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陽気な老人達のバカ騒ぎ!
「黄金花」をめぐる愛と笑いの人間模様 |
240本以上の作品で美術を手がけ、晩年は監督としても活躍していた木村威夫、渾身の遺作。 原田芳雄、松坂慶子ら日本を代表する名優たちが木村ワールドの中で自由に騒ぎ、笑い、そして涙する。 老人たちのふきだまり「浴陽荘」に集まる奇妙な人々と、幻の「黄金花」を巡る愛と笑いの人間ドラマ!!
この映画の舞台、山あいの老人ホームには身寄りのない人ばかりが集まって暮らしている。みんな、ホームに越して来る前の職業に応じた「打ち明け話」や「特技」を持っていて、たとえば主人公の原田芳雄は日々植物を採集し、みんなから「先生」と呼ばれている。ホームの中で「老人らしい」雰囲気を持ち合わせているのは彼ぐらいで、他はみんな完全に自分勝手で、めちゃくちゃな奴ばかりだ。その光景はまさに「老稚園」だが、まあもうすぐ死ぬとなれば、周りのことなどどうでもよくなるのは当然でもある。
出演陣はかなり豪華。予算があるとは思えないこの映画に、これだけの名俳優(ただしみんな老人)が集まったのは、ひとえに監督・木村威夫のキャリアゆえだろう。本作監督時の年齢はなんと91歳。元々、美術監督だった彼は、1942年に日活に美術として入社。以来、『ドグラ・マグラ』『海と毒薬』『ツィゴイネルワイゼン』を始め、最近では『人のセックスを笑うな』まで、240本以上の美術を手がけてきた日本映画界の巨匠なのだ。
そんな彼が、90歳で初の長編"映画監督"デビューを果たしたのが、前作『夢のまにまに』。これはギネスブックに「最も高齢で長編映画デビューした監督」として記録された。そして本作がその第2弾だ。生きてるだけでめっけものの年齢で、映画監督とは、まじですごい。
しかしそれだけに、この映画は老人へのプレゼントとして周りが撮らせてあげた、功労賞的な映画なのかなという不安もよぎる。実際、映画が始まると画質はTVドラマみたいでがっかりするし、登場してくる若者も、えなりかずきみたいな「老人好みで、しかし同世代から見るとすれてなさすぎて気味の悪い」感じだ。
映画は、不思議な花に出会った主人公の変化を主軸に、一方でホームに集う老人達の素性を明らかにしていく。やがて、彼らが得意げに語る「来る前の仕事」や「特技」は、どれもこれも嘘ッパチだということが判明する。
「昔は女優だったんだよ」とブロマイド写真を看護師に見せる婆さんは、実はただの小さい飲み屋の女将だったし、「ピーナッツが儲かってなー」と言う爺さんは、ピーナッツ農家などいない鹿児島出身だったと分かる。主人公の「教授」は、大学を出ていない。
気づけば当初の不安は消えていて、演技や脚本といった映画の骨が身に迫りだす。確かにこの映画には特別なものがあって、それは死だった。
昼間のバカ騒ぎが終わり自室に戻ると、本当の人生が透け始める。彼らは皆1人で人生の落とし前をつけようと戦っていて、嘘は死に対抗する唯一の手段のようだ。
自分が作り上げたキャラクターを押し通す彼らを見て、その奥の怯えは自分の中にもあると気づく。死の問題に年齢は関係なくて、問題は、それが避けられないということにあるのだ。だとすれば、じゃあ一体どうすればいいのだろうか。
嘘と死の格闘の場は後半、ついに生死渾然となった世界へと突入する。これこそ黒澤明『まあだだよ』、宮崎駿『崖の上のポニョ』にもあった、映画が「黄泉」に突っ込む瞬間だ。この映画では、なんとそこで無声映画になってしまう。この無声映画は、木村監督の青春時代そのものじゃないだろうか。ここに来て彼が92歳で映画を作っていること自体が、ストーリーと対をなしてくる。さらに自分がいつも観ている平日のつまらない人生を忘れたり、木村威夫監督が人生を通して関わってきた「映画」というもの、それ自体が映画の中で老人達が使う「嘘」というものに重なってくる。
映画は最後、松坂慶子が語る「嘘とほんとの混ぜ合わせ」という台詞で終わる。木村威夫監督自身も、本作の全国公開中に亡くなった。
老いるのは寂しい。死ぬのはもっと寂しい。しかし寂しいだけでないのが人生だ。なぜなら、嘘がある。この映画は嘘と死が混ざりあった、なんとも黄泉なムービーだった。これは老人にしか撮ることができない、素晴らしいジャンルなのだ。
文=ターHELL穴トミヤ
松竹の川津祐介、大映の三條美紀、日活の松原智恵子&野呂圭介、
あの頃のスターたちが銀幕に甦る!!
FLV形式 6.49MB 1分28秒
『黄金花 −秘すれば花、死すれば蝶−』(DVD)
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