『Crash』1993年6月号/発行=白夜書房
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青山正明と「Flesh Paper」/『Crash』編(9)
1993年はバブル崩壊の後の時代である。青山がバブル経済に言及したことはなく、そもそも政治的な話をすること自体がほとんどないため、どのように時代の空気を感じていたのかは不明だが、東京公司で編集業をバリバリ行っていた時期であるため、不況の波を感じるほどではなかっただろう。音楽や雑学ネタはまったくなく、ほぼドラッグと映画の話題で占められている。
『Crash』1993年1月号
ステイシー・コーチラン監督『マイ・ニュー・ガン』(1992年)の紹介の他、救心製薬の強心剤「救心」をレクリエーション・ドラッグとしての使用のススメ(ただし劇薬なので1日6粒以上はやめろと注意書きも)、川崎駅前の西武ビル3階に入っていたヘッドショップ「MIND」のレポートなど。
『Crash』1993年2月号
プロフィールに「ドラッグ&少女売春を超える快楽を見つけられず、ライターとしての限界を感じている今日このごろ」と不穏な書き出しがあるが、「そもそも、僕は文章を書くこと自体が好きなので、最近、コピーライターに転向しようかなァ、なんて考えています」とも。その他はS・キング原作『バーチャル・ウォーズ』レビュー、「娯楽のひとつとして、ドラッグを見直してみよう」というコラム、および『危ない薬』初版の正誤表。2刷以降は直っているようだが、ここで「重大間違いベスト4」と挙げられている点を転載しておく。
・13頁5行目/ヘロイン→コカイン
・54頁5〜6行目/マリファナの脳内作用システムは分かっていない→Gタンパク質共役受容体がTHCのもたらす作用に深く関わっていることが判明した
・78頁9〜10行目/THCは禁止されていない→80年代まではそうだが、90年に取締りの対象になっている
・109頁/バリ島マップのマジック・マッシュルーム通りはベモ・コーナーのある交差点の南東、パンタイ・クタ通りと並んで東西に走っている小路
『Crash』1993年3月号
プロフィール欄に忙しそうな近況を書いており、原稿の半分が海外マリファナ誌『HIGH TIMES』の記事翻訳。もう半分も乾燥大麻を吸うためのパイプの紹介という、全ページはっぱづくし。おそらく単行本『危ない薬』の準備中だと思われる。
『Crash』1993年4月号
睡眠薬を大量にもらって酒代を節約、2月下旬発売予定の別冊宝島『ようこそ、クスリの王国へ!』の宣伝などの他、中野孝次のベストセラー『清貧の思想』の紹介。「大学時代、氏の著した『自分らしく生きる』(講談社)を読んで感銘を受けた僕は、先日、遅ればせながら近所の書店に赴き、『清貧の思想』を購入、その晩、一気に読了した」。
『Crash』1993年5月号
タイ旅行直前だったため、内容はほとんどコラムというより青山の日記。だが逆に今からすると日常生活が垣間見えて面白い。「眠剤で意識を失ったまま松沢呉一氏に電話を その松沢氏から、唐突なオナニー・ラジオ番組出演の依頼が」というテキストには1993年末にオナニーに関する単行本を書き下ろすつもりとあるが、実現しなかったのが惜しまれる。
『Crash』1993年8月号
『別冊宝島EX ハワイ読本』の取材で4月14日〜29日までハワイに行ってきた時のエピソードとして、娼婦のサービスの悪さ、ハード・ドラッグ・アイス(=シャブ)の値段の高さを挙げ、ハワイは何でも金だと不満を漏らしている。その他「飲む、打つ、買う」のうち「打つ」以外は極めたのでこれからは博打に精を出すぞ!と宣言するコラム。しかし安定快楽志向ゆえに偶然性と不安要素が強い博打は自分に向いてないのでは、と弱気に。しかし体験せずに何か言うのはよくないと、実践編は次回に続く。
『Crash』1993年9月号
「不気味ワタル改め鶴見済の単行本第2弾が発売 これで死ねる、楽に死ねる……」というコラムで『完全自殺マニュアル』を紹介。デビュー作のはずが“第2弾”と書いているのは、秋元康監修『マンガについてボクが話そう』が実質鶴見の最初の単行本であるとするカウントか。吉永嘉明著『自殺されちゃった僕』によれば、青山は鶴見にかなりの自殺についてのレクチャーをしたそうである。とすると、紹介文最後の「(私信)まっ、機会があったら、一緒にお仕事しましょうね」は意味深である。その他、前回から続く博打初体験話の中編と、ドラッグの相場を知ってプッシャーのふっかけを避けようとする話。またプロフィール欄に「日本テレビ『ニュース・プラス1』に取材された」とも。
『Crash』1993年10月号
プロフィールに「8月の頭、大阪のアメリカ村とかいうところに、「大麻堂」がオープンした。大麻に関する情報を一手に集めた、貴重なショップ。行きたいゾ!」とある。『裏ハワイ読本』の宣伝には「今回、編集は相棒の吉永に任せっきり、僕は取材ライターとして20数頁のライティングのみを担当」とあり、全然働かなかったというのは本当のようである。その他、マジック・マッシュルームの新事実、麻薬探知犬と日本人スマッグラー(密輸業者)の話題など。
『Crash』1993年11月号
角川春樹のコカイン事件についてあちこちからコメントを求められるがギャラが発生したのは3本、と哀しんでいる。1992年アカデミー賞外国語映画賞受賞作『エーゲ海の天使』(1991年)の紹介と、合法ドラッグ「ブラックジャック」の紹介の他、『裏ハワイ読本』でインタビューにいった吉福伸逸(『タオ自然学』の著者)のエピソード。ムックにはあまり反映させなかったが吉福は「マトリックス」という単語を何度か口にしたといい、これは「母胎」に等しいのではないかと分析。
『Crash』1993年12月号
ヴィム・ヴェンダース監督『夢の涯てまでも』(1991年)の紹介と、マリファナの収穫期を考えて良質安価の季節モノのススメなど、毎度のテキストだが、プロフィール欄にある「友達に薦められ、『寄生獣』7巻と『墨攻』3巻を読む。どちらも漫画。とっても面白かったですよ」というのは、おそらく翌年出るデータハウスの謎本『寄生獣の秘密』のための予習を兼ねていたのではないだろうか。
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【プロローグ】 【1】 【2】 【3】 【4】 【5 】 【6】 【7】 【8】 【本文註釈・参考文献】
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青山正明と「Flesh Paper」/『Crash』編(9)
1993年はバブル崩壊の後の時代である。青山がバブル経済に言及したことはなく、そもそも政治的な話をすること自体がほとんどないため、どのように時代の空気を感じていたのかは不明だが、東京公司で編集業をバリバリ行っていた時期であるため、不況の波を感じるほどではなかっただろう。音楽や雑学ネタはまったくなく、ほぼドラッグと映画の話題で占められている。
『Crash』1993年1月号/発行=白夜書房 |
ステイシー・コーチラン監督『マイ・ニュー・ガン』(1992年)の紹介の他、救心製薬の強心剤「救心」をレクリエーション・ドラッグとしての使用のススメ(ただし劇薬なので1日6粒以上はやめろと注意書きも)、川崎駅前の西武ビル3階に入っていたヘッドショップ「MIND」のレポートなど。
『Crash』1993年2月号/白夜書房 |
プロフィールに「ドラッグ&少女売春を超える快楽を見つけられず、ライターとしての限界を感じている今日このごろ」と不穏な書き出しがあるが、「そもそも、僕は文章を書くこと自体が好きなので、最近、コピーライターに転向しようかなァ、なんて考えています」とも。その他はS・キング原作『バーチャル・ウォーズ』レビュー、「娯楽のひとつとして、ドラッグを見直してみよう」というコラム、および『危ない薬』初版の正誤表。2刷以降は直っているようだが、ここで「重大間違いベスト4」と挙げられている点を転載しておく。
・13頁5行目/ヘロイン→コカイン
・54頁5〜6行目/マリファナの脳内作用システムは分かっていない→Gタンパク質共役受容体がTHCのもたらす作用に深く関わっていることが判明した
・78頁9〜10行目/THCは禁止されていない→80年代まではそうだが、90年に取締りの対象になっている
・109頁/バリ島マップのマジック・マッシュルーム通りはベモ・コーナーのある交差点の南東、パンタイ・クタ通りと並んで東西に走っている小路
『Crash』1993年3月号/白夜書房 |
プロフィール欄に忙しそうな近況を書いており、原稿の半分が海外マリファナ誌『HIGH TIMES』の記事翻訳。もう半分も乾燥大麻を吸うためのパイプの紹介という、全ページはっぱづくし。おそらく単行本『危ない薬』の準備中だと思われる。
『Crash』1993年4月号/白夜書房 |
睡眠薬を大量にもらって酒代を節約、2月下旬発売予定の別冊宝島『ようこそ、クスリの王国へ!』の宣伝などの他、中野孝次のベストセラー『清貧の思想』の紹介。「大学時代、氏の著した『自分らしく生きる』(講談社)を読んで感銘を受けた僕は、先日、遅ればせながら近所の書店に赴き、『清貧の思想』を購入、その晩、一気に読了した」。
『Crash』1993年5月号/白夜書房 |
タイ旅行直前だったため、内容はほとんどコラムというより青山の日記。だが逆に今からすると日常生活が垣間見えて面白い。「眠剤で意識を失ったまま松沢呉一氏に電話を その松沢氏から、唐突なオナニー・ラジオ番組出演の依頼が」というテキストには1993年末にオナニーに関する単行本を書き下ろすつもりとあるが、実現しなかったのが惜しまれる。
『Crash』1993年8月号/白夜書房 |
『別冊宝島EX ハワイ読本』の取材で4月14日〜29日までハワイに行ってきた時のエピソードとして、娼婦のサービスの悪さ、ハード・ドラッグ・アイス(=シャブ)の値段の高さを挙げ、ハワイは何でも金だと不満を漏らしている。その他「飲む、打つ、買う」のうち「打つ」以外は極めたのでこれからは博打に精を出すぞ!と宣言するコラム。しかし安定快楽志向ゆえに偶然性と不安要素が強い博打は自分に向いてないのでは、と弱気に。しかし体験せずに何か言うのはよくないと、実践編は次回に続く。
『Crash』1993年9月号/白夜書房 |
「不気味ワタル改め鶴見済の単行本第2弾が発売 これで死ねる、楽に死ねる……」というコラムで『完全自殺マニュアル』を紹介。デビュー作のはずが“第2弾”と書いているのは、秋元康監修『マンガについてボクが話そう』が実質鶴見の最初の単行本であるとするカウントか。吉永嘉明著『自殺されちゃった僕』によれば、青山は鶴見にかなりの自殺についてのレクチャーをしたそうである。とすると、紹介文最後の「(私信)まっ、機会があったら、一緒にお仕事しましょうね」は意味深である。その他、前回から続く博打初体験話の中編と、ドラッグの相場を知ってプッシャーのふっかけを避けようとする話。またプロフィール欄に「日本テレビ『ニュース・プラス1』に取材された」とも。
『Crash』1993年10月号/白夜書房 |
プロフィールに「8月の頭、大阪のアメリカ村とかいうところに、「大麻堂」がオープンした。大麻に関する情報を一手に集めた、貴重なショップ。行きたいゾ!」とある。『裏ハワイ読本』の宣伝には「今回、編集は相棒の吉永に任せっきり、僕は取材ライターとして20数頁のライティングのみを担当」とあり、全然働かなかったというのは本当のようである。その他、マジック・マッシュルームの新事実、麻薬探知犬と日本人スマッグラー(密輸業者)の話題など。
『Crash』1993年11月号/白夜書房 |
角川春樹のコカイン事件についてあちこちからコメントを求められるがギャラが発生したのは3本、と哀しんでいる。1992年アカデミー賞外国語映画賞受賞作『エーゲ海の天使』(1991年)の紹介と、合法ドラッグ「ブラックジャック」の紹介の他、『裏ハワイ読本』でインタビューにいった吉福伸逸(『タオ自然学』の著者)のエピソード。ムックにはあまり反映させなかったが吉福は「マトリックス」という単語を何度か口にしたといい、これは「母胎」に等しいのではないかと分析。
『Crash』1993年12月号/白夜書房 |
ヴィム・ヴェンダース監督『夢の涯てまでも』(1991年)の紹介と、マリファナの収穫期を考えて良質安価の季節モノのススメなど、毎度のテキストだが、プロフィール欄にある「友達に薦められ、『寄生獣』7巻と『墨攻』3巻を読む。どちらも漫画。とっても面白かったですよ」というのは、おそらく翌年出るデータハウスの謎本『寄生獣の秘密』のための予習を兼ねていたのではないだろうか。
(続く)
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ばるぼら ネッ
トワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのイ
ンターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』など。なんともいえないミ
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09.04.26更新 |
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