WEB SNIPER Cinema Review!!
生と死、現実と幻想が交錯する魅惑の映像詩
未だ紛争の絶えないコンゴ民主共和国。平和な村から拉致され、兵士としてゲリラ戦に駆り出された14歳の少女コモナ(ラシェル・ムワンザ)は、亡霊が見える力に目覚めて生き延びる。その特別な力から「魔女」と崇められるようになった彼女だが、いずれ自分が殺される運命だと悟り、愛する少年と共に逃避行の旅に出る――。2013年3月9日 シネマート新宿ほか全国順次公開
監督はカナダ人、キム・グエン。本作は、アカデミー賞外国部門にノミネートされたのをはじめ、主演の女の子(彼女はストリートから見いだされ、本作が初の映画出演)がベルリン国際映画祭で、主演女優賞・銀熊賞を受賞している。
コンゴ民主共和国(旧ザイール)を舞台とした本作は、ほぼオール現地ロケのうえ、台詞も現地の言葉、リンガラ語ですすんでいく。映画の冒頭、主人公の少女が、村を訪れた反政府ゲリラに拉致される。アフリカでは、村がおそわれ、子供は兵士として拉致され、そのとき兵士として育てるために、子供に親を殺させる。知識として漏れ聞こえていた、アフリカ少年兵の話(本作の主人公は少女だが)、その実態が本作で明かされる。
しかし、そう説明したときに想像するセンセーショナルな感じ、または教育的な感じはこの映画にはまったくない。その代わりに本作をつらぬいているのは日常感だ。親を殺すシーンもある。ナタで人を殺すシーンもある。しかしメインは、その異常さと異常さの間にある、日常の時間。運ばれて移動するときのボート、ゲリラキャンプのテレビで観る映画。その時々の、主人公の女の子がそこに「いる感じ」、それをこの映画は映し出す。
印象的なのは環境音で、たとえば兵士に支給される麻薬入りの樹液を飲むシーン。その異常な状況も、それを入れた厚手のビニールパックのガサガサ言う音、中の液体を吸う音、背後を吹き抜ける風の音を通して、淡々と描写される。この映画を観ていて思い出したのは、1人で旅行をしていたときの感触だ。世間の時間と切りはなされて、1人だけでいるときにふと聴こえてくる音。もちろん少女は不本意に拉致され、労役につかされ、戦闘をさせられているのだが、ある瞬間には世界にただ1人で存在している。時間を自分のものとして取りもどすための戦い、本作はそれを音で表わしている。
この映画の主人公には、1つ特技があった。彼女は白昼夢のように、死霊を、特に両親の死霊を見いだせるのだ。ちなみにこの死霊は白く体を塗った人間が、ただそのまま出てくるだけ。最初は暗黒舞踏かと思うのだが、この演出はコンゴの宗教観をより地続きに感じるためにうまく機能していた。死霊は彼女に敵襲や、敵の位置を教えてくれる。そのことで少女は「魔女」になり、ゲリラの守り神として重宝されていくようになる。ゲリラになじんでいく中で、やがて主人公はアルビノ(髪や皮膚に色素がない)の少年兵と惹かれ合うようになり、部隊を脱走する。
コンゴはどんな社会なのか。そこにはまず呪術があった。ゲリラ組織はシャーマンを引き連れ、部隊が進むべき方向も予言で決めていく。車や電気のある文明化された村でも、ひとに何かを頼むときは「お守り」や「呪術的な力を持つ何か」の交換で話が進んでいく。
そして、AK-47があった。AK-47はソ連が発明した銃で、世界中でライセンス生産され、今や世界中の紛争地に広まっている。本作のゲリラもこれが主たる武器だ。しかし、主人公たちが村で庭先の洗濯物を盗んだとき、その家のおばさんまでAK-47を乱射しながら追ってきたのには驚いた! コンゴではAK-47など、一家に一挺レベル。フトン叩きも同然の存在ということだろう。
さらに世界経済と、少年兵たちの運命が奇妙に混ざりあう。ゲリラ部隊の資金源になっているのはコルタンというレアメタル(電子部品の原料として世界中の企業が使用している)だし、ゲリラの根城になっているのは、劇中ではなんの説明もないのだが、どうみても中国建築。これはアフリカへの中国の猛烈な経済援助、その名残と言うことだろう。キャンプではアジア製のTVからハリウッド映画が流れていて、その作品は、ジャン=クロード・ヴァン・ダム主演の『ユニバーサル・ソルジャー:リ・ジェネレーション』(ション・ハイアムス監督)だ。
ユニバーサル・ソルジャーに出てくるのは「ユニソル」と呼ばれる最強の人造兵士。彼らは撃たれても死なず、負傷すれば手や足ごとにパーツを取り替えて、命令にいっさいの疑問を抱かない。この映画を観て、少年たちは歓声を上げているのだが、彼らは手や足を取り替えることはできず、撃たれたら死んでしまう。しかしその代わりに次から次へと拉致して補充することができる。そこには子供がすでにゲリラのユニソルとして機能しているという現実がある。
賊がおそってきて、村が壊滅させられる。ある日、少年がAK-47一本で、兵士になる。主人公と一緒にゲリラを抜け出し、銃を担いで歩いていく少年を観ていると、『雨月物語』(溝口健二監督)で農民上がりの侍が槍を担いで歩いていたシーンを思い出す。コンゴはあの映画とおんなじ、今でも戦国時代なのだ。
『雨月物語』であっさりと殺された母親と同じように、本作でも主人公の両親は冒頭にあっさりと殺される。そして、『雨月物語』の最後、子供がさりげなく母の墓にお供え物をするシーンと同じ鋭さを、本作の埋葬シーンも持っていた。後半、誰もいなくなった村で、やっとみつけた遺品を、歌いながら埋める少女。このシーンはすばらしい。映画は、交換可能な兵士として拉致された彼女の、固有の人生を取り戻していく。
と書いているとこの映画ひたすら暗そうなのだが、そうでもない。ゲリラから逃げ出した途端、画面はカラフルになり、青春が始まる。物語の半分は本当の旅行だ。主人公に「結婚するなら、白いおんどりを探して」と言われる少年。彼がついにそのチャンスに恵まれ、おおぜいのアルビノに囲まれて奮闘するシーンの幸福感! 劇中でかかるアフリカ音楽もいい(『Soul of Angola Anthology 1965-1975』収録曲)。戦闘シーンもきっちり描かれる本作だが、しかしこの映画のピークは戦闘や異常さではなく、生活の中にある。それがなによりすばらしかった。
文=ターHELL穴トミヤ
ひとりの少女の物語に アフリカの"今"をちりばめた
ファンタジックな現代の神話
『魔女と呼ばれた少女』
2013年3月9日 シネマート新宿ほか全国順次公開
鈴木宗男[新党大地党首]、ムルアカ[元私設秘書]登壇
『魔女と呼ばれた少女』トークイベント開催
関連リンク
映画『魔女と呼ばれた少女』公式サイト
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