部屋はこう見えて防音がしっかりしてるからね。どんなに叫んでも外には聞こえないよ」
「いや……、助けて……」

エリカは絶望的な気持ちになる。これまでPTWのメンバーとして世界各地で情報蒐集の任についてきたエリカだが、直接的に危険な目に遭うことはなかった。特にスパイとしての訓練を受けているわけでもない。

PTWは、あくまでも女性の人権を守るための団体に過ぎないのだ。

「まだ他にも何か盗んでるかもしれないね。山本さん、その紙袋をもっとよく調べてごらん」

店長に言われて、山本は紙袋の中に手を入れてゴソゴソと中を探った。

「この箱は何かしら。何、おまんじゅう? おみやげみたいね。あら、もう一冊本が入ってるわ」

中年女は一冊の文庫本を紙袋から取り出した。艶めかしい女性のイラストが描かれた小説のようだった。「女スパイ肛虐地獄」とタイトルが書かれている。それが、女性をいたぶるいかがわしい小説であることは、エリカにもわかった。

「うわぁ、外人さん。あんた、本当にSMが好きみたいだねぇ。これなんか、ハードなアナル責めで人気の作家さんの本だよ。こんな美人さんが、こんな本を万引きするとは、人は見かけによらないってのは本当だね」
「違います。そんな本は初めて見ました。誤解です。何かの間違いです」

みゆきから渡された紙袋に、なぜそんないやらしい本が二冊も入っていたのか、エリカには全くわからない。

そうだ、みゆきだ。この本屋で待っててと言われたのだから、みゆきはここに来るはずだ。大きな声を出せば、みゆきに聞こえるかもしれない。

エリカは力を振り絞って、叫んだ。

「みゆきさん、助けて!」

店長たちはその声に驚いて、慌ててエリカの口を塞いだ。

「この馬鹿、なんて声を出すんだい。叫んでも無駄だって言っただろう」
「また大声出されると面倒だな。綺麗な顔を隠すのは勿体ないが、仕方がない」

店長は、ティッシュペーパーを何枚も箱から引っ張り出すと丸めて、エリカの口の中に詰め込み、そして上からタオルで口を割るようにして縛った。

「んぐぅ、うう……」

即席の猿轡を噛まされて、もうエリカは声をあげることもできなくなってしまった。

「さて、それじゃあ、身体検査を始めるかな。どうやら、まだ色々隠しているみたいだからね」
「おっと、取り調べの証拠を撮っておかないとね」

山本はデジタルカメラを本棚に縛り付けられているエリカに向けて、シャッターを切った。フラッシュが瞬いて、みじめな姿のエリカが撮影された。エリカは顔を思わずレンズから顔を背ける。

「大人しくしてるんだよ、外人さん」

店長は手を伸ばして、エリカの着ているコートのボタンを外していく。服を脱がされるのだと知ったエリカは暴れて抵抗する。腕を後ろに回されて頑丈な本棚に縛りつけられているとは言え、少しは動くことも出来るし、本棚もギシギシと揺れる。

「全く、聞き分けのない奴だな。大人しくしろといったのに」
「しょうがないわね、店長これを」

山本は赤い大きな首輪を取り出した。

「外人さんにはわからないかな。この国に女には見慣れたものだけどな。もっともこれは本物じゃあないが」

店長はそう言いながら、エリカの首にそれを巻きつけてベルトで止めた。そしてそこから伸びてる鎖を天井のフックにかけて、引っ張った。

「ん、んんっ!」

鎖はピンと張り、エリカは首をギリギリまで上に引っ張られる姿勢となってしまう。暴れれば首が絞まり、呼吸ができなくなる。その姿勢の苦しさ以上に、首輪をつけられてしまった屈辱のほうがエリカにはたまらなかった。

この国の女性は法律で二年間、奴隷として屈辱的な生活を強いられる。そのシンボルがこの赤い首輪なのだ。事前にそんな話を聞いていただけに、自分が首輪をつけられてしまったのは、あまりにショッキングだった。

「さぁ、大人しくしてなさいよ」

店長は手際よくエリカのコートのボタンを外し、肩から脱がせる。腕が背中で拘束されているため、そこにコートが引っかかる。

店長の手は白いブラウスに伸びた。ボタンを外す。黒いブラジャーが露になる。

「んぐぐぐぅ!」

下着姿を晒してしまった。恥辱と怒りで、エリカは顔を真赤にする。こんな東洋の地で、下卑な中年男の目に肌を晒すなんて。

「ほう、おしゃれなブラジャーだね。白い肌が引き立つな。それになかなかの大きさだ」
「ホント、綺麗ねぇ。早く直に見たいわ」
「まぁ、待ちなさいな。物事には順番があるんだよ」

この男女は、自分を裸にするつもりなのだ。改めてそれを確信すると、エリカは絶望的な気持ちになる。いやだ、こんなところで、こんな風に肌を晒さなければならないなど、耐えられない。

しかし、そんなエリカの呻きも全く気にかける様子もなく、店長たちは次々と服を脱がしていく。

「うーん、しまったな。足を縛っちゃったから、スカートを脱がせられないな」
「切っちゃえばいいじゃない。どうせ、まともな姿じゃ帰れないんだからさ」
「それもそうだな」

店長は机の引き出しから大きなハサミを取り出すと、ジョキンとスカートを切り落とした。スカートはボロ布となって床に落ちる。

「んんーっ!」

エリカは声にならない悲鳴を上げた。脱がされる以上に、服を切り裂かれたことはショックだった。もう元に戻らない。自分が追い込まれた状況の恐ろしさを改めて思い知る。

「じゃあ、これもだな」

店長は、エリカの下半身を覆うパンティストッキングをビリビリと破いていく。

「んっ、んんっ!」

ストッキングを破かれるのも、またエリカの心に強いダメージを与えた。恐怖に脚がガクガクと震えてしまう。

そしてエリカはブラジャーとショーツだけの姿になってしまった。同性の山本が思わずうっとりみとれてしまうほど、見事なプロポーションだった。スラリと伸びた手足の美しいラインは、どんなに西洋化したと言われていても、純粋な東洋人には見られないものだった。そして店長が口にしたように、黒の下着が肌の白さを引き立てて、見事なコントラストを作り出していた。

「綺麗だわぁ」

ため息を付きながら、山本はエリカをカメラで撮影していく。こんな姿を撮られるのは耐えられなかったが、拘束されている身ではどうにもならない。エリカは呻くばかりだ。

「さて、ここにも何か隠していないかチェックしないとねぇ」

店長は満面の笑みを浮かべながらハサミの先端をブラジャーの中央へと滑りこませる。
い、いやぁ……。心の中でエリカが叫ぶと同時に、パチンという音がした。

「おおーっ」

店長も山本も目を見張る。まろび出たエリカの乳房はあまりにも美しかった。大きすぎず小さすぎず、そして丸く絶妙なフォルムで盛り上がっている。なによりも目を引くのは、その肌の白さと、薄ピンク色の乳輪と乳首だった。まるで森の妖精を思わせる、儚げな可憐さがそこにあった。そこに、ブロンドの長い髪が垂れ下がる。アジア女性とは全く違うニュアンスの美しさだった。

顔を背けても、二人の視線が自分の乳房に注がれているのはわかる。見られていると思うと肌が熱くなり汗ばんでくる。屈辱的でひたすら不快なはずなのに、心が妙にざわめいてしまう。

「おや、乳首が勃ってきましたよ、外人さん。なんだ、見られて興奮してるんじゃないですか」
「SMに興味があるくらいだから、縛られて感じちゃってるんじゃないの。いやらしいわねぇ。こんな綺麗な顔してるのに」

店長と山本は口々に勝手なことを言う。もちろん山本は、その美しい乳房をデジカメで撮りまくっている。

「さて、ブラジャーには何も隠してなかったみたいだけど、女が隠すというと、やっぱりここですよねぇ、ふふふ」

店長はこれ以上ないというほど淫猥な笑顔を見せながら、ハサミの先端をエリカの下半身へと向ける。

パチン、パチン。二回の音と共に一枚の布切れと化したショーツが床へと落ちた。
ああ、もうだめ……。エリカは心の中で絶望に呻いた。

「おおおおおっ!」

店長は目を見開いて、顔をその部分へと近づけた。食い入るように見つめる。

うっすらとした金色の繊毛が、深い切れ込みを飾るように生えていた。陰唇は小さく、淡いピンク色。脚を開いた状態で拘束されているのに、その部分はぴったりと口を閉ざしている。まるで少女のそれのように可憐という言葉が似合う佇まいだった。

「ううむ、これは綺麗だな……」

感心したとでも言うように店長がつぶやいた。これまで少なからずの数の女性のその部分を見てきたが、これほどまでに淡い色のそれを見たことはなかった。

「ホント、さすがに白人のは綺麗なものなのねぇ」

山本も思わずつぶやく。少し嫉妬心も混じっているようだ。

「いやぁ、これは本当に素晴らしいな」

店長は今にもむしゃぶりついてしまいそうに、顔を近づけて、覗き込んでいる。しゃがみ込んで見上げているのだ。

「ん、んん……」

エリカは強烈な羞恥にあえいでいた。その部分を異性にこんなに見つめられたのは、初めての経験だった。店長の視線が、まるで熱い光線のようにジリジリと敏感な皮膚を焼く。

いや、見ないで……。心の中で何百回と叫ぶ。大切な女の秘めた部分を、こんな形で見ず知らずの男女に見られてしまうなんて。エリカはこれが現実のことだとは信じられなかった。

「いやぁねぇ、店長。そんなにスケベ顔して覗き込んじゃって。童貞の中学生じゃあるまいし。ちょっとどいてよ、写真撮るんだからさ。この外人さんの恥ずかしいところ、ちゃんとアップで撮ってあげるんだから」

山本は、名残惜しそうな顔の店長をどかせると、エリカの広げられた股間へと、カメラを向けて近づいていく。

ああ、いや……、そんなところ、写真なんて撮らないでぇ。エリカは顔を真赤にして呻く。
その時、山本の足元で物音がした。

「あら、何かしら」

何かを踏んだようだった。床に落ちていたショーツだった黒い布の横に、小さな物体が落ちていた。つめ先ほどの小さな金属片だった。

山本はそれを拾い上げる。指先でつまんで、しげしげと眺める。

エリカは、ハッとした表情になった。みゆきから託されたメモリーだった。エリカは何としてもそれを持ち帰らなければならないのだ。彼女たちが身を張って調べ上げた国家奉仕法に関する情報が記録されているのだから。 

(続く)

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11.01.31更新 | WEBスナイパー  >  赤い首輪
文=小林電人 |