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『うみべの女の子 1』
著者=浅野いにお
ISBN:9784778321383
発売日:2011/3/17
出版社:太田出版
Series;to young people,do you see how the world is it?
シリーズ「若者たち」

エッセイ:少女から女へ、少年から男へ、子供から大人へ。
−屈折している少年少女はマジかわいい−


若者の視点から世界を顧みる不定期シリーズ「若者たち」。第1回は浅野いにおの新作単行本『うみべの女の子』を読まれた女性のエッセイをお届けいたします。
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高校を卒業してすることもなくって、そうかと思えば大地震で、私の住んでる地区は計画停電で真っ暗で、いつも立ち寄るお店もどこも開いてないし、なんだここ! 世界の終わりか!と思っていたら本屋さんだけ開いていた。そこで見つけたのが浅野いにおの新刊だった。

「浅野いにお!! サブカル! サブカル臭がするよォ〜〜!!」

浅野いにおは正しく「サブカル」の分野に入るものだと私の頭の中では認識されている。サブカルって言われても具体的にどんなのか言えないけども、なんかこう、ヴィレッジヴァンガードとか、ヘッドフォン系女子とか、ナタリーみたいな……? だって作者はシャレオツで、しかも描かれる女子や男子、小物から描写に到るまで「オシャレなセンス」で統一されている。まさにサブカルって感じだ。

今回の『うみべの女の子』は表紙が透明感があふれていて綺麗なので、そーゆー話なのだろうと期待してレジに持っていった。

が。

その期待は大きく裏切られた。裏切られてしまった。『うみべの女の子』はサブカルではなかった!!

『うみべの女の子』は雑誌「マンガ・エロティックス・エフ」に連載されている。「エロティクス」と言うからもちろんエロい。『うみべの女の子』でもモロにセックスが描かれている。それもかなり。ちょっとやりすぎじゃない?と思うくらい。浅野いにおでこんなにエロイのはじめてじゃないの?

浅野いにおの代表作と言えば映画化もされた『ソラニン』に、浅野いにおの作品の中でも一番巻数が出ている『おやすみプンプン』だけど、『ソラニン』は「青春と音楽」。『おやすみプンプン』は「ほのぼの」な印象がある。でも、そんないわゆる「浅野いにお」と違う、彼の作品でいうなら『虹ヶ原ホログラフ』に近いものを感じた。

『虹ヶ原ホログラフ』には「救い」がない。そしてその救いのなさが私は大好きだ。ただ違うのは『虹ヶ原ホ ログラフ』は劇的に不幸な事件が起きるのに、『うみべの女の子』はただひたすらに淡々と、平凡な日常が続いていく。特別な出来事なんてない。あっても日常の範囲からはみ出さない。終わらない日常の持つからっぽな雰囲気を私は感じる。

■身勝手な欲求と、思春期の複雑なココロ

『虹ケ原ホログラフ』でもいじめやDVといった「日常の中の非日常」の描写があったけど、今回も浅野いにおのえげつない部分がばっちり描かれている。

主人公、中学生の小梅は大好きな先輩に告白するも、いきなりフェラをせまられたあげく、フラれてしまう。その腹いせにかつて小梅に告白してきた同級生の磯部とヤってしまう。想いより先に肉体関係を持ってしまった二人は、その関係に溺れていく。とある田舎の、ありそうな、たぶん本当にある、そう思えてしまうお話だ。

設定が「中学生」というところでもうびっくりだ。いわゆる思春期という儚く残酷な世界をイヤってほどに表現している。「浅野いにおはもしかして中学生なのか?」と、ついこの間まで中学生だった私でも疑ってしまうほどだ。

だって「メールの文」とか「友達とのやりとり」とかがやけに生々しい。ジャニーズが大好きな友達、メール文の顔文字の使い方。女子同士の会話など「こういうのあるよね」と登場人物たちの歳相応なかわいらしさを描いているシーンにはニッコリした。

それもつかの間、『虹ヶ原ホログラフ』で魅せられたえげつな〜い部分がばっちり書いてある(そして私はここが好きなのだ)。「こいつら人間らしいなぁ〜〜〜!」と呟いてしまった。

磯部は自分がオタクである事を必死に隠そうとしている。そういう自意識過剰なトコも思春期っぽくてイイ。磯部は自分に対して自信がないのだ。よくいる根暗でイビツで中二病をこじらせてしまっためんどくさい系の男子。

そして小梅はかわいい。『ソラニン』の芽衣子よりかわいい。でもこの子には「自分」がない。「アンジェリーナ・ジョリーみたいな子が好き」とかいっちゃうイケメン先輩に憧れ、女子同士の会話にはあまり口を挟まない、当たり障りのないことを言う。本当の事など言わないのだ。私が小梅に「小梅」を感じられたのは何度も描写される磯部とのセックスの中でだけだ。

作中で磯辺が何回か「キスしよう」と小梅に持ちかけるが、小梅は「キスは駄目」と何回も断るシーンがある。これはすっごい純粋な考えだと思う。セックスはどうでもいい、でもキスは恋人とするもの、とかいうじゃん。そういえば『闇金ウシジマクン』の援助交際のエピソードにもこういう女の子が描かれていた(作中で小梅もウシジマクンを読んでる)。

小梅と磯辺は「純粋」だ。「こども」と言ってもいい。彼らの「セックス」はたぶん遊びの延長線上にあるのだと思う。だって中学生なんだ。

小梅と磯部はキスしない。小梅と磯部は恋人じゃない。フッてフラれてセックスをして、二人はもうタダの友達でもない。二人はなんでもない。友達でも恋人でもないけど「関係してしまっている」のだし、「関係し続けたい」って気持ちがあって、でもそれは一般常識ではちょっと許されない歪な関係だ。

彼らはたぶん、相手にとって特別な存在でありたいんだと思う。恋人ではない。セックスはしてしまって、 ただの友達とは言えない。でもちょっと特別で他人と違う。そんな特別な場所は心地がよい。私だってそう思う。でも「特別な関係」を維持するために「セックス」を選ぶ、選び続けるところに「こどもっぽさ」を感じるし、その「こどもっぽさ」が彼らの「純粋」さに見える。

私は彼らの「純粋」に惹かれると共に苛立ちを感じるのだ。

私は中学生の頃、世界は狭くて、薄いグレーの霧がかかったような毎日を送っていた。正直に「もっとかわいければ何か違う、輝いた毎日を過ごせるのでは」と感じていた。容姿だけでなく、自分に全く自信がなかった。

でも小梅はかわいい。それなのに私と同じ薄いグレーの霧がかかったような毎日を送っている。誰かの特別でありたいと願い、歪な関係を同級生と持ってしまった。だが、小梅も磯辺も自分に自信を持てれば二人ともそんな関係にならなくて済んだのではないか。

言葉で言い表せるような、決められた立ち位置の関係ではなく、小梅と磯辺という一人一人の人間として認め合った関係になれるようになれ。それは「大人になる」と言い換えられるのかもしれない。私は、小梅と磯部が「大人になる物語」を期待しているんだと思う。

「てめーかわいいんだから自信をもてよ! 何やってんだ、そういうのは結婚して夫に飽きてから他の男としろ!!」と小梅に説教したい。そんな気持ちをグッと押さえている。


読んだ後、「これ表紙買いしちゃった人いるんだろうな〜、ほんとかわいそ〜」とちょっぴりにやけた。思春期って恐ろしい!! 

小梅はあんなに純粋そうでかわいいのにビッチな女の子、そのギャップで世の中の男どもに衝撃を与えてほしい。思春期を過ぎた女の子なら、ちょっと共感できる部分があるんじゃないかな〜。

文=なほるる

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なほるる 平成生まれ。まだまだ肩書きのない系女子。セーラー服が好き。最近は魔法少女になりたい。あっちこっちで色々やってます! お手伝いさせていただいた仕事→アスペクト刊『村崎百郎の本』他、雑誌数点。
twitter/なほるる
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11.05.07更新 | WEBスナイパー  >  若者たち
文=なほるる |