『Crash』1988年1月号/発行=白夜書房
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青山正明と「Flesh Paper」/『Crash』編(4)
引き続き『Crash』誌上での連載「Flesh Paper」であるが、この年あたりからフォーマットができあがってしまっているといおうか、定番ネタで回している感は否めない。ただ後半から増えてくる音楽ネタは新鮮。ダイジェスト的に紹介していく。
『Crash』1988年2月号
「青山正明の健康講座」は爪を丈夫にする方法を紹介。ビデオテープのツメが折れないという、自らの爪が貧弱なことにコンプレックスを抱いていたという青山なりの解決法は、毎日何かをひっかくというシンプルすぎるもの(なんだそれ)。今回のキモは「コリン・ウィルソン用語集」。青山の悟性と感性に多大な影響を与えた思想家として、ウィルソンの思想を紹介。「極く簡単に言えば、ウィルソンは〈自己鍛錬による意識拡大を通して楽観主義者となること〉の重要性を説く、新実存主義者である」。
『Crash』1988年3月号
フランク・ヘネンロッター監督『ブレイン・ダメージ』の紹介と、引き続き「コリン・ウィルソン用語集」でキーワード〈志向性〉を取り上げつつ、ウィルソンの著作が問題提起と分析で終っている点を批判的に紹介。「従って、我々は、ウィルソンの志向性をよく理解した上で、魔術、あるいはヨーガ、仙道をこそ志向すべきなのだ」。
『Crash』1988年4月号
用語集はお休み。ビデオ『チェルノブイリ・クライシス』の解説と、あの八幡書店の『ホロフォニクス』を紹介。「ホロフォニクス」は特殊な録音技術を用いたカセット・テープ作品で、頭の周りで新聞が引き裂かれたり、耳元で囁かれているような、立体的な音の聞こえ方がするということで話題になったもの。どこまで本気かわからない迫真のドキュメント。
『Crash』1988年5月号
小児麻痺患者を「永遠のダンサー」と呼ぶ悪趣味なコラムと、『ハイライト・マイルド』批判、そして久々の「コリン・ウィルソン用語集」。
『Crash』1988年6月号
「チビがナウをリードするワケ」と題したコラムの内容は、喫茶店でちょこまか動く目障りなチビをよく見たら秋元康だった、というもの。その他「コリン・ウィルソン用語集」続き。
『Crash』1988年7月号
用語集はお休み。この号は青山のスタンスを明確に示した「〈智・情・意〉と映画・ビデオ評論」と題した映画批評論が抜群に面白い。〈智・情・意〉はそれぞれ知識・感情・意志のことで、世の雑誌の映画・ビデオ評には圧倒的に〈智〉がない/〈智〉を勘違いしていると批判。「役者の名前をいっぱい知っている、ギャング映画だったら1つ残らず観ている……それがどうした! 映画の世界の中で、映画を語る無意味さが判らんのかね、奴らは。/こういう輩は、映画好き、あるいは映画キチガイというのであって、決して映画評論家とは言わない。シネマライター、シネマ・エッセイストと、肩書きを変えたところで、〈智〉なき文章を正当化することはできない。/現在のさばっている映画・ビデオ評論家(ライター)の半分は、この映画キチガイ。評論にはなってないし、おまけに〈情〉も〈意〉もあやふやだから、読んでいてもちっとも面白くない」とバッサリ。ダメな例として中野翠、萩原朔美、大松田政男の名前をあげている(良い例としたのは川口敦子、利重剛)。この他にはポール・バーホーベン作品のビデオ化情報。
『Crash』1988年9月号
なぜか元イエスのギタリスト、スティーヴ・ハケットの大特集で、見開きの3/4が彼についての解説という謎の展開を見せている。オマケで元カーヴド・エアのヴァイオリニスト、ダリル・ウェイの『The Human Condition』を紹介。音楽について語りだすと止まらない。
『Crash』1988年10月号
ビデオ『I AM NOT A FREAK』紹介記事に、畸形(畸型)について書いた箇所がある。「畸型や死体を面白がるなんて、もう時代遅れ!と言う人がいる。けれども、それはマスコミの人間、あるいはマイナー文化人の評論的発言であって、実際、その手の愛好家にしてみれば、流行か時代遅れかなんてぇのはどうでもいいこと。趣味に新しいもふるいもないのである。/畸型・死体マニアは、未だに高価な医学書に金を注ぎ込んでいるし、レンタル店に出回りそうもない作品を、メーカーから定価で直接購入しているのだ」。その他「コリン・ウィルソン用語集」続き。
『Crash』1988年11月号
再び見開き3/4を使って音楽コラム。「オリエンタル・ムード漂うエキゾチック・ポップ。必聴のCDは、この3枚!!」として、3mustapha3『Shopping』、V.A.『from Stambul to Damascus』、Dissidenten『Sahara Electrik/Life at the Pyramids』を選出。この号はむしろ「障害者がワンサカ登場する異色ハート・ウォーミング・ストーリー『夏の叫び』」というビデオ紹介記事の付録として載っているリスト「畸型・身障者をフィーチャーした主な映画とビデオ」が便利(他誌に使ったリストの再録だが)。
『Crash』1988年12月号
書評『頭が突然鋭くなる右脳刺激法』では水増し本の典型と批判。続いている音楽ネタでは、昨今流行りのアコースティック・ミュージックが全部ハズレだったと手厳しい。フェアグラウンド・アトラクションをダメと言い、フェアポート・コンヴェンションを「昔は良かった」の例であげるセンスは、両アーティストを知っている人には青山の趣味がよく判る一例と思われる。
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新宿アンダーグラウンドの残影 〜モダンアートのある60年代〜
【プロローグ】 【1】 【2】 【3】 【4】 【5 】 【6】 【7】 【8】 【本文註釈・参考文献】
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青山正明と「Flesh Paper」/『Crash』編(4)
引き続き『Crash』誌上での連載「Flesh Paper」であるが、この年あたりからフォーマットができあがってしまっているといおうか、定番ネタで回している感は否めない。ただ後半から増えてくる音楽ネタは新鮮。ダイジェスト的に紹介していく。
『Crash』1988年2月号/発行=白夜書房 |
「青山正明の健康講座」は爪を丈夫にする方法を紹介。ビデオテープのツメが折れないという、自らの爪が貧弱なことにコンプレックスを抱いていたという青山なりの解決法は、毎日何かをひっかくというシンプルすぎるもの(なんだそれ)。今回のキモは「コリン・ウィルソン用語集」。青山の悟性と感性に多大な影響を与えた思想家として、ウィルソンの思想を紹介。「極く簡単に言えば、ウィルソンは〈自己鍛錬による意識拡大を通して楽観主義者となること〉の重要性を説く、新実存主義者である」。
『Crash』1988年3月号/白夜書房 |
フランク・ヘネンロッター監督『ブレイン・ダメージ』の紹介と、引き続き「コリン・ウィルソン用語集」でキーワード〈志向性〉を取り上げつつ、ウィルソンの著作が問題提起と分析で終っている点を批判的に紹介。「従って、我々は、ウィルソンの志向性をよく理解した上で、魔術、あるいはヨーガ、仙道をこそ志向すべきなのだ」。
『Crash』1988年4月号/白夜書房 |
用語集はお休み。ビデオ『チェルノブイリ・クライシス』の解説と、あの八幡書店の『ホロフォニクス』を紹介。「ホロフォニクス」は特殊な録音技術を用いたカセット・テープ作品で、頭の周りで新聞が引き裂かれたり、耳元で囁かれているような、立体的な音の聞こえ方がするということで話題になったもの。どこまで本気かわからない迫真のドキュメント。
『Crash』『Crash』1988年5月号/白夜書房 |
小児麻痺患者を「永遠のダンサー」と呼ぶ悪趣味なコラムと、『ハイライト・マイルド』批判、そして久々の「コリン・ウィルソン用語集」。
『Crash』1988年6月号/白夜書房 |
「チビがナウをリードするワケ」と題したコラムの内容は、喫茶店でちょこまか動く目障りなチビをよく見たら秋元康だった、というもの。その他「コリン・ウィルソン用語集」続き。
『Crash』1988年7月号/白夜書房 |
用語集はお休み。この号は青山のスタンスを明確に示した「〈智・情・意〉と映画・ビデオ評論」と題した映画批評論が抜群に面白い。〈智・情・意〉はそれぞれ知識・感情・意志のことで、世の雑誌の映画・ビデオ評には圧倒的に〈智〉がない/〈智〉を勘違いしていると批判。「役者の名前をいっぱい知っている、ギャング映画だったら1つ残らず観ている……それがどうした! 映画の世界の中で、映画を語る無意味さが判らんのかね、奴らは。/こういう輩は、映画好き、あるいは映画キチガイというのであって、決して映画評論家とは言わない。シネマライター、シネマ・エッセイストと、肩書きを変えたところで、〈智〉なき文章を正当化することはできない。/現在のさばっている映画・ビデオ評論家(ライター)の半分は、この映画キチガイ。評論にはなってないし、おまけに〈情〉も〈意〉もあやふやだから、読んでいてもちっとも面白くない」とバッサリ。ダメな例として中野翠、萩原朔美、大松田政男の名前をあげている(良い例としたのは川口敦子、利重剛)。この他にはポール・バーホーベン作品のビデオ化情報。
『Crash』1988年9月号/白夜書房 |
なぜか元イエスのギタリスト、スティーヴ・ハケットの大特集で、見開きの3/4が彼についての解説という謎の展開を見せている。オマケで元カーヴド・エアのヴァイオリニスト、ダリル・ウェイの『The Human Condition』を紹介。音楽について語りだすと止まらない。
『Crash』『Crash』1988年10月号/白夜書房 |
ビデオ『I AM NOT A FREAK』紹介記事に、畸形(畸型)について書いた箇所がある。「畸型や死体を面白がるなんて、もう時代遅れ!と言う人がいる。けれども、それはマスコミの人間、あるいはマイナー文化人の評論的発言であって、実際、その手の愛好家にしてみれば、流行か時代遅れかなんてぇのはどうでもいいこと。趣味に新しいもふるいもないのである。/畸型・死体マニアは、未だに高価な医学書に金を注ぎ込んでいるし、レンタル店に出回りそうもない作品を、メーカーから定価で直接購入しているのだ」。その他「コリン・ウィルソン用語集」続き。
『Crash』1988年11月号/白夜書房 |
再び見開き3/4を使って音楽コラム。「オリエンタル・ムード漂うエキゾチック・ポップ。必聴のCDは、この3枚!!」として、3mustapha3『Shopping』、V.A.『from Stambul to Damascus』、Dissidenten『Sahara Electrik/Life at the Pyramids』を選出。この号はむしろ「障害者がワンサカ登場する異色ハート・ウォーミング・ストーリー『夏の叫び』」というビデオ紹介記事の付録として載っているリスト「畸型・身障者をフィーチャーした主な映画とビデオ」が便利(他誌に使ったリストの再録だが)。
『Crash』1988年12月号/白夜書房 |
書評『頭が突然鋭くなる右脳刺激法』では水増し本の典型と批判。続いている音楽ネタでは、昨今流行りのアコースティック・ミュージックが全部ハズレだったと手厳しい。フェアグラウンド・アトラクションをダメと言い、フェアポート・コンヴェンションを「昔は良かった」の例であげるセンスは、両アーティストを知っている人には青山の趣味がよく判る一例と思われる。
(続く)
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ばるぼら ネッ
トワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのイ
ンターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』など。なんともいえないミ
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09.03.22更新 |
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