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(C) 2010 Flemmy Productions, LLC

WEB SNIPER Cinema Review!!
オスカー候補俳優ケイシー・アフレック、凶気の監督デビュー作!
2008年末。故・リヴァー・フェニックスの実弟であり、『グラディエーター』『ウォーク・ザ・ライン』で2度もオスカー候補に選ばれた世界的スター、ホアキン・フェニックスが、突然の「俳優引退とラッパー転向」を宣言、表舞台から姿を消した。それから2年――俳優引退後のホアキンに密着したドキュメンタリー映画である本作によって、実はすべてが彼の悪趣味なジョークだったことが発覚する。引退表明以降すべての仕事をキャンセルし、巨額の自費を注ぎこんでまで製作された一世一代の大イタズラが浮かび上がらせるものとは……。

4月28日よりシネマライズ他 全国順次ロードショー
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(C) 2010 Flemmy Productions, LLC

ヒット作『グラディエーター』でアカデミー助演男優賞候補、カントリー歌手ジョニー・キャッシュの自伝映画『ウォーク・ザ・ライン』ではゴールデングローブ賞を獲得したバリバリのハリウッドスター、ホアキン・フェニックス。名作『スタンド・バイ・ミー』でおなじみのリバー・フェニックスの弟だといえば、映画ファンでなくともピンとくるだろう。

そんな彼が、2008年突然の俳優引退を発表し表舞台から姿を消した。理由を聞いてびっくり、なんと30代も半ばになって俳優としても昇り調子の今、いきなりラッパーに転向するというのだ。はっきり言って「はぁ?」である。
ファンからハリウッドの大物スターまで、彼の才能を惜しむ人達の悲しみをよそにすべての俳優仕事をキャンセル。
「俺は、ずっと若い頃から俺を演じてきた」
「他人を気にして生きるなんてごめんだ」
「俺にはもっと大きな夢がある!」
と、青臭さ全開、いやおバカ全開のセリフを連発するホアキン。ここまでくると、渡辺謙が若気の至りでロックンロール歌っちゃうなんてのとは次元が違う。ああ、痛い。痛すぎる!!

しかしこれ、実を言うと彼が仕掛けた一世一代の大ウソ。「人気俳優がすべてを捨てていきなりラッパーになる」という偽ドキュメンタリーを撮るためのヤラセだったというんだから驚きだ。
ファンだけにとどまらず、ヤバい男のふりをしてジャック・ニコルソン、ブルース・ウィリス、ベン・スティラーなんかのハリウッドセレブを次々ダマしていくホアキン。彼の熱意(偽だけど)に負けて愚にもつかないラップのプロデュースを引き受けてしまった大物プロデューサー・ディディもいい面の皮だろう。
とはいえ、丸2年仕事を放棄し数億円の私財をなげうったというだけあって、その内容はかなり真に迫っている。

(C) 2010 Flemmy Productions, LLC

まず最初に驚くのは、ラッパーに転身すると言ってからのホアキンの容貌変化!
彫が深くてちょっとクセのある美形だったのが、みるみるうちに太り、でっぷりした腹は前に突き出して、髪も髭も伸びっぱなし。気づけば「え、マイケル・ムーア監督でしょ?」と思うようなルックスになってしまっているのだ。偽ドキュメンタリーにここまでやるというのは、さすがハリウッドというかなんというか……。これは熱心なファンであればあるほど観たくないだろう。

そして、彼がラッパーを目指して奮闘する姿が、これまた観ていられないほど情けなくカッコ悪い。
歌詞の内容は「ファッキン」や「サノバビッチ」。ラリッて呼んだおっぱい丸出しのコールガールとハイテンションで踊ったり、コネで出られたステージで客に写メを撮られてキレたり。「ディディとトム・ハンクスが出席したオバマ大統領の就任式に自分は呼ばれなかった」と怒り出し、片道切符でワシントンに飛ぶというハリウッド感溢れるダメっぷりなんかは、情けないのを通り越して嬉しくなってしまう。
さらに、飛行機の中では挙動不審と根拠のない自信が交互に顔を出し、ずっと頭を抱えて貧乏ゆすり。観ているこっちまでヒリヒリしてくるじゃあないか。
また、本編には実際にホアキンが出た各局のニュースやTVショーの映像も入っているのだが、ブルースブラザーズのようにでっぷり肥った黒スーツ&グラサン姿は、テレビの前にいる視聴者の失笑が見えてくるよう。半年やそこらで人間とはこんなに変わってしまうのか……。
とにかく、観終わってからも、どこまでが本当でどこまでが嘘なのかはっきりとはわからないほど「本物っぽい」のだ。

両親が新興宗教団体“神の子供たち”の熱心な信者で、幼いころは宗教関係のコミューンで育ったというホアキン&リバー・フェニックス。前から変わり者だとは思われていたようだけれど、不思議なのは、ここまでする理由がどこにあるのかということだ。
「世間をアッと言わせたい」という気持ちはわかる。でも、いくらなんでもリスキーすぎやしないだろうか。

そこで思い出すのが、本作の監督でありホアキンの共犯者でもある人気俳優ケイシー・アフレックである。
実は彼、ホアキンの妹サマー・フェニックスの夫にして、『グッド・ウィル・ハンティング』『アルマゲドン』で名を成したベン・アフレックの弟。どこかホアキンと似た境遇の持ち主なのだ。
今をときめく人気俳優であるホアキンとケイシー。でも、自分達の前にはいつでも伝説となってしまった兄がいる。ビッグな兄を持った弟達の復讐、というのは大げさにしても、2人がこんな悪ノリ映画を作るほど意気投合した影には、そんな背景があるんじゃないかと考えると、
「俺は、ずっと若い頃から俺を演じてきた」
「他人を気にして生きるなんてごめんだ」
「俺にはもっと大きな夢がある!」
なんて笑っちゃうような青臭いセリフも、なんとなく真実味を帯びてくる。

(C) 2010 Flemmy Productions, LLC

物語の終盤、ラッパーとして思うように活動できないホアキンは友人であるアントニーにイライラをぶつけ、“寝ている俺の上にクソをした!”という、ほんとにどうしようもないケンカを繰り広げるようになる。
さらに、コネで呼ばれたクラブイベントでも客にくってかかるという醜態をさらした彼は、もはや自分の居場所はどこにもないと悟り、1人飛行機に乗って、子供の頃に過ごした自然あふれるパナマに向かうのだ。

だらしなく太った身体で、昔遊んだ美しい風景の中をさまようホアキン。思い出をたどるように湖の中に消えていく彼の行く末は――。

一見すると大いなる悪ふざけ、でもすべてがふざけているわけじゃない。偽ドキュメンタリーの中にも真実はある。
たとえば本編中には幼い頃の彼を撮影した映像も流れるのだが、その内容がパナマの自然の中で父親らしき男と無邪気に遊ぶ姿や、兄弟たちと街頭で「自信があるんだ、きっと夢はかなう」と歌って生活を助けていた頃の姿なのは、なんとも示唆的だ。

何はなくとも、一級のだましパフォーマンスであることは間違いない本作。
「え、これヤラセ?」と思って観るだけでももちろん楽しめると思うが、ネットでホアキンの数年前の美しい姿とバックボーンを検索してから観ると、クレイジーなお騒がせ映画以外の何かが見えてくるかもしれない。

文=遠藤遊佐

2度もアカデミー賞候補に選らばれながら俳優引退&ラッパー転向宣言!?
全米が激怒した、最高に迷惑でクレイジーな超お騒がせドキュメンタリー!


FLV形式 5.92MB 2分13秒

『容疑者、ホアキン・フェニックス』
4月28日よりシネマライズ他 全国順次ロードショー
(C) 2010 Flemmy Productions, LLC
原題= I'M STILL HERE
監督= ケイシー・アフレック
製作=ケイシー・アフレック/ホアキン・フェニックス
編集=ケイシー・アフレック/マグダレーナ・ゴルカ
出演= ホアキン・フェニックス/アントニー・ラングドン/ケイリー・ペルロフ/ ラリー・マクヘイル/ケイシー・アフレック/ジャック・ニコルソン/ ブルース・ウィリス/ダニー・デヴィート/ベン・スティラー / ショーン・コムズ(ディディ)/ジェイミー・フォックス/ビリー・クリスタル/ ダニー・グローヴァー

配給=トランスフォーマー

2010年|アメリカ|英語|カラー|108分|35mm|ビスタサイズ|ステレオ

関連リンク

映画『容疑者、ホアキン・フェニックス』公式サイト

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遠藤遊佐(C)花津ハナヨ
(C)花津ハナヨ
遠藤遊佐 AVとオナニーをこよなく愛するアラフォー女子。一昨年までは職業欄に「ニート」と記入しておりましたが、政府が定めた規定値(16歳から34歳までの無職者)から外れてしまったため、しぶしぶフリーターとなる。AV好きが昂じて最近はAV誌でレビューなどもさせていただいております。好きなものはビールと甘いものと脂身。性感帯はデカ乳首。将来の夢は長生き。
遠藤遊佐ブログ=「エヴィサン。」
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12.04.14更新 | レビュー  >  映画
文=遠藤遊佐 |