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Alice who wishes confinement
私の居場所はどこにあるの――女児誘拐の不穏なニュースを観ながら倒錯した欲望に駆られた女子高生が体験する、エロティックでキケンで悩み多き冒険。理想と現実の狭間で揺れ動く乙女心とアブノーマルな性の交点に生まれる現代のロリータ・ファンタジー。オナニーマエストロ遠藤遊佐の作家デビュー作品!!――これ、どういうこと?
いつものように朝起きてすぐパソコンを立ち上げ、“監禁したいご主人様のための掲示板”をチェックして、まゆりは驚いた。昨日までとは掲示板の様子が明らかに違っているのだ。毎日必ず更新されている常連達の熱心な書き込みがない。その代わりにずらりと並んでいるのは、エロサイトのURLが貼られただけの書き込みや、「いい天気だなあ」「そうですね」などという何の足しにもならない会話ばかり。まるで違うサイトのようだ。
一体何が起こったんだろう? ドキドキしながらどんどんページをめくっていくと、すぐに理由がわかった。“荒らし”だ。60件ほど遡ったところにこんな書き込みがあった。
投稿者:被害者の会
おやおや、気持ち悪い奴らだねえ。愛ある監禁だとか調教だとか言ったって結局ひきこもり変態だろw こんな夜中にAV観て抜くか妄想書き込むかしかやることないんだ思うと、可哀想で泣けてくる。どうせ何もできやしないくせに、ご主人様とか超ウケルwwwwwお前らみたいな喪男のオカズにされる尻軽女たちもカワイソーだよなwwwwwwwwwwww
どうも、この心ない書き込みを最新ページから押し出すために、掲示板の住人たちが次々と新しい書き込みを増やしているらしい。言い返せばいいのにとも思うが、やっぱり図星な部分もあって真っ向からは対決できないのだろう。
ああ、心優しい変態さんたちに対してなんてことを! まゆりは怒りに震えた。
毎日掲示板を読み込むうちに、彼女は自称・ご主人様たちに対してシンパシーを抱くようになっていた。
――「ひきこもり」とか「妄想」とか余計なお世話よ。それに、こんなふうに波風立てられて、タナベの監禁願望が萎えちゃったらどうしてくれるのよ。
大袈裟な言い方だが、今となってはこの掲示板を見守り監禁される日を夢見ることだけが、まゆりの生き甲斐なのだ。カッと頭に血がのぼり、大きな黒い瞳が涙でいっぱいになった。しかし、そんなまゆりの怒りやご主人様たちの苦労をよそに、“被害者の会”と名乗る人物はほとぼりが冷めた頃を見計らって次々爆弾を投下してくる。これじゃまるでイタチごっこだ。
為す術もなくぼんやりパソコンの画面を見つめていると、一件新しい書き込みがあった。投稿者を見るとタナベだった。
投稿者:タナベ
なんだか場違いな人が紛れ込んでいるようですね。確かに私は変態かもしれませんが、自分の夢の世界を恥ずかしいと思ったことなど一度もありませんよ。むしろ、この素晴らしさがわからない人を可哀想に思うくらいです。
ところで、昨夜は久々に映画『コレクター』のDVDを見ました。この作品を見るたびに監禁とは純愛の一つの表現なんだと痛感します。監禁欲が刺激されて困りました。やっぱり誰にも知られず安全に監禁するなら、この映画のように地下室を用意するのがベストですよね。でも都会じゃそんな環境はなかなか……
そうそう、そうこなくっちゃ!
まゆりはパソコンの前で思わずガッツポーズをとる。さすが私が見込んだターゲット。荒らしなんかに負けず、言うべきことはきっちり言って、しかも自分のペースを崩さない。
安心したところへ、たたみかけるようにメッセンジャーの呼び出し音が鳴った。藤原だ。
王将少年:繭さん、もう起きてる? 例の掲示板、見た?
繭玉:うん。今見たらなんだか面倒なことになってて、ちょっと心配してたところ。
まゆりは藤原にだけは、この掲示板をウォッチしていることを話していた。もちろん、ご主人様候補としてタナベに目をつけていることも。
王将少年:面倒なことって……ひどいなあ、せっかく頑張ってアクション起こしたのに……。
繭玉:えっ、あのムカつく書き込み、藤原さんだったんですかっ?!
王将少年:そうだよ。だってあのままほっといても進展なさそうだったし。ほら、僕って対戦の時も長考するの苦手じゃない。長く時間かけりゃいいってもんじゃないっていうのがポリシーなんだよね。
ドッと体の力が抜ける。そりゃそうだけど、タナベが傷ついてやる気をなくしたり、掲示板自体が閉鎖されちゃったりしたらどうしようもないのに。まったく、人の気も知らないで……。
王将少年:あれ、もしかして怒ってる? でも結果としては有効な一手だったと思うけど。タナベのやつ、すっかりやる気出してるよ。
繭玉:これ、やる気……出してるんですか?
王将少年:出してるよー! これまで「監禁欲が刺激された」なんて書き込み一度もなかったし、地下室が欲しいなんて現実的な話が出てきたこともなかったでしょ。映画のせいだとか言ってるけど、あれは明らかに僕の書き込みへの挑戦状だよ。繭さん、最新の書き込みちゃんと読んだ?
なるほど、言われてみればそうかもしれない。これまでのタナベの書き込みは、妄想とはいえどちらかと言えば一線を引いた客観性のあるものだった。どこか冷静で、官能小説を読んでいるような感じさえあった。しかしこの書き込みの向こうには、なんとか獲物を捕まえようと知恵を絞るハンターの姿が透けて見える。
さすが、二次元にしか興味のないオタクとはいえ男だ。まゆりよりも男の心の動きはわかっているらしい。
王将少年:どうする、繭さん。今がチャンスだよ。ここで有効な一手を指せるかどうかで勝負が決まる! うー、なんだかテンション上ってきたなあ。どう、ここらでタナベ氏にコンタクトとって監禁志願してみる?
いや、ダメだ。こちらから監禁してくださいと頼むんじゃ意味がない。舐められたらおしまいなのだ。ふと、キャバクラでバイトして稼いだ80万を嬉しそうに彼氏に渡すお姉ちゃんの顔が脳裏に浮かぶ。そうだ、それだけは譲れない。
少し考えてから、まゆりは決心したようにキーボードを叩いた。
繭玉:ううん、大丈夫。いい手が浮かんだみたい。
まゆりの考えた手というのは、こうだ。彼女は掲示板を一日中覗いているうちに、タナベが毎日同じ時間に書き込みをすることに気づいた。なぜか決まって朝の7時前後。エロ中心の内容だけに、掲示板が盛り上がるのはだいたい深夜の時間帯で、この時間に書き込みをする者はタナベの他にはほとんどいない。ということは、その時間帯に書き込みをしてすぐに削除すれば、他の住人の目には触れず、彼にだけメッセージを送ることができるのではないか。
次の朝、まゆりは7時少し前になるとこんな書き込みをした。
■今日の獲物情報
投稿者:ハンターの目
早起きは三文の得! 早朝限定の極秘情報! 昨夜11時15分、世田谷区◯◯町のファミリーマート付近にキャバ嬢風の獲物出没。寒空の下、膝上20センチのミニスカで0時過ぎまで退屈そうに何度も店を出たり入ったりしていました。ご主人様が拉致してくださるのを待っているのでは? 推定165センチ、90−64−88、白肌。
そして30分ほどしたら、そそくさと書き込みを削除する。翌日は「渋谷区◯◯町の某小学校付近に健康的なOL風の獲物出没」、翌々日は「目黒区◯◯町の某駐車場付近に女子大生風の獲物出没」。もちろん根も葉もないガセネタだが、はやる気持ちを抑えて何日かそれを続けた。
3日目くらいになると、それまで毎朝7時前後には必ず姿を現わしていたタナベが、ぱったり書き込みをしなくなった。何らかの理由で掲示板を見られなくなったとも考えられるが、まゆりは逆にこの書き込みに興味を持っている証拠だと思った。興味津々だからこそ、食いついているのを知られたくないのだ。インターネットの向こう側で息を潜めて様子をうかがっている大男の姿を想像すると、胸がドキドキした。
そして一週間目、まゆりはついに本命の情報を投入した。
――昨夜0時、杉並区◯◯町の某公園に現役女子高生の獲物出没。制服からするとあの名門・星涼学園の生徒かな? 見たところ塾帰りのようですが、こんな遅い時間まで一人でフラフラしているところを見ると、自分が今いる世界に満足していないのかも。心のどこかでご主人様が拉致してくださるのを待っているのでは? 推定153センチ、84・58・86、ロリ顔。」
日を開けて、二度三度と同じ目撃情報を流す。
“昨夜も杉並区の某公園に例の女子高生が出没、どうも塾は火曜日と金曜日らしい”“昨夜も0時近くに出没。近くで顔立ちを確認しました。化粧っ気はないが色白で若々しい肌はたぶん処女でしょう”等々。赤裸々な言葉で自分を売り込むのは少し恥ずかしかったが、そんなことを言ってる場合じゃない。ウエストも本当は63センチだが、まあこれくらいはセールストークというやつだ。
すると思ったとおり、我慢しきれなくなったタナベから書き込みがあった。
「すみません。その公園は、もしかして××公園じゃないですか。」
……きた!
別ハンドルを使っていたが、彼に間違いない。
魚が餌に食いついた快感に胸を震わせながら、まゆりは震える指でキーボードを叩く。
「ご名答です。今のところだいたい火曜日と金曜日の深夜に出没していますが、学校が春休みに入ると塾のスケジュールも変わってしまう可能性アリです。狩るなら今ですよ、ご主人様。」
そう書き込んだ30秒後には、タナベの書き込みは消えていた。
遂に行動を起こすことにしたんだと、まゆりは確信した。ここで獲物情報を得たという証拠をなくすために消したのだ。
いよいよ監禁されることができる。この部屋を出て新しい場所に行くことができる。
――でも、勝負はこれからよ。次の火曜日はなんとしても××公園に行かなくちゃ。
勝って兜の緒を締めよ、だ。少しの満足感と大きな期待間に包まれながら、まゆりはゆっくりと自分の書き込みを消去した。
(続く)
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