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(C) 2009 Screen Australia, Screen NSW, Film Victoria, The Premium Movie Partnership, Animal Kingdom Holdings Pty Limited and Porchlight Films Pty Limited.

WEB SNIPER Cinema Special Review!!
犯罪がつなぐ、家族のきずな――オーストラリア発のパワフルなクライム・ドラマ
80年代のメルボルン。17歳の少年ジョシュアは、母の死をきっかけに疎遠だった祖母ジャニーンに引き取られる。たが、その家に住む親族たちは強盗や麻薬売買などで生計を立てる犯罪者ばかり。ジョシュアが葛藤しつつ一味に引きずり込まれていく中、彼らの動向を探る警察はジョシュアの証言によって一家の一網打尽を狙う――。今春の大注目映画『アニマル・キングダム』。今回は特別レビューとして、遠藤遊佐さんとターHELL穴トミヤさんにその一筋縄ではいかない内容と魅力を存分に語り合ってもらいます!!

2012年1月21日より TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館他 全国順次ロードショー
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(C) 2009 Screen Australia, Screen NSW, Film Victoria, The Premium Movie Partnership, Animal Kingdom Holdings Pty Limited and Porchlight Films Pty Limited.


遠藤遊佐(以下「遠」) 『アニマル・キングダム』、よかったですね。

ターHELL穴トミヤ(以下『穴」) 面白かったです。

 暗いんだけど面白い。

 最初、テレビを観てるんですよね。主人公がいきなり映って、開始1分くらいで、主人公のお母さんが寝てるんだけど、それがヘロインで死んでるってことが判明して、救助隊が突入してくる。その時に主人公がずっと、動じないというか、淡々としてるところで、オオッ、面白ぇ……って。

 (笑)。

 ああ、こういう感じなんだなというのが伝わってくる。

 この映画ってたくさん人が死ぬんだけど、割とみんなすぐ忘れちゃいますよね。忘れるというか、引き摺らない。

 “死んだものはしょうがない感”がありましたね。これ、僕は何の前知識もなく観たので、どこの映画か分かってなかったんですが、英語だからアメリカか、イギリスかなっていう。で、ドルが出て来たから、じゃあアメリカかなってなるんだけど、なんか違う。それがずっと気持ち悪くて。そしたら終わってからオーストラリアって分かったんですけど。映画でオーストラリアってあんま聞かないですよね。なんですかね、他に有名なのって……。

 『マッドマックス』(笑)。

 昔だ(笑)。

 この犯罪一家が住んでるところって、すごい田舎じゃないんだけど、すごいビッグシティでもないんですよね。ニューヨークとかじゃなくて、地方の都会くらいの雑な感じがあるんですよ。みんな服とかダサいし。

 地方都市感ありましたね。あと面白かったのは、なんかやたら広い感じがするんですよ。街のシーン観てても、この街の奥にどこまでも空間が広がってそうっていう、あれは何だったのか。

 オーストラリア人が聞いたら怒るかもしれないけど、要するに大味なんですよ。ストーリーの中心はそういう町に住む犯罪一家。お母さんが死んで行く場所がなくなった主人公が音信不通だったおばあさんに電話をして一緒に暮らすようになるんだけど、その家族が全員犯罪一家という。


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 家族経営の犯罪者集団。

 その辺からもう大味というか、ざっくりしてますよね。

 でもオーストラリアだったらありえそうって納得できる(笑)。

 そうですか?(笑)

 広いし、あんまり人住んでないし。

 ちなみにこの映画、試写会のハガキを見たら、「タランティーノが選ぶ本年度の第3位」というすごい微妙な位置を占めてて。

 第1位が『トイストーリー3』(笑)。

 第2位が『ソーシャルネットワーク』。実質1位みたいなもんですよね。

 この1位3位の中では一番タランティーノっぽい映画ですよね、『アニマル・キングダム』が。

 そうですね、好きそう。

 『パルプフィクション』的なノリもあるし。突然人が死んだり。この映画はもっとシリアス路線だけど。

 主人公が警察やら自分の叔父さんやらに追われて、殺されそうになるんだけど、いつも間一髪で逃れて……というドキドキ感みたいなものもある。

 アメリカとオーストラリアの関係はちょっと分からないけど、アメリカから見てもオーストラリアってやっぱりあり得ない部分があるんですかね。

 「ナニあの国!?」みたいな感じ?

 そう。そこまでいっちゃうの?という。

 オーストラリアっていうと、コアラとかカンガルーとか牧歌的な印象なのに。

 その大自然のノリで人間も突き抜けてるみたいな。そういえば、『マッド・ムービーズ〜オーストラリア映画大暴走〜』ってドキュメンタリーがあるんですよ、タランティーノがオーストラリアの70年代80年代の無茶苦茶な映画を褒めまくるっていう。棺桶をサイドカーに載せて爆走したりとか、そういう映画ばっか出て来るんです。『アニマル・キングダム』はシリアスな映画ですけど、出てくる社会の根底にその同じ匂いがあった。ある種の無茶苦茶さみたいな、やっぱ大味っていうことですね。それで気に入ったというのもあるのかも。


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■犯罪ファミリーに引き取られた朴訥男子の苦悩は、見ているだけで胃が痛くなる!

 あらすじは、まず実在の犯罪組織であるコディ一家というのがいる。その一家は三人の息子とゴッドマザー的なおばあさん、その孫のジョシュア君。まず、彼のお母さんがヘロイン中毒で死んじゃうんですよね。

 そしてジョシュア君が、犯罪一家に引き取られるところから始まる。

 このおばあさんが母性の強い、最初はいい感じの人で。

 ラピュタで言うと、空賊のマンマユート団のお母さんみたいな。息子たちを統べるお母さんがいて、息子たちは全員犯罪者。

 みんな犯罪者だけど、そういうのも肯定して黙認してる、母性の強いおばあさんに引き取られる。でも行ってみたら強盗はするわ麻薬密売はするわでダメな三兄弟が待っている。

 それがちょうど、警察の特別捜査班がいて、取り締まりを強化してる時期で。

 犯罪者を一掃しようとしてるんですね。もう一人のキャラで三兄弟の親友の、ムショで知り合った長男ポープの友達、バズというのがいるんだけど、彼が足を洗おうかなって考えてた矢先に、その特別捜査班に撃たれてしまう。何をしたわけでもないんだけど、「逃げようとしたから撃っちゃったよ」みたいな。それで一家の長男が怒るわけです。

 なんか、捜査するのもめんどくさいから射殺したみたいな感じでしたよね。で、さらにそれに復讐する事で、この一家がどんどん巻き込まれていく。

 コディチームとしてはうまく反逆したつもりなんだけど、まあ警察相手じゃすぐバレるわけですよ。で、警察隊が今度は次男を撃ってしまう。そうしてだんだんコトは大きくなり、やってやられてみたいな形で一人二人と人が死んでいく。

 すると警察は、ジョシュアという主人公へ。彼が一番口を割りそうだから……。

 一般人である主人公を証人として引き込んで、にっくき犯罪一家を一網打尽にしようとする。

 という思惑の一方で、ジョシュアに口を割らせないようにする一家の思惑もあり……。その間で揺れるジョシュア君という。

 彼は普通の高校生だから、基本的には悪いことはしたくないんですよね。

 なに考えてるかわからないですけどね。全然しゃべんないから。


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 可愛い彼女とかもいるし、子供だからそんなことしたくない。でも他に身寄りもないし、おばあちゃんいい人だし、ファミリーを大事にしたいしっていう気持ちもあって、揺れ動くわけです。ところがおばあさんにしてみれば、そのはっきりしない態度は裏切りに見えたりもして、さて、どうなるやらという。その辺からが面白いところですよね。

 彼が、どういう選択をするのかというのが映画のメインですよね。

 演技のせいかもしれないけど、ホントに最後まで読めないですよね。

 あと怒ってるのか怒ってないのかも分からない。

 私、最初はもしかしてこの人演技下手なのかなって思ってたんだけど、彼女の家のトイレでガン泣きするというシーンがあるじゃないですか。その泣きっぷりは凄いなと思った。やっぱ上手いのかな。

 基本はずっと「これ素なのかな?」っていう演技ですよね。『誰も知らない』の柳楽優弥くんみたいな。それで、警察の中にも内通者がいるんです。

 こっちはこっちで犯罪者と内通するのが当たり前みたいになってるんで、裏の手の打ち方も知ってたり。

 安易に、警察に協力するわけにもいかない。

 どっちって決めたら決めたでうまくいくというわけでもないのが切ないですよね。

 そういう胃の痛くなる状況にジョシュア君はずっといる。

 一番キレててカッとなりやすいタチの長男も、誰を信じたらいいのか疑心暗鬼になっちゃって悪いほう悪いほうへいっちゃう。実は気の小さい人なのかな。そんなに大物感はないんですよね、犯罪者としては。そういうちんけな感じの集まりなんだけど、なんかどんどんひどいことになっていく。

 唯一の大物はおばあちゃん。

 そうですね(笑)。


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■母性で息子たちをダメにするゴッドマザーがゾッとする!

 昔、『ビック・バッド・ママ』という犯罪者一家の話があって、それも一家で犯罪をやってる。時代が西部劇でアメリカ映画なんだけど、やっぱりお母さんが一番肝っ玉で「みんな、銀行強盗するよ!」みたいな映画だったんです。それはすごい泣けるんですよ。

 いい話なんですか。

 そうなんです。『俺たちに明日はない』みたいな、70年代の映画なんで、反抗する人はヒーローみたいな。お母さんも銀行強盗だけどすごいいいお母さんだった。でもこの映画のビッグママは……なんていうんですか、ゴッドマザー?

 ゴッドマザー=ジャニーンさんですね。

 ジャニーンさんは、これは相当エグかったですね。

 最初のうちは、肝っ玉母さんというか、いい人に見えるんですよね。身寄りがなくなった主人公の男の子が電話したらすぐに迎えにきてくれて、こう、ギュッとね。

 必ずハグして。

 そう。自分より頭一つ大きい子をハグして、「大丈夫よ」って安心させてあげる超いい人。犯罪者の兄弟たちのことみんなそういうふうに愛でてるんですけど、後になってムクムクとその怖さが見えてくる。

 彼らの、犯罪が生活になってて、だから殺したり死んだりしても、動揺はするんだけどそのまま先に進むしかないという。その大自然感の元を辿っていくと、このお母さんなんじゃねぇかって。

 そう。警察が一家と報復し合って一人死に、二人死にみたいになってるとき、お母さんは誰が死んでも「わーっ」って心の底から悲しむの。でも次のシーンになるとテレビを観ながら「司会者の歯並びが悪い」とか言ってるんですよ。

 (笑)。でも、おばさんって基本そうじゃないですか。それこそ『東京物語』の杉村春子とか生活感が強くて、いつもそれとこれとは別な感じで、日常を進めていく力があるっていうか。でも、このジャニーンさんはそれにしても何か違うぞっていう……。

 すごいですよね。

 家族が全員死んでもこの人だけは生き残ってるんじゃねえかって思う。

 でもファミリーが全員死んで独りになっちゃうのは嫌らしくて、最後のほうになると、「大事なものを守るためには仕方ない」みたいなこと言って、ちょっとイヤラしい手を打ったりもする。

 途中までのおばさん感と、このジャニーンさんの本性が急に表われてくるところがあるじゃないですか。あの時の目の輝きが半端なかった。

 こわいですよねえ。この人肝っ玉母ちゃんていうか、もう完全におばあちゃんの年齢なんだけど、化粧なんかは結構ばっちりで妙な色気もある。女のこわさがあるんですよね。

 そうですね。


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 見たことない女優さんなんだけど、すごくハマり役でした。そういえば、この映画の出演者って、『LAコンフィデンシャル』とか『英国王のスピーチ』に出てるガイ・ピアースくらいしか知ってる人がいなかった。ほら、主人公の王様のお兄さん役だった人。

 エドワード8世。

 うん。彼くらいしか知らないの。

 でもみんな演技めちゃくちゃよかったですね。

 なんといっても、主人公のジョシュア。このダサ感はたまんないですね(笑)。

 ジャニーンばあさんが演技が上手で、すげー存在感。それと逆で、まったく演技してない主人公なんですよね。

 なんつっても、ほっぺが赤いですからね。

 ほっぺが赤くて、朴訥な奴の怖さというか……。

 前髪揃ってて、ほっぺ赤くて、図体デカくて。もう、まんま田舎のティーンエイジャー。

 一応18歳以下という設定なんですよね。

 パンフを見ると、実際にこれを撮った時も17歳だったって書いてある。「ナニ!?」っていう感じだけど(笑)。

 ガタイがデカいから17歳には全然見えない。でも顔とか表情に幼い感じ、まだ子供な感じが出ていてそれが面白かった。喋んないんですよ、とにかく。下を向いてて、何考えてるか、ホントに映画の最後の最後まで観てる人にもわかんない。戦争映画とか、子供の犯罪映画とか男がグループで出てくる映画で必ず1人いて。周りのヤツが「ナニナニしちゃおうぜ」って取り返しのつかない悪いこと始める時に、ずっと黙っててそのまま巻き込まれていく。で、観てるほうは“こいつは止めるのか止めないのか”っていう。でも一番馬力ありそうで怖いんですよ。

 そうですね(笑)。存在感は異常にある。

 必ず一人いるその朴訥なキャラが、今回は主人公なんですよね。


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■出てくる男は全員ゲイくさい。マッチョでスイート。

 キーマンはこのおばあちゃんと、主人公。あと長男で一番ワルのポープ。この人が一番キレちゃってる人なんですね。この人のキレ具合によって、事態は悪いほうに悪いほうに進んでいく。

 家族の中でも一応やっかいものみたいな扱いになってる。で、出てくる人はみんな犯罪者というか、マッチョな人ばっかりなんだけど、この叔父さんだけヒョロいヤツなんですよね。

 ネズミ系。

 そう、ネズミ男系で、常に覗ってるような目で。

 大したことしそうにないんだけど、キレると平気で人を撃ったりとか、罪のない子を殺したりする。

 周りのヤツからも「アイツを止めろ」みたいな。あだ名もついてましたよね。このポープは。

 なんだっけ。「皇帝」みたいな。

 そう。それでどんなヤツが出てくるのかと思ったら(笑)。コイツの最初の登場シーンが、ジャジャーンみたいな。

 ひとりでアロハシャツみたいなの着てて、もう明らかにダメっぽい。

 そうやって出てきて、「シー、シーッ! 俺が来たこと言っちゃダメ」みたいなこと言って、もう出てきた瞬間にコイツはヤバいなと(笑)。


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 あと、捜査側の巡査部長であるガイ・ピアースはいい者悪者で言えばいい者。この人は主人公のジョシュア君に「こんな奴らと関わってちゃいけない、考えなおせ」と近づく役まわり。

 この犯罪者一家を追ってるんですよね。それで主人公のジョシュア君に目標を定めて、彼を落とせば一家を有罪にできると。

 証言台に立たせて、犯罪ファミリーのしたことを言わせようとする。

 この警官がどう見てもブロークバック・マウンテンなんですよね。口ひげが……。

 ゲイ髭。

 主人公のジョシュア君も、ほっぺ赤いし、短髪で……。

 彼は絶対二丁目でモテるタイプですよ。

 ウブなロシア新兵みたいな感じ。

 あ、まずい。全員ゲイに見えてきた。

 ゲイ目線で観るとすれば、ジョシュア君という若くてピチピチの男の子を、犯罪一家と捜査官が取り合うみたいな。

 やおいだ(笑)。

 ガイ・ピアースはもう「俺のところに来い。俺の養子になれ」くらいのね。


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 (笑)。やっぱりねぇ、みんながゲイに見えるのは髭のせいもあるけど、このお母さんの濃さですよきっと。強烈な母性で息子たちを歪ませてる。

 ああ。母性が強すぎて。

 みんなコワモテの犯罪者なのに、お母さんの前に出ると「ママにキスしなよ」とか言うんです。すぐにハグをして甘えたり。

 「オー、マイスウィーティ」みたいな。

 そうそう。「マイハニーを守らなきゃ」みたいなこと言って、その辺がすごくゲイ臭いです。

 マッチョな一家なのに、一番根源的なところは「スウィーティ」みたいな。

 間違ったスウィートなんですけどね。

 子供的なことでいえば三兄弟の一番下の、上の兄に逆らえないダレン・コーディ。

 ああ、一番気の弱いダメな子で、おばあちゃんに「ベイビー」とか呼ばれてた人。

 彼が 面会するときの、ストレス実験みたいな演技はよかったですね。

 さすが、見るところが細かいなあ(笑)。あんまり話が出てこない次男はどうですか。


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 次男もパニックになるんだけど、パニックのなり方が面白かった。パニックになって、どこか昔の仲間のところに潜り込むんですよね。そうするとそこに仲間の奥さんが出て来て「あの人追い返しなさいよ」とか言うんだけど、あれはベトナム人?

 アジア系で小柄で色黒の、ベトナム人みたいな奥さんでしたね。

 そういう細かい意外性がおもしろい。リアルで、なんか社会の広がりが感じられるっていうか。一番可哀想なのは、主人公のジョシュア君と付き合ってた彼女ですね。何も悪くないのに、完全に巻きこまれちゃうという。一般家庭が出てきて、ヘンリー家って一応名前はついてましたね。

 一般家庭のお嬢さんなのに、ジョシュア君に関わってしまったためにクレイジーな長男ポープにひどい目に遭わされちゃう。

 この人たちが一番可哀想でした。

 でもこの辺が結構この映画の救いというか、良心じゃないですか。捜査官も賄賂は貰うわバンバン人殺すわでクレイジーだし。

 正義はどこにあるんだ!くらいになりますからね。

 弁護士も薬をやってたりしてて、もうグチャグチャでしょう。

 彼らはオーストラリアの良心というか。そんなにひどいばっかりでもないんですよということなのかな。

 でもやっぱり、そういうアクの強いキャラがいいんですよね。

 遠藤さん、一番好きなのって誰でしたか?

 嫌いなんだけど好きなのは、ジャニーンおばあちゃん。うわって思うけど、やっぱこの人がキーマンだなと思います。ターHELLさんは誰がいいですか?

 僕はポープかな。彼が最終的に自分だけ生き残りたい感じなんですよね。で、常に疑心暗鬼になってて、そういう小物感が良かった。最悪のネズミ男という。

 疑心暗鬼が事態を悪い方向に転がしてくんですよね。そんなに疑心暗鬼になるくらいキモが小さいなら、犯罪なんかすんなよって思うんだけど。


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■『アニマル・キングダム』は実在する!

 この映画が「実話を元にした』というのが一番びっくりしました。

 (笑)。

 正確には、「実在した犯罪者一家と警官射殺事件をモデルに」っていうことらしいんだけど、この家族も実際にいたってことは、この映画に出てくる、めんどくさいから射殺しちゃう警察の捜査も本当に行なわれていたのかもしれない。

 もちろんそれも驚くけど、やっぱり視野の狭い女性の目線から言うと、一見愛の人に見えていたジャニーンばあさんが、息子が次々殺されても次の瞬間はどうでもいいテレビの話をしてるっていうね。そこで沈んだりせずに次のことを考えてるっていう図太さにびっくりする。

 ああ、でもそれこそこの映画の題名の根源かもしれない。一番アニマルなのはジャニーンばあさんっていう。でも家族の中で次の一手を常に考えてるのはこのばあさんだけですよね。

 そうですね。最終的に血も涙もない行動に出たりもするし。

 遠藤さん的にジャニーンばあさんはズバリ、いい人なんですかね。それとも悪いやつ?

 いい悪いはよくわかんないけど、とにかく、怖い。

 怖いのは間違いない。やっぱアニマルだ。

 こう、母性の怖さみたいなのをギュッと煮詰めた感じですよ。私はとにかくこのジャニーンおばあさんの、大の男達を愛で支配する感じが非常に怖くて、でも怖さが最高だなあと思いました。

 (笑)。これからは遠藤さんの母性に気をつけないとヤバい。それともう一つのテーマとして、ジョシュア君はまだ子供なんだけど、帰る場所を選べるみたいな話が出てきましたよね。君はこれからどこに帰るんだって。


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 ガイ・ピアースが言うんですよね。「人は居場所を見つけなければいけないんだ」。

 そうそう、我々警察に協力して、保護プログラムと新しい人生の中に帰るのか、それとも血は繋がってるけど犯罪者一家の方に帰るのか。

 正義を選ぶか家族を選ぶかみたいな。最後までどっちを選ぶか分からないのがこの映画のキモなんだけど、究極の選択ですよね。でもガイ・ピアースもこの映画には珍しいイイ人だと思いますよ。家に帰るとダウン症の娘がいて、優しく遊んであげてたりして……イイ奴感を醸し出してる。

 ガイ・ピアースがジョシュア君を説得する時に、警察と、犯罪者一家、どっちに入れば生き残れるかを考えろって言うんですけど。そもそも自然界では、自然淘汰で弱い者は死ぬんだと。で、君は弱いんだと。でもその時に、人間社会では強い者が、弱い者を生かす理由があるんだって言ってて。ガイ・ピアースは、自分の娘の事も考えながらジョシュア君を説得してるのかなって思いましたね。

 見所はやっぱり後半。やってやられてみたいな犯罪の応戦が続いてるんだけど、最後にキーマンであるジャニーンばあさんが動く。で、そこから始まる、真のボスが牙を剥いた感じとか、ボーッとしていたジョシュア君が最後にとる行動とか……。今まで大人しく見えていた人たちが、最後にガンガンくるみたいなところが面白い。その辺が見所です。

 何回か、映画の後半で、普通だったらここで終わるという感じのタイミングがあるんですよね。でもそこで終わんないで引っ張るから、えっ、ここ引っ張っちゃってどうすんの?って思うんだけど、もうひと展開、もうひと展開ってありましたね。

 途中で終わっても綺麗にまとまりそうな話なんだけどね。その辺がなんか、お得感って言っちゃなんですけど、面白い。映画的にはどの辺がよかったですか?

 やっぱジョシュア君の、ビジュアルが。昔、海外旅行した時にオーストラリア人でこういうやついたよなって。

 そこか!(笑)。


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 あとテレビが凄く上手く使われいて。いろんな場面で登場人物がテレビを観てるんだけど、最初にも言った冒頭のシーンで観てるのがクイズ・ミリオネアみたいな番組なんですよね。登場してる素人が超ノリノリで、「バツー!」「えーっ」みたいに言ってるのを、主人公のジョシュア君が口半開きでボーっと観てる。その後ろで救急隊員が意識不明のお母さんを連れ出していく。そのストーリーとTVの断絶感が凄かった。あとおじさんが警官隊に踏み込まれる時も、ずーっとサッカー観てたり。明るい音楽が……というか常に上滑りしてる音楽が流れてくるんですよね、TVの中から。

 日常と非日常は隣り合わせみたいな。

 この映画、基本はずーっと暗い音楽がブーンって重低音で流れてるんですよね。

 トーンは重いんですけどね。

 そこにぜんぜん不協和音で合わないくらいの勢いで、テレビのSEみたいな音がのってきたりして、それが良かったですね。

 そういう細かいところも面白い。ターヘルさんは「傑作ですよね」って、最初から言ってましたよね。観終わってすぐに。

 いやーいい映画ですよ! まず犯罪映画としてよく出来てるし。で、その奥にオーストラリアの空気感だとか、人や社会の形がチラ見えして、さらにその奥にゴッドマザーの母性がある。後半どんどん警察も母性も頼れなくなっていくから、主人公にとっては、人生が完全にサバンナ状態になってくんだけど、そこでのサバイバルもおもしろい。出て来るのは同じ都会なのに、結末に向けてどんどん野生状態の別の世界に飲み込まれてく。オーストラリア映画すごいですよ。これにモデルがいるっていうオーストラリアもすごいけど。

 監督は「オーストラリアの犯罪の実情を知っていただきたい」って言ってますね。

 これが実情って、じゃあどうすればって感じだけど。やっぱオーストラリアでは母性とネズミ男に気をつけろってことですね! でも、こんなほっぺが赤い少年が葛藤しなきゃいけない社会は許せないですね。特にホモとか熟女のみなさんは熱くなるんじゃないですか! そこらへん閉経間近の遠藤さんとしてはどうなんですか!

 閉経上等! ジャニーンばあさんのように、赤いほっぺの少年もホモもビッグな母性で操れるようにがんばりますよ! 


母の死により、祖母のもとに引き取られた17歳の少年。
そこは、犯罪でしか生きられない野獣たちの王国だった……。


FLV形式 5.13MB 1分58秒

『アニマル・キングダム』
2012年1月21日より TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館他 全国順次ロードショー
(C)2009 Screen Australia, Screen NSW, Film Victoria, The Premium Movie Partnership, Animal Kingdom Holdings Pty Limited and Porchlight Films Pty Limited.

監督・脚本= デヴィッド・ミショッド
製作=リズ・ワッツ
出演= ジェームズ・フレッシュヴィル、ジャッキー・ウィーヴァー、ベン・メンデルソーン、ジョエル・エドガートン、ガイ・ピアース、サリヴァン・ステイプルトン、ルーク・フォード

配給協力=トランスフォーマー

2010年|オーストラリア|英語|カラー|113分|35mm|シネスコ/ドルビーデジタル、ドルビーSR

関連リンク

映画『アニマル・キングダム』公式サイト

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遠藤遊佐(C)花津ハナヨ
(C)花津ハナヨ
遠藤遊佐 AVとオナニーをこよなく愛するアラフォー女子。一昨年までは職業欄に「ニート」と記入しておりましたが、政府が定めた規定値(16歳から34歳までの無職者)から外れてしまったため、しぶしぶフリーターとなる。AV好きが昂じて最近はAV誌でレビューなどもさせていただいております。好きなものはビールと甘いものと脂身。性感帯はデカ乳首。将来の夢は長生き。
遠藤遊佐ブログ=「エヴィサン。」

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
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