『Crash』1992年2月号/発行=白夜書房
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青山正明と「Flesh Paper」/『Crash』編(8)
青山にとっての1992年は、東京公司の編集業がメインの年だが、連載「Flesh Paper」はほとんどドラッグ尽くしである。これは年末に発売された初の著書『危ない薬』の準備を兼ねていたのだろう。ほとんどの原稿は改訂され単行本に収録されているので、ここではなるべくドラッグ以外の話題を抽出した。
『Crash』1992年1月号
音楽コラム「世の中、ラップとハウスの大洪水 音楽を汚した黒人どもに裁きを!」では黒人音楽が大嫌いと告白し、ソウル、ブルース、ラップ、ハウスなどすべて「反吐が出る」とバッサリ。白人音楽はマトモだったと振り返っているが、中世・ルネサンス・バロック期の音楽家を挙げたり、古楽・フォルクローレのおすすめCDを並べたりと、時代・傾向が飛びすぎで、単にこれを薦めるために黒人音楽の話を持ち出したのではないか。プロフィールには『らんま1/2』の女版早乙女乱馬に夢中とある。
『Crash』1992年3月号
「それ行け!本朝・食人かたぎ」で人が人を食べる“人肉食い”の紹介。このネタは青山は定期的に取り上げているように思えるが、単なるタブーへの興味なのだろうか。「他人の肉を食らうのが難しいのなら、脂肪摘出手術を受けたときなど、医者にテイク・アウトを願い出てはいかがだろう。癌に侵された内臓であれ腫瘍に蝕まれた肉片であれ、火を通せば、食えるはずだ。この際、肝硬変で入院している親父に頼み込んでみるか……」。その他、LSDやドラッグ情報。
『Crash』1992年4月号
プロフィール欄に忙しそうな近況を書いており、原稿の半分が海外マリファナ誌『HIGH TIMES』の記事翻訳。もう半分も乾燥大麻を吸うためのパイプの紹介という、全ページはっぱづくし。おそらく単行本『危ない薬』の準備中だと思われる。
『Crash』1992年5月号
西丸震哉『41歳寿命説』『人生密度7年説』を「詰めの甘さに加えて、結論も陳腐」と批判的に紹介。コリン・ウィルソン『フランケンシュタインの城』のパクリと感じられたことが原因にも見える。欄外コラムでは“北海道「ドキュメンテイション観光・売買春・開発」刊行会”のミニパンフ『売買春と第3世界』を紹介。フィリピンで13〜15歳の少女15人を囲っていた石井慎一郎の大特集をした9号をはじめ、少女売春のデータ・ソースに役立つよとレコメンド。
『Crash』1992年6月号
邦訳が出版されたデレック・ハンフリー『安楽死の方法(ファイナル・エグジット)』をきっかけとした、安楽死に関する議論の紹介。詳細は原文を読んでいただきたいが、日本尊厳死協会の太田典礼の死因・そうめんを喉に詰まらせたことについて「太田の死は、間違いなく自殺だ。私には、太田が身をもって積極的安楽死の承認を訴えたような気がしてならないのだが……」と考察している。
『Crash』1992年7月号
プロフィールに「単行本制作半ばにして予算を喰い付くし、赤字決定。ここまできたら、本が出るだけで御の字ね。もうすぐ32歳になろうというのに、ああ情けない……」とある。まさか『危ない薬』がベストセラーになるとは思っていなかったのだろう。コラム「地球意志の統一に向けて突き進め!」は、地球規模のボーダーレス化について「武力に取って替わるのは民族でも宗教でもなく、カネなのだ」と、カネを崇拝することで世界を統一しようとするような奇妙なテキスト。その他、青山にとって他人事ではないエイズについてのコラム、「私が『SPA!』を買わない理由」と題した中森明夫批判記事。後者はどこを切り取っても悪態しかないので引用に困るが「金を払って買ったことは1度もない。なぜか。中森明夫が毎号、反吐が出るような駄文を書きなぐっているからである」「このグラビア頁が、もう悪趣味の極み。金玉にジャコウのごとき性ホルモン分泌液を持つ篠山紀信が土左衛門のようなツラをした林真理子を撮影、そこに醜くて知能指数の低い中森明夫がコピーをつけているのである。いかに死体や畸形が大好きなゲテモノ好きの私でも、さすがにこの極醜トリオの揃い踏みには耐えられない」といったノリ。しかも文末は「単なる穴埋めですから、中森さん、これを読んでも機嫌を損ねないでネ」と無茶な注文。青山が亡くなった時に中森明夫が『噂の真相』で歯切れの悪い紹介をしていたのは、このせい?
『Crash』1992年9月号
映画「ヘルイレイザー3」の紹介と、東京公司が編集した『別冊宝島EX タイ読本』の宣伝。「今回の旅では、取材件数がメチャクチャ多かったため、タラタラと常夏の喧騒に身を委ねてる時間なんか全くなし。せめてもの楽しみは、経費を惜しげもなく遣ってマリファナ&ヘロインを大量購入、連日、夕方からスモーク&スナッフで決め、マッサージ・パーラー(要するにソープ)に通い詰めたぐらいですかねぇ。もちろん、女の子へのチップも経費で落としました」……吉永嘉明インタビューで触れられていた「青山さんはまったく仕事をしなかった」話の実態がここに。9月末発売予定の『危ない薬』については「7月14日現在、まだ一行も書けてない……」らしい(次の月も参照)。他にも当時『宝島』編集部にいた町山智浩の名前が出てくる。「JICC出版局の名物ルナティック・エディター町山さんが、この文章を目にしていないことを祈って。だって、自分で作った本を自分の頁で紹介するって、恥ずかしいんだもん」。
『Crash』1992年10月号
小学校の時のちょっといい話3つを紹介。順に「ティッシュ・ゲリラ」「左右対称に非ず」「真夜中のスプリンクラー」で、オナニーに使ったティッシュを隣家の屋根に投げてたら苦情がきた話、オナニーしすぎて腕の筋肉が偏った話、女子トイレを除いてたら川上さんの小便がスプリンクラーのようだった話。のち『エロ本のほん』でも流用している話題である。内容も面白いが、突然この話を始めた理由が「正直なところ、単行本の締切を20日後に控え、まだ1行も書いていない焦りから、“思い出話”でお茶を濁そうという魂胆であります」とあり、なんと一ヶ月前から未だに進展がなかったようだ。案の定、9月発売には間に合わなかった。
『Crash』1992年12月号
青山も原稿を書いていた『シティ・ロード』廃刊の話題、ゲームにハマってる話、そして『危ない薬』発売のお知らせ。『シティ・ロード』については原稿料の振込みが遅かった話を混ぜつつ、「僕が思うに、『シティ・ロード』の映画欄やCDレビューって、専門誌よりセンスがいいんですよね。例えば、デッド・カン・ダンスとかマギー・ライリーとかのアルバムを大推薦するロック情報誌なんてあると思います?」と批評精神を褒め称えている。また青山がゲームというのは意外な気もするが、「ドラッグをキメて遊ぶのに最も適した玩具である」ということで、ハマっている作品としてメガドライブでは「ジノーグ」「サンダーフォース\x87W」「クライング」、スーパーファミコンでは「スーパーアレスタ」「スピンディジー・ワールド」「アクスレイ」などの名前を挙げている。『危ない薬』については「国内で発売されたドラッグ関連の書物では、『マリファナ・ハイ』に継ぐ出来ばえだと確信しております(一番と言わないところが謙虚でしょ)」と傑作を生み出したことを自負しているようだ。
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青山正明と「Flesh Paper」/『Crash』編(8)
青山にとっての1992年は、東京公司の編集業がメインの年だが、連載「Flesh Paper」はほとんどドラッグ尽くしである。これは年末に発売された初の著書『危ない薬』の準備を兼ねていたのだろう。ほとんどの原稿は改訂され単行本に収録されているので、ここではなるべくドラッグ以外の話題を抽出した。
『Crash』1992年1月号/発行=白夜書房 |
音楽コラム「世の中、ラップとハウスの大洪水 音楽を汚した黒人どもに裁きを!」では黒人音楽が大嫌いと告白し、ソウル、ブルース、ラップ、ハウスなどすべて「反吐が出る」とバッサリ。白人音楽はマトモだったと振り返っているが、中世・ルネサンス・バロック期の音楽家を挙げたり、古楽・フォルクローレのおすすめCDを並べたりと、時代・傾向が飛びすぎで、単にこれを薦めるために黒人音楽の話を持ち出したのではないか。プロフィールには『らんま1/2』の女版早乙女乱馬に夢中とある。
『Crash』1992年3月号/白夜書房 |
「それ行け!本朝・食人かたぎ」で人が人を食べる“人肉食い”の紹介。このネタは青山は定期的に取り上げているように思えるが、単なるタブーへの興味なのだろうか。「他人の肉を食らうのが難しいのなら、脂肪摘出手術を受けたときなど、医者にテイク・アウトを願い出てはいかがだろう。癌に侵された内臓であれ腫瘍に蝕まれた肉片であれ、火を通せば、食えるはずだ。この際、肝硬変で入院している親父に頼み込んでみるか……」。その他、LSDやドラッグ情報。
『Crash』1992年4月号/白夜書房 |
プロフィール欄に忙しそうな近況を書いており、原稿の半分が海外マリファナ誌『HIGH TIMES』の記事翻訳。もう半分も乾燥大麻を吸うためのパイプの紹介という、全ページはっぱづくし。おそらく単行本『危ない薬』の準備中だと思われる。
『Crash』1992年5月号/白夜書房 |
西丸震哉『41歳寿命説』『人生密度7年説』を「詰めの甘さに加えて、結論も陳腐」と批判的に紹介。コリン・ウィルソン『フランケンシュタインの城』のパクリと感じられたことが原因にも見える。欄外コラムでは“北海道「ドキュメンテイション観光・売買春・開発」刊行会”のミニパンフ『売買春と第3世界』を紹介。フィリピンで13〜15歳の少女15人を囲っていた石井慎一郎の大特集をした9号をはじめ、少女売春のデータ・ソースに役立つよとレコメンド。
『Crash』1992年6月号/白夜書房 |
邦訳が出版されたデレック・ハンフリー『安楽死の方法(ファイナル・エグジット)』をきっかけとした、安楽死に関する議論の紹介。詳細は原文を読んでいただきたいが、日本尊厳死協会の太田典礼の死因・そうめんを喉に詰まらせたことについて「太田の死は、間違いなく自殺だ。私には、太田が身をもって積極的安楽死の承認を訴えたような気がしてならないのだが……」と考察している。
『Crash』1992年7月号/白夜書房 |
プロフィールに「単行本制作半ばにして予算を喰い付くし、赤字決定。ここまできたら、本が出るだけで御の字ね。もうすぐ32歳になろうというのに、ああ情けない……」とある。まさか『危ない薬』がベストセラーになるとは思っていなかったのだろう。コラム「地球意志の統一に向けて突き進め!」は、地球規模のボーダーレス化について「武力に取って替わるのは民族でも宗教でもなく、カネなのだ」と、カネを崇拝することで世界を統一しようとするような奇妙なテキスト。その他、青山にとって他人事ではないエイズについてのコラム、「私が『SPA!』を買わない理由」と題した中森明夫批判記事。後者はどこを切り取っても悪態しかないので引用に困るが「金を払って買ったことは1度もない。なぜか。中森明夫が毎号、反吐が出るような駄文を書きなぐっているからである」「このグラビア頁が、もう悪趣味の極み。金玉にジャコウのごとき性ホルモン分泌液を持つ篠山紀信が土左衛門のようなツラをした林真理子を撮影、そこに醜くて知能指数の低い中森明夫がコピーをつけているのである。いかに死体や畸形が大好きなゲテモノ好きの私でも、さすがにこの極醜トリオの揃い踏みには耐えられない」といったノリ。しかも文末は「単なる穴埋めですから、中森さん、これを読んでも機嫌を損ねないでネ」と無茶な注文。青山が亡くなった時に中森明夫が『噂の真相』で歯切れの悪い紹介をしていたのは、このせい?
『Crash』1992年9月号/白夜書房 |
映画「ヘルイレイザー3」の紹介と、東京公司が編集した『別冊宝島EX タイ読本』の宣伝。「今回の旅では、取材件数がメチャクチャ多かったため、タラタラと常夏の喧騒に身を委ねてる時間なんか全くなし。せめてもの楽しみは、経費を惜しげもなく遣ってマリファナ&ヘロインを大量購入、連日、夕方からスモーク&スナッフで決め、マッサージ・パーラー(要するにソープ)に通い詰めたぐらいですかねぇ。もちろん、女の子へのチップも経費で落としました」……吉永嘉明インタビューで触れられていた「青山さんはまったく仕事をしなかった」話の実態がここに。9月末発売予定の『危ない薬』については「7月14日現在、まだ一行も書けてない……」らしい(次の月も参照)。他にも当時『宝島』編集部にいた町山智浩の名前が出てくる。「JICC出版局の名物ルナティック・エディター町山さんが、この文章を目にしていないことを祈って。だって、自分で作った本を自分の頁で紹介するって、恥ずかしいんだもん」。
『Crash』1992年10月号/白夜書房 |
小学校の時のちょっといい話3つを紹介。順に「ティッシュ・ゲリラ」「左右対称に非ず」「真夜中のスプリンクラー」で、オナニーに使ったティッシュを隣家の屋根に投げてたら苦情がきた話、オナニーしすぎて腕の筋肉が偏った話、女子トイレを除いてたら川上さんの小便がスプリンクラーのようだった話。のち『エロ本のほん』でも流用している話題である。内容も面白いが、突然この話を始めた理由が「正直なところ、単行本の締切を20日後に控え、まだ1行も書いていない焦りから、“思い出話”でお茶を濁そうという魂胆であります」とあり、なんと一ヶ月前から未だに進展がなかったようだ。案の定、9月発売には間に合わなかった。
『Crash』1992年12月号/白夜書房 |
青山も原稿を書いていた『シティ・ロード』廃刊の話題、ゲームにハマってる話、そして『危ない薬』発売のお知らせ。『シティ・ロード』については原稿料の振込みが遅かった話を混ぜつつ、「僕が思うに、『シティ・ロード』の映画欄やCDレビューって、専門誌よりセンスがいいんですよね。例えば、デッド・カン・ダンスとかマギー・ライリーとかのアルバムを大推薦するロック情報誌なんてあると思います?」と批評精神を褒め称えている。また青山がゲームというのは意外な気もするが、「ドラッグをキメて遊ぶのに最も適した玩具である」ということで、ハマっている作品としてメガドライブでは「ジノーグ」「サンダーフォース\x87W」「クライング」、スーパーファミコンでは「スーパーアレスタ」「スピンディジー・ワールド」「アクスレイ」などの名前を挙げている。『危ない薬』については「国内で発売されたドラッグ関連の書物では、『マリファナ・ハイ』に継ぐ出来ばえだと確信しております(一番と言わないところが謙虚でしょ)」と傑作を生み出したことを自負しているようだ。
(続く)
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