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『BACHELOR』における青山正明 (7)
21世紀を迎えてはや幾年、はたして僕たちは旧世紀よりも未来への準備が整っているだろうか。乱脈と積み上げられる情報の波を乗り切るために、かつてないほどの敬愛をもって著者が書き下ろす21世紀の青山正明アーカイヴス!
『BACHELOR』1989年の後半である。低点数の本が減ってきているのは気のせいだろうか。
『BACHELOR』1989年7月号
D・スコット・ロゴ『サイ能力開発法』/工作舎★★★★★
コリン・ウィルソン『精神寄生体』/ペヨトル工房★★★★
ミック・ブラウン『ブランソン』/集英社★★★
『海外リアル・ロック名盤カタログ』/JICC出版局★★★★ 『サイ能力開発法』は、ニューエイジ学者達のフィールドワーク・実験の成果が多数収められた、超能力者になるためのガイダンス本。本書の影響を受けて青山は夢日記をはじめたそうだ(冗談含む)。おなじみコリン・ウィルソンによる『精神寄生体』は1967年に出たSF小説の邦訳で、「冒頭の古代都市発掘はウヤムヤだし、ラストは余りに大袈裟すぎる。続編『ロイガーの復活』(69)と併読すれば、まずまず」と、あまりよろしくない感想を書いているが星四つ。ヴァージン・グループ総帥リチャード・ブランソンの半生を描いた『ブランソン』については、破天荒だったからこそ成功した彼の人生を日本のサラリーマンが読んでも嫌悪しかないだろうという感想。『海外リアル・ロック〜』は自分の好みのディスクが載ってなかったことで不満を漏らしつつ「まぁ一般のロック・ファンに向けたカタログとしては申し分のない出来栄えです」とのこと。
『BACHELOR』1989年8月号
高田宏『木に会う』/新潮社★★★★
大島清『脳が快楽するとき』/情報センター出版局★★★
半田智久『知のスーパーストリーム』/新曜社★★
中村義作『速算100のテクニック』/講談社★★★ 高田宏の自然論三部作のトリを飾る『木に会う』について、青山は「文明社会は、子供のなかにある原始の心を押しつぶすことでもある。動物や植物と交感する心、木と語り合うことのできる心を、きれいさっぱり消してしまうのだ。それは上昇なのか、下降なのか」という一文に著者のエッセンスの集約を見て、自然を慈しむ著者の心の純粋さに打たれている。脳と快楽の関係を解き明かす『脳が〜』は、記述の九割を占める性関連の考察ではなく、情動とストレスの関係に注目。全身で体験するしか情動は育まれず、本やTVでは大脳辺縁系が鍛えられないという話が気になったようだ。言語・電波メディアの到来で人間の知の諸相がどう変わるかを書き散らした『知の〜』は「いやはや、60年生まれの若造が、“知の諸相についてのエッセイ”なんぞ書くもんじゃあない」とバッサリ切り捨て。『速算〜』は「ソロバン習えば速算なんて無用/でも今更ソロバン塾に通うのも」と、好きならどうぞ的薦め。なおこの号から青山が別ページでビデオ評(ノン・アダルト)を担当。
『BACHELOR』1989年9月号
ウィルソン・B・キイ『メディア・セックス』/リブロポート★★★★
コリン・ウィルソン『サイキック』/三笠書房★★★★
矢追純一『MJ-12の秘密』/KKベストセラーズ★★★★
『月刊ラジオライフ』8月号/三才ブックス★★★★ 全部四つ星評価というのも、メリハリがない気がするこの回。『メディア・セックス』は様々なメディアに仕込まれたサブリミナル・メッセージを解き明かしていく本。いかにも青山が好きそうである。『サイキック』はサイコメトリー/透視能力について論じたもの。オカルトに惹かれながら、合理性と実証性の点でオカルトの存在を断言できないコリン・ウィルソンの著作に対する不満を、青山は「どうすればサイ能力が身に付くのか、それは現実社会に対しいかなる役割を果たし得るのか、私が知りたいのは、そういったヴィジョンなのだ」と書き記している。UFO研究家・矢追純一の『MJ-12の秘密』は、国家最高機密の幻の極秘文書「MJ-12」を追った驚異の書で、青山も「凡百のUFO狂信者とは、格が違う」と太鼓判。『ラジオライフ』は「一般書店で手に入る、最も過激な雑誌」として紹介。「余談ながら、アスピリンから爆薬を作る法、合鍵の製造法等々、更に危険な情報を知りたい人は、渋谷・大盛堂の地下に行きましょう」とのこと。
『BACHELOR』1989年10月号
ティモシー・リアリー『神経政治学』/トレヴィル★★★★★
河部利夫『タイ国理解のキーワード』/勁草書房★★★★
毛利好彰『旅の知的生産術』/実務教育出版★★★
郷原宏『現代国語解読講座』/有斐閣★★★★ リアリーの遅すぎた初・邦訳『神経政治学』はテクノロジーと拡張についてのアイデアを散りばめた空想エッセイ集といった趣で、青山も刺激を受けつつ「あるがままを重んじ、現世成仏を唱えた釈尊は、やはりスゴイ」と東洋再発見的結論に。東南アジア研究の第一人者によるタイのガイドブック『タイ国〜』は含蓄のある読み物として評価している。「嗚呼、この世の極楽、タイ。ラーカー・タウライ(いくら?)とクン・スワイ(君は美しい)の2語だけで、快楽が約束されるタイ……」。海外旅行ブーム期に出た『旅の知的生産術』は、10日間位しか休めない一般的日本人に薦められる内容ではないとしつつ、「知識の量と目的意識の強さが、旅の楽しみを増大させる」という著者の主張には共感した様子。『現代国語解読講座』は、約500冊の文庫本の解説を書いた著者による、ねじめ正一、俵万智、吉本ばなな、田中康夫らなど若手文筆家の文書をバッサバサと斬り捨てていく本。青山は「面白いことは面白いけど、私なんか、馬鹿を相手にするのは時間の無駄だと思うんだけど……」と更に一段高いところから見下ろした一言。
『BACHELOR』1989年11月号
P・K・ディック『模造記憶』/新潮社★★★
P・J・マーシャル『野蛮の博物誌』/平凡社★★★★
F・デイビス・ピート『シンクロニシティ』/朝日出版社★★★
『MARQUEE』32号/マーキームーン社★★★★★ 青山によるとディックは「現実と幻想の曖昧且つ不可分な関係に着目し続けた天才」となる。ディックは長編に限るとのことで短編集の『模造記憶』はそれなりだった様子(お気に入りは『パーマーエルドリッチの三つの聖痕』『虚空の眼』)。『野蛮の博物誌』は18世紀のイギリス人が世界(北アメリカ、太平洋諸国、アジア、西アフリカ)をどう見ていたのかを解明しようとする研究書。つまるところ野蛮人の住む未開の地=奴隷の宝庫、ということ。『シンクロニシティ』は〈意味ある偶然の一致〉であるシンクロニシティ/共時性を科学的に考察する一冊で、青山は「意気込みは立派だが、科学にばかり固執していては、限界があろう」と、ニューエイジ方面からのアプローチを望んでいる。『MARQUEE』はプログレ雑誌で、青山はアーティスト名を羅列して原稿の1/3を埋めている。締切まで時間がなかったのだと思われる。
『BACHELOR』1989年12月号
武田徹『紛いもの考』/CBS・ソニー出版★★★★
催眠神秘会(中杉弘)『催眠術の極意』/エステル出版会★★★★
大島育雄『エスキモーになった日本人』/文芸春秋★★★★
ルイス・プンテル『さよならブラジル』/花伝社★★★★ この回も全部星四つ。『紛いもの考』は「擬似世界(シミュレーション)と紛い物(シミュラークル)について、多面的に取材、考察した良質のエッセイ集」と書きながら、「小説とも論文ともノンフィクションともつかぬ文章は、正に紛い物のカガミ。あくまで表層にこだわった俗物ライターが、オナニーしつつ書いたにしては上出来だ」と、真正面から褒めない青山らしいレビューに。『催眠術の極意』はテレビ等の影響で眠らせるあやしい術としてしか知られない催眠術の奥にある、人の心の操作法についての探求書。「洗脳、説得、カウンセリング、自己開発、何でもござれ。心の研究に新旧なし。万人必読のテキストである」と高評価。『エスキモーに〜』は、25歳でエスキモーの生き方に惹かれ、そのまま居着いてしまった著者の生活を綴ったもの。「ありふれた人のありふれた日常。これに優る海外情報はない」と青山は書いている(が、著者の生き方がありふれているとは思えないのだが……)。『さよならブラジル』は移民の押し寄せ、国からの脱出など複雑な歴史的経緯により、100余りの民族の混血と国籍不明の亡命者が多数いるブラジルという国を描いた本。ナショナリティの剥奪・アイデンティティの喪失など「島国日本では体験できぬ悲劇が、ここにある」。
(続く)
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09.11.01更新 |
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