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『BACHELOR』における青山正明 (10)
21世紀を迎えてはや幾年、はたして僕たちは旧世紀よりも未来への準備が整っているだろうか。乱脈と積み上げられる情報の波を乗り切るために、かつてないほどの敬愛をもって著者が書き下ろす21世紀の青山正明アーカイヴス!
1991年の『BACHELOR』書評連載は、途中から取り上げる冊数が少なくなってしまう。
『BACHELOR』1991年1月号
ひろさちや監修、だんフット編著『これで死ねる!』/文藝春秋★★★
大澤正道『ヨーロッパ帝国支配の原罪と謎』/日本文芸社★★★★
埴原和郎『日本人新起源論』/角川書店★★★★★
ロバート・フルガム『人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』/河出書房新社★★★ 『これで死ねる!』は老いと死について概観した8章からなるカタログで、「死そのものよりも、老いと死を気にしながら、不安な毎日を送らねばならないそんな状況こそ、憂えるべきだと私は思う」という青山の考えになかなかマッチしていた様子。『ヨーロッパ帝国支配〜』はアナーキスト大澤正道による白人蛮行史。これについてのレビューが差別意識全開でものすごいので若干長く引用する。「かく言う私は、昔から白人が大嫌いだった。一握りの偉人は別として、概ねホワイトという人種には、自分の物差しで全てを計ろうとする傲慢な輩が多い。人類の歴史を振り返るに、血で血を洗う凄惨な争いは、あまねく白人の仕業である。頑固で、押しつけがましく、人殺しと乱痴気騒ぎが好きな人種。それが、キリスト教徒を筆頭とする白色野蛮人なのだ」。『日本人新起源論』は弥生人が先住民の縄文人を蹴散らして日本に居座った歴史を書いた本だが、青山はこれを部落と天皇(差別と特権)のルーツとして楽しんだようで、レビューが伏字だらけ。人間の叡智は幼稚園の砂場にあるとする『人生に〜』はアメリカで大ヒットした人生教訓・啓発本。幼稚な文体がおきに召さなかった青山は「馬鹿な女・子供に、ビート&ヒッピーの魂を伝えるという意味に於いて、それなりに有意義な書物と言える」とひねくれた褒め方をしている。
『BACHELOR』1991年2月号
ぱお編集部『エスニック・ディスク・ガイド ぱお600』/白夜書房★★★★
石川元助『ガマの油からLSDまで』/第三書館★★★
中山純『悪い薬』/データハウス★★★★
ダロルド・A・トレッファート『なぜかれらは天才的能力を示すのか』/草思社★★ ワールド・ミュージック雑誌『包・PAO』の編集部による日本初のワールド/エスノ・ディスクガイド本『エスニック〜』。欧米の音楽がすべてではない点を示すことの重要性を説きつつ、編集と執筆が素人レベルである点に苦言を呈している。民族毒物学者・石川元助の『毒薬』(1965年)の復刊『ガマの油からLSDまで』は「今読んでも面白い」「私の心の師です」と評価しながらも、復刊までの間に日本大学講師の職を得たせいか、ドラッグについて昔の肯定的な記述と、最近の否定的な見解が混在して、歯切れの悪さが目立つと指摘している。『悪い薬』は『危ない薬』よりも前に出たデータハウスの同フォーマットの書籍で、「未熟な箇所も多々目につくが」とドラッグ・ライターとして厳しさを織り交ぜつつ、「手軽で安価な薬物耽溺入門テキスト」となかなかの評価。『なぜかれらは〜』はサヴァン症候群に見られる超記憶能力や直観像(瞬時の記憶)を健常者に応用できないかと科学的に取り上げる一冊。だがその入り口にも立っていないことだけが分かる内容に青山は不満を示している。
『BACHELOR』1991年3月号
大木幸介『麻薬・脳・文明』/光文社★★★★
馬目光『ボッコボコ』/晩聲社★★
津村喬『気孔への道』/造元社★★★★
ジョルジュ・バタイユ『マダム・エドワルダ』/奢覇都館★★★★ 古代エジプトから順に文明発祥の地すべてがケシや大麻の生息地と一致することを論じていく『麻薬・脳・文明』は、酒・煙草を麻薬と同列に扱っている点を気に入って推薦。麻薬中毒者の手記『ボッコボコ』は「これ読んで、衝撃受ける人なんているのかね?」「いやあ、それにしてもつまらない本だ」とボロクソ。「気孔に関する本は数あれど、正常なIQを有した人が記した本は、恐らくこれが初めてであろう」とお薦めする『気孔への道』は、前半は気孔とは何かについて、後半は初心者向け気孔作法が載った入門書。『マダム・エドワルダ』はもはや古典とも言える一冊なので、内容についてではなく、青山が『マダム・エドワルダ』を初めて読んだ時のエピソードに終始している(高校入学を間近に控えた初春のこと。1976年2月……)。
『BACHELOR』1991年4月号
ジョン・C・リリー『意識の中心』/平河出版社★★★★★
アラン・ワッツ『タブーの書』/めるくまーる★★★★
ルイーズ・L・ヘイ『ライフ・ヒーリング』/たま出版★★
山上たつひこ『がきデカ ファイナル』/秋田書店★★ 『意識の中心』はLSD、アイソレーション・タンク、オスカー・イチャーソのワークショップ参加などを通して得られたインナー・トリップ体験を記した本で、青山曰く「リアリーやカスタネダとは、やはりレベルが違う。意識に関心のある人全てに読んで欲しい、正真正銘のニューエイジ・バイブルだ」と久々の大絶賛。『タブーの書』のアラン・ワッツはヨーガと禅をアメリカに最初に紹介した「カウンターカルチャーの旗手」と呼ばれた人物で、遅すぎた代表作の翻訳。「ヴェーダンダの受け売りと言ってしまえばそれまでだが、拙いながらも東洋の思想を西洋のコンテキストに置き換えた点は、敬服に値しよう。まあ、ニューエイジのバイブルと呼ぶには、ちょっと観念的過ぎるけどね」とのこと。『ライフ・ヒーリング』はニューエイジつながりで挙げただけの一冊。「この程度で、現代ニューエイジの旗手というのだから、呆れてしまう」と、女子供商売に成り下がったニューエイジにため息を漏らしている。『がきデカ』は締め切り間際すぎて漫画しか読めなかったという理由で挙げられている。「30代の方、懐かしいでしょ。ねっ」とテキトーすぎる締め。
『BACHELOR』1991年5月号
松岡正剛編集『クラブとサロン』/NTT出版★★★
中原英臣・佐川峻『進化論が変わる』/講談社★★★ この号から書評ページ縮小。「Flesh Paper」の連載と合体し、2冊しか取り上げなくなった。『クラブとサロン』のレビューの書き出し「パソコン・ネットワーク、ダイヤルQ2等の普及に伴い、その揺り戻し現象として人と人との生身の付き合い=オフ・ライン・コミュニケーションが見直され始めている」は、2009年現在も同趣旨のことを言われている気がする。『進化論が変わる』は諸説あり再編が進む進化論について、この時点での状況をまとめた一冊で、青山は進化論について憶測し「私は学者じゃないから、思いつきでものが言えて楽ちんである」と軽々と書いている。
『BACHELOR』1991年6月号
コリン・ウィルソン『来世体験』/三笠書房★★★★★
ブライアン・L・ワイス『前世療法』/PHP研究所★★★ 定期的に登場するコリン・ウィルソン本。死後の世界=近似死体験について様々な検証を施していく『来世体験』について青山は「至高体験(右脳体験)、倦怠を打ち破る意識の力、X能力等々、ウィルソン用語の頻発には、辟易とする者も多いだろう。また、引用、事例、解釈が交錯し、読みにくいという誹りも免れない。けれども、ラスト、死から転じて、「それでは、生きているとは、どういう状態をいうのか?」と問いかける件は、そうした欠点を補っても尚余りある真理追求の醍醐味を我我に味わわせてくれる」と高い評価。対して『前世療法』は「シャーリー・マクレーンの著作レベルであります」とひねくれたクサし方。「もし、この本が『来世体験』よりも前に世に出ていたら、恐らくウィルソンによって徹底的に批判されていただろうなあ」と醒めた視線を送っている。
(続く)
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09.12.13更新 |
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