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The text for reappraising a certain editor.
『BACHELOR』における青山正明 (6)
21世紀を迎えてはや幾年、はたして僕たちは旧世紀よりも未来への準備が整っているだろうか。乱脈と積み上げられる情報の波を乗り切るために、かつてないほどの敬愛をもって著者が書き下ろす21世紀の青山正明アーカイヴス!
引き続き『BACHELOR』誌の連載「青山正明の新・焚書抗快」を見ていくが、事情により1988年の『BACHELOR』を飛ばして掲載することをご容赦いただきたい。
『BACHELOR』1989年1月号
ロイ・L・ウォルフォード『人間はどこまで長生きできるか』/PHP研究所★★★★★
雑誌「ムー」特別編集『世界UMA(未知動物)大百科』/学習研究社★★★★
コリン・ウィルソン、ドナルド・シーマン『現代殺人百科』/青土社★★★
人文会『人文科学の現在』/人文会★★★★ 『人間は〜』はタイトルどおり長寿の方法についての本で、著者が挙げている三つのポイントは「低カロリー」「体温を下げる」「フリーラジカルを消去する」だそうだ。青山は感銘を受けたのか「他の書物は全て、エセ科学本でしかなかったことに気付くだろう」と断言している。『世界UMA大百科』はネッシーからモケーレ・ムベンベまで載ったカタログ本。今ならコンビニの500円本コーナーにありそうだが、当時は資料価値が高かったのだと思われ、青山もなかなかの高評価。コリン・ウィルソンが関わっていれば大抵褒める青山も、『現代殺人百科』は「103のエピソード全てが、単なる事件報告に留まっており、ウィルソンならではの解釈が何ひとつ施されていないのだ」と物足りなかった様子。『人文科学の現在』を出している人文会というのは、21の専門出版社が集まって結成した「人文書の普及販売」を目的とする会で、そこの発足20周年記念本が当該書。青山は基本図書2500のリストの有用性を説き、「図書館に行く前に、是非、チェックを!」と推薦している。
『BACHELOR』1989年2月号
石川源晃『実習 占星学入門』/平河出版社★★★★
イーフー・トゥアン『愛と支配の博物誌』/工作舎★★★★
R・G・ワッソン、W・D・オフラハティ『聖なるキノコ ソーマ』/せりか書房★★★★
大木幸介『脳内麻薬と頭の健康』/講談社★★ かつてミニコミで占星学を批判していた青山らしからぬセレクトの『占星学入門』だが、ホロスコープの手引書としてよくできていることの高評価のようである。占星術は統計だという話に対し「占星術の統計的正当性を確かめた者はひとりもいないのだ」と冷静に反論。しかしもちろん青山はオカルト否定派ではなく、「私はシステムとしての占いは否定するが、人の過去や未来を透視する能力は存在するものと思っている」と語っている。『愛と支配の博物誌』は一言で書くと「人は支配力を行使せずにはいられない動物である」というテーマの本で、愛とは人の顔をした支配であるという話など、政治と産業以外の日常生活における支配を次々と例示していく様子が、青山の知的ミーハー心を刺激したようだ。『聖なるキノコ ソーマ』のソーマとはいわゆるベニテングダケのこと。レビューは青山らしく本の内容ではなく幻覚性キノコの話題に飛び、ベニテングダケよりマジックマッシュルームを推薦している。四つ星が続いたが最後の『脳内麻薬〜』はボロクソ。「本書もタイトルこそ興味深いが、実はエンドルフィンを軸とした他愛のない水増し本だ。学者の自己満足でしかない、脳や神経の生理学的説明が多く、著者が本当に言いたいことはほんの僅か」だとして、主張を100字に要約して切り捨てている。
『BACHELOR』1989年3月号
ノーマン・V・ピール『どうすれば最高の生き方ができるか』/三笠書房★★★★
松田剛『あなたのリゾート計画は間違いないか』/経済界★★★
C・W・ニコル『C・W・ニコルのわたしの自然日記』/廣済堂★★★★
ヨゼフ・ピーパー『余暇と祝祭』/講談社★★★★ 『どうすれば〜』は星の数ほどある成功法本・啓蒙書で、青山がなぜこれを?とも思うのだが「極めて説得力のある良質の書物」として取り上げており、逆に気になってしまう。田舎ブーム真っ盛りの80年代末に出た『あなたの〜』は、リゾートライフの物件探しの前に読む実用書。やはり青山がなぜこれを?と思うけども、青山も横浜から車で3時間以内のリゾート物件を探していた時期だったらしい。『C・W・ニコルの〜』はナチュラリストのC・W・ニコルによる辛口コラム集。ニコルに対する青山の信頼は大きく、「単細胞、頭でっかちの椎名誠、中国の奥地まで出向いて小魚を釣って見せた文学界の川口浩こと開高健、ズーフィリアの変態じいさんムツゴロー。ニコルは彼らとは違うのである」と飛ばしている。余暇理論の古典『余暇と祝祭』は「自分の生き方を見詰め直さずにはいられなくなる」と褒めモード。実際に見詰め直したのかはさておき。
『BACHELOR』1989年4月号
油井富雄『中国特効薬』/ぴいぷる社★★★★
『漢方実用大事典』/学習研究社★★★★★
加瀬義房海・三宅尉兒『これがマクロバイオティック食事法だ!』/池田書店★★★★
ジョナサン・グリーン『最期のことば』/社会思想社★★ 毛髪再生薬「一〇一」の流行によって中国漢方に注目が集まっていた時期に出たのが『中国特効薬』。「ジャーナリスティックな読み物としてはお粗末だが、品選びのカタログにはもってこい。夢が広がりますよ」とイチオシ。さらに『漢方実用大事典』については「只々圧巻。もう、何も言うことありません。学研は、スゴイ……」とベタ褒め。OL向けヘルシーダイエット本『これがマクロ〜』も「内容は誠意と真理に充ちており、立派なもの」と書いており、薬と健康に人一倍興味のある青山ならではの選択眼だと言える。死に際の言葉を集めた『最期のことば』は、かっこよすぎる台詞ばかりなのが気に食わないらしく、「即興性とリアリティを重んじる私は、ムッソリーニの「しかし、しかし、大佐…」とガリックの「ああ、おやおや」にのみ心を動かされたのだった」とのこと。
『BACHELOR』1989年5月号
諏訪邦夫『麻酔の科学』/講談社★★★★
西部邁『新学問論』/講談社★★★★
那野比古『ニュロコンピュータ革命』/講談社★★★
アンガス・マクラレン『性の儀礼』/人文書院★★★★ どうも平均的な点数をつけることが多くなっているように見えるのは気のせいだろうか。『麻酔の科学』の著者・諏訪邦夫は昭和天皇の手術にも参加したベテランで、「治らない痛みはない」という言葉に青山も感動した様子。『新学問論』のレビュー内で「浅田彰を中心とする新左派勢力がかつての共産党に代わらんことを切望している私としては、唾棄すべき人物なのであるが」と、珍しく政治的スタンスについて言及しているのが興味深い。『ニューロコンピュータ革命』は人の脳を模した情報処理機能を持つニューロコンピュータの現状と展望についての書籍。青山は「20年後には、小説を書くコンピュータが生まれているかも」と淡い期待を綴っているが、実際に20年経った2009年の現在、まだまだ完成しそうにない。『性の儀礼』は「妊娠」と「中絶」に的を絞ったニューフェミニズム論文。
『BACHELOR』1989年6月号
吉永良正『電磁波が危ない』/光文社★★★★★
山折哲雄『神秘体験』/講談社★★★
海野弘監修、明石三世訳『ハリウッド・バビロン』/リブロポート★★★
『言葉のハンドブック』/共同通信社★★★ 『電磁波が危ない』は電磁ハザード(電磁波災害)をまとめた書籍。『危険な話』から脈々と続く危機感煽り本の中では珍しい題材で、畸形出産、遺伝子異常、AT車暴走、飛行機墜落、ウイルス突然変異など、携帯電話の普及が進む現在こそ読みたい一冊。『神秘体験』は民俗学的見地から神秘体験を考察していく新書だが、青山は「著者自身にドラッグ体験がないのが致命的だ」と無茶を言っている。アングラ映画監督ケネス・アンガーがまとめたハリウッドのゴシップをまとめた書籍『ハリウッド・バビロン』は、復刻が切望されていたとは言いつつも、「しかし、'20〜'30年代の役者のゴシップなど、今となっては全くリアリティがないのである」と醒めた視線を送っている。『言葉のハンドブック』は有名な日本語文章/文法解説書『記者ハンドブック』を読み物形式でまとめた本。青山も勉強になったそうで「何事も基礎があって始めて個性/漢字以上に言葉遣いは大切です」ともっともなことを述べている。
(続く)
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09.10.25更新 |
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