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(C)Norte Productions,S.E.L

WEB SNIPER Cinema Review!!
第74回ヴェネチア国際映画祭 オリゾンティ部門審査員特別賞受賞作品
フランス・パリで起きた前代未聞の猟奇殺人事件から38年、愛した女性を射殺して食べつくした日本人・佐川一政は、カメラの前で何を語るのか。これは、映画の常識を超越した、ある人間観察の記録である――。

ヒューマントラストシネマ渋谷他にて絶賛上映中
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(C)Norte Productions,S.E.L

小池光という歌人による「死ぬまへに孔雀を食はむと言ひ出でし大雪の夜の父を怖るる」という短歌があります。なぜ「怖るる」のか?それはふつう孔雀は食べないからで、かつ孔雀が美しいからで、それを食いたいという欲望に、食欲だけでない呪術的な欲望が感じられるからでしょう。とはいえ、何処かの国では孔雀もふつうに食べているかもしれません。韓国に犬の料理があると聞くと我々は抵抗を感じるし、欧米人は日本人がイルカやクジラを食べるということに抵抗を感じている。そこにあるのは、何であれ食べようと思えば食べられる、なぜなら肉だからという事実と、人間は文化ごとに特定の肉に意味を付加してそれぞれの禁忌を持っているという、二つの事実です。そんななか、ほぼすべての人類から禁忌とされている肉、それが人間の肉でしょう。

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本作は、1981年にパリで好意を抱いていたオランダ人女性を殺害し、その身体を食べた佐川一政のドキュメンタリー。彼は逮捕されたのち、フランス司法によって責任能力なしと判断され、日本に強制送還されました。帰国後も、結局起訴されることなく精神病院に入れられ、ほどなく退院したあとはバラエティ番組に出演し、AVに出演し、雑誌に連載を持ち、本も出版し、80年代のサブカル有名人になっていきます。しかし、やがて声がかからなくなり生活は困窮。さらに脳梗塞をわずらってからは自立して生活することが難しくなり、今では実の弟と一緒に暮らしている。

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そんな彼を、ヴェレナ・パラヴェル監督と、ルーシァン・キャステーヌ=テイラー監督の二人がドキュメンタリーにしたというのが、本作の驚きな訳です。このコンビは、ハーバード大学感覚民族誌学研究所の所属(一人は人類学者)でありながら、映画監督もしている。遠洋漁業を撮影した『リヴァイアサン』(2014年公開)という作品では、Go-Proを100個以上使って撮影し、何が映ってんだかわからないようなカオスな断片をつぎはぎして、しかし全体としては巨大な「ヒト」という怪物が海から魚という肉を集めている、そんな荘厳な雰囲気が伝わってくる全く新しい映画を作り上げていました。日本ではレオス・カラックスがその年のフェイバリットにあげたということでも、話題にもなった作品です。
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それで『リヴァイアサン』があまりにすごいから、こんどは『マナカマナ 雲上の巡礼』(2015年公開)を観に行くと、リフトに固定されたカメラの前に巡礼者が乗ったり降りたりするのを何十分も見せられ、死ぬほど退屈したりする。「アカデミックだね......」とつぶやきながら劇場をあとにした思い出がありますが、そのあと彼らは日本のピンク映画に興味をもって、佐藤寿保を監督に迎え『眼球の夢』という作品を製作します。そのツテで人肉食をした日本人の存在を知り、ついに今回、佐川一政を題材とするドキュメンタリーを監督することになった。この組み合わせ一体どうなってしまうのか?

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そんな本作は、観ればまちがいなく2019年で最も嫌な映画体験になること間違いなしの一本でした。まずもって、佐川一政の顔がスクリーンからこぼれるほどに大きく映しだされている。それを長時間、見せられる。そして彼がなにか食べはじめる。水を飲む。その咀嚼音などが聞こえてきて、しかも顔にはピントが全然合っていない。この忍耐力の限界まで責めてくる接写をほとほと見飽きた頃に、佐川一政が出演したAVが唐突に始まります。女優の尻をなめあげる佐川一政。射精する際の「あーイきますイきます」というセリフに笑ってしまいましたが、佐川が出版したという食人の思い出を記した漫画のシーンはつらい。被害者がいる実際の殺人・食人事件についての、加害者によるリアルな死体損壊描写や、それに勃起している自画像を見せられるのは、裁判員裁判で証拠を見せられているような気分になります。
彼は性的興奮のために、食人を行なっていた。なんでそういう性癖になったのか?DNAなのか、教育なのか、コンプレックスなのか、本作を観てもそれはわからないのだけれど、けれど強烈に、こういう人間がこの世に誕生したのだということが伝わってくる。そしてこの佐川一政という殺人犯の、世界で自分だけしかいないような、孤独。絶滅種の最後のひとりのような、孤独が伝わってくる。

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しかし彼には血を分けた弟がいます。弟は広告代理店を50歳まで勤めあげ、今では佐川一政の面倒をみている。弟が、「理解できない」と言いながら兄の食人漫画を読む。その兄は今でも人間を食べたいと言う。けれど、最終的に何か、神の意図を感じるような兄弟間の邂逅(遅すぎるとは思うけれど)が訪れるんですね、これはなんなんだと。あれ、パズルのピース、そこにハマる!?みたいな、そこの情報共有しておけば......??みたいになるんだけど、フィクション映画だったらこの監督マジなのかバカなのかどっちなんだと思ってしまうような(M・ナイト・シャマランとかが考えそうな)、そんなオチが待っている。そのとき、佐川一政が涙を流す。それが、最悪の殺人犯だけれどもモンスターではない、たしかに人間の涙なのだと感じられるのが本作のすごさです。
 私はあえて、この夏オススメのデートムービーとして本作を挙げたい。それは人生において避けられない要素である性欲が、罪と直結してしまった人間の姿が、本作には映し出されているから。カップルになれなかった佐川一政は、弟に救済されたのか?性風俗を連想させるメイド・コスプレの女性に救済されたのか?ぜひ浴衣デートのついでにカップルで話し合ってみてほしい。浴衣の裾にエチケット袋を忍ばせていけば、嘔吐の際にも安心です。

(C)Norte Productions,S.E.L
文=ターHELL穴トミヤ

人間、佐川一政とその弟。"衝撃"の向こう側。今、なにを語るのか?
見る者が試される、禁断のヒューマン・ドキュメント!


『カニバ/パリ人肉事件38年目の真実』
ヒューマントラストシネマ渋谷他にて絶賛上映中

(C)Norte Productions,S.E.L
原題=『Caniba』
監督・撮影・編集・製作=ヴェレナ・パラヴェル、ルーシァン・キャステーヌ=テイラー
出演=佐川一政、佐川純、里見瑤子
配給=TOCANA

2017年│フランス・アメリカ合作│90分│カラー作品│DCP│R15+

【大ヒット映画・カニバ】佐川一政の弟・佐川純と女優・里見瑶子の舞台挨拶決定! パリ人肉事件映画『カニバ』出演者たちが語る、製作裏話暴露トークショー!

大ヒット御礼! 「カニバ」映画製作の裏側を暴露する舞台挨拶が緊急決定。あの佐川一政氏の実弟の純氏と本作に出演した里見瑶子氏のお二人による、ここでしか聞けないトークは必聴!

■出演=佐川純、里見瑶子
■会場=ヒューマントラストシネマ渋谷
■日時=8月10日(土)上映終了後(上映開始時間は劇場まで)

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映画『カニバ/パリ人肉事件38年目の真実』公式サイト

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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