『Crash』1993年6月号/発行=白夜書房
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青山正明と「Flesh Paper」/『Crash』編(10)
1994年になる頃には既に青山はドラッグ専門家的な立場でメディアにたびたび登場するようになっていた。しかし「100%体験済み」のリアルな現場感が背景にあるからこそ青山のドラッグ原稿は説得力を持っていたと思うが、青山をそこらの専門家と同じようにしか考えていないメディア関係者には、「シャレのつもりがマジ」っぷりは理解されていなかったようである。
『Crash』1994年1月号
プロフィールの記述は興味深い。「チームを組んでの単行本連発作戦に取り掛かる直前。2年後には所得を今までの4倍とする方針なのだが、果たしてどうなりますやら」。『危ない1号』の編集のことかと思ったが、どうやら『BASTARD!!の秘密』などをはじめとする、例の謎本のことのようである。しかし謎本の売れ行きが結果的に『危ない1号』の企画につながるのだから、青山の金稼ぎモードはここから始まったと考えるのが妥当か。さて本文では「かれこれ10余年、僕は「心身と物質との関係」に興味を抱き続けてきた。ドラッグ絡みでの媒体露出が多いことは自分でも認めるけれど、僕にとってはドラッグも医薬品も健康食品も、右のテーマに属するサブ・ジャンルにすぎない」という青山のライフ・ワークについての言及があるが、『バチェラー』誌での連載の焼き直しに近いものが多くなってきている。
『Crash』1994年2月号
休載。多忙ではなく、11月19日に患った左目の病気の治療のため。学会で奨励が取り上げられた新種の奇病として、まだ病気に名前もついていない状態だった。
『Crash』1994年3月号
前回の休載の説明と、資料を読むのがつらい状況ゆえに、『別冊宝島191 薬のウラがわかる本』の未掲載原稿でお茶を濁すことに。「製剤技術の最先端──DDS」「体内で変身するプロドラッグ」「DDSの第三世代」「21世紀の新薬開発に向けて」。エロ本と原稿の内容のあまりの関係なさに「エロ雑誌なのに、それがどうしたというのでしょうね……」と自らツッコミを入れている。
『Crash』1994年4月号
この号掲載のコラムは見方を変えればどれも愚痴で、最高である。まず「2週間で数千万円!!は、もう過去の話 コミック研究本の秘密を暴く」は謎本ブームについての小言。『サザエさんの秘密』『ドラえもんの秘密』『ドラゴンボールの秘密』を立て続けにベストセラーにしてX億円の印税を手にしたゆうむはじめ氏を引き合いに出し、いわく「実は、ゆうむさんが『サザエさんの秘密』に取り掛かるちょっと前、こういった後追い本をやってみないかって、僕に声がかかったんですよ。いやぁ、引き受けておけばよかったなぁ、今思うと……」。歴史は紙一重である。
そして遅ればせながら手がけた『BASTARD!!の秘密』『ああっ女神さまっの秘密』を紹介。東京公司のメンバー二人は既に『らんま1/2の秘密』『パトレイバーの秘密』を編集済みで、その時のアドバイスは「心配するなよ、青山。辞書さえ作れば、作業の8割は終わったも同然だよ。ワハハハハ」。なお謎本とは別の現在進行中の企画として「少女売春」「ロリータ大全」「世界の売春」「変態百科」「精力絶倫指南」「世界の拷問」「世界の奇病」「千摺り大辞典」等があるとしているが、果たしてこれらのうちどれがどうなったのかは不明。『宝島30』の特集や、『危ない1号』に流用されたネタもあると思われる。
これ以外は、「横須賀在住の某アニメ・プロデューサーR」の家で知り合った高校3年生の不良がマリファナの密売を行っていた、というコラム。「中高生って社会的責任を背負ってないから、付き合うのは極力避けた方がいいと思います。千円ぐらい高くても、しっかりした大人のプッシャーから仕入れた方が、絶対にリスクは少ない」。そして昨年12月から1月にかけて3本のテレビ番組に出演したことについての感想。ギャラが出ない、ギャラが電子電話帳というメリットのなさ、出演者は全員躁病、動きのよさと反射神経だけが取り得のネオ体育会系の連中ばかり、など不満が多かったようだが、「出演はともかく、ドキュメンタリーの制作には積極的に関わっていこうと思っている。ドキュメンタリーに携わっているプロデューサーやディレクターは出版業界の人と近い感性を持っており、仕事への取り組み方もかなり真面目だからだ」と、興味深い決意をしている。
『Crash』1994年7月号
5、6月号は『アダルトグッズ活用マニュアル』制作中のため目立った面白さはない。この号は成田空港のパッシヴ・ドッグが置かれて約1年の感想と、カート・コバーン亡き後を引っ張るベックについて(『危ない1号』4巻収録だが若干変更あり?)。
『Crash』1994年8月号
時間がないゆえに対談形式の雑談。『危ない1号』4巻にも収録されたが、部分的に変更されている。ドラッグの話題、女性の性感帯の話題、シリアルキラーの話題、と続く。
『Crash』1994年9月号
再び対談形式の雑談。相手変更だがペンネームなので誰なのか不明。38歳でテレクラにはまってる主婦にやられそうになった話題、森高千里の虚構性が人工的で見え見えな話題、ドラッグの話題。結論もなく、ただダラダラ喋っているだけで普段の原稿の面白さはないが、そのぶん読みやすいのが特徴か。
『Crash』1994年10月号
読者から不評の手紙が届き、流石にスタイルを元に戻すことに。プロフィールには「小説家への転向を図り、様々な出版パーティに顔を出してコネクション作りを。でも肝心の小説は1行も書けてないの……」とある。業界噂話の他、なかなか重要そうな話題が「自受用三昧」について。この言葉は青山の「人生死ぬまでの暇つぶし」「百に1つの個性は尊重されるが、万に1つの個性は抹殺される」といった一文の流れにあり、この言葉と思想が固まって以降はサインはこれに絞っているとある。「自受用」は人間は空っぽの器でしかなく、通常の「自分」とは存在せず、あるとすれば経験そのものであるという考え。「三昧」は自我にとらわれず没頭する行動。これを青山は「自分がないんだから、考えたり悩んだりせず、経験をしてさえいけばOK」と翻案し、自らの生き方を説明する漢字五文字の思想としたようだ。元ネタは『正法眼蔵』(13世紀)だそうだが、仏教の“空”の考えに基づきつつ、ニューエイジ、トランスパーソナル心理学まで巻きこんで解説している。
『Crash』1994年11月号
「エクスタシーと共に進化してきたクラブ・シーンに新種のドラッグ“ファンタジー”登場!!」として、まるまる連載2ページ分をエクスタシーとファンタジーの話題につぎ込んでいる。後者のファンタジーは「形状はエクスタシーと同じで、淡いピンクの製剤に赤茶色のツブツブが入っている」と説明され、「ネガティヴな遊びには打ってつけ」のドラッグとして気持ち良さそうな感想を述べている。
『Crash』1994年12月号
『宝島30』94年11月号掲載の大島清インタビューに触発されたのか、同時期の『バチェラー』の連載も含めて、“脳”と“生”についての長文が延々。それ以外では『週刊プレイボーイ』誌のドラッグ記事の批判コラム。最後に「来年2月創刊予定の、僕が編集を手掛ける某誌にて、メジャー誌に掲載されたドラッグ関連記事の添削を行います。署名原稿については、執筆者のドラッグ知識やそいつが捏造しただろう箇所をひとつひとつ指摘してあげますから、心当たりのあるライターはワクワクしながら待っていて下さいネ」とあるのだが、95年2月創刊予定だったのか、ということに驚きだ(『危ない1号』1巻は7月)。
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青山正明と「Flesh Paper」/『Crash』編(10)
1994年になる頃には既に青山はドラッグ専門家的な立場でメディアにたびたび登場するようになっていた。しかし「100%体験済み」のリアルな現場感が背景にあるからこそ青山のドラッグ原稿は説得力を持っていたと思うが、青山をそこらの専門家と同じようにしか考えていないメディア関係者には、「シャレのつもりがマジ」っぷりは理解されていなかったようである。
『Crash』1994年1月号/発行=白夜書房 |
プロフィールの記述は興味深い。「チームを組んでの単行本連発作戦に取り掛かる直前。2年後には所得を今までの4倍とする方針なのだが、果たしてどうなりますやら」。『危ない1号』の編集のことかと思ったが、どうやら『BASTARD!!の秘密』などをはじめとする、例の謎本のことのようである。しかし謎本の売れ行きが結果的に『危ない1号』の企画につながるのだから、青山の金稼ぎモードはここから始まったと考えるのが妥当か。さて本文では「かれこれ10余年、僕は「心身と物質との関係」に興味を抱き続けてきた。ドラッグ絡みでの媒体露出が多いことは自分でも認めるけれど、僕にとってはドラッグも医薬品も健康食品も、右のテーマに属するサブ・ジャンルにすぎない」という青山のライフ・ワークについての言及があるが、『バチェラー』誌での連載の焼き直しに近いものが多くなってきている。
『Crash』1994年2月号/白夜書房 |
休載。多忙ではなく、11月19日に患った左目の病気の治療のため。学会で奨励が取り上げられた新種の奇病として、まだ病気に名前もついていない状態だった。
『Crash』1994年3月号/白夜書房 |
前回の休載の説明と、資料を読むのがつらい状況ゆえに、『別冊宝島191 薬のウラがわかる本』の未掲載原稿でお茶を濁すことに。「製剤技術の最先端──DDS」「体内で変身するプロドラッグ」「DDSの第三世代」「21世紀の新薬開発に向けて」。エロ本と原稿の内容のあまりの関係なさに「エロ雑誌なのに、それがどうしたというのでしょうね……」と自らツッコミを入れている。
『Crash』1994年4月号/白夜書房 |
この号掲載のコラムは見方を変えればどれも愚痴で、最高である。まず「2週間で数千万円!!は、もう過去の話 コミック研究本の秘密を暴く」は謎本ブームについての小言。『サザエさんの秘密』『ドラえもんの秘密』『ドラゴンボールの秘密』を立て続けにベストセラーにしてX億円の印税を手にしたゆうむはじめ氏を引き合いに出し、いわく「実は、ゆうむさんが『サザエさんの秘密』に取り掛かるちょっと前、こういった後追い本をやってみないかって、僕に声がかかったんですよ。いやぁ、引き受けておけばよかったなぁ、今思うと……」。歴史は紙一重である。
そして遅ればせながら手がけた『BASTARD!!の秘密』『ああっ女神さまっの秘密』を紹介。東京公司のメンバー二人は既に『らんま1/2の秘密』『パトレイバーの秘密』を編集済みで、その時のアドバイスは「心配するなよ、青山。辞書さえ作れば、作業の8割は終わったも同然だよ。ワハハハハ」。なお謎本とは別の現在進行中の企画として「少女売春」「ロリータ大全」「世界の売春」「変態百科」「精力絶倫指南」「世界の拷問」「世界の奇病」「千摺り大辞典」等があるとしているが、果たしてこれらのうちどれがどうなったのかは不明。『宝島30』の特集や、『危ない1号』に流用されたネタもあると思われる。
これ以外は、「横須賀在住の某アニメ・プロデューサーR」の家で知り合った高校3年生の不良がマリファナの密売を行っていた、というコラム。「中高生って社会的責任を背負ってないから、付き合うのは極力避けた方がいいと思います。千円ぐらい高くても、しっかりした大人のプッシャーから仕入れた方が、絶対にリスクは少ない」。そして昨年12月から1月にかけて3本のテレビ番組に出演したことについての感想。ギャラが出ない、ギャラが電子電話帳というメリットのなさ、出演者は全員躁病、動きのよさと反射神経だけが取り得のネオ体育会系の連中ばかり、など不満が多かったようだが、「出演はともかく、ドキュメンタリーの制作には積極的に関わっていこうと思っている。ドキュメンタリーに携わっているプロデューサーやディレクターは出版業界の人と近い感性を持っており、仕事への取り組み方もかなり真面目だからだ」と、興味深い決意をしている。
『Crash』1994年7月号/白夜書房 |
5、6月号は『アダルトグッズ活用マニュアル』制作中のため目立った面白さはない。この号は成田空港のパッシヴ・ドッグが置かれて約1年の感想と、カート・コバーン亡き後を引っ張るベックについて(『危ない1号』4巻収録だが若干変更あり?)。
『Crash』1994年8月号/白夜書房 |
時間がないゆえに対談形式の雑談。『危ない1号』4巻にも収録されたが、部分的に変更されている。ドラッグの話題、女性の性感帯の話題、シリアルキラーの話題、と続く。
『Crash』1994年9月号/白夜書房 |
再び対談形式の雑談。相手変更だがペンネームなので誰なのか不明。38歳でテレクラにはまってる主婦にやられそうになった話題、森高千里の虚構性が人工的で見え見えな話題、ドラッグの話題。結論もなく、ただダラダラ喋っているだけで普段の原稿の面白さはないが、そのぶん読みやすいのが特徴か。
『Crash』1994年10月号/白夜書房 |
読者から不評の手紙が届き、流石にスタイルを元に戻すことに。プロフィールには「小説家への転向を図り、様々な出版パーティに顔を出してコネクション作りを。でも肝心の小説は1行も書けてないの……」とある。業界噂話の他、なかなか重要そうな話題が「自受用三昧」について。この言葉は青山の「人生死ぬまでの暇つぶし」「百に1つの個性は尊重されるが、万に1つの個性は抹殺される」といった一文の流れにあり、この言葉と思想が固まって以降はサインはこれに絞っているとある。「自受用」は人間は空っぽの器でしかなく、通常の「自分」とは存在せず、あるとすれば経験そのものであるという考え。「三昧」は自我にとらわれず没頭する行動。これを青山は「自分がないんだから、考えたり悩んだりせず、経験をしてさえいけばOK」と翻案し、自らの生き方を説明する漢字五文字の思想としたようだ。元ネタは『正法眼蔵』(13世紀)だそうだが、仏教の“空”の考えに基づきつつ、ニューエイジ、トランスパーソナル心理学まで巻きこんで解説している。
『Crash』1994年11月号/白夜書房 |
「エクスタシーと共に進化してきたクラブ・シーンに新種のドラッグ“ファンタジー”登場!!」として、まるまる連載2ページ分をエクスタシーとファンタジーの話題につぎ込んでいる。後者のファンタジーは「形状はエクスタシーと同じで、淡いピンクの製剤に赤茶色のツブツブが入っている」と説明され、「ネガティヴな遊びには打ってつけ」のドラッグとして気持ち良さそうな感想を述べている。
『Crash』1994年12月号/白夜書房 |
『宝島30』94年11月号掲載の大島清インタビューに触発されたのか、同時期の『バチェラー』の連載も含めて、“脳”と“生”についての長文が延々。それ以外では『週刊プレイボーイ』誌のドラッグ記事の批判コラム。最後に「来年2月創刊予定の、僕が編集を手掛ける某誌にて、メジャー誌に掲載されたドラッグ関連記事の添削を行います。署名原稿については、執筆者のドラッグ知識やそいつが捏造しただろう箇所をひとつひとつ指摘してあげますから、心当たりのあるライターはワクワクしながら待っていて下さいネ」とあるのだが、95年2月創刊予定だったのか、ということに驚きだ(『危ない1号』1巻は7月)。
(続く)
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