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シリーズ「若者たち」
『月姫読本 Plus Period』
発売日:2004年10月22日
出版社:宙出版

若者の視点から世界を顧みる不定期シリーズ「若者たち」。第2回は「兄萌え」の「オタク」として日々を送る女性が綴った、「お兄ちゃん」探しの冒険を振り返るエッセイ。前回に引き続きなほるるさんのご執筆です。
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私はお兄ちゃんが好きだ。

『シスター・プリンセス&シスター・プリンセスRePure DVD-BOX 』 監督=下田屋つばめ  発売=2008年2月14日 販売元=キングレコード

『真月譚 月姫 1』(DVD)
監督=桜美かつし
発売日:2003年12月10日
販売元:ジェネオン エンタテインメント

物心ついた時からオタクだった。アニメ、漫画、今「オタク」と呼ばれる人達ならたしなむもの全てを、私は小さい頃から見ていたと思う。その中に「兄と妹がイチャつく」、というシーンをよく見た。オタクであると同時に、「妹にやさしいお兄ちゃん」像に強く惹かれていた。

2000年頃から『シスター・プリンセス』という作品が流行った。12人の妹と一人の兄がイチャラブを繰り広げるというぶっ飛んだ内容にも拘わらずヒットした。私が「シスプリ」を知ったのはアニメ放映後の話だったけど、「12人の妹達の中に自分も交ざりたい......」という妄想でよく悩んだ。「どうすれば12人の妹の中に入り、兄に甘えられるのか」に悩んだ。

「シスプリ」を知ってからというもの、私は「兄と妹がイチャつく」というシチュエーションに萌えまくって萌えまくって、もっと刺激の強い作品を求めた。そして行き着いた先が「TYPE-MOON」の『月姫』だった。ええ!? それってエロゲーじゃないですか! そうこれはエロゲー。いわゆる18禁なゲーム。「兄萌え」の前にオタクという前提がある私は凄く「エロゲー」という物に憧れていた(当時小学生)。未成年のオタクなら必ずエロゲーに憧れるであろうと私は思う! その当時大流行していたのが、『月姫』だった。

私はこのゲームに「兄と妹のイチャラブがあるから」という期待をしていた訳じゃなく、たまたま好きなキャラ(琥珀さん)を攻略するのに「アルクェイドルート・秋葉ルート・シエルルート・翡翠ルート」というのを攻略しなくてはならなかった。「琥珀さんのだけエッチなシーンがみたいのに......」と思っていたけど、しょうがないので3 つのルートを攻略しようとゲームを始めた。

流石エロゲー!!! これがまた刺激の強い描写が多い!! 

私は震えた、「これがエロゲーなのだ」と。これが私が求めていた刺激の強い、エロエロな世界(本当はエロ目的じゃなくてシナリオ目的だったんだけど!)。これが『大人な世界』なのだ! パンチラなんてチャチな描写はないんだぜ! ちなみにプレイした時は小学5〜6年だった。早い!「子作り」や「強姦」などの意味がイマイチわかってなかった私は『月姫』にて知恵を得た。トンデモ小学生だった。今戻れるなら自分をエロゲーとパソコンから程遠い世界に戻してあげたい。

そしてたまたま通過点でしかないと思っていた「秋葉ルート」にて私は衝撃を受けた。兄と妹がセックスをしているのだ......。そしてこれがまた濃厚だった。一回ならず二回、三回も!! そりゃエロゲーだからしまくるに決まってるのに、イマイチセックスをわかってなかった私には衝撃的だった。

「秋葉ルート」は秋葉という主人公の妹の攻略ルートだった。最初は「ふんふん、これが秋葉か。いわゆるツンデレってやつか」と思いながらプレイしていたが、なかなか可愛い。そして秋葉は主人公と血が繋がってないという。これには私のなかのツボがビンビン来ていた。

秋葉ルートを攻略してからというもの、私は架空の「お兄ちゃん」という存在にさらなる憧れを抱くようになった。具体的にいうとしっかりしていて妹の面倒見がよく、勉強も教えてくれて、頭を撫でてくれる(ここが凄く大事!!)、ぎゅうってしてくれたり、時には添い寝もしてくれるという......。

そして架空の「お兄ちゃん」に憧れるもう一つの理由として、私には4つ離れた実の兄がいる。

そもそも何故、小学生なのにエロゲーが入手できたのか? それは兄の存在があったから。パソコンは家族共用だったので兄が持っているエロゲーなんてやろうと思えばできるのだった。私は兄の入手したエロゲーを小中学でほとんどやりつくしている。「実物がいるならその兄とイチャラブを繰り広げればいいじゃん!」と思うでしょう! しかしそれができない。うちの兄はなんていうか、「DV兄」だった。

兄と妹が喧嘩するなんて、世間では当たり前なことだと思う。でも今思うと兄は異常なほど私に暴力を振るっていた。兄がゲームをやっていて、何かの拍子で味方が死んでしまうと私のせいにしてグーで殴ってきた。頭をガンガン殴られた。

理不尽な暴力が続いた。家にいるのが耐え切れず、よく家の近くの公園で過ごした。私の周りには兄がいる子が多かったので「よく殴られる?」と聞くと「喧嘩するとしょっちゅうだよ」と皆言っていたから皆そうなのかもしれないなと思っていた。

ある日些細なことで喧嘩してぶん殴られ、顔がずっとジンジンと痛かった。顔に痣ができていた. 「これは!普通じゃ!ない!」と私は思い、誰に相談していいのかわからず、インターネットの掲示板で聞いたが「兄妹ではよくあること」で済まされてしまった。

兄は優しい時は優しいし、怒った時はぶん殴ってくる。小遣いを盗るなど、どうしようもない兄だった。でもあの頃の兄は受験のストレスなどで八つ当たりする場所がなかったのかもしれない、と今では思う。架空の「お兄ちゃん」に似せようと「お兄ちゃん〜♪」と甘えてみたもののそこで暴力が返ってくる。私は実の兄に「お兄ちゃん」を求めるのはやめた。

そしてエロゲーを経て、私の架空の「お兄ちゃん」探しの旅は始まったのだった! 私は手始めにインターネットで知り合った男性を「お兄ちゃん」と呼ぶことに成功。もちろん小学生だったのでオフ会等には参加できず(当時は怖かったけど今はバンバン日常的に参加してる)、インターネット上でのやりとりだ。「頭撫でて〜」とインターネットのチャットに書きこめば架空の「お兄ちゃん」が「なでなで」としてくれた、インターネット上で。

日に日にお兄ちゃんに対する思いが強くなる。なでなでも、ぎゅうもしてもらった......。でも何かが足りない! そう! リアルさだ! インターネットにはリアルがない! 当たり前のことなのに私はずっと気付かず......虚ろにお兄ちゃんを求めていた......。

手当たり次第「お兄ちゃん」を探した。mixiで知り合った男性と会うことになり、「お兄ちゃん」と呼ぶのに成功!!  当時私は彼氏が居たのだけれど、架空の「お兄ちゃんほしい欲」は解消されていなかったのだ。だがこのmixiで知り合った男性、頭がおかしかった。

「実はボクは多重人格者で付き合ってくれないと死ぬ!」と突然言われてナイフを出されたので、当時付き合っていた彼氏と別れ、無理やりその「お兄ちゃん」と付き合う形に......。本当に多重人格者なのだろうかという疑問はあったが、何かの拍子で人格は変わるし、本当なのだと思っていた。が、付き合ってみて時間が経つにつれ、「多重人格者」設定がどんどん薄れ......どんどん素の彼の本性を表わし始めた。その段階で「こいつまともじゃない!」と気付かないのが若さ。「私のおかげで病状が和らいだんだわ......」と愛の力に目覚めた私だったが、一緒にいるにつれ「こいつの言ってたこと嘘じゃねえ......?」とどんどん思い始めて、破局。

「騙されたー!!!」とは言わないが、「お兄ちゃんほしさ」に、現実を忘れていたんだ......!!!!と自分に言い聞かせた。一種の逃避だった。

その後「お兄ちゃん」を探しては何人もの男性と付き合った。危ない橋も渡った。最初のうちは「おにいちゃ〜ん♪」と甘えられるのだが、付き合う時間が長くなっていくうちに相手がこちら側に「お母さん〜!」と言わんばかりに甘えてきはじめるのだった。

やめてくれ、私はなでなでされたり、ぎゅうってされたいんだ。

あと、性行為を求められるのも嫌だった。付き合った途端に「じゃあしよ?」となる。行為自体好きじゃないし、私が「お兄ちゃん」に求めてるのはエロゲーのような刺激的なものではなく、もっとやわらかいものなんだ!! 添い寝のような。私はお前のお母さんじゃない! 男って本当女々しくてやだ!!!と、何人もの男性と別れた。「お兄ちゃん」を求める旅路でボロボロになった身を引きずりながらたどり着いた結論が「お兄ちゃんも所詮人の子である」ということだった。

そうだ、「お兄ちゃん」である以前に「男」であるということ。そしてさらに、私がお兄ちゃんを求めるのは「甘えられる相手がほしい」という欲求に基づいたものだったんだと5〜6年かけて気づいた。気づいたのは最近のことだった。もう馬鹿馬鹿しいっていうかバカ? すごいバカだったんだ、私! 子供はお母さんがほしいし、私はお兄ちゃんもとい都合よく甘えられる相手なら誰でも良かったんだ......と。5〜6年の歳月を経て得られたものがたったこれっぽちのものだったと知った時、私は現実にガッカリしたし、自分にもガッカリした......。

「お兄ちゃん漁り」に夢中になっていた私に残されたのは、どうでもいい現実とちっぽけな自分。この穴を埋めれるほどのものは一体......とがむしゃらに生きて数年。私は再び立ち上がる。「なほるるさんは転んでもタダじゃ起きないよね〜」と言われたもんだ。

『化物語 ひたぎクラブ 【通常版】 』 監督=新房昭之  発売=2009年9月30日 販売元=アニプレックス

「お兄ちゃん好き」の自分に恥じらいを持つようになった2009年、『化物語』が放映された。西尾維新は昔から好きな作家だったのでデビュー作から読んでいたのだが『化物語』の主人公、「阿良々木暦」が私のツボにヒットした。「お兄ちゃん萌え」の再来である!!!!

この「阿良々木暦」なかなかやりおる。ヘタレっぷり(いつの間にか少し駄目な男が好きになっていた私)、妹キャラに対する間合いの取り方、そして何よりお兄ちゃんっぷりがヤバイ。西尾維新の作品がアニメ化しても......というあまりノリ気でない感じで見たのに、どっぷりハマってしまった。

そして気づく、三次元の男に「お兄ちゃん」を求めては駄目だ! 「お兄ちゃん」は二次元に限る!!!!と。

それと同時に何故か自分がSM好きだと知る。何だか縛ったり縛られたりする行為って興奮するなぁ〜と昔から思っていた。よくアニメなどで囚われたヒロインが鎖で縛られてるとこなんて子供ながらに興奮した。そして兄と妹という関係は主人と犬という関係に似ているのでは!?と勝手に自分のお兄ちゃん好き欲求と結びつけた。でも「暦お兄ちゃん」はドMだ......大体付き合ってきた「お兄ちゃん候補」たちもドMで駄目だった......。

ならば「阿良々木暦」を元に、鍛えあげられたハイテク妄想技術によって「Sなお兄ちゃん!」を自分の中で創り上げて妄想の中でイチャコラしないとこれは駄目だな!!!と思い、自分の頭の中に「お兄ちゃんワールド」を作成。24時間どこでもお兄ちゃんとSM行為ができるようになった。

例えば夜一人寝れず悶々としている時にお兄ちゃんを呼ぶ。「妄想の扉」が開かれる。阿良々木暦を元に洗練されたお兄ちゃんが登場する。私は兄と妹、ギリギリな線で保たれている関係をぶち壊すようなことばかり言って兄を困らせ、兄を本気にさせてしまい、攻められる......みたいなシチュエーションが最近好きですごくハマっている。私はオナニーをしたことがないので、やる時が来たら、一番最初にやるオカズは「架空のSお兄ちゃんとセックス!」と決めている。これは誰にも譲れず、誰にも言っていない。乙女の秘密だ!

あと、SM がちょっぴり入った漫画などを趣味で読むのだけど、読んじゃうとムラムラしちゃって困る。こういう時オナニーできたらなあと思いつつ、お兄ちゃんを呼ぶ。「わ、私もこういうことされたいな......」とお兄ちゃんに照れながら言うと「へぇ......こういうことされたいんだ?」と冷たい目で見ながら私を縛って、初心者がやるようなことだけれど言葉攻めをしてくれた......。嬉しかったぁ〜!!!という妄想を、人んち、自分の家、電車の中、ましてや喫茶店......などでしてしまう。顔がニヤニヤしているのでどうか見ないでほしい......(学生の頃は授業中してた......)。

さようなら、昔の自分。
さようなら、男に幻滅する自分。

こんにちは、お兄ちゃん。
お兄ちゃん、今日も私を罵ってねと、かくして私は大好きなお兄ちゃんを手に入れたのであった。

文=なほるる

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なほるる 平成生まれ。まだまだ肩書きのない系女子。セーラー服が好き。最近は魔法少女になりたい。あっちこっちで色々やってます! お手伝いさせていただいた仕事→アスペクト刊『村崎百郎の本』他、雑誌数点。
twitter/なほるる
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12.04.01更新 | WEBスナイパー  >  若者たち
文=なほるる |