『Crash』1991年12月号/発行=白夜書房
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青山正明と「Flesh Paper」/『Crash』編(7)
日本の90年代は1991年から始まっている説と、1993年から始まっている説がある。つまり80年代の延長としてではなく、明確に「90年代的なもの」が始まったのがそれくらいの時期だということだ。近年は1995年を強調する向きもあるが、象徴する年ではあっても、始まった年ではない。
では連載「Flesh Paper」から浮かんでくる青山にとっての1991年はどんな年だったのかといえば、どうやらハウス・ミュージックを聞き始めた年であり、友人達と東京公司を設立した年のようだ。また7月にインド、8月にタイ、10月にアメリカ、12月にネパールと、海外ジャンキー・ライフを満喫した年でもあるようで、これは翌年の初の著書『危ない薬』につながっていく動きだろう。
『Crash』1991年1月号
ワールド・ミュージック好きは相変わらずのようで、V.A.『Zydeco Blue'n' Boogie』、Steve Jorjan『The Return of El Parche』、Brave Condo『Humansville』のレビュー。この回は「3つのテクニックでモテモテ男に変身!ああ、チンポが乾く暇もない!」というモテるための三か条を語るコラムがあり、内容は省略するが締めの言葉が下らなくて良い。「さあ、今日から、あなたはモテモテ人間に変身だ。どんな女も、ケツを振ってあなたの後をついてくる。あん、もう、好きにして! あなたの口癖は、「チンポが乾く暇もない」。そう、全く「チンポが何本あっても足りゃしない」。「猫のチンポも借りたいぐらい」である」。
『Crash』1991年2月号
プロフィールに「このページでやってる海外ヘンテコ事件簿をそっくりそのまま高校生用の雑誌で使ったら、人気投票で第2位になった。世の中分からんもんだなあ」とある。当時編集していた受験情報誌『TORU』のことだろう。その他ワールド・ミュージックのレビュー、「アッシー君」などのブームを不愉快に思ったらしい青山による過剰な女性蔑視コラム(女は家で炊事洗濯だけしていればいいのである。ディスコやプール・バーなんぞ言語道断、娯楽施設はあまねく女人禁制にすべきである。男女雇用機会平等法断固粉砕! 女から選挙権を剥奪しろ!)など。
『Crash』1991年3月号
プロフィールに「半蔵門下車2分の所に事務所を設立。編集&ライター5名、デザイナー4名と結構大所帯ながら、何の仕事をするかはまだ未定。カセット・テープ聞いたり、無駄話したり、ほとんど大学サークルの部室です。やれやれ。暇な人はたんまりお土産持って遊びに来てね」とある。ということは、1991年初頭に事務所を構えて編集プロダクション「東京公司」を設立したというわけだ。その他、韓国の全羅道の紹介、バリ島でのドラッグ購入ガイドなど。
『Crash』1991年5月号
プロフィールに「1年余りの夫婦別居を経て、嫁姑問題に解決の兆し。いやはや、人間関係はホラー映画なんかよりずっと恐ろしいですねェ」とあり、よく言われる「青山正明=マザコン」問題で大変だったようだ。サラ・ドライヴァー監督『スリープウォーク』(1986年)の紹介記事に、青山の現状認識が垣間見える一節がある。「一斉峰起に転じたマイナー・カルチャーが、無残にも破れ去ったのは80年代半ばのことだった。エロ業界ではビザール物が廃れて美少女路線に移行、ポップ/ロック・シーンではニューウェーブが完全にメジャーに吸収され、更にビデオの世界では、ホラー&カルト作品が切り込み隊長としての任を終え、メジャー系タイトルに道を譲っていった。/まあ、確固たるアングラ・カルチャーが存在しない日本にあっては、マイナーだメジャーだと区別をするのは愚かしい気もするが、マイナー=売れない一筋10数年の私としては、これから先も「売れない」ことにこだわり続けたいものである」。
その他は東京タワーのお土産コーナーの衝撃、オカルト業界とニューエイジを結ぶキーワード「気付き」の解説など。特に注目したいのは「ブリープ音の向こうに交錯する貧困のイサーン」というコラムに、ブリープ・テクノの話題が登場していること。V.A.『subsonic bleeps』収録のGPM「Steel Box」を引き合いに出しながらこう語る。「これを大音量のクラブ空間で耳にすると、だいぶ印象が違ってくる。重低音の霧を振り払うように、ブリープ音がミニマルな旋律を奏で、とりわけ場の雰囲気がクール・ダウンしていくときの感触には、得も言われぬものがある。/また、ブリープ微粒子のシャワーを浴びているようなこの感触が、タイ東北部やラオスで演奏されている伝統音楽モーラムの音の肌触りと妙に似ているのだ」。
『Crash』1991年7月号
プロフィールに「性懲りもなく、10年振りにミニコミを作り始めました。豪華執筆人が全員匿名で逮捕間違いなしのイケない情報を紹介するという、自暴自棄な自家製パンフです。年内完成が目標ですが、はてさて」とあるが……。酒でヘベレケのサラリーマンがなぜ許されてマリファナがダメなんだという主張、映画『IT』紹介の他、ハウス/クラブ・シーンへの考察「宇宙意識の盆踊り ハウスは90年代のプログレか?」がある。いわく、ハウスは60年代的状況=LOVE&PEACEのリバイバルから登場した音楽である、そしてプログレもハウスも音に宇宙を封じ込めようとしている、世紀末の盆踊りにはうってつけだ、というもの。紹介している盤は、Candyflip『Strawberry Fields Forever』、Sweet Exorcist『C.C.C.D』、KLFの別プロジェクトSPACE『SPACE』。
『Crash』1991年8月号
この号で「Flesh Paper」は100回目。前半はメキシコで出回るブラック・タール(ヘロイン)の紹介、人生丸々エクスタシーを得る方法として「自分とは何か?」を問いかける瞑想を紹介。後半は当時流行していたCGを使った幾何学ムービー映像『VIDEO DRUG』をクサした記事と、またもやハウス記事。しかし内容はバンド・ブームの衰退原因の解説が中心で、更に音源紹介は「これが日本一のハウス・ユニットだ、と言ったら怒る人も多いだろう」とノイズ・ユニットの非常階段『ROMANCE』を挙げたりしている。
『Crash』1991年9月号
『ラジオライフ』の別冊『闇データブック』を紹介し、その元ネタとして『Sneak It Through(密輸品を日常用品に隠すテクニック集)』『How To Rip Off a Drug Dealer(ヤクの売人になる方法)』『Political Kidnapping(誘拐概論)』『Hitman(プロの殺し屋の仕事学)』などの海外書籍の名を挙げている。ハイチの音楽、密輸グループの手口拝見、ドラッグ体内残留期間の一覧表など。
『Crash』1991年10月号
春に行った健康博覧会で見た米国アナトミカルチャート社のメディカル・グッズを紹介、ドラッグとの相性が悪い人向けのアドバイス、ホーミー紹介など。トニー・ビル監督『クレイジー・ピープル』(1990年)の紹介記事には「私の収入の5分の1は、ビデオ紹介の原稿に依っている」とある。「毎月50タイトルぐらい見るんだけど、実際、推薦できるのはせいぜい2〜3本。残りはもう、目も当てられないカスである。それでも、お仕事だから褒めちゃいますが、東映のVシネマをはじめとするオリジナル・ビデオは、流石に書いてて胸が痛みます」。三池崇史監督が注目され、哀川翔や竹内力らがスターとなる、90年代後半に盛り上がるVシネマの世界も、まだ青山には辛いものだったようだ。
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【プロローグ】 【1】 【2】 【3】 【4】 【5 】 【6】 【7】 【8】 【本文註釈・参考文献】
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青山正明と「Flesh Paper」/『Crash』編(7)
日本の90年代は1991年から始まっている説と、1993年から始まっている説がある。つまり80年代の延長としてではなく、明確に「90年代的なもの」が始まったのがそれくらいの時期だということだ。近年は1995年を強調する向きもあるが、象徴する年ではあっても、始まった年ではない。
では連載「Flesh Paper」から浮かんでくる青山にとっての1991年はどんな年だったのかといえば、どうやらハウス・ミュージックを聞き始めた年であり、友人達と東京公司を設立した年のようだ。また7月にインド、8月にタイ、10月にアメリカ、12月にネパールと、海外ジャンキー・ライフを満喫した年でもあるようで、これは翌年の初の著書『危ない薬』につながっていく動きだろう。
『Crash』1991年1月号/発行=白夜書房 |
ワールド・ミュージック好きは相変わらずのようで、V.A.『Zydeco Blue'n' Boogie』、Steve Jorjan『The Return of El Parche』、Brave Condo『Humansville』のレビュー。この回は「3つのテクニックでモテモテ男に変身!ああ、チンポが乾く暇もない!」というモテるための三か条を語るコラムがあり、内容は省略するが締めの言葉が下らなくて良い。「さあ、今日から、あなたはモテモテ人間に変身だ。どんな女も、ケツを振ってあなたの後をついてくる。あん、もう、好きにして! あなたの口癖は、「チンポが乾く暇もない」。そう、全く「チンポが何本あっても足りゃしない」。「猫のチンポも借りたいぐらい」である」。
『Crash』1991年2月号/白夜書房 |
プロフィールに「このページでやってる海外ヘンテコ事件簿をそっくりそのまま高校生用の雑誌で使ったら、人気投票で第2位になった。世の中分からんもんだなあ」とある。当時編集していた受験情報誌『TORU』のことだろう。その他ワールド・ミュージックのレビュー、「アッシー君」などのブームを不愉快に思ったらしい青山による過剰な女性蔑視コラム(女は家で炊事洗濯だけしていればいいのである。ディスコやプール・バーなんぞ言語道断、娯楽施設はあまねく女人禁制にすべきである。男女雇用機会平等法断固粉砕! 女から選挙権を剥奪しろ!)など。
『Crash』1991年3月号/白夜書房 |
プロフィールに「半蔵門下車2分の所に事務所を設立。編集&ライター5名、デザイナー4名と結構大所帯ながら、何の仕事をするかはまだ未定。カセット・テープ聞いたり、無駄話したり、ほとんど大学サークルの部室です。やれやれ。暇な人はたんまりお土産持って遊びに来てね」とある。ということは、1991年初頭に事務所を構えて編集プロダクション「東京公司」を設立したというわけだ。その他、韓国の全羅道の紹介、バリ島でのドラッグ購入ガイドなど。
『Crash』1991年5月号/白夜書房 |
プロフィールに「1年余りの夫婦別居を経て、嫁姑問題に解決の兆し。いやはや、人間関係はホラー映画なんかよりずっと恐ろしいですねェ」とあり、よく言われる「青山正明=マザコン」問題で大変だったようだ。サラ・ドライヴァー監督『スリープウォーク』(1986年)の紹介記事に、青山の現状認識が垣間見える一節がある。「一斉峰起に転じたマイナー・カルチャーが、無残にも破れ去ったのは80年代半ばのことだった。エロ業界ではビザール物が廃れて美少女路線に移行、ポップ/ロック・シーンではニューウェーブが完全にメジャーに吸収され、更にビデオの世界では、ホラー&カルト作品が切り込み隊長としての任を終え、メジャー系タイトルに道を譲っていった。/まあ、確固たるアングラ・カルチャーが存在しない日本にあっては、マイナーだメジャーだと区別をするのは愚かしい気もするが、マイナー=売れない一筋10数年の私としては、これから先も「売れない」ことにこだわり続けたいものである」。
その他は東京タワーのお土産コーナーの衝撃、オカルト業界とニューエイジを結ぶキーワード「気付き」の解説など。特に注目したいのは「ブリープ音の向こうに交錯する貧困のイサーン」というコラムに、ブリープ・テクノの話題が登場していること。V.A.『subsonic bleeps』収録のGPM「Steel Box」を引き合いに出しながらこう語る。「これを大音量のクラブ空間で耳にすると、だいぶ印象が違ってくる。重低音の霧を振り払うように、ブリープ音がミニマルな旋律を奏で、とりわけ場の雰囲気がクール・ダウンしていくときの感触には、得も言われぬものがある。/また、ブリープ微粒子のシャワーを浴びているようなこの感触が、タイ東北部やラオスで演奏されている伝統音楽モーラムの音の肌触りと妙に似ているのだ」。
『Crash』1991年7月号/白夜書房 |
プロフィールに「性懲りもなく、10年振りにミニコミを作り始めました。豪華執筆人が全員匿名で逮捕間違いなしのイケない情報を紹介するという、自暴自棄な自家製パンフです。年内完成が目標ですが、はてさて」とあるが……。酒でヘベレケのサラリーマンがなぜ許されてマリファナがダメなんだという主張、映画『IT』紹介の他、ハウス/クラブ・シーンへの考察「宇宙意識の盆踊り ハウスは90年代のプログレか?」がある。いわく、ハウスは60年代的状況=LOVE&PEACEのリバイバルから登場した音楽である、そしてプログレもハウスも音に宇宙を封じ込めようとしている、世紀末の盆踊りにはうってつけだ、というもの。紹介している盤は、Candyflip『Strawberry Fields Forever』、Sweet Exorcist『C.C.C.D』、KLFの別プロジェクトSPACE『SPACE』。
『Crash』1991年8月号/白夜書房 |
この号で「Flesh Paper」は100回目。前半はメキシコで出回るブラック・タール(ヘロイン)の紹介、人生丸々エクスタシーを得る方法として「自分とは何か?」を問いかける瞑想を紹介。後半は当時流行していたCGを使った幾何学ムービー映像『VIDEO DRUG』をクサした記事と、またもやハウス記事。しかし内容はバンド・ブームの衰退原因の解説が中心で、更に音源紹介は「これが日本一のハウス・ユニットだ、と言ったら怒る人も多いだろう」とノイズ・ユニットの非常階段『ROMANCE』を挙げたりしている。
『Crash』1991年9月号/白夜書房 |
『ラジオライフ』の別冊『闇データブック』を紹介し、その元ネタとして『Sneak It Through(密輸品を日常用品に隠すテクニック集)』『How To Rip Off a Drug Dealer(ヤクの売人になる方法)』『Political Kidnapping(誘拐概論)』『Hitman(プロの殺し屋の仕事学)』などの海外書籍の名を挙げている。ハイチの音楽、密輸グループの手口拝見、ドラッグ体内残留期間の一覧表など。
『Crash』1991年10月号/白夜書房 |
春に行った健康博覧会で見た米国アナトミカルチャート社のメディカル・グッズを紹介、ドラッグとの相性が悪い人向けのアドバイス、ホーミー紹介など。トニー・ビル監督『クレイジー・ピープル』(1990年)の紹介記事には「私の収入の5分の1は、ビデオ紹介の原稿に依っている」とある。「毎月50タイトルぐらい見るんだけど、実際、推薦できるのはせいぜい2〜3本。残りはもう、目も当てられないカスである。それでも、お仕事だから褒めちゃいますが、東映のVシネマをはじめとするオリジナル・ビデオは、流石に書いてて胸が痛みます」。三池崇史監督が注目され、哀川翔や竹内力らがスターとなる、90年代後半に盛り上がるVシネマの世界も、まだ青山には辛いものだったようだ。
(続く)
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新宿アンダーグラウンドの残影 〜モダンアートのある60年代〜
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