WEBsniper Cinema Review!!
おっさんのベソかき、怒鳴りあい、大はしゃぎドキュメンタリー!
本作では、全国縦断ツアーのスタートから、鈴木慶一はじめ、デビュー当時あがたを支えたバンド「はちみつぱい」のメンバーや、矢野顕子、緑魔子らが参加した東京でのファイナルイベント「あがた森魚とZipang Boyz號の一夜」までの半年に完全密着。この途方もない旅の記録をまとめ上げたのは、若松孝二監督『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』のメイキング、監督作品などで頭角を現わし、長編デビュー作『半身反義』で国際的評価を集めた新鋭女性監督・竹藤佳世。さらに、日本を代表するドキュメンタリー監督・森達也(『A』『A2』)が監修を手掛け、ハチャメチャにブッ飛んで、ハッとするほど心揺さぶる天才ソングライターの(やや)デラックスな核心に迫る。あがた森魚って、何モノ?!吉祥寺バウスシアターにてレイト上映中 2010年1月22日(金)まで!
1月20日(水)には上映前にあがた森魚ライブ決行!!
中津川フォークジャンボリーにあがた森魚とはちみつぱいで出演し、1972年に『赤色エレジー』でデビューして以来幾十年。本作は、ついに去年60歳を迎えたあがた森魚による、北は釧路、南は石垣島まで4カ月にわたる日本縦断ツアーの密着ドキュメンタリーだ。
冒頭で泣いた後には、さっそくライブ会場の打ち上げで「なにサラリーマン? サラリーマンにはサラーマンの歌しかできないんだよ!」と他のミュージシャンに絡み、返す次のカットではなぜか船の舵を握りながら本当の船長らしき人に「お兄さん蛇行してるぞ! 右だよ右! どうして左行くんだよ! 全然分かってないよこのお兄さん! 右だよ!」と怒鳴られながら「はいはい……」と気弱そうに答えている。短髪に黒ぶちメガネをかけ、コートでうろうろするこのおじさんは監督の舞台挨拶によれば「とんでもなく勝手な人」。けれど映画を観ているとなにか、勝手である代償に他の人に代わって独り、何かと戦っている様にも見えてくる。
ライブのMCで「自分の青春は20世紀だった」と言うあがた森魚。彼の裏声ははかなくて、まさに昭和で、ガロで、下宿の四畳間で時間が経つに任せてるような倦怠感と寂しさがあっていい。今回のツアーは、小学生の頃担任の女の先生に教えてもらった「海底2万マイル」がテーマらしく、ツアー中もずっと『海底2万マイル』のノーチラス号の模型をつれ回し、その先生についての歌『佐藤敬子先生はザンコクな人ですけど』を歌っていた。1950年代に少年時代を送った彼は、その頃の記憶を宮沢賢治のように守りながら70年代に青年時代を過ごし、今もその魂を忘れないまま、21世紀のおじさんとして生きている。生まれ故郷の北海道から始まるツアーは1台のキャンピングカーで行なわれ、一緒に動くメンバーはせいぜい数人。時には寝袋で眠り、急にフラッと1人でいなくなるあがた森魚は身軽で、自由で、そして孤独な内省の旅をしている様にも見える。
ひと際盛り上がった日の打ち上げで「ずーっとみんなとやれたらいいのに。バンドにはバンドの悲しみが有るだろうけど、ソロシンガーにはソロシンガーの……」まで言ってその先をごまかしていた彼は、ツアーを終え東京に戻ると一転、今度は九段会館という大舞台で鈴木慶一らデビュー当時のメンバーに、矢野顕子、さらには緑魔子をゲストに迎えたツアー・ファイナル・ライブに望む。このライブも会場を潜水艦の中というイメージで固め、出演者は「船長」あがた森魚以下、みな船員の格好をしている2万マイル仕様だ。
ライブ前の練習もかなりドタバタで、駒沢裕城(はちみつぱい)には「彼は船長です。他はできないでしょ」と諦められ、矢野顕子に「3時間は長過ぎる」とさりげなく諭され(けど結局終わってみれば3時間やってる)、やっぱり人と一緒にはなれない彼のわがままさに、みんなうんざりしながら、つきあっていく。
鈴木慶一の言葉を借りれば「(40年前も)一緒にバンドを作ったけど、すぐにあがた森魚というソロと彼のバックバンドになってしまった」それでも「バンドやりたかったっていう思いがずっとあったんじゃないのかな」という彼の一大イベントは、ふたを開けてみれば、『大道芸人』のペダル・スチールギターのソロパートなんかは最高だし、『大寒町』の矢野顕子とのデュエットも最高!『最后のダンスステップ』で18歳の少女のモノローグを読み上げる65歳の緑魔子も凄かったし、大成功だったんじゃないだろうか。
最後真ん中に立ち、みんなで礼をするときに手を繋ごうとしたあがた森魚に「嫌だよお前となんか」とばかりに手を払いながらも、結局は手を繋いであげる鈴木慶一を観見て、あー彼はずっとこうやって愛されてきたんだなと思う。
ライブが終わると、彼はまた1人に戻りもう一度北海道へと移動していく。大好きなサトウケイコ先生の実家に尋ねて行き、どうにも歓迎されていないというか困惑されているムードに彼は気づいてるのか、いないのか、それでもツアーの説明をして、「どうもありがとう」と言って帰って行く。彼はノーチラス号に乗り込んだ船長で、1975年の夏の命を歌に封じ込めてうろうろしている。彼にとってそれこそが大切で、それが芸術家ってことなんだろう。あがた森魚はあぶない人かもしれないが、エンディングに流れる『佐藤敬子先生はザンコクな人ですけど』は名曲だ。やっぱり名曲は悪魔と契約しなければ手に入らないのかもしれない、この映画にはその悪魔が確かに映っている。
文=ターHELL 穴トミヤ
『あがた森魚ややデラックス』
吉祥寺バウスシアターにてレイト上映中 2010年1月22日(金)まで!
関連リンク
映画「あがた森魚ややデラックス」公式サイト
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