WEB SNIPER Cinema Review!!
リュック・ベッソンが製作、共同脚本を担当したフィルム・ノワール!!
愛する妻を亡くして自暴自棄な日々を送るベテラン刑事ラサール(ジャック・ガンブラン)は、パリの高級マンションで起きた若い女性のバラバラ殺人事件の捜査を担当することになった。有力な容疑者として被害者の元恋人を疑う捜査班。しかしラサールだけは別の男を注視する。それは事件前日に被害者宅を訪れていた、盲目のピアノ調律師ナルヴィク(ランベール・ウィルソン)という男だった――。新宿武蔵野館3月16日(土)より、シネマート心斎橋4月13日(土)より レイトショー!
原案、共同脚本、製作リュック・ベッソン! 監督は、『アイズ』『正体不明 THEM ゼム』のザヴィエ・パリュ! フランスから、男のノワールサスペンスが誕生した。しかし、私は今回大きな間違いを犯してしまいました。みなさんどうかよく、刑事と、盲目の暗殺者の顔を見比べてみてほしい。どちらも、短髪の西洋人の中年男ではないか! だから混同しちゃったんですよ! そうかこの刑事、自分が連続殺人事件の犯人でありながら、捜査責任者としてずっと事件に関与していく。ほうほう、そうきたかみたいな。全然そうきてなかった! 別人でした! その間違いに気づいた時点で、だいたい40分は経過してましたね。余計なサスペンスを増やして混乱してしまったので、みなさんには同じ轍を踏まないでもらいたい! 本作、暗殺者は暗殺者、刑事は刑事で、その2人の対決を楽しむんだということを、まずはお伝えしておきたいと思います。
最初の事件は、女性のバラバラ殺人。次は衆人監視の中での、富豪の爆殺。舞台はパリ、連続する殺人事件の担当になったのは、短気で、妻の死から立ち直れず、自殺願望があり、唯一の相棒は犬という刑事、ラサール(ジャック・ガンブラン)だった。彼は事件の聞き込みを続けるうちに、ある盲目の男(ランベール・ウィルソン)に注目していきます。こいつか犯人たと確信を深めていくラサールに反し、別の男を容疑者としてあける捜査班。 彼は証拠が掴めないままに孤立し、やがて捜査の継続すらも危うくなっていく......。この映画、一番の魅力は『最初の人間』でのカミュ役もよかった、ジャック・ガンブランのサル顔です。受け入れられることを期待せずに黙々と仕事をすすめていく、そのおじさん姿がたまらない。
いっぽうの犯人はレクター博士タイプ。態度はひかえめで、しかし頭が異常に切れて、ガタイがいい。この犯人による最初の分析シーンがおもしろいですね。彼はまず参考人として呼ばれるんですが、部屋に入ってくるなり、ラサールのため息を聞きのがさず、そこにある差別意識を指摘します。部下の女性刑事が部屋にやってくれば、香水の匂いから、彼女のラサールへのひそかな恋心を言い当てる。なにごともづけづけ言い、サングラスの奥の表情は読めず、こいつの目的は一体なんなのか分からない。「その調律は暗殺の調べ」なんて副題なんで、「犯人が殺人のたびに死体の横でピアノをポロンポロン弾きまくる!」みたいなシーンも期待してたんですが、これはなかった......(残念......)。サル顔vsマシーン、孤独な男たちの戦いに、ひそかにラサールへ想いを寄せる部下(ラファエル・アゴゲ)が華を添えます。
監督の前作は、タイの大ヒットホラーのリメイク『アイズ』。この映画で、散々「いきなり大音量でビビらせる」という演出をしていたので、本作でもやるのかなと思っていたらやっぱりありました。いきなりのクラッシュ・シーンが後半に訪れます。と同時に「(ストーリー的に)えっ! 事故っちゃっていいの!?」と思っていたら、これが、実際はぶつかってなくて、頭の中で想像していただけだったんでしたー、という夢オチに近い回収をされていく。ビックリしたあとズッコケましたね。そこまでして、ドッキリ系シーンを入れなければいけないのか! これは監督の性癖なのか、それともそういう契約なんでしょうか......。年度末に予算消化のためにやる道路工事みたいなムリヤリ感があったんで、これを役所工事クラッシュと名付けたい。
ところが本作、これこそほんとの事故シーンとでもよびたくなるようなすごいシーンが別にある。それは主要な登場人物とも、映画の筋ともまったく関係ない場面。主人公がヤクの売人のアジトに踏み込み、双方銃を向けあっている修羅場の中で訪れます。
双方銃を向けあい、チンピラは興奮し、一触即発の雰囲気が極限まで高まった瞬間! 突然、全裸の女が現われ、トイレにどかっと座りしょんべんをして去っていく。それを全員が一時停止して、無言で眺めている。この場面の意味不明にして、しかし有無を言わさぬ説得力。見ることを呪ってしまうほどの爆発的な演出はすごい! あの瞬間、自分の中にあった女性への神秘性が消え去っていくのを感じました。観客も含め登場人物がとつぜん遭遇する衝撃、これぞまさに当て逃げ! 本作でもっとも映画的な瞬間です。
連続殺人事件は、後半、意外な方向へと転がっていき、映画は頭脳戦からアクションへと軸足を移します。ジャック・ガンブランのサル顔もますます輝き、そんな話だったのかよというオチへと向かう。そして男たちの戦いは終わるんですが、ところで最後の最後、この映画エンドロールの終わりに、明らかにスタッフとは違う半端じゃなく大量の人名が出てくるんですよ。これが気になった。本作の製作費を個人から募るファンドでおぎなった、その個人投資家の名前? いや、それとも暗号なのか? なにしろ、ちょっとやそっとの量じゃない、この執拗に続く画面いっぱいに密集するクレジットの連続はなんなのか!
そこで本作の設定を振り返ってみると、主人公は犬だけが友達で、ストーリーは孤独な刑事と盲目の殺し屋の戦い......。これってなんか、押井守の世界観を思い出しはしないでしょうか。そもそも本作の後半、上層部と対立しながら行なわれる主人公と部下の単独行動。そしてそれを、ゆるやかに許容する殺人課の雰囲気は、まさに『機動警察パトレイバー 2 the Movie』の特車二課そのものじゃないですか!
とすれば、この最後に画面いっぱいに現われる膨大な量の人名、というか文字の羅列。これは『機動警察パトレイバー the Movie』における、暴走するコンピューター画面、そこへのオマージュに違いない! んなわけないか......。
文=ターHELL穴トミヤ
盲目の暗殺者と、犬を連れた孤高の刑事。
孤独な男たちの魂は、やがて静かに燃え上がる―
『ブラインドマン その調律は暗殺の調べ』
新宿武蔵野館3月16日(土)より、シネマート心斎橋4月13日(土)より レイトショー!
関連リンク
映画『ブラインドマン その調律は暗殺の調べ』公式サイト
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