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Alice who wishes confinement
私の居場所はどこにあるの――女児誘拐の不穏なニュースを観ながら倒錯した欲望に駆られた女子高生が体験する、エロティックでキケンで悩み多き冒険。理想と現実の狭間で揺れ動く乙女心とアブノーマルな性の交点に生まれる現代のロリータ・ファンタジー。オナニーマエストロ遠藤遊佐の作家デビュー作品!!――さすが藤原さん。「僕の父親は将棋で母親はインターネットだ」って言うだけあるわ!
調教、奴隷、アナル、ご奉仕、フェラチオ、緊縛、軟禁、ご主人様……パソコンのモニタから溢れてくる刺激的な言葉の数々を見て、まゆりは目を丸くした。
思ったとおりだ。彼女の「女の子を監禁したいっていう人をさがしてるの」というわけのわからない話を聞いた藤原は、特に驚いた様子も見せず「うーん、それはやっぱり出会い系かネットの掲示板だね」と、大量のサイトのURLを送ってくれた。大部分は援助交際かSMのパートナー探しを目的としたものだったが、中には真剣に自分の性癖を綴り“監禁のロマン”について長々と語っているものも含まれている。
こういうタイプの掲示板は、例の“女児誘拐監禁事件”が起こってから一気に増えたんだよね……と藤原は言った。ほら、世の中にはシャイな変態が多いからさ。「狂ってるのは自分だけじゃない」って思った途端にずっと心の中に秘めてたものが噴き出したんだよ。中には監禁志願の女性のカキコミなんてものまであるから驚いちゃうよね。まあ、その気持ちはわからなくもないけど。
王将少年:繭さんも監禁されたいんでしょう?
繭玉:うん。
顔から火が出るほど恥ずかしい告白が、藤原に対してならなぜかすんなりとできた。それは、まゆりの中の監禁願望が実体を帯びてきたということでもある。“婚活”ならぬ“監活”に本気で乗り出すのなら、どう考えても一人じゃ難しい。もしかしたら怖い目に会うかもしれないし、ヘタをすれば殺されかねない。それに何年もひきこもっていて世間知らずの私が、自分の力だけで目的のものを手に入れられる可能性は低い。そうだ、味方はいてくれたほうがいい。
繭玉:どうしてわかったの?
王将少年:うーん、なんとなく。面白いなあ、繭さんは。そういうところは知世たんじゃなくてハルヒっぽいんだよなあ。いいじゃない。されなよ、監禁。僕、協力するからさ。
睡眠時間を削って頑張っても、全てのサイトに目を通すのに丸一週間かかった。
ひきこもりの身には時間なんて無限にあると思うかもしれないが、そういうわけにもいかない。もうすぐ2月になるのだ。あと1カ月で卒業式。それは、仮にちゃんと学校へ通っていたとしたらまゆりの高校生活も残り1カ月で終わるということだ。あと1カ月すれば私は本当に何者でもなくなってしまう。置いていかれてしまう。それまでになんとかして監禁されたいという思いが心のどこかにある。
とはいえ、焦って失敗したら意味がない。18年間、石橋を叩きながら生きてきたまゆりにとって、これは大勝負だった。絵文字だらけの出会い系サイトからあまりの激しさにうなされそうなSMサイトまで、残らず読み込んだ。
しかし、なかなか思うような物件は見つからないものである。わかってはいたけれど、そもそも出会い系なんてのは論外だ。まゆりが欲しいのは“ずっと監禁してくれるご主人様”。一夜限りのときめきやお金が欲しいわけじゃない。かといって、もちろん監禁プレイができるSMパートナーというのとも違う。
しかしその中に一つ、気になるサイトがあった。
“監禁したいご主人様のための掲示板”。その名の通り、女性を監禁し自分の思い通りの奴隷に仕立てあげたいという願望を持った男たちが集まるサイトである。“女児誘拐監禁事件”をきっかけに開設されたのだろう。できてからまだ一カ月足らずだったが過去ログの数は驚くべきもので、こんな女を監禁したい、こんな状況で監禁したいなどといったカキコミは熱い思いに溢れている。中には愛する奴隷との一日を朝起きてから寝る瞬間まで事細かに妄想しているものさえあった。
実際にコンタクトを取る術はなかったが、お金やひとときの欲望ばかりが見え隠れする出会い系やパートナー探しサイトよりも、自分の求めている監禁に近いような気がした。
そして、ある日。
まゆりはひとつのカキコミに出会った。ハンドルネームはそのものずばり“タナベ”。名前を見たとき、今でも毎日夢の中に現われる大柄な中年男の姿が脳裏に浮かんだ。少女を監禁して逮捕された田辺昭雄と、夢の中の田辺。そしてこの掲示板にカキコミをしているタナベ。3人ともまゆりにとっては実体のない別々の男なのだが、どういうわけか知らぬ前に1人の“タナベ”という人間としてインプットされた。
――この人かもしれない。
そう思った瞬間、頭の中の靄がスッと晴れ、視界が一気にクリアになった。神経が研ぎ澄まされ、他のカキコミが目に入らなくなる。なんだろう、この感じ。
……ああ、そうだ。王手への最も美しい道筋を見つけたときの感じだ。こんな気持ち何年ぶりだろう。
カキコミを読めば読むほど、タナベはうってつけのご主人様だった。
まず、年齢は40代。独身で、職業はどうもサラリーマンらしい。掲示板に書かれた監禁シミュレーションによると、家は都内の一軒家。SMに限らず映画や小説全般に造詣が深く、経済的にも精神的にも余裕のある暮らしぶりに見える。
心配していた極端な変態趣味もなさそうでホッとした。本当のところを言えば、藤原に教えられたSMパートナー募集のサイトを読み込むうちに、まゆりは少し不安になってきていたのだ。SMサイトに書かれている“監禁”は、女を檻に閉じ込めたり、首輪をつけて犬のように扱ったり、貞操帯をつけさせたりといった18歳のひきこもり少女の想像をはるかに超えるものだったからだ。最初のうちは逃げ出さないように縛られても仕方ないと思っていたが、SMマニアの人たちの“監禁プレイ”では、お尻に浣腸をしてウンコを我慢させたり、我慢できなくなったらご主人様の目の前で脱糞させられたりもするという。いくらなんでもさすがにウンコはムリだ。
さらに、カキコミの中で再三「死ぬまで監禁して逃がさない」というセリフを口にしているのも高ポイントだった。1カ月や2カ月の中途半端な監禁ならされないほうがマシ、というのがまゆりの考えだった。美味しいところだけ味わってあとはポイじゃ、くだらない男に吸い取られて続けているお姉ちゃんと変わらない。いかに心地よく長い間監禁されるか。それがテーマだ。
そしてまゆりにとって何よりも好都合だったのは、タナベが監禁したいのは“若い女”だというところだった。彼の妄想に登場する可愛い奴隷娘は、いつも学生だ。水をはじくピチピチの肌、恥じらいを残した表情、何も知らない純真な態度。タナベの好みは世間知らずのまゆりから見ても古風なものに思えた。しかし、SMパートナー募集の掲示板を見ても出会い系サイトを見ても、そんな清純な若い女はどこにもいない。ということは、もしまゆりに監禁志願するチャンスさえあれば、タナベは一も二もなく喰いついてくるに違いない。
とはいうものの、悲しいかな、今の彼女にタナベとつながる術はないのだった。
まゆりには、もどかしさを抱えながら掲示板ウォッチングを続けることしかできなかった。
そうしている間も、例の夢は毎日のように見る。夢の中のタナベは相変わらず自信に溢れていて、まゆりに「服を脱ぎなさい」と命令する。おずおずとセーラー服を脱ぎ捨てると「次は下着だろ」と当たり前のように言う。真っ赤になりながらパンティを脱ぐと、タナベはまゆりの両足を大きく開き、アソコが丸見えの恥ずかしいポーズで右手と右足、左手と左足を縛りつけてしまう……。こんな生々しいシーン、以前ならけして出てこなかった。SMサイトで見たM女の卑猥な画像が頭の中に焼き付いているのだ。恥ずかしい部分を隠そうと身をよじる姿を、タナベはなんともいえないいやらしい顔でニヤニヤ笑いながら見つめている……。
“タナベ”というターゲットが見つかったことで、漠然としていた欲望が急激に具体的な形を持ち始めたのだろう。
朝目が覚めるといつもパンティの股間が少じっとり濡れていて、まゆりは一人で赤面した。
これじゃ欲求不満みたいじゃない。見たこともない男の人にアソコを見られて興奮して……私ったら何を期待してるんだろう。のぼせるにも程があるわ!
しかし夢の変化はそれだけではなかった。それまでまゆりが監禁される部屋は窓さえない四畳半だったのだが、気がつけばそれがフローリングのだだっ広いリビングになり、ベッドは天蓋付きのセミダブルになっている。テレビはずっと憧れていた地デジ対応の42型大画面だ。パソコンも、家にはまだないNINTENDO Wiiも、HDDレコーダーも、『24』のDVD-BOXもある。
膨らんでいく期待感は止まらない。もしかしたら自分は欲望まみれの妄想狂なんじゃないかと思いだした頃、遂に待ちに待ったチャンスが訪れたのである。
(続く)
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