WEB SNIPER Cinema Review!!
映画愛に溢れた傑作ドキュメンタリー作品
新しい資金調達システムを編みだして新興映画会社をサポートし、幾多の傑作を世に送り出した伝説的銀行マン、フランズ・アフマン。20世紀後半のハリウッドで辣腕を振るった彼の波乱万丈の人生の軌跡を、アフマンの実娘ローゼマイン・アフマンがまとめ上げたドキュメンタリー!!7月16日(土)よりヒューマントラスシネマ渋谷にてレイトショー! ほか全国順次ロードショー
とはいえ、主人公フランズ・アフマンは財閥の会長とか、ウォール街のやり手ビジネスマンではなかった。それどころかオランダにある中堅銀行の、さらにロッテルダム支店の、雇われ銀行員だったのだ。そんな彼がなぜハリウッドで「困ったらロッテルダムに飛べ」が合言葉になるほどの男になっていったのか。きっかけになったのは、フェリーニの『道』や『カビリアの夜』などを扱った大物プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティスとの出会いだった。やがてふたりは「プレセール方式」という資金の集め方を発明する。これにより大手の銀行を引き込むことに成功し、独立系映画の黄金時代がやってくることになったのだ(その余波は日本の東宝東和、GAGAなどといった独立系配給会社にも及んでいる)。
彼らがキャリア初期の頃、『スーパーマンII』に投資を決めたエピソードがいい。撮影途中の『スーパーマン』(IとIIは同時に撮影された)のフィルムを上映し、ディノがアフマンにこれはいけるぞと囁く。この1を見て10を知る的な、つわもの感。やがてアフマンは独り立ちするが、直接人に会いフィルムを観てから融資を決めるというスタイルは、その後も変わらなかったという。そうしてキャノン・フィルムズ、カロルコ・ピクチャーズといった会社や、個人への融資を通じて、『ターミネーター』、『ランボー/怒りの脱出』、『プラトーン』、『バーフライ』、『恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』(大好き!)、『ダンス・ウィズ・ウルヴス』、『トータルリコール』など、約900本もの作品をこの世に生み出していった。
87年、『プラトーン』のアカデミー賞受賞式で彼は、「ジャングルまで追加資金を届けてくれた男」として、壇上から謝辞を述べられる。別の銀行員が「あれこそ銀行員の夢」と語っていたのがおもしろい。監督の自伝にはいつも悪役として登場してくる銀行員、彼はそのイメージから抜け出したのだ。。
とはいえFBIに捜査されたり、イタリアの富豪に買収工作をかけられたり、果ては撮影現場に来ないポランスキーを起こしに行ったら、ベッドに少女が寝ていたりと、トラブルも尽きない。プリセール方式には、銀行の取りっぱぐれをなくするため「完成請負保険会社」というものがかんでくる。その当事者も本作に出てくるのだが、どう見てもなぎら健壱みたいなテンガロンハットのおっさん、そのビジュアルだけで映画業界がどれだけ海千山千の世界なのかが伝わってきた。
業界人だけでなく、フランズ・アフマンの妻もいい。ある時期については「調子に乗ってたわね」と容赦なく、忙しさにかまけて家にいないのは「不満だった」とあけすけだ。家庭の側面からキャリアを眺める目線が冷静で、アフマンが業界に飲まれずやってこれたのは、彼女のおかげもあったのだろうと想像した。
ケヴィン・コスナー(『ダンス・ウィズ・ウルヴス』で初監督作品であるにもかかわらず融資をうけた)や、オリヴァー・ストーン(『プラトーン』でベトナム反戦映画にもかかわらず融資をうけた)、さらにミッキー・ロークまで出ている本作だが、一番印象に残ったのはポール・ヴァーホーヴェンだった。実はこの映画の撮影前、フランズ・アフマンは末期ガンを宣告されていた。自伝を書くには時間が足りないという彼のために、実の娘が監督となってこの作品を撮りはじめたのだ。インタビュー中に話題がそのことになり、ヴァーホーヴェンはとても辛いとこぼす。それに対して監督は「でも父はとてもすばらしいものを残したしね」と続けるのだが、言わんとしていたのは「プリセールス方式」や、それによって製作された数々の傑作のことだったに違いない。ところがヴァーホーヴェンは間髪を入れず、「そう、君をね」と返すのだ。その返事に、彼が作ってきた残虐映画の奥にある優しさを垣間見た気がした。
文=ターHELL穴トミヤ
900本の映画に投資した伝説の銀行マン
あの名作は、彼なしでは生まれなかった――
『ハリウッドがひれ伏した銀行マン』
7月16日(土)よりヒューマントラスシネマ渋谷にてレイトショー! ほか全国順次ロードショー
関連リンク
映画『ハリウッドがひれ伏した銀行マン』公式サイト
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