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こじままさきインタビュー part1
21世紀を迎えてはや幾年、はたして僕たちは旧世紀よりも未来への準備が整っているだろうか。乱脈と積み上げられる情報の波を乗り切るために、かつてないほどの敬愛をもって著者が書き下ろす21世紀の青山正明アーカイヴス、今週からはこじままさき氏のインタビューを掲載いたします。
前回・前々回のインタビューでは、青山正明と仕事上の付き合いがある方々に登場していただいた。今回話を聞きに行ったデザイナーのこじままさき氏は、仕事をした回数は多くないものの、青山正明の影響を昔から公言していた数少ない人物である。
こじま氏は現在はデザイナー専業状態だが、90年代は先鋭的なミニコミ『BD』の編集者として、文章とデザインの両方で活躍していた。青山正明ファンなら『危ない1号別冊 鬼畜ナイト』の美しいデザインや収録されたトークが印象に残っているだろう。WEBスナイパーの読者には『BIZARRE MAGAZINE』での出張ページ「BiZARRE Department」(1994年7月号〜)や『B.D.COMIX フラミンゴ』での出張ページ「脳汁通信」(1995年2月号〜)が記憶にある方もいるかもしれない。一般にはこうの史代『夕凪の街 桜の国』をはじめ、竹書房やアクション・コミックスのマンガの装丁で比較的知られているだろうが、4コマ誌『まんがくらぶオリジナル』から18禁マンガ誌『チョベコミ』まで幅広い仕事の内容は、こじま氏の簡単には説明できない本質を逆説的に表していると思う。
『突然変異』をほぼ現役で読み、その影響を自身のメディアに昇華したこじままさき氏の、青山正明との独特の距離のとり方がうかがい知れる興味深いインタビューとなった。
■プロローグ:読者プレゼント
こじま:これ、読者プレゼント用に差し上げます。
――え、『突然変異』の3号と4号! いいんですか?
こじま:伝説的に祭り上げられても実際に読めないとどうしようもないし、読んで欲しいんですよね。なんなら全ページスキャンしてネットにアップしてほしいくらい。引越しを機に捨ててる人はいるでしょうし、確実に毎年減っていってると思うんですよ。転売してもいいですけど(笑)。
……ということで、突然ですが読者プレゼントです。お名前とこじまさんへのメッセージをお書き添えの上、メール件名を「青山正明連載プレゼント係」としてweb@sniper.jpまでお送り下さい。抽選で選ばれた方にのみ返信いたしますので、その際に送付先住所をお知らせ下さい。たくさんのご応募お待ちしております。(6月中旬締切)
■突然変異との出会い
――こじまさんは昔から青山さんからの影響を積極的に語っていました。特に印象に残っているのは『BD』5号(1993年2月28日)の編集後記です。「俺がまだ高校生だった頃、『突然変異』というミニコミがあった。俺はそのたった4号でつぶれてしまった雑誌が心の底から大好きで、本当にもうぼろぼろになるまで何度も何度も読み返した。ほんの偶然手にしたそのミニコミは今まで俺が読んだ全ての雑誌の中で一番素敵であり、未だにこれを越える様な、俺にぴったりくる雑誌にはお目に掛かったことはない。一体何部刷っていたのかよく分からないその弱小ミニコミに偶然出会えた事は、本当に幸せな事だと思った」。ここでは改めて青山さんを知った最初のきっかけからお聞きしたいのですが。
こじま:いろいろな場所で話してるんですけど、一番最初は高校生の時に読んだ朝日新聞のコラム欄なんですよ。記憶に間違いがなければ「世の中の雑誌に載っているものを箇条書きにして全部消去して、残ったもので作った」って『突然変異』を紹介していたんです。そんなの絶対見たいじゃないですか。
――すごくセンスのいい紹介ですね。それからすぐ買いに行ったんですか?
こじま:いや、当時はインターネットもないから、どこで売ってるのかも探しようがなくて、ほとんど諦めていました。でもそれからしばらくして、高校の同級生の不思議ちゃんの女の子が『突然変異』を持って廊下を歩いてたんですよ(笑)。聞いたら「まんが書店に売ってたよ」って。まんが書店っていうのは、渋谷ロフト向かいの道路を挟んだ雑居ビルにあった本屋で、2階が少年漫画、3階が少女漫画、4階が『ガロ』とかそっち系のフロア。普通の人は3階までしか足を運ばない。その4階で『突然変異』の3と4号を買いました。1と2号は売っていなくて、入手したのは結構最近です。
――(『突然変異』の委託先リストを見て)この「ABCまんが書店」という店ですね。
こじま:そこです。1階には薬屋か何かが入ってたかな。渋谷に行った時は必ず寄ってて、他にも色々買いました。丸尾末広、ひさうちみちお、青林堂やけいせい出版……。自分にとってまんが書店の影響はデカいです。もしあの朝日新聞の記事とまんが書店がなければ、僕は道を踏み外さず普通の会社員になっていたはずですよ。
――ようやく入手した『突然変異』は期待に応えるものでしたか?
こじま:応えました。後付けで思ったんですが、3号と4号はデザインも素晴らしいんですね。もし1号2号を先に読んでいたら「なんだこれ?」で終わっていたかもしれませんね。読む前にめくった瞬間から「なんだこれ!」と圧倒された記憶があります。何十回読み直しても飽きないというか。昨日読んでもやっぱり面白かった。クレジットを見ると3号からデザイナーが変わってるんですよね。
――3号からメインは丸山浩伸さんですね。1991年に亡くなってしまいましたが、当時は自販機本の『HEAVEN』にも素晴らしいグラフィック作品を残しています。こじまさんは『HEAVEN』のデザイナーである羽良多平吉さんの仕事を見て、デザインに興味を持ったそうですね。
こじま:でも『HEAVEN』の現物は見てないんです。80年代に羽良多さんが『ガロ』の背表紙だけデザインを担担当していて、それですね。ともかく、青山さんは狙ってあのポジションにいったわけじゃないから、フォロワーがいないじゃないですか。たとえば『突然変異』の後はこれ、っていうものがないですよね。だから俺の中ではこれがそのまま生きてて、どこにもつながってないんですよ。メディアが大騒ぎした鬼畜ブームも全然興味なかったし、「鬼畜〜」ってあの人の中でそこまで重なってないと思うんですよ。
■突然変異以外の雑誌
――『突然変異』以外では、どういう雑誌を読んでいたんですか。
こじま:『スターログ日本版』(ツルモトルーム、1978年創刊)は創刊号から読んでました。小学生の頃ですが。広義のサブカルチャーに触れたのはそれが一番最初ですかね。なぜ採算が取れるのが不思議な内容でした。
――『遊』はまだありました?
こじま:書店に並んではいましたけど、読んではいなかったです。高校の頃は『Billy』と『Hey!Buddy』(共に白夜書房)は発売日に買っていました。
――白夜書房の雑誌でも、末井昭さんが編集していた『写真時代』ではなく、中沢慎一さんが関わっていた『Billy』『Hey!Buddy』なんですね。
こじま:やっぱり僕は中沢班派なんですよ。『写真時代』も読んではいましたけど、未だにゴールデン街の匂いはダメで。『写真時代』はもう当時からメジャー感があって、いけないものを見てるワクワク感はなかったんです。『写真時代』はメジャーな人が危ないものを作ってて、『Billy』とかはヤバい人がヤバいものを作ってる。前衛ってことでは『写真時代』が上だとは思いますけど、中沢さんが作ってるものは絶対メジャーになれない、社会の王道から外れたものに共感する何か、簡単に言うとダメな感じが漂っていて(笑)、面白かったですね。
――『Billy』と『Hey!Buddy』は1985年に休刊してしまいますが、その後の『Crash』は?
こじま:最初の5号目くらいまでは読んでいましたが、徐々に普通の裏ビデオ情報誌になってしまって、それからは読んでないです。
――とすると80年代後半は定期的に情報を得ていた雑誌媒体はない?
こじま:雑誌愛みたいなものはDNAレベルで持ってると思いますが、なんだろう、僕は文化的なコアがないんですよ。そこは青山さんと通じるかもしれない。青山さんは一時期トランスとかテクノにハマっていましたが、言い方悪いけど暇つぶし的な、あの人にとって重要なものなのかというと、違うんじゃないかと思っていて。僕も共通してて、職業としてデザイナーはやってますけど、でもデザインより文章のほうが自分に近い気がするし。音楽も好きなアーティストはいるけど積極的に追わないし、ゲームは才能がなかったし。そういう、世の中に居場所のない感じは、青山さんにもありました。世の中とちゃんと折り合いをつけてる人だったら、あんな文章を書いたりドラッグに走ったりはしない。
。
――ある対象について詳しくても、じゃあ本当に心の底からそれが好きかというと、そうでもない、という雰囲気はあります。
こじま:ただ、ここは僕と対極なんですが、青山さんは母性本能をくすぐるというか、ほっとけないオーラが出てて、周りの人が場を作ってくれていた。東京公司の人も「オレがなんとかしないとダメだ」って思ってたんじゃないですかね、データハウスの社長さんとかも。あれは羨ましいなと無意識に思ってたかもしれないですね、当時。
(次回に続く)
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「www.jarchive.org」 http://www.jarchive.org/
10.05.30更新 |
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