2008.10.11.Fri at UPLINK FACTORY 安原伸監督作品 「縛詩―BAKUSHI―」 レビュー!
取材・文=遠藤遊佐
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土曜の昼下がり。「UPLINK FACTORY」にて公開中のドキュメンタリー『縛詩』を観に行ってまいりました。ええ、もちろん今回も片道四時間の高速バスに乗って……。
こんにちわ。信州在住、孤高の三十路オナニスト遠藤です。
えー、毎週WEBスナイパーにコラムを書かせてもらっておきながらこんなことを言うのもどうかと思うんですが、正直言って私はSMにまったく造詣が深くありません(あ、前にも同じことを書いたような気が)。
(c)安原製作所
白く柔らかな女体に縄が食い込む様子を見ればもちろんムラムラします。でも、緊縛の世界についての知識はと言われるとほとんどないというのが実情……。
そんなSM初心者の私でも、雪村春樹氏の名前は知ってました。作務衣を着た関西弁のおっちゃん。恰幅がよくてちょっとこわもて。そして巨匠。
本作はそんな雪村氏の仕事と日常を描いた作品です。
そういえば、ちょうど一カ月前に「UPLINK FUCTRY」で観た『縄師』も緊縛の世界を描いたものだったけど、この2本はまったく違ったタイプの作品。『縄師』が緊縛師という職業のドキュメントだとすれば、この『縛詩』は雪村春樹という一人の人間のドキュメントだとでもいいましょうか。
還暦近くなってようやく自身の技術や経験を他人に教え始めたという彼が、マンションの一室で弟子に縛りをレクチャーしているシーンから物語は始まります。
雪村春樹の元に集まる人間は、男だったり女だったりはたまた女王様だったりと様々。ギリギリで一筋縄ではいかないエロの世界ではありますが、彼の周りにはどこか和やかで肩の力が抜けた雰囲気が漂っていて、居心地がよさそう。なんだか疑似家族のようにも見えてきます。
彼は弟子に“雪村春○”という縄師名をつけてるんですが、その家族的な雰囲気のせいか弟子だけでなく縛られる側のモデルまでが名前を欲しがるんだとか。なるほど、それもわかります。
ロリ系M女優として一世を風靡し、今は彼の元で緊縛を習っている笠木忍ちゃんもその一人。現役時代とまったく変わらない彼女の可憐な姿もこの作品の見所のひとつだと言えましょう。ファンは要チェックですぞ!
ちなみに雪村春樹が彼女につけた名前は“雪村春雛(はるひよこ)”ですって……。か、かわいい……。
20年前、縄師として東京にやってきて、忙しい毎日を送るうちにどんどん大阪に帰る機会がなくなりこちらに居ついてしまったという雪村春樹。
AV撮影、写真撮影、緊縛ライブの準備と開催、弟子へのレクチャー。それが縄師である彼の日常。妻とは別居中だから、食事は自分で作って食べるんだそうです。料理の腕もなかなかで、画面の中で湯気をたてる煮込みうどんはやたら美味しそう。
縄師といっても原点はカメラマンで、だから作品を映像に残すことにはこだわりがある。最近になって再開した緊縛ライブは思うようにいかないこともあるけれど、「まあ、こんなもんやろな」とのんびり構えている。レゲエが好きで、チョコレートが好き。
緊縛作品そのもののファンには、こういう一面はもしかしたらどうでもいいことなのもかしれないですけど、SMマニアではない私のような人間からすると、彼の人となりや、ちょっとしたときにボソッと出てくる気のいいおっちゃん的な言葉はとても魅力的に映るんですよね。
これまで頭の中にあった「緊縛師 → ハードS → 怖い人」というわかりやすい図式が、いつのまにか「この人はどんなふうに女を縛るのだろう」という興味に変わっているのに気づかされます。
月並みな言い方だけど、長い間一つのことをやって名前を残す人というのは一言では言い表せない何かをもってるんだと思います。
その“何か”を60分かけて描いたのがこの作品なのかもしれないなあ。うん。
また、雪村氏と女たちとの関係も見ていて気持ちがいいんです。
彼のまわりには女性がいっぱい。モデルはもちろん女だし、事務所のスタッフもAV撮影をする時のスタッフもほとんどが女性。
時には「女はほっとくと喋ってばっかりや」とこぼしたりもするけれど、撮影途中で疲れて寝てしまうと残りは女性スタッフがちゃあんと撮っておいてくれたりするわけですよ。
緊縛界の巨匠・雪村春樹は、しみじみこう言います。
「女のおかげで生きている」
そういえば、大きな事件もなく淡々と描かれる縄師の日常の中で、印象に残ったシーンがありました。
雪村春樹は、時々事務所でモデル達のプロフィール写真を捨てる作業をします。なぜなら、そうしないとどんどん溜まっていって足の踏み場もなくなってしまうから。
女達は次から次へと現れるけど、基本的にこの世界にそう長くいるわけじゃなくて、一緒にいられる時間はびっくりするくらい短いんですよね。いくら縄で縛っても、魂をさらけだすような濃密なひとときを過ごしても、やがてはこの世界から消えていってしまう。
俺の上を通り過ぎて行った女達……なんて大袈裟に言うようなことじゃない。きっと縄師という商売はそういうものなんでしょう。
でも、わかってはいても、写真を事務的に次々シュレッダーにかけながら彼は「みんな、すぐにいなくなってまうなあ」とつぶやくのです。どうです、グッときませんか?
(c)安原製作所
ラストシーン、片手にコンビニ袋を提げ「そんじゃまた。気いつけてな」と、ふらふら家に帰っていく雪村春樹の姿を見て、ふと笑顔になっている自分。
多分、彼を取り巻く女たち、そして今まで縛られてきた女たちもそんな気持ちになったんじゃないでしょうか。
「縛師」じゃなくて「縛詩」。女と出会い、縛り、記録して別れる。何十年という間淡々とそれを続け、これからも続けていくだろう雪村春樹の毎日は、たしかに一遍の詩のようだなあなんてことを思った次第。
SMに興味のある人もそれほどでもない人も、一見の価値ありかと思われます。お時間ある方は是非どうぞ(まあ、四時間かけて行くのはちょっと遠いですけど……)。
文=遠藤遊佐
縛詩―BAKUSHI―
縄で生きる男と女たちを追ったドキュメンタリー
公開中〜10月17日(金)
上映時間=
10/13(月)〜10/17(金) 1回目18時ヨリ 2回目20時ヨリ
料金=
特別鑑賞券 ¥1,300
当日 ¥1,500/学生¥1,300/シニア¥1,000
『縛詩 BAKUSHI』
発売:2008年10月25日(土)
監督:安原伸
縛師:雪村春樹 雪村春飄 雪村春宵 雪村春雛
出演:ミュウ なな 小室芹奈 すみれ 小夜伽 小春
時間:61分
価格:2,940円(税込)
品番:DMSM-7826
レーベル:GPミュージアムソフト
関連リンク
『UPLINK』
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GPミュージアムソフト|公式ホームページ
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(C)花津ハナヨ |
遠藤遊佐 AVとオナニーをこよなく愛する三十路独身女子。一昨年までは職業欄に「ニート」と記入しておりましたが、政府が定めた規定値(16歳から34歳までの無職者)から外れてしまったため、しぶしぶフリーターとなる。AV好きが昂じて最近はAV誌でレビューなどもさせていただいております。好きなものはビールと甘いものと脂身。性感帯はデカ乳首。将来の夢は長生き。 遠藤遊佐ブログ=「エヴィサン。」 |